【特集】藤原道山の軌跡 越境する尺八奏者

藤原道山   2010/03/24掲載
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藤原道山
(C)繰上和美
 尺八の第一人者、 藤原道山がデビュー10周年を記念したベスト・アルバム『天-ten-』をリリースした。津軽三味線の上妻宏光をフィーチャーし、日本的なイメージを前面に出しつつも自由な発想で構成されている新曲「華〜天翔る龍の如く〜」、都山流尺八本曲の「鶴の巣籠」(新録音)、賛美歌の「アメイジング・グレイス」、冨田勲作曲の映画音楽「武士の一分」、一青窈のカヴァー「もらい泣き」など、収録曲はじつに多彩。それはそのまま、道山がいかに大きな振幅のなかで活動してきたかを物語っている。

 本稿では、これまでのディスコグラフィを追いつつ、その軌跡を振り返ってみたい。



『UTA』
 2001年のデビュー作『UTA』は、山田耕筰「赤とんぼ」や中田章「早春賦」など、日本の名曲に的を絞った全7曲+シークレット・トラック「七つの子」を収録したアルバム。10歳から尺八を始め、人間国宝の山本邦山に師事した道山は、伝統的な純邦楽を習得する一方、高校時代は吹奏楽部で活動し、東京芸術大学音楽学部邦楽科および同大学院音楽研究科に在学中はオーケストラと共演するなど、デビュー前から広範な音楽性を備えていた。つまり、デビュー作の方向性にはいくつもの選択肢があったはずだ。そのなかで誰もが知っている、現代の日本人にとって原風景のような曲を選んだのは、音色の美しさや繊細な表情といった尺八のメロディ楽器としての魅力を端的に伝えられる素材だったからだろう。実際、郷愁を誘うメロディと尺八の相性は素晴らしく、各曲のメロディのよさが再認識できる。


『yume』
 奏者としての卓越した技術と表現力をデビュー作でアピールした道山は、2002年の第2作『yume』で現代感覚あふれる音楽家としての姿を現す。アルバムのサウンド・プロデュースも担った一ノ瀬響の作品「琥珀の道」におけるポップな肌触り、ドヴォルザーク「新世界より〜家路〜」の打ち込み+ストリングス+尺八による音づくりなど、興味深い。アルバムの多面性を象徴し、大きな成果となっているのがジョン・ケージ「ドリーム」。ピアノとのデュオで耽美的な表現を極める。


『EAST CURRENT』
 道山はデビュー前から箏奏者のみやざきみえことユニット、EAST CURRENTを結成していた。2003年の『EAST CURRENT』は二人のコラボレーション作品。和楽器のみで奏でられるロドリーゴ「アランフェス協奏曲」、映画『ディア・ハンター』のテーマ曲「カヴァティーナ」などは新奇を超えて音楽的な深みがあり、琴線に触れる。


『空-ku-』
 2004年の『空-ku-』では、千住明をプロデューサーに迎えた。千住のオリジナル「黄金の海」では映像的なイメージを喚起する曲調のなかで、二人のロマンティックな資質が共鳴する。道山が書き、千住がストリングスをアレンジした「道」も快作。尺八が悠然と飛ぶ鳥だとすればストリングスは山が連なる風景のようで、完成された世界がつくられる。


『壱 ichi』
 日本の名曲、クラシック、オリジナルなど、さまざまな楽曲を通して尺八の可能性を提示してきた道山が自身の原点を見つめ、純粋な日本の古典でまとめたのが2005年の『壱 ichi』だ。箏の一流奏者である野坂操壽砂崎知子とともにスピード感に満ちた演奏を展開する「五段砧」、宇宙的ともいえる深淵な響きに尺八の本質が見て取れる「峰の月」など、音楽に凄みがある。


『かざうた』
 一転、松任谷由実のコンサート・ツアーの音楽監督を務めるなど、J-POPの最前線で活躍する武部聡志とともに、親しみやすい音楽に重心を移したのが2006年の第6作『かざうた』である。武部が作曲者の一人でもある「もらい泣き」、宮沢和史の「島唄」、喜納昌吉の「花」といった人気曲を新鮮なアプローチでカヴァー。自作の「東風」も快活だ。


藤原道山
(C)繰上和美



『KOBUDO』
 2007年に道山はチェロの古川展生、ピアノの妹尾武とともに3者の名から1字ずつを取ったユニット、KOBUDO -古武道- を結成し、アルバム『KOBUDO』をリリースする。クラシック、J-POP、純邦楽などが自然体で融合する音楽はキャッチーさと品のよさを兼ね備え、TV番組のテーマ曲など、映像音楽としても注目を集めることとなった。KOBUDO -古武道- は2008年に『風の都』、2009年に『時ノ翼』をリリースし、道山にとってソロ活動と並行する重要な活動となっている。


『響 kyo』
 映画『武士の一分』(2006年)をきっかけに出会った冨田勲と道山は2008年、「たそがれ清兵衛」や「新日本紀行」といった冨田の代表曲が並ぶコラボレーション作『響 kyo』をリリースする。即興による尺八に冨田がシンセサイザーで背景音をつけた「ひぐらし」の凛とした美しさは小品ながら圧倒的だ。また、本作は5.1chのSA-CDを含むハイブリッド盤で、冨田のマジカルな立体音響も聴きどころとなっている。


『故郷〜日本の四季』
 現時点での最新ソロ作となる2009年の『故郷〜日本の四季』は、中田喜直「夏の思い出」、武満徹「小さな空」、中村八大「遠くへ行きたい」など、日本の名曲を四季の移ろいに合わせて並べたアルバム。選曲面での方向性はデビュー作『UTA』に近い。季節が巡るのと同じく、道山の表現もひと巡りしてきたといえるだろう。しかし、次はどんなアルバムになるのか予想もつかない。そこにこそアーティスト、藤原道山の魅力がある。

文/浅羽 晃



藤原道山『天-ten- 藤原道山 10th Anniversary BEST』
(COZQ-431〜2 税込3,000円)
<CD>
01. 琥珀の道
02. 黄金の海
03. アメイジング・グレイス
04. 道
05. 東風
06. もらい泣き
07. 武士の一分
08. 「源氏物語」〜浮舟
09. 小さな空
10. さくらさくら
11. 「元禄花見踊」〜百花繚乱
12. 空 (2010年バージョン)
13. 鶴の巣籠 (ショートバージョン)
14. 華〜天翔ける龍の如く〜
(featuring 上妻宏光)
<DVD:プロモーション・ビデオ>
01. 武士の一分
02. はじまりの音
03. 島唄

■藤原道山オフィシャル・サイト:
http://www.dozan.jp/
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