電気グルーヴ   2013/02/27掲載
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 電気グルーヴが通算13枚目となるニューアルバム『人間と動物』をリリースする。既発シングル3曲のアルバム・ヴァージョンも含め全9曲、トータル・タイム約45分。この旨味成分を凝縮したようなアルバムは、電気でしか味わえないポップ感と刺激、絶妙なグルーヴに溢れ、今までになくスムーズに聴ける創意が凝らされている。20年以上に渡り独自のポジションを築き、その磨き抜かれた個性とフォームで生み出された快作について、石野卓球ピエール瀧に訊いた。
――『人間と動物』は聴きやすい力作になりましたね。アルバムは20周年企画の『20』からは3年半ぶりになりますが、ベテラン・ペースになりつつある?
石野卓球(以下、卓球) 「もうそのくらいの周期じゃないの? その間に『WIRE TRAX 1999-2012』もあったし、そんなもんでしょ? だって瀧、ロス五輪からもう30年だぞ(笑)!」
ピエール瀧(以下、瀧) 「あの商業主義に走り始めたオリンピックから30年か(笑)」
――前作はオリジナル・アルバムとは趣きが異なるところがあったのでは?
卓球 「でもね、基本的な考え方は『20』と変わってなくて、あれは20周年の企画ものという気軽さがあって良い意味で責任がなくて、その楽しさがすごくよかったんだよ」
――確かにアニヴァーサリーならではの楽しさがありましたね。
卓球 「企画ものらしく、なるべく全曲の方向性を変えて作ってバラエティ感を出してみたというのはあったからね。枯れ木も山の賑わいというか(笑)。今回はそのバラバラだった向きを統一して、同じ方向性でやってみたらどうかなと」
 「今回は全曲、歌ものだしね」
卓球 「電気でせっかくやるからには全部歌ものでいくというのと、前回あっちこっち向いていた部分、特にテンポを均一にすればある程度の統一感は出ると思って、BPM125でいこうと。あと、アルバム全体のタイムが50分を切るものにしたかった」
――アナログのLPの収録時間くらいを想定したということですか?
卓球 「そうそう。それくらいだと集中力も途絶えないし、もう一回聴こうという気になるでしょ。あんまりぎっしり詰め込みすぎると、逆にアルバムの印象も薄れちゃうんだよね。長いと好きな曲以外は飛ばして聴いたりされがちだし、そうなるのは本意じゃないから。その3つはあらかじめ決めていたかな」
 「これくらいの長さ、9曲50分くらいだと、もう一回かけようという気になるでしょ。源泉かけ流しで(笑)」
――曲間がスムーズにつながる点もアルバムを聴きやすいものにしていますね。
卓球 「曲間やつなぎに関しては前から考えてはいたんだけど、今回はそれプラス、クロス・フェードもやってなくて、なるたけ全編通して聴いてもらえるようにした。ただ、それもバラで配信で聴くと分からないと思うんだよね」
 「今回みんなにそう言われるのは、集中力が続いて聴けるから印象に残りやすいんだろうね」
卓球 「あとはテンポだね。イン・テンポでずっとつながって聞こえるんだよ。それですね、聴きやすいのは」
――それで聴く方のテンションも保たれるんでしょうね。いきなり落とされたり、上昇させられたりしない。
卓球 「そうそう。あと、今までのレコーディングは一定の期間を設けてビッシリやっていたんだけど、今回はあえてそれもやめてみたのね。何日かレコーディングをしたら2週間くらい置いてお互い個人の活動をして、またレコーディングに戻るというペースでつくっていった。だから、作業にのめり込みすぎて、“木を見て森を見ず”という状態にならなかったんだと思う」
――一旦時間を置くことで、クールダウンできたと?
卓球 「ずっと作業を続けていると、細かい部分に気をとられすぎるきらいがあって、それが良い方向に進む場合もあるんだけど、時間を置くことでアルバム全体を冷静に客観的に見られたのは良かった。あとシングルですでにリリースされている〈Upside Down〉〈Shameful〉〈Missing Beatz〉があって、それがアルバムの中で大事な位置を占めることが分かっていたので、4番打者、3番打者を出さなきゃいけない苦しみがなかった」
――レコーディングが途中で止まると、集中力が途切れたりしませんか?
 「いや、2週間くらい間があいて、前にレコーディングした曲をうっすら忘れるくらいのほうが次に聞いたときに、新たな発見や修正点が見えてきたりするんだよ」
卓球 「自宅にスタジオを造ったのも大きいね。今までだと時間があいたりすると、次にレコーディングを再開したときにまたその気分に戻るのに時間がかかったりしたんだけど、自宅だとその切り替えがないっちゃあないからね」
――アルバムの制作はシングル「Shameful」の頃から?
卓球 「そうだね。今考えたらあのガムのCMの話が来ていなかったら、アルバムはもっと先だったかもしれない。あれなかったらケツ上げてないでしょ? あっ、腰か?(笑)」
 「シングルが先に出ているのは、精神的にだいぶ楽だったね」
――そんなに違うものですか。
 「違う。違う。360度自由な場所から踏み出すのって難しいもんでさ。ほんとにサラからいくと、シングル向きに曲を鍛え上げなきゃいけないからね。常にそのプレッシャーがありつつ、他の曲も同時にやってるから、その中から無理矢理シングルにしようとして失敗したり、袋小路に入っちゃったり。もともとのデモのポテンシャルのままに仕上げるのがいちばんいいっちゃいいから」
――1曲目の「The Big Shirts」などは、ギターやパーカッションなどの上物の使い方が新鮮でした。
卓球 「ギターは弾いてないけどね。今はコンピューターってもんがありますから(笑)。ベースは独学でちょこっと弾いてるけど。この曲作ってたときは、イタロ・ディスコとかディスコ・クラシックとかオールドスクール・エレクトロとかをよく聴いてたから、その影響はあるね。逆に言うと、最近のテクノの影響があまりないともいえる」
 「そういえばレコーディング中に楽器をちょこちょこ買ったりしたな」
卓球 「二人ともなぜかカホン買ったりしてな。アルバムにパーカッションが欲しくて、まず俺がカホンを買ったんだよ。それでコイツが翌日に同じ店に買いに行ったら、“今月からはケースが付きます”だって(笑)」
 「オマエ物欲しそうにしてたじゃん(笑)」
卓球 「月が変るだけでケース付くのか!悔しいって(笑)。その1週間後にはカホン・ブームは完全に過ぎ去り、今やうちのスタジオでレコードを置く台になりはて(笑)」
 「だいたいカホンをケースに入れて持ち歩く機会がない。むしろ、邪魔(笑)」
卓球 「自宅スタジオだからスペースが狭いわけじゃん。外のスタジオと違って機動力がいいから、思いついたらパーカッションを入れてみたりしやすかったんだよ。今回は限りなく宅録に近いから」
――いにしえの80’sニューウェイヴ・バンドを彷彿させるような音色はさすがですね。
 「いにしえほど古かないでしょ。いくら“ガレキのバンド”とはいえ(笑)」
卓球 「えっ? あきれたぼういずとか(笑)? 今回ね、ベタ禁止を禁止にしたのね。今まではある曲のアイディアがあったら、それをまんま出すことはできればしたくないと頑なに思い込んで回り道をしてたけど、それがなかったから作業が早かった」
――それもある意味、進化といえますね。
 「そう。イチゴはフリーズドライやジャムにしないでイチゴのままで食べた方がうまいってことに気がついた」
卓球 「今までは原型をとどめなくなるほど煮込んだり、加工したり」
 「その手順を分かってくれると思ったら、意外とそうでもなかったんだよ。イチゴはイチゴのままでいいんだなと」
卓球 「限られたスケジュールだったというのもあって、試行錯誤したからといって必ずしも良い結果が得られるとは限らないということも分かったからね」
 「曲から少し離れてみる理由もそれ。ずっと地続きでやってると、イチゴの加工にハマっちゃって、ワケわかんなくなって……」
卓球 「最終的にはイチゴのブローチができたり。これ食えねぇじゃんって(笑)」
 「もはや食べ物ですらない(笑)。食えないもん作った徒労感ときたら」
――モンキーズの「Steppin' Stone」をカヴァーしたのは?
卓球 「〈Steppin' Stone〉は実は10年くらい前からあって、原型はほとんどできていた。〈弾けないギターを弾くんだぜ〉(2004年『SINGLES and STRIKES』収録)の頃だね。10年くらい前にフェンダー・ムスタング・ベースを買って、買った嬉しさで何曲かパンクっぽい曲をつくったりしたんだ。〈弾けないギター…〉は、天久(聖一)のPVを付けてリリースしたんだけど(2004年DVD『ニセンヨンサマー〜LIVE & CLIPS〜』収録)、その中でこぼれたのがこの曲で、いずれ自分のソロか、電気なのか分からないけど出したいとは思っていた。でもなかなかタイミングがなくて、やっと今回、日の目を見たという。アルバムの流れに合うのと、最後にこんな曲もいいんじゃないかって。ハナちゃん(笹沼位吉 / SLY MONGOOSE)のベースと歌以外はほとんどいじってない」
――「Steppin' Stone」はセックス・ピストルズのカヴァーを聴いて?
卓球 「いや、ピストルズよりオリジナルのモンキーズの方が聴きなじんでいた。俺たちの中学生時代、80年代頭に〈デイドリーム・ビリーヴァー〉がリバイバル・ヒットして、テレビでも『ザ・モンキーズ・ショウ』再放送をしていたんだよ。それで聴いたのが最初じゃないかな。歌詞もあの頃のモンキーズにしてはアグレッシヴで、若者の抱えるフラストレーションとか描いているんだけど、モンキーズが歌うと座敷犬がキャンキャン吠えているようなもんで(笑)」
――カヴァーも随分久しぶりですね。
卓球 「昔、YMOの〈COSMIC SURFIN'〉(1991年『UFO』収録)と、RCサクセションの〈トランジスタラジオ〉(子門'z名義で1993年にリリース)をカヴァーしたけどね。クロージングにこの曲があると、また頭に戻りたくなるでしょ。この曲だけBPMが違うから」
――『人間と動物』というアルバム・タイトルはどういう発想から?
卓球 「後半に作業しながら、いまいちいいしっくりくるタイトルがないなあと考えあぐねていたら、ふと『人間と動物』というタイトルを思いついて」
――ふと、思いつくものですかね?
卓球「いや、ホントにふと出るんだって! それで、瀧に“どう?”って聞いたら“イイネ!”って(横山剣口調で)」
 「もちろん、“イイネ”ボタンを押して(笑)」
――何か引っかかる理由はあったんですか。
卓球「ない! そういうのって、理由あったらだめでしょ」
――ベタ禁止を禁止とも関係しているんでしょうか?
卓球 「それと関係しているかどうかは分からないけど、実は日本語のアルバム・タイトルは初めてなんだよ。今までは英語のワン・ワードが多かったけど、基本的に日本語で歌っているし、うちらの場合タイトルが中身を表すもんでもないし。タイトルはアルバムを象徴するようなニック・ネームみたいなもんだから、それがしっくりくるかどうかだけなんだよ」
 「〈Oyster(私は牡蠣になりたい) 〉という曲はあるけど、牡蠣は動物枠か(笑)?」
卓球 「その曲を作る前に牡蠣を食べにいったんだよ、そうしたら、すんなり一筆書きのようにできあがった。タウリンの力で(笑)」
――ユニークかつ刺激的な歌詞は、今回はどう研ぎ澄ませていったんですか?
卓球 「今までは適当に歌った仮歌を別の言葉に置き換えるやり方だったんだけど、それだと最初に仮歌でうたったときの言い放った気持ちよさが失われてしまう欠点があって。なので、今回はなるべく最初に適当にうたった言葉を空耳で日本語に聞こえるまでループして聞くっていうやり方をしてみた」
 「この仮歌、ナントカって言ってね? みたいに聞こえるくらい繰り返し聞いて、確かにそう聞こえてきたらその単語をはめていく」
卓球 「そうすると自ずとストーリーができてくるんだよね。まあ、最初からストーリーが破綻してる曲もあるんだけど、そうじゃないものに関しては、そんな作り方をしていると、だんだん自分たちでも無意識のうちにストーリーが出てきたりするんだよね。それは成功したパターンだね」
 「深層心理に聞いてみる、みたいなことなのかもしれない」
――語感に訴えかけるキラー・ラインが脳を覚醒させるところがありますね。
卓球 「そうそう。その言葉を言い放ったときの気持ちよさってあるじゃん。口に出して面白い言葉とかさ。歌詞の内容やつじつまを重視してしまうと、その言い放った感をスポイルしてしまわなきゃいけないところもあって、どっちを取るかといったら意味は破綻しても語感のほうを取る。その行く着く先は究極ハナモゲラ語みたいになっちゃうんだろうけど、そこまで行くと聴く人も意味を放棄しちゃうから、そこまで行かないもの」
――確かに“ダンガリーのシャツいたり”とか“カントリーの歌手ばかり”という歌詞に導かれて頭が勝手に妙な景色を描きだす。
卓球 「実際、カントリーの歌手ってダンガリー着てるんだよな(笑)。そうやってストーリーというかシーンが流れていく不思議」
 「聴いている人の人生経験とか情況で見えてくる風景なりストーリーって変わってくるじゃん。それを脳が勝手につなぎ合わせて絵を描いたりするのが面白いなと。人によってそれが違うのは当然だしね」
卓球 「それをこっちから“こういう風に感じてほしい”とか“この解釈が正しい”とは言えないよ」
――歌詞も含め、電気グルーヴ独自のポップ感が際立つアルバムですね。
卓球 「そうだね。そういう部分はいちばん出たかもしれない。たぶん、余計なことをやってないから、聴いててヘトヘトにならないと思うんだ。1回聴けばもう十分というのと違って、今回はトータルで聴く面白さが浮き彫りになった」
――お腹いっぱいになってしまわない創意と工夫があるからでしょうね。
 「うちら今までそういう聴き方されてこなかったからね。珍味ばっかり出てきて腹いっぱいなっちゃうみたいな店に何度も足を運ぼうって気にはならないのと似て」
卓球 「たまに食べる珍味は旨いけど、毎日カラスミは食いたくないでしょ。力の抜き加減がやっと分かってきたってことなんだろうね。だから今までの中でいちばん聴きやすいかもしれない。これでアクが強いと感じるなら、たぶん一生無理だと思う(笑)」
 「アクとかクセも経年変化で、旨味に変わるんだってハナシですよ(笑)」
取材・文/佐野郷子(Do The Monkey/2013年2月)
撮影/相澤心也
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