2008年末に1年以上休止していた音楽活動を再開させて以来、精力的にシングルをリリースしてきた
GACKT。復活から9枚目となるシングル
「雪月花―The end of silence―/斬〜ZAN〜」は、GACKT作品にしては珍しく和のテイストを多分に盛り込んだ意欲作。妖艶でロマンティックな楽曲に溶け込む和楽器の妙味は絶品の一言。この和と洋の素晴らしき融合には、彼ならではのこだわりと美学があったという。今年でソロ・デビュー10周年、俳優としても着実にキャリアを伸ばしている彼の妥協を許さぬ本音に迫る。
――今年は4週間連続リリースも含め数多くのシングルを出していますね。
GACKT(以下、同)「10周年ということもあるんだけど、それまでドラマや映画を中心に活動していたからファンの皆にはこれでもかってぐらい曲を届けたかったんだよね。どうせやるなら、もう1枚出して10枚。きっと、皆も満足してくれると思うよ」
――アルバムではなくシングルでというのがGACKTさんらしい。
「僕はアルバム制作のための曲作りというのはしないんだよね。曲作りはすべてライヴのため。どういうことかというと、ライヴのテーマとなる“ある物語”があって、この物語をどういった曲で表現するかを主眼に置いている。つまり、このシーンならこんな曲、あのシーンならあんな曲といったように、まずストーリーありきで曲を作る。だから普通のアーティストのようにアルバムができたからツアーに出るといった感じではなく、僕の場合はライヴが終わった後にアルバムが出るといったスタンスなんだよね」
――だからGACKTさんの作品は1曲1曲が非常に濃く、ドラマチックに仕上がっているわけですね。今回の「雪月花―The end of silence―/斬〜ZAN〜」もしかり、興味深いのは“和”のテイストがふんだんに盛り込まれているということです。
「まず、僕がこういう“和”と“洋”の融合物を作ることになったことを説明すると、このグローバルな世の中、日本の音楽はインターネットとかを通して世界で知られる機会が多くなっているわけだけど、今、巷に出回っているモノが本当に“メイド・イン・ジャパン”と呼べるのか? 誤解を恐れずに言えば、J-ROCKやJ-POPはあるけど、それは所詮洋楽に日本語の詞を乗せているだけなんじゃないかって」
――なるほど。そんなジレンマがあったんですね。
「バンド時代からそれはずっと考えていて、本当の意味で誰もが聴いた瞬間に“メイド・イン・ジャパン”と呼べるモノを作りたい、と心から願っていたんだ。ソロになってからも試行錯誤はしてたんだけど、やはりなかなか上手くはいかなくて……。単純に和楽器や和の音階を入れるだけでは意味はないんだよね。けど、ここ3〜4年でようやく見え始めたんだ。カギになる要因のひとつは、日本人が持っている独特の“拍”。これは感覚的なものだし、数年かかって見つけたモノだから口頭で説明するのは難しいし、たぶん完全には理解できないと思う」」
――そのアンサーが、この曲だと。
「そうだね。とくにバラードの〈雪月花―The end of silence―〉は、失ってしまった人のことを想う気持ちを歌にしたわけだけど、すごく切なくて苦しいわけだよね。けど、その渦中にあっても、季節は移りかわり時は流れていく。切ない感情と美しい時の流れ。まったく別のモノを対比させることで、艶やかさと儚さを混在することができた。そこを補足するのに和楽器が大きな役割を担っている」
――とはいえ、和楽器が前面に出るというわけではなく、ほどよく絡む程度ですね。
「“テイスト”くらいでいいんだよね。これも感覚的なモノで、これだという明確なやり方があるわけじゃない。まあ今回はようやくカタチにできたけど、どんな曲でも“和”でアプローチできるかといったら、それはまだ無理なんだよね。正直、すごく制作に時間がかかるし、当然、曲も難しくなる。シンプルにしてしまうと曲として成り立たなくなってしまうんだ。奥はかなり深いね。“メイド・イン・ジャパン”の曲作りのためにまだまだこれからも研究していくよ」
取材・文/石塚 隆(2009年11月)