バンド・サウンドと電子音、さらには弦楽器をオーガニックに融合したサウンドスケープを奏でるデンマーク出身の3人組
エフタークラング(Efterklang)が、前作
『マジック・チェアーズ』からおよそ2年ぶりとなる通算4作目
『ピラミダPIRAMIDA(Piramida)』をリリースする。本作は、 北極圏よりわずか数百キロの場所にあるゴーストタウンにて、1000サンプルにも及ぶ素材をフィールド録音し、加工しながら作り上げた力作だ。そもそも、そんな朽ち果てた場所ピラミダになぜ彼らは惹かれたのだろうか。
〈Hostess Club Weekender〉にて初来日を果たした彼ら。リーダーでヴォーカルのキャスパー・クラウゼンに話を聞いた。
(C)Andreas Koefoed
――何故今回、フィールド・レコーディングから始めようと思ったのですか?
キャスパー・クラウゼン(vo、various instruments/以下同)「今から2、3年前、前作『マジック・チェアーズ』が終わった頃に、友達からピラミダというゴーストタウンの写真が送られてきたんだ。周りが自然に囲まれていて、海岸では氷河が流れ込んでくるのが見えるようなフィヨルド地帯なんだけど、かつては子供たちが遊んでいたであろう公園だとか、病院だったであろう建物、そういうものが朽ち果てた無人の状態で写っていた。“これはすごい、ぜひ行ってみたい”って思ったんだよ」
――ゴーストタウンというのは、人間の生活用品や人工物が朽ち果て、再び自然と同化していくような光景だと思うのですが、それって“エレクトロニクス”や“楽器”という人工物と、フィールド録音による“自然音”を融合しているエフタークラングのサウンドとも共鳴するものがあったんじゃないでしょうか。
「まったくその通りだよ。君の言っていることこそが、このアルバムのために1年間かけておこなってきたプロセスそのものだと言っていい。自然と人間の間の矛盾点みたいなものについてもいろいろ考えさせられた。アルバム作りの初期の段階から、それがテーマになるだろうなって思っていたしね。
ピラミダみたいな場所に身を置いてみると、そもそも自然の中に人工物が存在していること自体、違和感があると気付いたよ。自分自身も洋服だとかマイクだとか、人工物を身に付けた姿でそこにいるわけだし。これって、ある意味ジレンマだよね。人間っていうのは、自然には存在しないものを創るという“クリエイティヴな欲求”というのは常に抱えているけど、それを創ると今度は自然を傷つける原因にもなるし……。とまあ、そんなことをいろいろ考えさせられたよ(笑)」
――前作『マジック・チェアーズ』あたりから“歌”を全面的にフィーチャーした曲が大幅に増えましたが、歌詞におけるテーマはありましたか?
「実は以前、ある女性と付き合っていたんだけど、その関係がダメになってしまったんだよね。そんな時期にピラミダを訪れてみると、かつて使われていたものが用済みとなり、モニュメントのようにその場に残っている。そんなゴーストタウンの光景を、自分の終わってしまった恋愛関係と重ね合わせてしまったんだ(笑)。そういう意味でも、今回は失われたものに対する憧憬や追憶といったようなことを歌っているものが多い気がするな」
――アルバムにはオーケストラや合唱隊がフィーチャーされていますが、実在感がないというか、どこか遠い記憶の中で鳴り響いているように聞こえるのは、憧憬や追憶といったテーマがサウンドに反映されているからなんでしょうかね。
「そういうふうに言ってもらえるのはすごく嬉しい。自分が作った音楽を口で説明するのってすごく難しいんだけど、今君が言ってくれたことはすごくしっくりくるよ。実際、エフタークラングという名前自体が“リヴァーブ(残響)”っていう意味と、“リメンバー(記憶)”っていう意味があるんだよ。だから、そこにも繋がるよね」
(C)Rasmus Weng Karlsen
――エフタークラングは、ストリングスやホーン・セクションをバンド・サウンドや電子音と積極的に融合したサウンドを、早くから実践していました。そういった手法に辿り着くまでにインスパイアを受けた音楽を最後に教えてもらえますか?
取材・文/黒田隆憲(2012年11月)