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――音楽との出会いは?
「楽器がいっぱい家にあったんで、遊びの延長から自然と入ったって感じです。両親ともピアノを弾いていたので」
――じゃあレコードやCDもたくさんあったでしょう。
「親父はジャズ、母ちゃんはクラシックが好きだったんですけど、俺自身はそのふたつのジャンルだけじゃなくて、なんでも聴いてましたね。
レッド・ツェッペリン とか
ジミヘン とか、60〜70年代のサイケなロックが好きになって、その流れで90年代のラウドなロックとか。ギターがうるさいのが好きなんですよ。それで中学校のときに初めてバンドを組んでギターを弾いてました」
――芸大でチェロを専攻されていたそうですね。
「小学校のとき教室が近所にあったんで。クラシックは古典のものとかは俺的にはあんまり面白くないんですけど、1900年代に活躍した
ストラヴィンスキー とか
プロコフィエフ とかはわりとぶっ飛んでて、景色みたいなものがサイケなロックの質感とリンクするんですよね。(他ジャンルと)まったく分けて聴いてないです」
――ジャズも好きだった?
「アルバムにも参加してる石若駿と大学で出会って、彼の公演に連れていかれてからですね。ジミヘンとかを入口にヒップホップまでブラック・ミュージックにもひと通り触れてきたんで、わりと自然に入れました」
――『http://』はまさにそんな常田さんの音楽的経歴というか体験のすべてが詰め込まれている感じですが、僕が聴いたときには、当たってるか外れてるかわからないんですけど、映画音楽っぽい印象を受けました。
「映画音楽単品で聴くってことはあんまりないんですけど、映画は好きです。わりと音楽以外のアイディアを重視してて、他の何かしらの作品からのほうがインスパイアされるんですよ。たとえば絵画を見て得た情報を音楽に置き換えてみたら……とか。そうすると偶発的な面白いアイディアが出てくるんです」
――なるほど。そういう曲の作り方はいつぐらいから?
「大学に入ってからですかね。でも中学時代から曲は作ってて、人と違うことをやりたいって気持ちはずっとあったんで、ちょっと変なことをしてました。たとえば、そうとは知らずにサンプリング的なことをやってみたりとか。ドン引きされた記憶しかないです(笑)。いま思うと“これ、○○がやってるのと同じじゃん”とか思うものもありますけど」
――大学時代に勉強していたのは?
「
小澤征爾 さんの音楽塾に2年くらいいたんです。小澤さんが満州生まれとかで中国に凱旋公演する機会があって、
ラヴェル の組曲〈マ・メール・ロワ〉を演奏したんですけど、それが素晴らしくて。その感動はどの音楽でも目指すべき境地だなと思いました。オケ(オーケストラ)も好きなので、このアルバムでもその感覚を意識してます。このために演奏したものもあるし、過去のレコーディングのストックから持ってきて加工したものも」
――参加ミュージシャンは同年代の方が多いですよね。大学時代のお友達ですか?
「コアな参加メンバーはだいたい大学時代の同級生です。ドラムの石若と、ピアノの江崎文武。ベースの新井和輝はSrv.Vinciのメンバーです。フィーチャリング的に入ってる人たちはいろいろで、Koki Nakanoさんや(中野)裕太くんは上だし、ラッパーのJuaは下だし。コンセプト的に入り乱れた感じを求めていたので、それぞれまったく違う個性を強引に突っ込んでいった感じですね」
――みんな知り合いではあったんですか?
「〈Ennui〉〈Mannequin〉〈Sweet Complex〉に参加してもらったermhoiはソロ作を聴いてやばい!と思って、つながってる人がいたんで紹介してもらいました」
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――Srv.Vinciとはどう違うんでしょうか。
「こっちのほうがイカついです。Srv.Vinciはここ1年くらいでロック・バンドのフォーマットに固めたんで、もっと聴きやすいと思います。最初はDTMPの前身みたいな感じでした。石若も参加してたし、裕太くんも入ってくれてたし」
――短尺の曲が間を空けずにどんどんつながっていく作りにしたのは?
「ちょっと軽薄な感じがいいかなと(笑)。東京を歩いてると、すごくいろんな建物があるじゃないですか。洋風な結婚式場の隣に木造のアパートがあったりとか、あんまりヴィジュアル気にせずどんどん建てちゃうのが、子供の頃はすごくイヤだったんですけど、最近は面白いなって思って。そういう美意識が欠如しながらも、独特なエネルギーがある感じがアジアっぽいなって思って、最近はそういうとこも含めて好きになってきてるというか、付き合わざるを得ないというか(笑)」
――歌詞も日本語、英語、フランス語、中国語とありますね。
「意識してやってます。混沌としてる感じが東京っぽいというか。東京に住むアーティストとして、何をやるべきなのかって考えて」
――共感するアーティストって誰かいますか?
――そういえば〈Dr. Brodsky〉〈Ludovico Technique〉と『時計じかけのオレンジ』 にインスピレーションを求めたっぽい曲名もありますね。 「好きなんですよ。ラウドでなおかつ緻密、っていうのが俺もやりたいことなんで。映画は基本なんでも好きで、ヒマなときはいつも観てます。
デヴィッド・リンチ も好きで、やっぱりちょっと変なフェティシズムがある人が好きですね。ギャップっていいですよね。すごく堅い人がすごくバカなことやるみたいな」
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――ご自分の音楽もギャップがポイント?
「そうです。ラウドな音とまったく無縁の音を平気で混ぜちゃったり、まじめにプレイしてたり、してなかったり。わりと軽薄なんです(笑)。でもある意味一貫性はとても強くあると思ってて、それのひとつはオケの使い方だと思います」
――ポップスの世界でのオケの使われ方というと。
「そこに違和感があるんです。俺からしたらポップスのオケ・アレンジはすごくダサいし、ただコードをなぞってるだけだったりして、ほかのバンド楽器と同じくらいのバランスで作ってあるものがあんまりないイメージなんですよね。そこにもうちょっと手を入れてやると印象がガラッと変わるかなと。いわゆるバンド楽器とオケを対等な関係にしてやるっていう話」
――そういう音楽観は常田さんがこれまで聴いてきた、あるいはプレイしてきた音楽の蓄積から生まれたものですね。
「もちろんそうです。別のところにある同じ匂いを結びつけて試す、ということを、今回はうまくやり尽くせたかなって思ってます」
――好きな音楽に序列はつけていない?
「まったくないです。そもそもジャンルで聴かないし。ラウドだったりノイジーだったりローファイだったりするものが好きっていう、質感みたいなものが共通項になってて、ジミヘンの〈Machine Gun〉のすごいフィードバックの後ろでストラヴィンスキーのオケが流れてたらクソやばいんじゃないかとか。そういう聴き方なんで、わりと何でも面白いんですよね。テクノみたいな、デッドで人間的なフィールじゃないものも好きですし。テクノって俺のなかでは(レオナルド・)ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』に描かれてる建物の壁の異常なほどの左右対称な感じに近くて、あの上に人間的な動きがのってる感じがあの絵を面白くしているんじゃない?とか。たとえば仲間と遊んでいる時、一人テクノみたいな奴がいたら、一人ジャズってる奴がいた方がお互いに映える的な(笑)」
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――テクノもロックもクラシックもジャズもヒップホップも俺の友達、と。
「そうです。いろいろいたほうが面白いっていう。でも共通した香りはないとですけれど」
――同じクラシックでも俺の友達になるやつもいるし、ならないやつもいると。
――ジャズではどういうのが好きですか?
――感覚的なものを大事にするタイプ?
「わりと音楽以外から得たアイディアを音楽に落とし込むっていうやり方をとることが多いです。だからわかり合えない音楽家も多いですけど(笑)。いろんなスタイルがあっていいと思います」
――楽器はひととおり何でもできるんですか?
「自分でできないレベルの演奏がほしいときはまわりの優秀な人に頼みます。一人で多重録音で作りあげるってことも多いですし、編集作業も大好きで、何日でも部屋にこもれるタイプです(笑)」
――『http://』はどこの国の人が聴いても、初めて聴く音楽であり、同時になつかしさも感じるようなアルバムになっているんじゃないかと思います。
「東京感ですね。海外の人がこの作品を聴くときに、東京で活動するアーティストの作品としてこれらを聴いたら、しっくりきてもらえるんじゃないかな」
PERIMETRON BIG PARTY @SHIBUYA WWW
2016年9月2日(金) 東京 渋谷
WWW 出演:Srv.Vinci / Daiki Tsuneta Millennium Parade ほか ※詳細は近日公開