【DJ TASAKA】今社会で起きていることは、DJブースの前で起きていることの拡大版――6年ぶりのアルバム『UpRight』をめぐる社会と音楽

DJ TASAKA   2015/07/16掲載
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 電気グルーヴのサポート・メンバー、盟友KAGAMIとのユニットDISCO TWINS吉川晃司とのユニットDISCO K2 TWINS、そして、数々のアーティストのリミックスやクラブやフェスでのプレイなどで、日本のクラブ・シーンだけではなく、日本の音楽シーンも盛り上げてきたDJ TASAKA。そんな彼が6年ぶりに4枚目のソロ・アルバム『UpRight』をリリースする。
 サウンドはDJ TASAKAらしいアッパーでファンキーなサウンドを残しつつも、よりアーバンで大人なサウンドに変わっていた。そのサウンドとグルーヴはデトロイト・テクノやシカゴ・ハウスが本当に伝えようとしていたものを確実に受け継いでいる。まさに『UpRight』こそが、本当のフロアの熱さなのだ。DJ TASAKAは日本のクラブ・シーンを代表するにふさわしいマスターピースを作った。
――クラブなどでタサカくんの名前はよく目にしていたので、あまり気づかなかったですが、6年ぶりのソロ・アルバムだったのですね。
 「2010年にDISCO TWINSの2ndを作ろうとKAGAMIと計画しはじめた時に、突然KAGAMIが亡くなって。その数ヵ月後に3.11があって。僕は能天気でタフな方だと思ってたんだけど、1〜2年すごく食らってたんですよね。ものを作る時に、精神の振れ幅が大きければ大きいほど面白いものができるというのは自覚しているんですけど、KAGAMIの死後すぐにどうこうというわけにはいかなくて」
――そっか、タサカくんいつも元気そうだったから気づかなかったよ。
 「アルバム作ったり、こういうふうに表に出たりって気になかなかならなくて。あとは音楽とかクラブとか以前の生活として、震災以降、あまりにも自分らが権力者のカモにされてるな、って感じることが多くて。デモなんか行くような人間じゃなかったけど、やっぱ頭数にならないとと思って行ったりするなかで、新しい出会いも生まれていったりして」
――それがこのアルバムに参加している人たちですね。伝説のさんピンCAMPの頃から活動されているラッパーのMC JOEさんや、ROVO勝井祐二さんとも活動されているシンガー・ソングライターのSoRAさんなど、タサカくんがストリートで出会ったいろんな方が参加していますね。
 「アートワークもそういう場で出会った現代美術アーティストの竹川宣彰さんとAKIRA THE HUSTLERさんにお願いして、16ページのブックレットは千原 航さんにデザインを頼みました」
――パッケージにも音楽と同じくらいの熱さを感じました。でも、どこかファミリー・アルバムのような親しみも感じました。そして、今回のアルバムはとっても大人なアルバムに仕上がっていますね。
 「大人という意味では前作『SOUL CLAP』のときに“大人っぽくなったね”“家でも聴けるアルバムだね”と言われていたんですが。今回はそういうことすら気にせずに、今まで好きだったり得意だったりする音楽スタイルを実直に鳴らせばいいと思えるようになって。Beatportのトレンドとかをまったく気にしなくなったというか」
――ネット時代になって今の若いクリエイターたちは気にしまくっているけどね。
 「若いとそういうのが楽しいというのもわかるし、必要だと思いますけど。前作までは、昨日のパーティ良かったな、あの感じを再現しようという感じで曲を作ることが多かったけど、今はもっと視野が広くなって。少し前まで、毎週日曜日に新大久保で人種差別主義者のヘイト・デモが行なわれていたんですけど、あんな酷いことが許されてしまう街のなかで、許さないで直接行動する人たちが自分の横にいる。そういう強烈な現実、日常の中で体験した、酷いものや美しいことをフィードバックさせて、奥行きがある音楽を作ろうと試行錯誤するようになったんです」
――「Counter Side」や「C Side Wins」なんかがそういう曲なのかな?
 「そうそう。 あと〈Edge of Panic〉というトラメガの音で始まる曲があるんだけど、原発再稼働反対で官邸前に20万人が集まった夜のあの感じ、“先頭までパンパン”という歌詞、あれね、どんどん人が官邸前に集まって膨れたりあふれたりする感じを性器にたとえてみたりとか(笑)」
――あー、そういう意味でパンパンなのか、さすが電気グルーヴ・ファミリーw 今回のアルバムは3.11以降の日本の精神みたいなものを捉えたアルバムになっていると思いますよ。さっきファミリー・アルバムっぽいと言ったのはそういう意味もあるんです。日本の肖像というか、昔ハウス・ミュージックで黒人の歴史というか、黒人とは何なのかというのを一つのアルバムに収めた名盤、ブレイズ『25イヤーズ・レイター』を思い出しました。ファンカデリックのアルバムとか、マーヴィン・ゲイ『ホワッツ・ゴーイン・オン』とも同じ空気を感じました。
 「褒めすぎです(笑)。けど、その比較は光栄です。3.11以降から安倍政権にいたるまでをとりあえずないものとして……いや、こういう世の中だからこそ、娯楽を提供しようと音楽活動をしている人は多いと思うんです。僕にとってもそういう存在は励みになるけど、そういう音楽が現在進行形な気はあんまりしなくて」
――時代性がないからいつまでも聴かれる作品にはなるけど……ということだよね。
 「そう。新大久保で人種差別主義者たちが最悪なことをやってるのに対抗したり、ちょっと前だったら官邸前に頭数として行ったりって、こんな言い方をすると誤解もあると思うんですけど、エキサイティングなことでもあったと思うんです。そんなことしなくて済むならしない方がいいに決まってるのは前提としてね」
――面白かったよね。今は学生さんが官邸前で安倍政権への抗議行動を始めたりしているし。
 「そういう現実を自分の表現に流入させてかつエンターテインできるものが作りたくて。ある意味で、前向きな現実逃避の場でもあるダンス・フロアにおいてもプラスに働くように工夫したり。現実と自分の表現やダンス・フロアを、切り離す必要は僕にはないなと。ダンス・フロアに限らず、表現と切り離す事情というのはおのおのあると思うんです」
――そうですよ、メジャーでやってたら、やっぱあんまりこういうことを言うとダメかなと思ったりしますよね。俺も自分がメジャー・アーティストだったら、絶対黙っているもん。
 「メジャーの人だとアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)Gotchさんとか、数えられるぐらいですよね。それを僕はどうこう言う気もないですけど」
――Gotchさんもあれ、本当は大変だよね。えらいと思う。でも、クラブ・ミュージックのアーティストの方が時代には敏感な人が多いよね。なんでだろう?
 「たとえばDJは、フロアのその場の反応を見て曲をかけるような人たちなので、敏感なのかもしれませんね。自分のことで言えば、新大久保で何が起きてるか最初に見に行ったのも、今フロアで何が起きているかってことの延長にあるとも言えて。ダンス・フロアのある街の日曜日の昼間にこんな酷いことが起きているのかと見る視点。今社会で起きていることをDJブースの前で起きていることの拡大版として見ている部分が僕には確実にある」
――そっか、タサカくん、本当によく考えているね。そして、日本のゲイのパレード、〈レインボープライド〉のサポートもしていますよね。今のタサカくんの活動って、世界のクラブの歴史をなぞっているようですね。
 「優等生すぎてつまらない奴な気がしてきました(笑)。ベルリンやニューヨークだと、ゲイの人の方がより楽しそうにしてるでしょ。東京も変わってきたとは思うけど、ゲイというだけで萎縮せざるを得ない状況はあったんだろうなと。ゲイの人が萎縮しているとこっちが不安になってくるし」
――普通に世の中の状況を歌にしないとダメですよね。
 「それは、やりたい人がやればいいとしか思わないですけどね。ミュージシャンが社会に関してズレた発言をした時の、“音楽だけやってろ”って批判がありますが、大半に関してはまったくそうだなと思うから(笑)。ただ、自分は日和ったところにいたらわからない体験を、音楽と関係ない部分でしてきた、というか、いつの間にかしちゃってたって感じですが(笑)、そういうのがあって。この先のために、伝えたり残したりしたい体験をここ数年の東京でたくさんした。いわゆるプロテスト・ソングだとは思わないんだけど、『UpRight』は今の時代の空気を吸い込んでいるものだとは思います。ハードコア・パンクとかラップとか、アーシーなフォーク・ソングなんかではそういうのがあるのに、なんで週末のダンス・フロアはそういうのを嫌がるんだろうと考えると、まだ日本ではそういう時代の空気を噛み砕いて持っていった人がいないからなんだと思うんです。それをやりたいなと思ったのがこのアルバムなんです」
――いやータサカくん完全にできているよ。いろんな人の刺激になるアルバムを作ったなと心から思います。
取材・文 / 久保憲司(2015年6月)
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