昨年リリースのミニ・アルバム
『Primera』からシングル
「Aviator / Boogie Aroma」にかけて、更なる表現力の拡張を見せた実在するアーバン・ファンタジー“
Especia”が、いよいよ2ndフル・アルバム
『CARTA』をリリース。1970〜80sファンク / エレクトロ・ブギー、AOR / スムース・フュージョン、ネオソウルなどを90sリヴァイヴァルやインターネット以降の解釈で再構築した珠玉のベーシックはそのままに新境地楽曲を多数収めた同作は、2月末にグループを卒業するメンバー、三ノ宮ちか、三瀬ちひろ、脇田もなりにとってのファイナル・アルバムともなっています。今後も活動を継続する意志を新たにした冨永悠香、森 絵莉加を含むメンバー5名全員に、Especiaの現在とこれからを語っていただきました。
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――大阪から東京に拠点を移す、そして3人が卒業するという流れは本当に驚いたんですが、どうしてこうなったんですか?
三ノ宮ちか(以下 三ノ宮) 「こんなに最初に聞かれたのは初めて(笑)」
冨永悠香(以下 冨永) 「今いままで(の取材)はアルバムの話からの、最後にちょっとくらい」
三ノ宮 「徐々に〜、みたいな」
――あまりに急だなと思ったんですよ。話し合いみたいなのは設けられたんですか?
三ノ宮 「個々にはありましたけど、5人の前でどうするかみたいな話は、正直ないです。別々に聞かされた感じなので、ふたり(グループを続ける冨永・森)をびっくりさせたかもしれないです」
冨永 「それがコースト(1月にワンマンが行なわれた東京・新木場 STUDIO COAST)の3日前。話し合ったというより、決まったことをその場で聞かされた感じです」
――その前の、決断するに至った流れを聞いていっていいですか?東京に行くのと卒業が決まるのとではどちらが先だったのでしょうか。
三瀬ちひろ(以下 三瀬) 「東京に行くのが先です」
――では、東京に行くと決まった時期は?
三瀬 「年末にその話をされて、どうするか決断してくださいと言われました」
――もうひとつ遡らせてください。東京に行きましょうと決まったそもそもの理由は?
冨永 「もともとはもっと前から、“あと1年後くらいには上京”っていうのはやんわりと言われていたんです。いつくらいからやろ。結構前からだよね?行くか行かへんかは頑張り次第って」
三瀬 「コーストでどうなるかみたいな感じで」
冨永 「なので、行くっていうのは決定してなかったし、どれだけ頑張れば行けるのかっていうのもわからなかった。自分たちのなかでは本当にやんわりした感じやったけど、さっき言ったみたいに、年末くらいに行くってことが決定しました」
――東京に行く目的は、仕事がしやすいということなんですよね。
三ノ宮 「はい。仕事の数はやっぱり多いじゃないですか。動きやすいですし」
三瀬 「売れるためだと思います」
――そういうことですよね。
三ノ宮 「大阪にいると交通費とか宿泊代もかかるから、いっそのこと行ってしまったほうが仕事の話を持っていきやすいということだと思います」
――で、考えた。
三ノ宮 「悠香はずっと前から上京したいって言ってたよな」
冨永 「上京したいというか、Especiaが行くなら行きたいと思っていました」
――森さんは学校もあるし考えますよね。
森 絵莉加(以下 森) 「悩みました。大学が一番つっかかりではあったので。学業と両立させるうえで、言葉が悪いですけど中途半端だったというか。例えばお昼のラジオに出られないとか、テストがあるから休まないといけないとか、そういう部分で難しいところがあったんです。東京に出るなら休学せざるを得ないけど、もうひとつのやりたいことでもあるし、2年間通ったので、本当に悩みました。このまま東京に出たら後悔しいひんかとか、逆にEspeciaを辞めて大学に行って後悔しいひんかとか考えた結果、出ることに決めました。それを決めたのは、まわりの支えがあって背中を押してくださったりとか、自分の判断だったり色々あったんですけど、今は頑張ろうという気持ちです」
――そして卒業する3人は色々考えた結果、“東京ないわ”と。
三ノ宮 「“ないわ”(笑)。というか……」
――改めてちゃんと考えるきっかけになった?
三ノ宮 「そうですね。冷静に考えてみて。行きたい気持ちがなかったわけでもないんです。売れたら(東京に)行くっていう流れが多いですし、Especiaを結成してからずっとそのことが頭のどこかにはありましたけど、自分のなかで思っていた上京の時期と実際の時期で、若干ズレがあった」
――それは早い?遅い?
三ノ宮 「自分のなかでは年齢的に遅かった。もうちょっと手前だったら気持ち的にも慎重にならず、思うがままに気にせず行けたと思うんですけど、気づいてしまったら、今26で、今年27になるじゃないですか。今から上京してうまくいかんかったらどうしようっていう不安が勝ってしまいまして。もし“1年だけでも”ってやってみても、気づいたときには28ですし、30手前でEspeciaを抜けてしまったら、果たして自分にはなにが残るのかってマイナスに考えてしまった。そう考える時点で結構やばいなと気づき出して。気持ちが弱くなっているというか。悩んでしまっている時点で、頑張ってやっていこうと思ってる子に失礼というか、足引っ張るなと思って」
――とはいえ、年齢を理由に辞めないって話してきましたよね。
三ノ宮 「Especiaの曲自体は何歳になってもできるようなものやったんで、そこは気にしてなかったんですけど、いち個人として三ノ宮ちかの人生を考えてみると、結構やばい年やなって思ってきて。それでタイミング的に辞めるのなら今なのかなって決断をしました。チャンスに乗ろうという気持ちになれなかった。余計なことまで考えて、先を見てしまった」
――僕は、グループがこうなってまで東京に出なくてもいいのではないかと思っていたんですよ。
三ノ宮 「拠点が変わらなかったら続けていたとは思いますけど……」
――遅かれ早かれ売れるための決断しないといけない時期がくると。
三ノ宮 「そうですね。今と環境が違っていたら“私はEspeciaだけで大丈夫”と思えていたので、芸能界にはまだまだいたと思います。でも、そうではないから」
――たとえば、逆に“東京に行きたくありません”と全員が反対するという選択肢はなかった?
三ノ宮 「このメンバーじゃなくなるなら、ということですか?」
三瀬 「そこまで頭が回らなかった」
三ノ宮 「逆らったりするのは好きじゃないので。上の人が考えてくれたことにイヤって言ってまで続ける考えはなかったかもしれない」
――脇田さんは?
脇田もなり(以下 脇田) 「うーん……そうですね……頭のなかが迷走してます」
――今の時点で言えないことがある?
脇田 「……謎です。(三瀬を見る)」
三瀬 「え?知らん(笑)」
三ノ宮 「ちぃ(三瀬)、先に話してって」
――じゃあ三瀬さん。
三瀬 「現実的に考えて、東京に行くってなったら生活面を考えないといけないし、お金も発生してくる。今の自分だとお金もないし、親に頼らざるを得ない。自分の夢なのに人に頼ったりするのは……別にいいのかもしれないけど、私のなかでは違うと思って。親に頼りたくない。でも東京に来てバイトしながらでも足りないし、Especiaの仕事ばっかりになってバイトできない状況になっても路頭に迷うなと思ったし、悩んでる時点で精神的にも芸能界に飲み込まれてしまう、負けてしまうと思ったんです。それはみんなにも迷惑をかけるからダメかなと。だったら、今かなと」
――ふたりは共通点もありますね。
三瀬 「そうですね」
三ノ宮 「ふたりで話して共感し合うこともありました。若干、お互いの背中を押した感じやな?“せやな”みたいな。ここ(三ノ宮・三瀬)の話がなかったら、悩んだ気持ちのまま(東京に)行って、行ったあとに心が折れてたかもしれない」
――心が折れる前提!
三ノ宮 「もしうまくいかなかったらですよ」
――そういうネガティヴな発想が出てしまうと。
三ノ宮 「たぶん歳のせいです(笑)。東京に行ったらやらないといけないことがたくさん出てくるけど、そういう気持ちのままできないじゃないですか。やるぞっていう気持ちがないのは、行くって決めたふたりに申し訳ないから。悩んでた時期に喋ってよかったとは思います。“私だけじゃなかったんか”みたいな」
――辞めるのを引き留めようという発想は?
森 「思いました。私が聞いたのが成人式の日で。式に行く前に、父親のLINEで」
――変わった経緯ですね。
森 「色々偶然が重なりまして、聞いてしまったんです。でも、そのときにまずは成人式を楽しもうと」
――とりあえずは(笑)。
森 「頭の片隅に置きながらも(笑)。信じたくなくて。“絶対ないない”って思いながら成人式を楽しんで。本人の口から聞いたわけじゃないし、LINEを通じて知ったから、どこかで嘘であればいいのにって思ってました」
――伝聞の情報だからまだわからないと。
森 「はい。それで、ぶぅ(三ノ宮)と一緒にご飯に行くときがあったんです。聞きたいこともあったから誘って。レッスンとレッスンのあいだかな?そこで絵莉加から直接質問したんですけど、その時点でぶぅの決意が強くて。私が言っても崩れへんやろなっていうくらい意志が固まってたんですよ。これはなに言ってもダメだなと。しかも、ぶぅの人生でもあり、ちぃの人生でもあり、もなりの人生でもある。言うたら他人じゃないですか。どっちが幸せかわからないのに、他人が口出しして人生を変えるのも違のかなって。その子が思う幸せな人生を生きてほしいと思ったんです。なので、引き留めたかったけど引き留められなかったという感じです」
一同 「……(静まり返る)」
――もう少し時間を置いたほうがよかったですかね。まだ整理できていない?
森 「いや、今は割り切って2月末まで5人で突っ走ろうって楽しんでます」
三ノ宮 「あの時期のことを思い出しながら話すから若干こうなってますけど。あのときはふたりを散々泣かしてしまいました。(脇田を見て)辞めてく側なのにめっちゃ泣くし。なんでお前が泣いてんねん、みたいな」
脇田 「私はみんなが続けると思っていたから」
三ノ宮 「鼻水だらだら流して目パンパンに腫らしながら泣いてて」
脇田 「びっくりした」
――でも自分は辞めると決意してたわけでしょ。
脇田 「ちかとちぃが悩んでたけど、頑張れるなら頑張りって背中を押す感じでした。私はふたりが辞めるっていうのはギリギリまで、それこそコーストの3日前まで知らなかったので、“ええ?”ってなりました」
――いや、自分は?
脇田 「そうですね。心は決まってました。(三ノ宮・三瀬が辞めるのは)今もショックです」
――数年前と状況が違うんだなと感じます。地元で同じことを繰り返していても右肩上がりになるわけじゃないし、同じ形で続けることすら難しいんだなと。どこかで今まで以上に大きな勝負をしないといけない。
森 「そうなんだと思います」
――2度目の全国ツアーの結果も、進路を考えるトリガーになっているんですか?
三ノ宮 「お客さんの年齢の幅も広がっているし、女性のお客さんも増えてます。この段階になって初めて来たっていう人もいます。かつ、久々な人が来たりもして」
冨永 「でも、さっき南波さんが言ったみたいに、いつまでも大阪を拠点にやってはいられないというのはあったし、大阪から全国ツアーに行けたりもしましたけど、現実的に集客で苦戦した部分もあります。ビジネス的な問題と対面したときに、いつまでも今の状況を続けるのが困難というか。娯楽だから、興味があったら行く、なかったら行かないという世界じゃないですか。やっぱり新しいことをして刺激を作っていかないと、新しい人もついてこないし、拠点を移すというのはいつかは必要なことだと思っていました」
――なるほど……。
三ノ宮 「しんみりですね」
三瀬 「言いたいこと言っていいですよ」
――現実がシビアなのは承知してるつもりですけど、なんでそこまで、とも思います。脇田もなりはよくわからないし。
森 「気になるのはそこですか」
――そうですね。話を逸らすから。
脇田 「とくになにもないんですけどね。でもEspeciaは存続するので大丈夫です」
――そういうのはいいから。いつか話せるときが来たら話してほしいです。
脇田 「そんな大して話せることがないんですよ。(先のことが)決まってるとか決めてるとかはなにもないです」
――もうEspeciaでやれることはやったかなと。
脇田 「私のなかでは3年半で完結です」
――なんでそこまで思えたんですか?
三ノ宮 「グイグイ行きますねー(笑)」
脇田 「やりきったかなって」
――ホントですか?
脇田 「ふふ。2月末まで楽しみましょ」
――メンバーとケンカした?
脇田 「みんな大好きです。完結です」
――もう歌って踊らなくていい?
脇田 「それも迷走中です」
――わかりました。ここからは続けるふたりの話を。5分の2になってもEspeciaという名前で続けようと決めたわけですよね。
冨永 「Especiaを辞めるか辞めへんかってなったときに、私ひとりになっても、もう私が辞めたとしても、ゼロになってもEspeciaというプロジェクト自体が続いてほしいくらいの勢いなので」
三ノ宮 「誰が歌うの(笑)」
冨永 「インストだけでも、概念だけでも残ってっていうくらい好きなので。もちろんみんなも嫌いで辞めていくわけじゃないですけど、そのくらい勢いなんです」
――なくすわけにはいかないと。
冨永 「いかないです。やっぱアイドルブームが落ち着いてきて、卒業されるかたとかすごい多いじゃないですか。解散するグループも増えてますけど、解散だけは絶対にイヤだったので」
森 「Especiaという看板を下ろしたくなかったんです。誰が辞めようが残ろうが看板を下ろしたくなかったし、私たちが50才とか60才とか、歌って踊れるレベルじゃないくらいになるまでEspeciaの音楽が受け継がれていってほしいと思ってます。3人が抜けて“大丈夫?”っていうかたもいらっしゃると思うし、ファンのかたが思っている不安、私たちが思っている不安もありますけど、やると決めたからにはやります。ふたりになるのか新メンバーが入るかもわからないですけど、(看板を)下ろさずに頑張りたいですね」
――新メンバーを入れるという選択肢もある?
冨永 「可能性はゼロじゃないです」
――増やしたところで、いつかは辞めちゃうのかなって思いながら見てしまう気がします。
三ノ宮 「ネガティヴですね。歳ですか(笑)」
――そういうものだろうとは思ってますけど、なんでも補充、交換可能みたくなるのはね。
冨永 「それはちょっと思いますけどね」
森 「新メンバーが入ってくることになったら、ちょっとやそっとの根性じゃ絶対にできない。“なにがあってもやめへんで”くらいの魂を持った子が入ってきてほしい。でも私たちは全然ウェルカムなので。超優しいですよ、私たち」
三瀬 「こわ!」
脇田 「言いかたがこわく聞こえる(笑)」
――暴走族みたいな感じで。
冨永 「たしかに3年半やったあとに次に入ってくるっていうのはやっぱり大変そうですけど」
――現時点ではそのプラン自体も決まっていなくて、3月以降という感じですかね。
冨永 「はい。2月末までは新しいEspeciaの気持ちとかは考えられないですけど、3月1日からは全部切り替えてやりたいです」
――あらためて大変な時期ですね。アルバムを作っているあいだはこんなことになるとは思っていなかったわけですよね。
森 「それがなんと!人生なにが起こるかわからないですね」
――面白おかしく言ってはいますけど、本当にそうですね。
三瀬 「でも、なにが起きてもそれが人生ですから」
森 「2月末に笑顔で送り出せたらいいなって思います」
冨永 「Especiaはハッピーなので」
――どう考えてもハッピーじゃないでしょう!
森 「あはは。寂しいですけど、第2章が続くので、みんなの幸せを願って前向きに送り出せたら」
三ノ宮 「うちらも笑顔で。残るメンバーを応援できたらなと」
――……はい。
三ノ宮 「しっくりきてないなぁ(笑)」
森 「いい感じだったよな?今の終わらせかた」
三ノ宮 「なあ」
――それっぽい締めかたしなくていいですよ。でも第2章も本当に期待してます。……アルバムの話をする時間がなくなってしまった。
冨永 「ここからアルバムの話をするのも無理やりですよね?」
――少しだけしましょうか。とりあえず「Clover」はびっくりしましたよ。
冨永 「〈Clover〉反対派ですか?賛成派ですか?」
――これまでもこちらの予想とか期待とは違うところを狙うようなところがあったじゃないですか。あまのじゃく過ぎて、もはやわからないということを表現しているのかとすら思いました。それはアルバム通して感じたことかもしれないです。ファンの期待とか、もしかしたらメーカーの要望をすり抜けて、すごいところまで行っているなと。「Interstellar」なんて懐かしのアートコアがちょっと入ってるし。不思議なアルバムだと思いました。
森 「すごいですね。そんなところまで聴いて、どんな感情で作ったのかとかまで考えながら聴き込んでくれてるんやと思って」
――わからないから何度も聴いたのかも。『AMARGA』『GUSTO』で描いたものをどう崩すかみたいなところでしょうかね。でも偶然とはいえ、グループの大きな節目となる時期に出たアルバムだなとは思います。逆に「Clover」をどう思っているんですか? 冨永 「好きって言っちゃいけない雰囲気なのかな、みたいな」
――そんなことないですよ。
冨永 「うちの父が好きって言ってくれて、それですごく好きになりました。
藤井尚之さんは
チェッカーズやし、チェッカーズと言えば80年代やし、サックス・プレイヤーだから、Especiaに通じるものがあると思うんです」
――藤井さんというより、ハードロック路線をどう受け取っていいのか戸惑う人がいるのは自然なことだと思いますよ。でもさっきも言いましたけど、あまのじゃくなところもEspeciaだとは思いますけどね。脇田さんはいかがですか。最後のアルバムですよ。
脇田 「最初はガールズ・グループとして始まったんですけど、私たちも年齢を重ねて成長してきて、シンガーが歌うような大人っぽい曲を歌えるようになってきて。そんな曲がたくさん詰まったアルバムなんじゃないかなと思います」
三ノ宮 「自信作」
――自信作だ。
森 「じゃないですかね。一番」
冨永 「でも全部(のリリース)が一番と思っているからね。比べられない」
――歌がすごく進化してますもんね。
森 「常に上を目指しているので、成長できていたら嬉しいです」
取材・文 / 南波一海(2016年2月)
撮影 / 久保田千史