トム・ヨークから時計まわりにナイジェル・ゴドリッチ、ジョーイ・ワロンカー、フリー、マウロ・レフォスコ
(c)Eliot Lee Hazel
――そもそもメンバーはどう選んだんですか?
トム・ヨーク「まずジョーイは僕らの友達で彼の大ファンだったから、一緒にプレイする口実が欲しかったのさ(笑)。そしてフリーについては、『ジ・イレイザー』を気に入ってることを知ってたんだ。会った時によく話していたからね。そして、アルバムをナマで再現するにはラテン畑のパーカッショニストが必要だと感じて、デヴィッド・バーンと共演するマウロを観て、彼しかいないと確信したよ。で、“みんなが乗り気ならやろう、でなければやりたくない”ってつもりで全員にメールしたら、すぐ“イエス”という返事が返ってきた。今思うと、リハーサルを始めたら瞬時に息が合ったことに驚かされただけじゃなく、16歳の時に
レディオヘッドを結成してから、ほかのバンドとプレイするのは初めてだってことにも気付いて、かなり強烈な衝撃だったね」
――バンドとして存続できるという手応えを得た瞬間を覚えていますか?
ナイジェル・ゴドリッチ「最初のリハーサルの時にすでに、このラインナップを、何かをレコーディングするためのツールに使うことを考え始めていたと思う。それに、当時からライヴのセットを延ばすべく、ほかにもプレイできる音楽の断片を探していたし、それが結局『アモック』の端緒になったから、バンドが自らを駆り立てたと言えるんじゃないかな」
トム「何が面白いって、すべては基本的に、僕がラップトップ上で作ったガラクタの数々を核に形作られたって点なんだ。ひとつの美意識としてね。だからそこには、優れたミュージシャンたちがマシーンを真似て、その音源を用いたり、あるいはまた別のマシーンを用いたりという奇妙なせめぎ合いがある。それが『ジ・イレイザー』に辿れる僕らの出発点であり、そこからふたつの要素の間で対話が始まったのさ」
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Atoms For Peace - Default |
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Atoms For Peace - Judge Jury and Executioner |
――『アモック』は3日間にわたるジャムの音源をもとに構築したそうですが、そのジャムはインプロだったんですか?
トム「僕が出発点を設定していたけど、それはビートとかの類で、みんながそれを物理的にプレイできるのか知りたかった。だから、“これをやってみて”と挑戦したようなものだね。全体的にものすごくテンションが高かったよ。すべてがフィジカルで直感的で、エネルギーにあふれていて、僕は本当に興奮していたし、何でもいいからセッションのきっかけになるものを探したんだ。重要なのは、マシーンとそうじゃないもののせめぎ合いであり、それが僕らから特定のプレイを引き出し、特定の方向に導いてくれた。だから究極的にはインプロなんだけど、多くの時間を費やして具体的な目標を絞ってから、どこに行き着くのか探ったのさ」
ナイジェル「それって、かなりの自制心が絡むプロセスでもあって、ミュージシャンとして非常に高いレベルのスキルを要する。ジャムするだけなら簡単だけど、僕らは具体的なパーツをプレイしようとして、あとからそれらを発展させたのさ。まずは出発点になる小さな断片があって、それに手を加えて、別の誰かがまた別の場所に導いて、さらに別の誰かが別の場所に……という具合に、すべての可能性を追求し尽くすまで作業を続けたんだよ。そして、聴きながら心に留まった箇所をメモして、曲に発展させたのさ」
トム「曲作りの大部分は、ナイジェルのメモに基いてパーツを融合させることで進めたんだ。僕の勝手にさせたら、全音源を細かく聴き直して、頭がおかしくなっていただろうけど、ナイジェルは“このパーツとこのパーツ……”って即決して、議論の余地を与えないから(笑)」
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――そして、どの曲にもヴォーカルを乗せて、ポップ・ソングとして成立させています。
トム「今回はそうだったね。それに究極的には僕自身が、常にヴォーカルがどう乗るかってことを基準にパーツを選んでしまうんだよ。それが得意分野だから、自分でもどうにもできないのさ」
ナイジェル「ただみんなで集まってビートを作って、踊って楽しむこともできるけど、音楽面の深い部分に感情的にコネクトするには、声に聴き手を導いてもらう必要があると思う。それを完遂できたら、素晴らしい結果になるよ」
トム「ただ多くの場合、ヴォーカルは主役じゃなくて、曲の中で音楽的に起きていることを声で表現しているように感じた。アフロビートにもそういう要素があって、声は普通に歌ってばかりいる必要はないんだよ。声はさまざまな形で届くし、トランス状態から生まれることもある。だから“あれこれ分析したり整合性を与え過ぎないようにしよう”って思ってた。音楽自体が大部分でそんな風に生まれたわけだからね」
――ところで、バンド名はアイゼンハワー米大統領が提唱した“平和のための原子力”に因んでいますね。
トム「今の時代、多方面で深く共鳴するコンセプトだよね。実は僕の父は原子物理学者で、1950年代末に、何の防護処置もせずにプルトニウムを入れた試験管を持って歩き回ってた。それが普通だったんだよ。あの当時我々に原子力を売りつけたそういうナイーヴさと、その裏にある闇との対比に、バンド名を選んだ大きな理由がある。と同時に、“平和のための原子力”という言葉の響きは一種の運動エネルギーを示唆していて、かつ、静けさをも表現しているし、さらには我々が直面している、どうやって電力を作り出すかっていう問題にも思索を向かわせるんだよ」
取材・文/新谷洋子(2012年12月)