イタリアのペルージャに生まれ、現在はパリに暮らすピアニスト、
ジョバンニ・ミラバッシの最新録音作
『アニメッシ〜天空の城ラピュタ ほか〜』は日本のアニメ音楽集だ。幼少期から日本のアニメに魅せられてきたミラバッシにとって、その音楽は演奏意欲をそそられる題材であり、全曲みずからが選曲している。アルバムのリリースに合わせて、この3月、全国8会場を巡った〈ジャパン・ツアー2015〉も盛況。3月13日に東京・武蔵野スイングホールで行なわれた公演には宮崎駿監督の姿もあったという。また公演とは別に、東京都墨田区立桜堤中学校で生徒との音楽交流を目的とした学校コンサートを開催し、その模様が新聞等で報道されるなど、今回のアニメ音楽へのアプローチは、ジャズ・ファン以外にもミラバッシの名を広めることとなった。
――日本のアニメを初めて見たのはいつですか?
「7歳のとき、テレビで『UFOロボ グレンダイザー』(イタリアでは『Atlas Ufo Robot』に改題)を観たのが初めてのアニメ体験です。さっき、(日本コロムビア本社内の)隣の部屋で取材を終えたばかりの
ささきいさおさんに偶然、お会いしたのですが、『グレンダイザー』のテーマ・ソングを歌っていた、まさにその方がいて、感動の対面でした」
――いまも日本のアニメの熱心なファンだそうですね。
「DVDを買い漁っているし、
宮崎(駿)さんの『風立ちぬ』(2013年 / フランスでは2014年1月公開)は映画館で観ました。いまだにアニメの大ファンです」
――アニメの音楽だけでアルバムをつくった理由は?
「いつも、自分が好きな音楽をみんなと分かち合いたいという気持ちで演奏しています。アニメには美しいメロディの曲も多いし、みんなで分かち合いたい。それが『アニメッシ』をつくった理由だし、コンサートでアニメの曲を演奏する理由です」
――日本のアニメ音楽とヨーロッパのアニメ音楽との違いはありますか?
「影響が交錯しているので、純粋なヨーロッパのアニメ音楽、日本のアニメ音楽があるかとなると難しい。アメリカのアニメといえば代表はディズニー映画で、その音楽はどれも素晴らしい作曲家が書いているから、ヨーロッパにおける影響は大きい。日本の作曲家もアメリカやヨーロッパの音楽に影響を受けているはずです。
菅野よう子さんが書いた『カウボーイビバップ』のいくつかの作品はアメリカのジャズの影響下にあるし、
久石 譲さんの音楽にはイタリア音楽からの影響を感じます。『風立ちぬ』にはイタリアの民族楽器を取り入れた曲があるし、音楽から離れてもカプローニというイタリア人の航空技師が日本人の主人公と話をするシーンがある。『紅の豚』の主人公もポルコ・ロッソというイタリア人だし、アニメもアニメ音楽も、相互影響が深いものだと認識しています」
――アルバムの1曲目「君をのせて」(『天空の城ラピュタ』より)が始まると最初の数小節で、題材はアニメ音楽であっても、ミラバッシさんの個性が色濃い音楽であると感じます。
「
ビル・エヴァンスがディズニー・アニメの音楽〈いつか王子様が〉をジャズ・スタンダードとして定着させたように、ジャズは一般的な有名曲をインプロヴィゼーションの土台にしてきました。そういう流れの一環として今回、日本のアニメ音楽を取り上げたということがあります」
――原曲を再構築した「グラヴィティ」(『ウルフズ・レイン』より)に感銘を受けました。2分近いソロ・ピアノのインプロヴィゼーションに続いて、トリオ演奏でテーマが奏でられるとき、原曲のメロディの美しさがくっきりと浮き彫りになります。
「最初のインプロヴィゼーションの部分は、原曲の構成に基づいて、対位法的な手法を取り入れて弾いています。もともとのアイディアとしては、ふつうのジャズのようにテーマを提示してからインプロヴィゼーションというのではなく、原曲から離れたところからスタートして、霧の中を進んでいくと目標がみえてくるような効果を狙いました。気に入ってくれたのなら、やり方がうまくいきましたね」
――「銀色の髪のアギトBGM」(『銀色の髪のアギト』より)はチェロが効果的です。
「ドラマーのピエール・フランソワ・デュフォーがチェロを弾いています。彼はボルドーのオペラ劇場のチェリストでありながら、ドラムも演奏するというとても才能のあるミュージシャン。チェロのサウンドを東洋の楽器のようにする工夫をしていますが、1テイクで仕上げています。ベースのローラン・ヴェルネレイはこれまでに900枚くらいのアルバムに参加している腕利きのスタジオ・ミュージシャンです」
――アルバムが完成しての感想は?
「誇りに思えるアルバムだと思っています。これまでに22枚のアルバムに参加してきたけれど……私もずいぶん年をとったものだ(笑)……そのなかでも特別なものです。アレンジ、リハーサルを含めて短期間のレコーディングでしたが、そのことによってレコーディングの最中に曲を発見していくようなプロセスを楽しめたし、演奏自体も新鮮な状態で捉えることができました。正直な表現になっているアルバムだし、自分で聴いてみて、やさしさを感じる。そのあたりも気に入っています」