デイヴィッド・シルヴィアンと数々のコラボレーションを行ない、
坂本龍一から今もっとも注目されている作曲家、
藤倉大。ここで紹介する、2013年4月に東京・Hakuju Hallにて開催されるコンサートは、藤倉大の作品世界をまるごと体感できる絶好の機会です。
坂本龍一
もう40年近く前、「現代音楽」にはもう可能性はないと思いすすむ道を変えました。
それからずいぶん時間が経ちましたが、まだまだおもしろい音があったのだ、といううれしい驚きをもって藤倉大さんの音楽を聴いています。
Hakuju Hall〈アート×アート×アート〉公演への期待
文/渡辺 亨
藤倉 大
(C)Milena Mihaylova
デイヴィッド・シルヴィアンとの共作 藤倉大のことを知ったきっかけは、デイヴィッド・シルヴィアンのアルバムだった。まず最初は、2009年にリリースされた傑作
『マナフォン』の日本盤にボーナス・トラックとして収められている「Random Acts of Senseless Violence(無分別な暴力の任意行為)」のリミックス・ヴァージョン。この曲のストリングス・アレンジとリミックスを手がけていたのが、藤倉大だった。ほかにも、シルヴィアンのさまざまなコラボレーションやサイド・プロジェクトの音源を集めた
『スリープウォーカーズ』(2010年)、『マナフォン』の変奏曲集とでも言うべき
『ダイド・イン・ザ・ウール〜マナフォン・ヴァリエーションズ』(2011年)でも、藤倉大は作曲、ストリングスのオーケストレーション、リミックスなどで活躍。僕はこうしたシルヴィアンとの活動を通じて、藤倉大のことを知った。もっとも、藤倉大は、それ以前から現代音楽の分野ではかなり知られた存在だったのだが。
(C)Milena Mihaylova
『スリープウォーカーズ』には、 藤倉大のほかに、坂本龍一や、シルヴィアンの弟である
スティーヴ・ジャンセンらとのコラボーレションが収録されている。シルヴィアンと坂本龍一の交流は、前者が
JAPAN、後者が
YMOのメンバーとして活躍していた80年代にまで遡る。『ダイド・イン・ザ・ウール〜』のブックレットに掲載されているインタビューによると、5歳の頃からクラシックの音楽家を目指していた藤倉(1977年生まれ)は、13歳になるまでポップ・ミュージックを聴いたことがなかったという。そんな彼が13歳のときに初めて聴いたシルヴィアンのアルバムが、
『シークレッツ・オブ・ザ・ビーハイヴ』(87年)。坂本龍一も参加しているアルバムだ。また、
『CDジャーナル』誌の2012年12月号に掲載されているインタビューによると、藤倉は「中学生の頃はピアノでYMOの曲を弾いて、先生に喜ばれていた」とのこと。少なくともシルヴィアンやYMOのファンを自認している方々なら、藤倉大に興味どころか、ごく自然に親近感を抱くに違いない。
Hakuju Hallという空間ならではの企画L'ASのフィンガーフード2種、ハーブ・エルダーフラワーを使ったドリンク
2013年4月27日から東京・Hakuju Hallで開催される新しいシリーズ公演、〈アート×アート×アート〉。 その第1回を飾るアーティストが、藤倉大だ。
〈世界を席巻する藤倉大パラダイス ― 音楽×エレクトロニクス×映像〉と題されたこのプロジェクトは、通常のコンサートとはかなり異なる。当日は計2回公演。それぞれ約1時間の公演で、坂本龍一と共同で作曲された電子音楽作品「ペリフェラル・ムーヴメント」をはじめ、独奏ギターやホルン、サックスのための作品、弦楽三重奏や四重奏のための作品などが日本人の若手演奏家によって演奏される。世界初演の「ペリフェラル・ムーヴメント」は、YMOのファンにはおなじみの
原田大三郎によって選抜された若手映像作家のビデオと併せて演奏される。ここまでは通常のコンサートとさして違わないが、1回目と2回目の公演の合間には、ホワイエで藤倉大の“音楽”と、表参道にあるフレンチ・レストラン、L'ASのシェフである兼子大輔による“食”とのコラボレーションが行なわれる。藤倉の音楽が流れる空間で、フィンガーフード2種+ハーブ・エルダーフラワーを使ったドリンク(限定70食)が味わえるという企画だ。
Hakuju Hallは、株式会社白寿生科学研究所の本社ビル7Fにある。普段はクラシックの室内楽のために使われることが多いホール(300席)だが、僕はクラシック以外のアーティストのコンサートを何度も観たことがある。思いつくままに挙げると、
ブランドン・ロス+
鈴木大介+
ツトムタケイシ、
大西順子、
深町純、
ケイ赤城、
山中千尋、
加藤訓子……。
そしてHakuju Hallは、ホールの音響の素晴らしさに加えて、秀逸な建築デザインでも広く知られている。ホワイエやスカイテラスでは、代々木公園や新宿の高層ビル群が一望できる。ホワイエに常設されているスピーカーは銘器B&W802Dだし、ホワイエのバー・カウンターでワインをオーダーすると、リーデルのワイングラスに注いでくれる。こんな多面的な魅力を備えたクラシック系コンサート・ホールを、僕はほかに知らない。
〈アート×アート×アート〉は、こうしたHakuju Hallの空間全体を体験できるプロジェクト。そして、Hakuju Hallだからこそ実現できたプロジェクトである。ドイツでは、クラブでクラシックを聴く〈Yellow Lounge〉というイベントがある。今後、〈アート×アート×アート〉が〈Yellow Lounge〉に匹敵どころか、凌駕するようなイベントになればと夢想する。ともあれ、僕も何らかの形で関わりたいと思うほど、多彩なジャンルの人材を巻き込む可能性を持つプロジェクトだ。クラシックのシーンに一石を投じるに違いない。
アート×アート×アート
第1回 世界を席巻する藤倉大パラダイス
― 音楽×エレクトロニクス×映像[日時]2013年4月27日(土)
15:00開演(約1時間) / 17:00開演(約1時間)※1日2回公演(別プログラム)
[チケット]全席指定
1回券:2,500円 / 通し券:4,000円
フィンガーフード2種+1ドリンク:1,500円(限定70食)
※問合せ・チケット購入
Hakuju Hallチケットセンター [TEL] 03-5478-8700
オンライン予約(1回券のみ)
http://l-tike.com/hakujuonline2※Hakuju Hall HP
http://www.hakujuhall.jp/[プログラム] ※すべて藤倉大作曲●15:00〜スパークス(独奏ギターのための)2011
サイオン・ステムズ(弦楽三重奏)2011
アナザー・プレイス(弦楽四重奏曲第1番)2005
ポヨポヨ(独奏ホルンのための)2012
ペリフェラル・ムーヴメント(坂本龍一共同作曲・電子音楽作品)世界初演
●16:00〜 ホワイエ・スカイテラスにてアイ・ドリームド・オン・シンギング・フラワーズ(環境音楽)
※表参道のフレンチ・レストラン、L'ASの兼子大輔シェフが提案する現代的フィンガーフードとヘルシーなドリンクを提供(1,500円 / 限定70食)
●17:00〜サカナ(独奏サックスのための)2007
フレア(弦楽四重奏曲第2番)2010
ペリフェラル・ムーヴメント(坂本龍一共同作曲・電子音楽作品)世界初演
●18:00〜アフタートーク
原田大三郎(多摩美術大教授)、白石美雪(音楽評論家・武蔵野美術大学教授)、藤倉大
※音源・作品解説は以下のURLからご覧ください。
http://www.daifujikura.com/ (藤倉大公式ホームページ)