“かっちょええ”それが一番の褒め言葉――ACIDIC SOIL 森崎憲太郎の肖像

ACIDIC SOIL   2016/11/25掲載
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 クセモノ揃いの京滋エリアのパンク / ハードコア・バンド界隈において、鍛えぬかれた筋肉が生み出す爆音で一目置かれる存在のドラマー、森崎憲太郎。HUMPTY DUMPTY、CONSTRICTEDH.M.VBid'ahといった数多くのバンド活動と並行し、彼が長年取り組んできたプロジェクトがACIDIC SOILだ。そのタイトルごとに異なる参加メンバーと会いまみえた一期一会の作品群にはハードコア・パンクの心意気とスラッシィなメタリック・リフが正面衝突した熱量に溢れている。“自分の作った楽曲を7inchのアナログ盤で10作品リリースする”という目標を完遂する10枚目のEP「Naturalis procuratio」を発表した森崎氏に話を訊いた。
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ACIDIC SOIL / DISCOGRAPHY
――ACIDIC SOILの活動について、教えてください。
 「一人で曲を作り出したのが、ちょうど1997年ですね。ACIDIC SOILとして、名前を付けてローンチしたのは1998年で、今から19年前になります。作っていた曲をMTRで録音してトンビ(HUMPTY DUMPTY)に渡したときに、その名前と方向性を決めた感じだったかな。参加メンバーは作品ごとに異なります。コンセプトとして、ヴォーカリストに書いてもらう歌詞はパンクで、サウンドはメタリック・ハードコアですね。作品ごとにテーマはありますが、僕の描くジャケットの絵と中身、音は統一させていません」
――ACIDIC SOILに参加するメンバーはどのように選ばれたんでしょうか? 京滋パンクの交友関係で気心が知れているからという理由だけではないと思います。
 「まずは、僕の曲を気に入って、受け取ってくれそうな人ですね。僕の感性を素直に受け止めてもらえる人じゃないと、稽古に入られへんでしょ。短いところで凝縮してやりこむうえに、自分のスタイルで“俺が弾くならこうだよ”っていう味を付けることが出来ることですね。あとは、自分が考えたものだからたかが知れてるけど、難しいフレーズにも食らいついてくれる人でしたね。曲に広がりを与えてくれる、エキスパンドして欲しいんですね。全員、僕には持ち合わせていない感性をもって消化してくれましたね」
――完全に再現してくれる人を求めているわけではないんですね。
 「はい。まずは僕の音に興味を持ってくれないと。メンバーが先に決まって曲を書いているときは“こいつを夢中にさせてやろう”という曲になるね(笑)。アプローチは全作違うけど、芯にあるものは一緒です。同じメンバーでの次はないから、一期一会の緊張感があって。参加してくれた人みんなすごいな、と思っています(笑)。僕は頼まれたら尻込みしますね(笑)」
ACIDIC SOIL 森崎憲太郎
――なるほど(笑)。確かに共通して独特の緊張感が感じられますね。98年当時から10枚リリースすることは決まっていたんでしょうか?
 「2nd〈Soil contamination〉までしかやるつもりはなかった……のかな。もしかしたら1st〈Nitrogen oxide〉を出すだけで、続けるつもりもなかったかもしれない(笑)。1stをリリースして、当時FIRST ALERTをやっていた今井くんなんかが聴いて、面白がって“やろやろ!”って盛り上がってくれて、それだったらって曲を作って。2ndが一番練習をやりこんで、バンドっぽくやったかもね」
――では3rd「Methane hydrate」に取りかかることになった経緯は?
 「REVIVEというレーベルを主宰していた若林くんが、“あれ、やってはるんでしょ”ってライヴで声をかけてくれたのをきっかけに話をするようになって。そのうちに“次、やらないんですか”と聞いてくれて。当時はもう無理だしちょっと違うかな、引き出しもないしって思っていたんだだけど、せっかく声かけてもらったのでいろいろ考えて、やれるかなと思うようになって。資金的にも厳しかったから、レコーディング代だけで、プレス代はREVIVEが出すってことも負担が軽くなりますからね」
――そこから人選が始まるということですね(笑)。
 「それで、メタリックなことをやっていない、パンク・バンドの方を誘ってみようと、当時のRADIO SHANGHAIとかZERO NUMBERSのメンバーに声をかけて。ヴォーカルはAGONYっていうジャップコアのバンドをやっていた子で、たまたま仕事で知り合って、バンドやってるっていうから頼んでみようかなって思いついて。そんな経緯で歌ってもらいました。普段日本語詞しかやってないから英語で作詞はちょっと……ってなって僕が詞を書いて」
ACIDIC SOIL / 「Hydrosulfate」期
――4th「Sodium azide」制作時は東京に住んでいらっしゃったんですよね?
 「東京にいる間に作ろうと思っていたわけではなくて、ありがたいことにWAG PLATYのrk2くんが“やりましょうよ”って声をかけてくれて。この作品はデモを作ってみんなに渡すパターンではなくて、彼らの練習にお邪魔して、スタジオで直接弾いてみんなで作っていくスタイルでした。その場でアレンジしていくんだけれども、それがまためちゃくちゃ早くて。感心しました」
――“WAG PLATY with ACIDIC SOIL”とでもいうべき仕上がりですもんね。当時WAG PLATYのライヴにも参加されてましたし。
 「乗っ取られましたね(笑)。そもそもやるんやったら彼らに合った曲を……って考えたところもあるけれど、さらにWAG PLATYらしい出来になってますね。ほかの人たちが演奏したらまた違っていたかもしれないかな。もっとメタリックなやつにしてもよかったかなと思ったけど(笑)」
――その後、TECHNOCRACYMIDNIGHT RESURRECTORのメンバーも参加した5th「Desertification」を2005年にリリースして、2011年の6th「Ambient air pollution」までしばらくブランクがあります。この6thがかなり異色で、何が起こったのかなと思わせるほどカラーが変わりますね。
 「〈Ambient air pollution〉はアコースティックギターのチューニングのピッチをずらしていて、変な違和感があるはず。出来は自分でもすごく満足しているし、絶対誰もやっていない、ほとんどの人が“なんだこれ?!”ってなると思います。すごく気に入ってくれるか、二度と聴かないかはわからんけどね(笑)。ブランクについては、REVIVEの若林くんが亡くなって……。僕のやる気が全くなくなってしまいまして。〈Desertification〉が彼の遺作です。若林くんと“こんなスタイルで10枚リリースしてるやつはおらんな、やれたらすごいな、しかもアマチュアで”と話をしていたんですね。とりあえず10枚目指してがんばろうか、ここからすべて自分でやらないとかっこ悪いな、と。完全宅録を始めたのは6thからですね」
――7th「Hydrosulfate」はBid'ahでも一緒に活動されているキッドさん(MIDNIGHT RESURRECTOR)を、続く8th「Photochemical oxidizing agent」にはパンク界隈のアートワークを手がけているTKKR THE ART DEMONさんがヴォーカリストとして参加しています。
 「7thのギターにはFRANTIC STUFFS、NOWONのナオキくん、ベースにはBOYS ORDERのチヒロさんとキャプテンに手伝っていただきました。次の8thもすごく気に入ってます。TKKRくんには初期衝動で最高のヴォーカルを録ってもらったね、The Skepticsみたいな。とにかく思い切りわめき倒してくれとお願いしたんです。あんなこと誰にでも出来ることじゃないです。やっぱり何事に対しても情熱をもってやってる人なら出来るんですよ、ええ感じにならんわけがない。この8thは敢えて狙ってB級パンク・バンドの音作りっぽく、中音が立ったトラックダウンにしてます」
――関西ローカルではない参加メンバーは、WAG PLATYと、9th「Geo-thermal generation」でのヴォーカリストの植田さん(AUTOROLL)だけですか?
 「キッドはそもそも関西人だから、そうなりますね。東京にいたときに植田くんが当時やっていたKGSのライヴによく行っていて、ACIDICの話をしたり。久しぶりに再会して、これも縁やからお願いしました。レコーディングが完全遠隔なのは〈Geo-thermal genetation〉のヴォーカルだけで。オケにあわせて録ってもらいましたね。そういえばキッドやrk2くん、植田くんは日本語で歌詞を書いてくれましたね」
ACIDIC SOIL / 「Photochemical oxidizing agent」期
――ラストとなる10th「Naturalis procuratio」はヴォーカルも含め、森崎さんがおひとりで作られた作品ですね。すべてご自身で手がけられることを決意されたのはいつ頃なんでしょうか?
 「“10枚やろう”と決めたときにラストは一人でやることを思いついたんだけど、ヴォーカルをどうするかは決めていませんでした。7thを作っていた当時は、自分で歌うか、インストにするか、誰か頼むか、いくつか候補を考えていましたね。ちなみに9thと10thはドラムから曲を作っています。尺だけを頭の中で決めてからドラムをどんどんレコーディングして、気に入るものができるまで録りました。一辺倒の作り方では僕の引き出しがなさ過ぎて、膨らませるためにこういうやり方をして。10thは次から次へと限界が現れて(笑)。今まで参加メンバーがやってくれた作業を自分だけでやるわけだから、“次こう来るんやろ、わかってんでー!”ってわめきつつ、ドラムだけのトラックにギターを付けて」
――意外にも1曲、日本語詞で歌われていますが、なぜですか?
 「日本語で参加してくれた方へのリスペクト、オマージュですね。自分でやってみて、ほんとすごいなって改めて思いましたよ」
――森崎さんのドラムは、曲の始まりでのカウントなのにおかずが入ったり、どこかギタリストの感覚で刻んでいるようなドラムだと感じます。音がとにかく大きくて激しいので、ほかのパートのメンバーにやりづらいと言われることもあるのでは?
 「自分を鼓舞させて、ヴォーカリストはじめ全員のヴォルテージを上げていきたいんで、うるさがられるとかの遠慮はしません(笑)。出音をとにかくデカくしていく……それ自体がガンガンこないとね」
――改めて通して聴くと、6th以降の流れがとても印象的でした。森崎さんがACIDIC以外に活動されている数々のバンドで得たことも含めて表現されているというか……最後で剥き出しに、裸になる準備をしていらっしゃったのかなと感じました。
 「確かにこの19年間が〈Naturalis procuratio〉で全裸になるための稽古だったかもしれない(笑)。テクニックとかは置いといて、“かっちょええ”って言われたらそれが一番の褒め言葉やね。今回ね、若林くんの墓前に報告ができて、何よりよかった。僕は若林くんみたいなすごい人はなかなかいないと思ってるんです。彼は誰かの音楽のために、朝から働いて夜はバイトしたお金を費やしてレーベルを運営してましたから。REVIVEと同様にACIDICをリリースしてくれたMANGROVE LABELの飯島さんも同じように情熱をもって動いている。こういった人たちは本当にすごいと思いますね。飯島さんなんてバンド(CODE)までやっている。飯島さんに10thを送ったあとで、CODEのアルバムを聴かせていただいて。……めちゃカッコよかったんだよねえ。ACIDICを続けてこられたのは、そういう人々との繋がりですね。どこに出しても評価されるべき人が周りにいてくれて、期待をし合っているし、裏切れないですね。約束みたいなものです。情熱と想いが、全ての作品に入っていると思ってます」
――19年間を振り返られて、いかがでしたか?
 「楽しかったですね、面倒だったとか全くなくて、毎回ワクワクしましたね。『MAXIMUM ROCKNROLL』に若林くんが3rdを送ってくれて掲載してもらったこと、東京でrk2くんが声をかけてくれたこととか、ほんとに人の気持ちのありがたさは実感してますね。音楽が好きで、損得抜きで稼げもしないことに参加してくれて、みんなほんまのミュージシャンですね。参加してくれた人たちがクローズアップされたら本当にうれしいです」
――ACIDICはこの10枚でコンプリートとなるんでしょうか?
 「アナログだと在庫が家に貯まり続けて、家族にも迷惑なので(笑)。これからはライフワークとして、配信を利用して死ぬまで続けていきます。インストでやるつもりだけど、タイミングや出会いで誰かに歌ってもらうことはあるかもしれないな。フォロワーじゃないけど、同じようなことをする方が増えたらいいなあ、おもしろいなあとは思いますね。僕は最後の日を迎えるまで、手足の動く限りやらせていただきます。解散できませんので、がんばりますわ。ミュージシャンだけでなく役者さん、職人さんも含め70〜80代になっても続けていらっしゃるかたがいて。そんなみなさんのぶれない姿、初志貫徹、不動心にしびれるじゃないですか。僕はまだまだ到達してないですから、仮にそこまで生きてやり続けていられたら、そこで初めて“かっちょええな”って言ってもらえると思います」
取材・文 / 服部真由子(2016年11月)
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