東京発、バルカン経由、お茶の間行き。ジプシー楽団、▲s(ピラミッドス)!

2012/10/04掲載
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 東京発信のジプシー楽団、▲s(ピラミッドス)。ツッチー(g / mandolin / cumbus) 、空中紳士(darbukka / req) 、よいっち(bass clarinet) 、カッツ(b) 、K(req / daf / davul) の5人で2009年結成。ジプシー・ミュージックを軸にジャンルレスに音な鳴らす彼らのパフォーマンス(ライヴではコントもおなじみ)は話題を呼び、2011年にサマーソニックに出演(〈出れんの!?サマソニ!?2011〉)、チャラン・ポ・ランタンのももちゃんをヴォーカルに迎えたYouTube映像がなぜかバルカン半島を中心に47万再生を記録。2012年にはバルカン半島ツアーを成功させ、8月29日には初の公式音源『MASTIKA』をリリースするなど、なにやらざわつきを見せはじめているピラミッドスのメンバーに話を聞いてみた。
――まず、バンドの結成はどのようにして?
空中紳士 「まずはダラブッカを使った音楽をやりたい、という思いがあって、サックスと2人で“情熱地獄とピラミッドス”というのをやってたんです。そのときにツッチーと出会って、3人でやりはじめたのが最初ですね」
――そのときからジプシー音楽をやってたんですか?
空中紳士 「いや、ジプシー音楽自体は聴いてたんですけど、おもしろさとかはあんまり感じてはいなかったですね。きっかけになったのは、そのときにやっていたドロマイツという別のバンドの方で。そこのアコーディオンのステファンコに教えてもらって、ジプシーのおもしろさに気付いた。その感覚を“情熱地獄とピラミッドス”でもやりたいなと思って、2009年くらいから大掛かりになっていったんです」
――そのときにいまのメンバーに声をかけて、という感じなんですね。
カッツ 「そうですね。それまでもバンドをやっていて、紳さん(空中紳士)とも一緒になったりしてて」
よいっち 「ぼくも何度か対バンしてて、おもしろいバンドだなぁと思ってて。ぼくは当時はクラリネットをやりつつベースもやってたんですけど、ある日カッツくんがどうしても出れないって日があって、そのときにベースのサポートをお願いされたんです。それをきっかけに、調子こいてバスクラ担いでスタジオに遊びに行ったりライヴに参加させてもらったりして、スキを見てメンバーに入れてもらおうと狙ってました」
ツッチー 「いまだに年に何回かあるんですけど、ライヴ決まってからカッツが“ごめん出れない”ってなるときがあるんですよね。そのたびにいろんな方に協力してもらって」
よいっち 「ぼくはそのおかげで、入れてもらって(笑)」
ツッチー 「カッツのスケジュール管理のできなさが今のピラミッドスを(笑)」
――Kさんは?
空中紳士 「本当はね、こいつと2人でピラミッドスだったんですよ。それはもう何年前だ」
K 「7〜8年前ですかね」
空中紳士 「ぼくがもらった仕事のときに、お前も行くかみたいな、みたいに誘って」
K 「連れて行かれて、ほかの人に紹介するときに“こいつもうおれの太鼓みたいなもんだから”って言われて(笑)」
空中紳士 「でもそのあとに失踪とかしてて(笑)。で、バンドを大きくするときに、ちゃんとやるか、みたいに誘って」
――ピラミッドスとして動き出してからは、どんな活動をしてたんですか?
ツッチー 「まず、こういう音楽をやってるよっていうのを広めるために、YouTubeに演奏の動画をアップしたんです。〈Mastika〉とか、そういう曲を。海外の反応があるだろうと思ってたんですけど、全然なくて(笑)。でも、あるときから急に1日1000再生とかになっていって」
――それはなんの前触れもなく?
よいっち 「そうですね。なんでだろうと思ったら、どうやらマケドニアのテレビ局が取り上げてくれたらしくて」
ツッチー 「そう。で、これはもうマケドニアに売り込むしかないってなったんです。それで、マケドニアの曲をもっとやろう、しかも今度は女の子の力を使おうって(笑)」
よいっち 「ははは(笑)」
ツッチー 「それで、チャラン・ポ・ランタンのももちゃんにヴォーカルをお願いして、マケドニアのEsma Redzepovaって歌手が歌ってる〈Opa Nina〉という曲をアップしたんです」
▲s & momo-chan - opa nina
――それが現在47万再生という数字になってるあの動画なんですね。じゃあそれはすごくリアクションがあったんだ。
ツッチー 「いや、これも意外と反応が薄くて、“あれ?”ってなっちゃって。でも、しばらくしたらまたいきなり再生回数が上がり出したんです。それも今度は一日1000どころじゃなくて、5000とか10000とか。これはどうしたもんかと思ったら、それはギリシャからの反応で」
――マケドニアからの反応じゃなかったんですか?
ツッチー 「そうなんです。なんでかっていうと、自分たちはマケドニア語で歌ってると思ってたその動画が、実はギリシャ語だったみたいで」
空中紳士 「サビはトルコ語でね(笑)」
よいっち 「ごっちゃごちゃだった(笑)」
――なんでそんなことになっちゃったんですかね?
空中紳士 「世俗歌謡曲なので、その土地ごとの言語を使ってやってるんですよね。で、ももちゃんが耳コピしたのがたまたまそういうヴァージョンだったんです。でも、やってる最中はそんなこと知らなくて」
カッツ 「YouTubeのコメント欄でマケドニア人とギリシャ人がすごいもめてて」
ツッチー 「もめてるの見て、そうだったんだって(笑)」
空中紳士 「まぁでも日本人だからしょうがないよね、みたいな意見もありましたけどね」
ツッチー 「そうそう。それからは本当の歌詞はこれですよ、って頑張ってカタカナで送ってくれたりとかして」
――なんかちょっといい話ですね。そのことがきっかけで、バルカン半島ツアーにも行かれたんですよね?
よいっち 「それは今年の5月なんですけど、トルコのイスタンブールからはじまって、アンカラにある大学でやったり、マケドニアのスコピエにあるハバナ・クラブとか。それからギリシャのテッサ・ロニキで路上を、アテネでテレビ出演してセコンドスキンで最終ライヴやって……結局10日間で3ヵ国5都市回りました」
ツッチー 「滞在中に電波を探して、次のライヴの出演時間をメールで確認したり、大変でした(笑)」
――オーディエンスの反応はどうでしたか?
ツッチー 「やっぱり、踊る民族という意味では向こうはすごいですね」
空中紳士 「みんなすごいノってくれて嬉しいなぁって言ってたら、むこうの知り合いに“いや、みんないつもこうだから”って言われて(笑)」
K 「ははは(笑)」
よいっち 「別に特別ってわけじゃなかった(笑)」
――その間にはサマソニの出演なんかもあって、音源作ってって言われませんでした?
K 「超言われましたね」
カッツ 「うん、ずっと言われてた」
――それで、ようやく発表になったのが『Mastika』。タイトル・ナンバーでもある〈Mastika〉は、やっぱり思い入れのある曲なんですか?
ツッチー 「〈Mastika〉は初期の“情熱地獄とピラミッドス”の頃からずっとやってて。YouTubeで火がついたきっかけでもありますからね。常にライヴに対してやる気を注いでくれたような。そういう意味ではシンボリックな曲ではありますね」
――この〈Mastika〉をはじめ、今回はツッチーさんがヴォーカルをとる〈Opa Nina〉とか、収録曲はバルカン半島の民謡や世俗歌謡曲なんかが中心ですよね。そんななか、少し異色なのがジミ・ヘンドリックスのカヴァー〈Fire〉。途中の語りが少しコントのようなテイストになっていたり
よいっち 「そうですね」
――ピラミッドスのライヴの醍醐味のひとつとして、途中でコントが入ることがあげられると思うんですけど、あれもずっとやってるんですか?
ツッチー 「あれに近しい感じはそれこそ情熱地獄とピラミッドスの頃から。笑いの比重と音楽は1:1でやってたので」
空中紳士 「やっぱり音楽だけじゃおもしろくないと思うんですよね。ましてやぼくらがやってるのは民族音楽だし。笑いのほうが世界中を平和にできるというか」
――ちなみにバルカン・ツアーのときもコントはやったんですか?
K 「やってましたね」
ツッチー 「そこのミーティングは行く1年前くらいからすごくしてましたね(笑)。英語だけでやった方がいいかとか、動きだけで笑い取れるようにしとこうとか」
よいっち 「現地語のハイとイイエだけでも成立するようにしようって」
――洋邦問わず、最近はいろんな方と共演する機会も増えてきてますけど、なにか声をかけられたりしますか?
空中紳士 「この間は渋さ知らズさんと共演したんですけど、不破(大輔)さんにもお褒めいただいて」
ツッチー 「音楽カッコいいんだからおちゃらけなくていいのにとも言われましたけど(笑)」
――ははは(笑)。やる会場も少しずつ大きくなってますけど、スタイルは変えることなく、という感じで。
ツッチー 「とりあえずコントのスケールを上げていこうって(笑)」
K 「いつか楽器を持っていかなくてもいいように」
よいっち 「ははは(笑)」
カッツ 「そしたらどこでもできるね(笑)」
――今後の展望とか野望としてはどうですか?
カッツ 「そうですね……」
空中紳士 「お前が言うのか(笑)」
ツッチー 「試しにいってみよう!」
カッツ 「……あの、忘れちゃいました」
(一同笑)
――忘れちゃいましたか(笑)。
ツッチー 「やっぱり、こういう音楽を若い子たちにどんどん追いかけてもらえたら嬉しいですね」
空中紳士「基本は欧米の音楽が主流じゃないですか。それでロックがあって、ワールドがあって、ていうのはおかしいと思うんですよね。ワールドこそたくさんジャンルがあるべきだし。だから、そういう概念を全部崩したい。ぼくらがやってるのはコピーですけど、オリジナルじゃないとダメだなんてこともないわけで」
――そうですよね。
空中紳士 「あと“▲s”だとネットで検索できないんで、それも崩したい」
よいっち 「それはグーグルに言ったほうが(笑)」
空中紳士 「でも、そういうのも含めて全部の概念を崩したいってのはあります。ギター、ベース、ドラムがロックだっていうことだけじゃ先に進めないと思うし、100年以上同じスタイルってのもおかしなもんだから」
ツッチー 「コントをやるっていうことも普通になるくらいの。もっとライヴハウスが笑いのある場所になってほしいですね」
――ありがとうございました。
空中紳士 「(カッツを見て)で(笑)?」
カッツ 「えっと……夢はコント番組を持つことです!」
写真 / lilly
取材・文 / 木村健太 (2012年9月)
[ライヴ日程]

■ 10月6日 (土)宮城 仙台 Forsta

■ 10月19日(金)東京 下北沢 GARDEN
〜GARDEN 1st Anniversary〜 管楽器の入ったバンドって、なんかいいよね、の夜Vol.4
前売 3,000円 / 当日 3,500円(別途ドリンク代)
開場 18:30 / 開演 19:30
【出演】 ハチャトゥリアン楽団、たをやめオルケスタ

■ 10月26日(金)岐阜 CAFE & BAR alffo

■ 10月27日(土)京都 京都METRO

■ 10月28日(日)大阪 東心斎橋 鰻谷 Bar MUSZE

■ 11月14日(水)東京 青山 CAY
青山砂漠化計画
前売 / 当日 2,800円
CAY予約フォームでの先行予約をされた方には先着100名に▲sお得意のジプシー砂漠化バッチをプレゼント
open&strat 19:00
【出演】▲s / 浅草ジンタ / dance SAFI / DJサラーム海上 / DJ知久豊
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