『CMようこ』 03. 電線にタコが絡まっちゃったらどうするの?
('00 東京電力 TV-CMソング)
04. Silent Star
(’06 シャープ携帯電話「静かな光」篇 TV-CMソング)
06. walk travel along
(‘06 トンボ鉛筆 TV-CMソング)
08. チヤホヤされた女
(’03 KDDI DION TV-CMソング)
09. Don’t Spend MONEY!MONEY!
(’00 プロバイダーゼロ TV-CMソング)
12. ママ新発売! オープニング
('01 TVドラマ「世にも奇妙な物語」)
13. MAGICSWEETS
(’02 資生堂ピエヌ TV-CMソング)
15. em outro lugar「どこかよそで」
(’05 日本テレコム株式会社(現ソフトバンクテレコム株式会社)TV-CMソング)
16. ビバこばら
(’99 ファミリーマートパニーノ TV-CMソング)
17. From Metropolis
(’04 東京地下鉄株式会社 [東京メトロ] TV-CMソング)
19. Beautiful Memories
(’05 シャープアクオス TV-CMソング)
20. Family Affair
(’03 マスターカード・ワールドワイド TV-CMソング)
21. ゆうじ CMバージョン
(’99 サントリー ビタミンウォーター TV-CMソング)
22. MAGICSWEETS -Masao Nisugi Remix-
23. チョコと勇気
(’04 チロルチョコ TV-CMソング)
CDとして発売されているアニメや映画のサウンドトラック、プロデュースしたアーティストのアルバムのほかに、菅野よう子が多くのCM音楽を手がけていることは広く知られていたが、その一部がCM音楽集『CMようこ』
としてiTunesでダウンロードできるようになった。発売直後にこのインタビューを行なった時点で、ダウンロード・ランキングで堂々の1位。まさに待望のリリースと言っていいだろう。
「広告音楽を10年以上やってきて、CM音楽集を出してもいいかなという気持ちになりました。幸いなことにアニメの音楽などですごく認めていただけて、私の仕事に興味を持ってくれる人がいる。もちろん、広告音楽はクライアントやタレントさんなどの出演者、歌手などの関係もあって、縛りがキツイ仕事です。できないこと、してはいけないことがたくさんあり、盛り込まなければいけない要素、必ず超えることを求められるラインもある。作り手として、クライアントさんの意思とか商品を購入する人の傾向とか、ターゲットに対して応えていく作業が多いので、私の中で“仕事感”がとても強く、今まではそれを作品として出すことに抵抗がありました」
本人が“数えたことはないが、1,000本は手がけているだろう”と話すCM音楽のなかから今回選ばれたのは23曲。
「全体的にはアニメやゲームのサウンドトラックには入っていないような、お気楽なもの、いかにもコマーシャル的、これぞ広告音楽みたいなもの、アーティスト性よりも広告音楽としての面白さや可能性が見えるような音を選びました」
とはいえ、CMのために作った音楽をそのまま並べて、“はい、 どうぞ”というわけにはいかない。扱う商品の魅力を最大限に伝える使命を果たすため、短い時間のなかでさまざまな工夫を凝らしているのが、CMなのだ。音楽に関してだけをとってみても、ナレーションの声と音楽のヴォーカルが重なる場合は、ヴォーカル・レベルを極端に下げるなど、テレビから聞こえてくる音が、視聴者の耳をとらえるようさまざまな細工を施している。
「だから、CMから音楽だけを取り出しても、あきらかに音が変だったり、聴きづらい。今回のCM音楽集は、ほかの普通の楽曲と並べて聴かれるわけだから、音質が異ならないようにあらためて手を加えています。案外手間がかかるの(笑)」
話を聞いていると、縛りがキツかったり、オンエア時には音が変だったりと、音楽家としては辛い仕事なのではないかと思いたくなるが、そんなアーティスト性や流行っているからという理由では通らない世界で遊ぶのが好きなのだと言う。また、この仕事でしか味わえない面白さもある。
「日本全国老若男女に聴いていただける曲を書くのって楽しい。それから、CM音楽には“当たり”があるんです。CMはスポンサーさんをはじめ多くのスタッフが、商品を売るという目的に向かってチームで作る。その全員がビシッと<当たり>を手にすることがある。そうすると、商品も当たってくれるんです。それは作者の青写真どおりというより、偶然の一致としか言いようのない瞬間。それがとてもエキサイティング。このCM音楽集に入っているのは、そういう<当たった>ものです。」
さきほど、これまでに手がけたCM音楽の数を1,000本と書いたが、そのCM音楽も菅野よう子が作る音楽のすべてではない。すさまじい量の仕事をこなすなか、一体どのように曲を書いているのだろうか。
「打ち合わせ中、関係者の方からお話をうかがいながら、その場で作ってしまうことが多いです。あとは散歩したり、クルマに乗っているときかな。楽器に向かうことはないですね。曲は浮かんだときに、完成した楽曲として頭の中で鳴るので、それを形にして録音すればいいんです。スタイリストさんは、見た瞬間にその人に似合う格好がわかるそうなんですけど、それと同じ。流行とか背景とか関係なく、その場で浮かぶ感じですね」
難易度の高い仕事で、質と量の両方を満たしつつ、“当たり”を出し続ける。菅野よう子、おそるべしである。
取材・文 市川 誠(2007年9月)