チープ・トリック   2009/07/24掲載
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楳図かずおが語る! チープ・トリックとロックンロールの魅力



 『おろち』『まことちゃん』『漂流教室』『洗礼』をはじめ、ホラー&ギャグ・マンガを数多く生み出した日本を代表するマンガ家・楳図かずお。ミュージシャンとしての顔も持つ楳図かずおに、リック・ニールセンとの出会いやミュージシャンとしての思い出などを訊いた。


「チープ・トリックは、やっぱりリックさんのキャラが面白くて、
『まことちゃん』の中にも“リックの魚屋さん”とか出てきます」



まことちゃんバッジを付けているのら〜!グワシ!!
(C)Koh Hasebe / Shinko Music Archives
――チープ・トリックの初来日時に撮られた楳図先生とリック・ニールセンとのツーショット写真を偶然見つけたんですが、覚えていらっしゃいますか。
 「(その写真を見て)うわー。びっくりしましたー。突然『まことちゃん』時代が出現してしまったという感じです。あのころはいろんな方とご一緒させていただく機会が多くて、はっと気がつくと横にリックさんがいたという状態でしたね(笑)」


――楳図先生とリック・ニールセンは、どちらもお茶目な印象がありますよね。
 「チープ・トリックは、ぼくがやっていたスーパー・ポリスというバンドの曲に似ていると言われたことはありますが、やっぱりリックさんのキャラが面白くて、『まことちゃん』の中にも“リックの魚屋さん”とか出てきますよね。まあぼくが描いたわけなんですけど(笑)。実はですねえ、今日はぜひお見せしたいものがあるんです(と、おもむろに立ち上がって、後ろのパネルを見せる楳図先生)。はい。ここにいらっしゃるんですよー、リックさんが」





――おおっ、これは当時レコード会社が販売促進用に作ったものですね。
 「でも、なんでここにあるのかよくわかんないんですよ。たぶんファンの方がずずずーって持ってきちゃったんでしょうね。と思うんですけどね。持ってきたのは実はぼくかもしれないけど(笑)」


――楳図先生は、音楽家としても活躍されてきたわけですが。
 「あ、そうですね。とにかく忙しくて、音楽を聴いたりテレビを観たりする時間がまったくないという生活がずっと続いていたんです。それじゃ死んじゃうっていうんで、週刊の連載が『アゲイン』ひとつになったときに、ただ単に音楽をやってみたいっていうことで始めたんです。毎日1個ずつ作詞をやり、1個ずつ作曲をやり、1個ずつテープに録り、自分で弾いて歌って……。全部で10曲あるから、作詞で10日、作曲で10日、吹き込むのに10日。ちょうど1ヵ月かかりました。作詞って、マンガのネームを入れるのと同じような感覚だったもんですから、あんまり抵抗はなくて、はい。それで先に詞ができちゃうと、言葉のイントネーションがあるので、あんまり無理せずに曲も作っていけました。それを当時郷ひろみさんや山口百恵さんのプロデューサーだった酒井政利さんのところに持っていったんです。売れてないディレクターのところに持って行って断られたらすごく腹立つけど(笑)、いちばん売れている人のところに持って行ってけなされてもそれは納得だーと思って。それでいちばん売れてる人を探したら酒井さんだったんですよ。それが結局『闇のアルバム』(75年)になったんです」



小学館文庫『まことちゃん』第8巻より
(C)楳図かずお/小学館
――そのあと郷ひろみさんの「寒い夜明け」や「街かどの神話」(ともに76年)などの作詞も手がけていらっしゃいますね。
 「ぼく、筒美京平さんの曲が好きで、郷ひろみさんの作詞をやらせていただいたとき、作曲は筒美京平さんで、とても嬉しかったんですけど、あのころは筒美さんも郷さんも、音楽的な傾向が品のいいほうにいっちゃったもんで、ノリノリじゃなくて、それがすっごい残念でしたー(笑)」


――そして『まことちゃん』の一連のシリーズもの(77年発表の〈まことちゃん/ビチグソロック〉〈グワシ!!まことちゃん/ギャングの母〉と80年発表の〈サンバ・デ・まことちゃん/パパ&ママROCK〉)へとつながっていくわけですが。
 「『まことちゃん』のころから一気に音楽関係の方と親しくさせていただくようになって、最初に〈ビチグソロック〉を『まことちゃん』のマンガの中で描いたときに、それをレコードにしたいっていうことで、そんな流れになっていったんです。その〈ビチグソロック〉のマンガのタイトルのところに、まことちゃんたちがホウキとかバケツでバンドのカッコしてるのを描いたんですが、それを見た近田春夫さんから、自分たちのバンドと同じだ、ジャケットに使いたい! なんていう話をいただいたりもしました。その後、近田さんには〈街かどの神話〉みたいなのを書いてくださいと言われて〈エレクトリック・ラブ・ストーリー〉(79年/アレンジと演奏はYMO!)を作詞させていただいたんですけど、それはぼく、すごく気に入ってます」


「基本はロックンロールが好きっていうのも間違いなくて。
“ズズズズ、ズズズズ”するベースの音階がたまらないんです」


――当時は、ライヴもかなりやっていらっしゃいましたよね。
 「『闇のアルバム』のときは、単にレコードを出していただければそれでオッケーっていう感じだったんですが(笑)、まことちゃんの〈ビチグソロック〉をコロムビアレコードで出していただいたときは、日本橋の三越の屋上でお披露目をすることになって、でも1曲だけじゃ間が持たないので、そのときは『闇のアルバム』に入っている〈へび少女〉もやりました。それからそういうライヴが増えていったんですけど、ひとつ実感したことがあったんです。〈まことちゃん〉とか〈ビチグソロック〉を聴いてくれるのって小学生なんですよ。『闇のアルバム』の曲じゃちょっと難しいんです。それで小学生に受けるのはやっぱりロックンロールだっていうことに気がついて、〈ロック・アラウンド・ザ・クロック〉とか〈ダイアナ〉とか〈ルート66〉とか〈ロコモーション〉とかが入っている昔のレコードやテープを引きずりだして、英語のまま丸暗記して、それで〈ビチグソロック〉といっしょにやってたんです。小学生も、ロックンロールにはちゃんとついてくるんですよ。英語がわかんなくても」


――それにしても、マンガと音楽を両立できるなんて、すごすぎますね。
 「“だけ”っていうのはぼく、いやなんですよ。マンガも、ギャグだけじゃいやだし、ホラーだけでもいやなんです。それにマンガと音楽ってつながる部分があるんですよ。とくにギャグはリズムだなって。リズムに乗ってる笑いっていうのがあって、“乗っていれば笑いたい気分になる”というのは、音楽をやっていてすごく感じたことですね」




小学館文庫『まことちゃん』第8巻より
(C)楳図かずお/小学館
――ところで、最近よくお聴きになる音楽はありますか。
 「最近の曲ではなくて、やっぱり古い曲の中から自分の好きなのを選んで聴くことが多いですね。昔の曲のほうがリズムがバラけてなくて、へんにこねまわしてないのがいいんです。とくに好きなのはプレスリーの〈監獄ロック〉。これはぜったい覚えたいんですけど、歌詞が難しくて。あと〈ハートブレイク・ホテル〉も。プレスリーは好きですね。でも、古い曲といっても今もこうして残っているわけなので、それを覚えたら自分の財産になるけど、この先消えてしまうのを覚えてもあんまり財産にならないんですよー(笑)。あとはさっき出てきた筒美京平さんも好きな曲が多いし、北島三郎さんの〈与作〉も好きですね」


――チープ・トリックの元祖とも言えるビートルズはいかがですか。
 「ぼく、ビートルズは意外と好きじゃないんですよ。でも〈オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ〉と、オリジナルはビートルズじゃないけど〈ベートーベンをぶっとばせ〉のノリは好きです。“ズズズズ、ズズズズ”(と口ずさむ)するような、ロックンロールのベースの上がり下がりがすっごい好きなもんですから。あと、最近は日本民謡も聴いてます。外国に行って日本の曲を紹介するなら、ぼくはやっぱり〈大漁唄い込み(斎太郎節)〉がいいなあって。〈大漁唄い込み〉と〈北海盆唄〉あたりをきちんとマスターしたいなあと思っているんですよ。ほかに菅原洋一の曲も、部屋でレコードをかけて、歌の勉強のつもりで一緒に歌わせていただいてます。菅原さんの曲は、ちょっと演歌寄りのところがあって、ぼく、演歌とかもけっこう好きなんです。もうそのへんメチャクチャなんですけど(笑)。でも基本はロックンロールが好きっていうのも間違いなくて、はい。ロックンロールのベースの音階。あれがたまらないんですよねー」



取材・文/藤本国彦(2009年7月)



『闇のアルバム/楳図かずお作品集』
(MHCL-542 税込2,310円/2005年)
01.洗礼
02.イアラ
03.へび少女
04.蝶の墓
05.おろち
06.闇のアルバム
07.おとぎ話のヨコハマ
08.アゲイン
09.漂流教室
10.森の唄
11.プールサイド
12.スーパー★ポリス
13.オールド ロッキン バンド
14.うしろを見るな!
15.月の明かりに
16.YOU ARE MY DESTINY
17.洗礼(オリジナル・カラオケ)
18.へび少女(オリジナル・カラオケ)
19.漂流教室(オリジナル・カラオケ)



『グワシ!!まことちゃん・楳図かずおワールド』
(COCX-33011 税込2415円/2004年)
〈まことちゃんイメージ・ソング〉
01.まことちゃん
(野下まこと、山口奈々)〈シンガー・楳図かずおの世界〉
02.ビチグソロック
(楳図かずお、ザ・チャープス、山口奈々)
03.グワシ!!まことちゃん
(KAZZ、フィーリング・フリー、ターゲット54)
04.ギャングの母
(KAZZ、ターゲット54)
05.アニメ映画「まことちゃん」〜サンバ・デ・まことちゃん
(楳図かずお、スーパー・ポリス)
06.パパ&ママROCK
(楳図かずお,スーパー・ポリス)
07.木村の兄さん
(UMEZZ)
08.パパ&ママROCK(新アレンジ)
(UMEZZ)
09.むかしトイレがこわかった!
(楳図かずお)〈作詩家&作曲家・楳図かずおの世界〉
10.つる姫じゃ〜っ!
(つる姫、朝倉理恵、家来たち、エコノミック・アニマルズ)
11.ゲキメーション「妖怪伝 猫目小僧」〜猫目小僧
(堀江美都子、コロムビアゆりかご会)
12.みろよ!この目を
(堀江美都子)
13.テレビアニメ「アンデスの少年 ペペロの冒険」〜ペペロの冒険
(堀江美都子)
14.風よつたえて
(堀江美都子,ムーン・ドロップス)
15.エレクトリック・ラブ・ストーリー
(YMO編曲ヴァージョン)(近田春夫)
16.ああ、レディハリケーン(近田春夫)
〈楳図かずおデビュー・アルバム「闇のアルバム」より〉
17.アゲイン
(楳図かずお)



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