オアシス、
プライマル・スクリーム、
マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、
ジーザス&メリー・チェイン……数々のバンドを輩出し、80〜90年代の音楽シーンに多大な影響を与えたクリエイションレコーズ。このたびこのレーベルの歴史を追った映画『アップサイド・ダウン:クリエイションレコーズ・ストーリー』が日本で公開される。我々編集部は、先日行なわれた〈ソニックマニア〉で来日した、レーベルの元総帥でDJの
アラン・マッギーに話を訊く機会を得た。インタビューをするのは、当時『NME』誌のカメラマンとしてレーベルの隆盛を間近で体験したカメラマン/音楽ライターの久保憲司氏。レーベル運営の思い出話や真相をフランクかつ鋭い言葉で語ってもらった。
Alan Mcgee
(C) Document Films 2010
――『アップサイド・ダウン〜』を観て、あらためて、クリエイションレコーズの偉大さに感動しました。何がクリエイションをここまで偉大にしたと思いますか?
「僕たちは正気じゃなかったからね。僕たちはお金のためにやっていたんじゃない。音楽業界の常識みたいなものが事務所に入ってきたら、全部トイレに捨てていた」
――映画を観て、その感じは凄く伝わってきました。映画の中ではあなたはワンマン社長だったと語られていましたが、傍から見ているとそんな感じはしなかったんです。
「バンドについては違うけど、僕がドラッグで倒れる94年までは、全部僕が決めていた。インディの強みはそこにあると思うよ。メジャー・レコードではそういうことができないからね」
――やっぱりバンドには違う態度だったんですね。あなたの悪口を言う人は一人もいないですもんね。
「そうだね。僕はバンドに対して、ああしろ、こうしろとは言わないね」
――映画の中でも、
ノエル・ギャラガーがびっくりしてましたよね。あなたが言ったことは「4小節目にシンバルを入れてくれ」だけだったって。でも、クリエイションのバンドって全部、サイケデリックとパンクに関係しているバンドですよね。
(C) Document Films 2010
「その通りだね」
――それで、よく音楽シーンを変えるようなレーベルを作れましたよね。
「正直なところ、オアシスがあったからだと思うよ」
――でも、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインなんか、今の若者に一番影響を与えている音楽じゃないですか。
「10年後はみんなオアシスみたいなバンドやっていると思うよ。そういうもんなんだよ」
――なんで、サイケデリックとパンクだったんですか?
――深く考えてなかったんですね(笑)。僕はあなたがオーガナイズしていたパーティ〈リヴィング・ルーム〉にいつも行ってたんですが、TVパーソナリティーズがいつもブッキングされていて、僕は嫌で、嫌で仕方がなかったです(笑)。
「TVパーソナリティーズのダン・トレイシーは天才だよ。D.I.Y、サイケデリック、パンク・ロック、そういうのをやったのは彼だよ。クリエイションはダンのレーベル、Whaam!レコードをマネしただけだよ。ダンはビジネス的な才能はなかった、そして、僕はビジネス的な才能があったのかもしれない。どうだろう? わからないけど。でも、確実に言えることは、ダンはすごくクリエイティヴで、僕とは違うということだね」
(C) Document Films 2010
――クリエイションはスティッフ・レコードをお手本にしているのかなと思っていました。スティッフのトップ二人はバンドのマネジメントで稼いだお金でレーベルを運営してましたよね。あなたもジーザス&メリー・チェインなどのバンドのマネージメントをしながら、レーベルを維持してました。
「そういう意味では学ぶこともあったけど、音楽面では、全く影響されてないね。スティッフは好きなレーベルだけど」
――ファクトリー・レコードのトニー・ウィルソンについては否定的でしたね。彼の利益をバンドとレーベルで分けるというアイディアは、パンク的なようで詐欺だと言ってましたが。
「僕がそんなこと言った? 僕はトニー・ウィルソンのことを尊敬しているよ。トニー・ウィルソンとはわざと悪口の言い合いをしていたけど。そんなこと言ったかな? でも、彼はオアシスと契約できなかったのを本当に残念がっていたけどね。利益を半々にするアイディアは素晴らしいようだけど、バンドが怠けるようになるから、絶対上手くいかないんだ」
Alan Mcgee
(C) Kenji Kubo
――スティッフ・レコードのジェイク・リビエラや
レッド・ツェッペリンのマネジャー、ピーター・グラントはいわばマフィアみたいな人たちで、そういう人たちがイギリスの音楽シーンを変えてきたという歴史があったと思うのですが、映画を観ているとあなたもまさにそんな感じですよね。
「僕は暴力的じゃないよ(笑)。ドラッグをやったりして、凄く態度は悪かったかもしれないけど、僕のヒーローは
マルコム・マクラーレンだよ」
――マルコムもヤクザ的な商売だったじゃないですか(笑)。
「そうかな。僕は温厚な人間だよ。若い時はそうじゃなかったかもしれないけどね」
――その答えは映画を観た人に訊いてみます。でも確実に言えるのは、あなたみたいな人がイギリス、いや世界の音楽シーンを変えてくれたことです。本当に楽しい時間をありがとうございました。
取材・文/久保憲司(2011年8月)