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――ニュー・アルバム『Next One』が完成しました。60〜70年代の音楽をきわめて現代的なロック・ミュージックに導いた素晴らしい作品だと思いますが、手応えはどうですか?
松尾レミ(以下 松尾) 「達成感はもちろんあるし、本当に好き勝手にやったアルバムなので、何も悔いがないんですよね。前回のアルバムを作り終えて、リリース・ツアー中に曲を作り始めて……そうか、まだ1年も経ってないんだな」
亀本寛貴(以下 亀本) 「そうだね」
松尾 「基本的にボツ曲はなくて、出来た曲を順番にレコーディングするっていうスタンスでやっていて。だからこそ、いま自分たちが影響されている音楽や“このアイデア、いいじゃん!”っていうものがリアルタイムで表現できたのがこのアルバムだと思います」
亀本 「作ってるときはちょっと怖かったんですけどね。タイアップのために書き下ろした曲だったり、ミニ・アルバム(2ndミニ・アルバム
『ワイルド・サイドを行け』 )の曲もあったけど、残りの曲は6月に入ってから制作したので。時間的にはキツキツだったけど、いいアルバムになって良かったです」
松尾 「すがすがしい気分です(笑)。今回のアルバム、プロデューサーが入っているのは2曲だけなんですよね(〈怒りをくれよ〉〈ワイルド・サイドを行け〉にはサウンド・プロデューサーとして
亀田誠治 が参加)。だから余計に“やりたいことをやっちゃおう!”という感じになれたところもあって。楽しかったですね」
――ソングライターの松尾レミ、サウンドクリエイターの亀本寛貴というフォーマットがさらに明確になった、と。
松尾 「そうですね。ずっとそういう役割でやってきたんだけど、エンジニアを含めて意見を出し合いながら、納得いくまで突き詰められる環境があるので」
亀本 「プリプロもこれまで以上にしっかりやれたからね」
松尾 「その段階から本気でやってるから、プリプロのギターソロをそのまま採用することもあったり。自分たちがカッコいいと思う音を、世間に受け入れられるロックンロールとして出せてるんじゃないかなって」
――『Next One』というアルバム・タイトルについては?
松尾 「結局、これしか思い浮かばなかったんです。締め切りギリギリまで考えていたんですけど、いまの自分がいちばん言いたいことはコレだなって。“Next One”は中学2年のときから私の座右の銘なんですよ」
亀本 「え、中2から?すごいな」
松尾 「そのときは受験のことを考えてたんだけどね(笑)。いまは“自分たちの最高傑作は、常に次の作品である”ということですね。
〈NEXT ONE〉 という楽曲はブラインドサッカー日本代表の公式ソングなんですけど、負けても勝っても言えるんですよね、この言葉は。すごく前向きだし、気合いも入るし。そんな言葉は他にないなって」
――どんなに成功しても、仮に失敗したとしても“次に行くんだ”という意志を持つことが大事だと。
亀本 「レミさんはインタビューでも“世界を目指す”って言うでしょ?そう言っちゃった手前、ずっと“Next One”って言い続けるしかないから。意地でもそこを目指すというか……」
松尾 「うん、もちろん。目標があるとしたら“死ぬまでNext Oneって言い続ける”ということですね。“世界に行く”くらいのデカイことを私たちみたいな若いバンドが言ったほうが、ロックも面白くなると思うし」
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――確かに。「怒りをくれよ」は映画「ONE PIECE FILM GOLD」の主題歌としても注目を浴びていますが、もともとレミさんは“怒りをモチベーションにする”というスタンスを持ってますよね?
松尾 「そうなんですよね。この曲は締め切りが迫ってもぜんぜんできなくて、マジでムカついているときに出来たんですよ。なかなか曲を作れない自分に対しても怒りを感じていたし、時間がないっていう危機感もあって、いろんな感情がウワーッ!っとなっていて。“そうだ、この気持ちをテーマしよう”と思った出来たのが〈怒りをくれよ〉なので。怒りや危機を強く感じたときに、火事場の馬鹿力で乗り越えるタイプなんですよね、私は」
――強い感情に突き動かされるというか。そういうことって、普段も多いんですか?
松尾 「そればっかりですね(笑)。“お茶の間の人たちにもGLIM SPANKYは最強だって言わせてみせる!”というのもそうだし、さっき言った“絶対に世界に行ってやる!”というのもそうだし。怒り、悔しさ、ハングリーな気持ちで生きている感じがしますね。次のステージに向かうためにはそういう強い感情が必要だし、だからこそ“もっと怒りをくれ。必ず乗り越えてみせるから”っていう。そういう考え方は強い敵に立ち向かっていくルフィ―にも合うし、ヘンに迎合せず、自分たちらしい曲になったと思います」
亀本 「うん。〈怒りをくれよ〉で表現していることは、もともとGLIM SPANKYが持っていたものなので」
松尾 「私たちみたいなバンドが大きいタイアップをやることで、ロック・ミュージックが市民権を持って、支持が広がるきっかけにもなると思うんですよね。ロックは本来、めちゃくちゃ大衆のものなんですよ。愛や平和をずっと歌っているわけだし、私たちも“絶対に届くはずだ”って信じているので。日本のロック・ミュージックをもっともっとたくさんの人に届けたいという気持ちはすごく強いし、それを勝手に背負っちゃってるんですよね」
――ルーツ・ミュージックを強く持っていることもGLIM SPANKYの強みだと思います。「闇に目を凝らせば」のサイケデリックなフォークロア感は、それが強く出た曲だなと。
松尾 「幻想的な世界だったり、幻のなかに迷い込むようなサウンドを作ってみたかったんですよね。この曲も映画
「少女」 の主題歌なんですけど、
三島(有紀子) 監督もめちゃくちゃ音楽に詳しい方で、何度もミーティングを重ねながら曲の方向性を決めていったんです。監督はずっと“感動的な曲はいらない”って言っていて」
亀本 「“ヤバいやつを作ってください”って」
松尾 「GLIM SPANKYの世界をすごく求めてくれたし、私たちも“好きなようにやります!”という気持ちになれたというか」
亀本 「大事なのはやっぱりメロディなんですよね。ヴォーカルの主メロ、ギターのフレーズを含めて、メロディがこの世界観を作っているというか。あとはもう、ただ楽しくサウンドを作っていった感じですね」
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――「grand port」にも“自分を信じて、まだ見ぬ世界に向けて進むんだ”という意思が反映されてますね。
松尾 「北海道にキャンペーンに行ったときにフェリーに乘ったんですけど、そのイメージのまま、ホテルの部屋で弾き語りしながら作った曲ですね。そのときも朝までに2〜3曲書かないといけない状況だったんですけど、ぜんぜん浮かばなくて。船に乗るっていう新しい要素が出来たこともそうだし、“出来ないものは出来ない!”って開き直れたのも良かったのかなって(笑)」
――ブルースのフィーリングを持たせつつ、リズムアレンジではかなり斬新なトライも反映されてますね。
松尾 「打ち込みのダンス・ミュージックみたいなリズムを生のバンドでやってみたいと思ったんです。そのなかで異国っぽい雰囲気のギターソロを弾いてもらったり」
亀本 「
OF MONSTERS AND MEN みたいなイメージもありましたね。〈grand port〉と〈いざメキシコへ〉(松尾が好きな詩人、
アレン・ギンズバーグ の詩をモチーフにしたナンバー)は裏打ちのハットと4つ打ちを取り入れているんですけど、この2曲は個人的にもお気に入りなんです。最初にレミさんに提案したときは“ちょっとナンパな感じがする”って言われたんだけど(笑)、いいカタチになったと思うんですよね」
松尾 「うん、カッコいいよね」
亀本 「この2曲のBPMは130くらいで、そんなに速くないんですよね。バンドシーンの4つ打ち論争みたいなものがありますけど、あれは4つ打ち自体に問題があるわけではなくて、速すぎるのが問題なんじゃないかと思っていて。130くらいのBPMだと洋楽的なアプローチも出来るし」
亀本 「GLIM SPANKYで4つ打ちをやるのは今回が初めてですけど、これからも使えると思っていて。実際、ギターを弾かないでドラムを組むところから曲作りを始めることも増えているんですよ」
――「NIGHT LAN DOT」はレミさんが大学生の頃からライブで演奏してた曲だとか。
松尾 「はい。いちばん最初のきっかけは
あがた森魚 さんの音楽を聴いたことなんです。高校のときに
『バンドネオンの豹(ジャガー)』 を手に入れてずっと聴いてたんですけど、あがたさんは私が好きな稲垣足穂をモチーフにした楽曲もかなり書かれていて。そこから“自分も稲垣足穂のフレーズを基にして曲を作ってみよう”と思って出来たのが〈NIGHT LAN DOT〉なんです。夜の世界だったり、異次元に迷い込む感覚というか……。私、小さい頃にそういう体験をしたことがあるんですよ。いつもおじいちゃんと一緒に地元の河原で遊んでいたんですけど、あるとき、ひとりで河原に行ってみたら、いつもと同じ道を通ったはずなのに、見たことがない場所に出てしまって。そこにはブランコや鉄棒があって、楽しく遊んで帰ってきたんですね。で“楽しい公園があったから、一緒にいこう”っておじいちゃんと行ってみたら、そんな公園はなくて、いつもと同じく河原の風景が広がっていて」
亀本 「ただ道に迷っただけじゃない?」
――(笑)。「風に唄えば」もレミさん自身の経験や感情がリアルに反映されてますね。
松尾 「これはホントにサラッと出来た曲なんです。昼間、家でアコギを弾いてたんですけど、外はすごく晴れていて、
細野晴臣 さんの〈恋は桃色〉みたいな気分だったんですね。“ここがどこなのか どうでもいいことさ〜”って。そのときに“もっと自由にやろう”って思ったんです。“こういう曲を書かなくちゃいけない”とか“いまはこういう音楽が流行っていて……”とかいろいろあるけど、私は音楽が大好きだし、自由に何でもやるべきだなって。そのときの気分をそのまま書いただけなんですよね、〈風に唄えば〉は。〈NEXT ONE〉と並んで、いま私がいちばん伝えたい歌のひとつです」
――音楽を続けていくうえで、自由であることが何よりも大事なんだっていう。
松尾 「いろんなことがあると思うんですよ、ホントに。たとえば友達のバンドが解散してしまったり、メジャーとの契約が切れたり。でも、それは本来どうでもいいことというか、“そんなことには関係なく、お互いにいい音楽を作っていこうよ”という気持ちが強いので」
――亀本さんは音楽的なトレンドと自分たちのやりたいことのバランスについて、どんなふうに捉えてますか?
亀本 「他のバンドやアーティストと違うものを持っていればいいと思ってますね、僕は。たとえば〈風に唄えば〉のデモを作ってるときは、“
THE BAND と寸分違わないドラムの音にしたい”と思って(笑)。そんなの流行とぜんぜん関係ないじゃないですか」
松尾 「確かに(笑)。いいよね、そういうの」
亀本 「そんなの自分の趣味でしかないというか、ほぼ遊びみたいなものなので。それが作品になる幸せはいつも感じてますね。当然、リスナーとしてもずっと音楽を聴いているんですけど、それがすべて音楽を作るための素材になっているというか……。聴くのも作るのも、どっちも楽しいんですよ、今」
松尾 「今がいちばん楽しいかもね」
――アルバムのラストは「ワイルド・サイドを行け」。2ndミニ・アルバムの表題曲ですが、アルバムの中で聴くとまた違った響き方がありますね。この曲のメッセージがさらに強く伝わるというか。
松尾 「嬉しいです。『Next One』というアルバムを映画に例えると、
〈ワイルド・サイドを行け〉 はエンディング・テーマなんですよね」
亀本 「うん。2016年の年明けにリリースした〈NEXT ONE〉と〈ワイルド・サイドを行け〉がそのまま今年のGLIM SPANKYのテーマになったし、芯にあるメッセージはこの2曲に込められていたんだなって」
松尾 「そう、すべてが繋がったんですよね。アルバムの後半もそうなんですよ。〈いざメキシコへ〉はギンズバーグに憧れて愛と自由を手に旅を始める歌で、〈風に唄えば〉でその答えとなる気持ちを歌って。そして最後に“だからこそ、ワイルド・サイドを行くんだ”というストーリーになっているので」
亀本 「あ、そうなんだ」
松尾 「最初から考えていたわけではなくて、曲が出揃って、この並びになってから気付いたことなんだけどね」
――「ワイルド・サイドを行け」にはシタールなども使われていますが、GLIM SPANKYの次のサウンドを匂わせているところも印象的でした。
松尾 「そこはあえて匂わせてます。もっとディープなサイケデリック・ミュージックもやってみたいので。あとはめちゃくちゃオリエンタルな感じの曲とか」
亀本 「やってみたいことはいろいろありますね。最近よく海外のアーティストのライブを観に行ってるんですけど、そこで刺激を受けることもすごくあるし」
――意識はすでに“次”。まさに『Next One』ですね。
松尾 「そうですね。このアルバムが出来たときから、もう次のことを考えていたので。どんどん進んでいきたいと思います」
取材・文 / 森 朋之(2016年6月)撮影 / 久保田千史
GLIM SPANKY Velvet Theater 2016