ロック・フェスでも闘えるバンドに――井上 銘のバンド・プロジェクト、MAY INOUE STEREO CHAMP始動

井上銘   2017/06/16掲載
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 井上 銘(いのうえ・めい)というジャズ・ギタリストの名前を知ったのは、国内屈指のドラマーである石若 駿のリーダー作『CLEANUP』においてだった。才気あふれる若手ジャズメンが集ったこのアルバムで、井上は実際に共演歴もあるカート・ローゼンウィンケルにも劣らぬ個性と独創性を放っていた。そんな彼がMAY INOUE名義で、アルバム『STEREO CHAMP』を完成させた。類家心平(tp)をはじめ、素晴らしいミュージシャンが揃ったこのアルバムは、彼のキャリア史上で重要なターニング・ポイントになるであろう傑作だ。ジャズとの出合いからアルバムのテーマまで、井上に話を聞いた。
――井上さんは最初はロックを聴いていて、マイク・スターンに出会ったことがきっかけでジャズに傾倒していったと伺っています。
「15歳の時にギターを始めて、最初はレッド・ツェッペリンをコピーしてたんですけど、親父が高校入学前にBLUE NOTE TOKYOに連れていってくれて、マイク・スターンを観たんですよ。びっくりしました。BLUE NOTEに向かう電車の中ではクリームとかジミ・ヘンドリックスとかレッド・ツェッペリンとか、ギター・ソロが長い音楽を聴いていたんです。曲そのものがどうこうっていうよりも、ギターが前面に出ている音楽がどんどん好きになっていたので。でも、マイク・スターンのコンサートを観たら、テーマ以外全部ソロなわけですよ。ジャズだから、当たり前なんですけど(笑)。それ見て、“あ、これじゃん”って思って。しかも彼の音楽性って、ロックをやってる少年にも伝わりやすかったんですよね」
――それでジャズに転向して、高校の時にはもうライヴハウスでセッションしていたんですよね。
「高校の時にジャズ・ギタリストの宮之上貴昭さんにジャズ・ギターを習って、1年半くらい経ってセッションに行って弾くようになったんです。高校生の時は、親によれば寝る時もギター抱えていたくらいだったそうで。朝起きたらギター下げて出てくるって言ってました(笑)。極端な人間なんですよね、どうも。夏休みもずーっと外に出ないで、朝から晩までギター練習してました。夏休み終わって学校に行くと、対人間のコミュニケーションの仕方を完全に忘れてて(笑)。友達に久しぶりに会って笑った時に顔の筋肉がひきつったんですよ(笑)」
――宮之上さんに師事されたほか、鈴木 勲さんのバンドにも参加していたんですよね。この2人から学んだことは?
「宮之上さんはウェス・モンゴメリーとか、50年代、60年代のジャズを大事にしている人だから、あの人に出会っていなかったら、今そういう要素はなかっただろうなって思いますね。いわゆるジャズの“言葉”っていうか“単語”っていうか。ビバップ的なジャズのボキャブラリーってどんな音楽をやる上でも基本になると思ってるし、そのあたりは間違いなく今の自分の基盤になっていますね。オマさん(鈴木 勲の愛称)は、僕にとって初めてのバンドリーダー。高校生の時にオマさんのバンドに入れてもらって僕のプロ・キャリアがはじまりました。はじめは、正直戸惑いの日々でした。それまでビバップ的なジャズを中心に聴いて練習してきたのに、プロ・デビューがフリーな要素も含んだまったく違うサウンドのバンドだったからです。練習してきたことを本番でできないっていう体験をたくさんして、それがすごく勉強になったと思います。オマさんとはいまだに1年に1回くらい会うんですけど、いろんな助言をくれて。誰が聴いても井上 銘の音だってパッとわかるようにならなきゃダメだぞ、とか。それは本当に今でも自分の中で強く信念として思ってて。人生をかけて、一音パッと聴いたらわかるようなギタリストになりたいですね」
――ギタリストでは、さきほど名前が出たマイク・スターン以外にパット・マルティーノをコピーしまくったそうですね。最近のギタリストだと誰が好きですか?
「去年一緒に演奏させてもらったカート・ローゼンウィンケルはやっぱりすごい。特に19〜20歳くらいの時はヒーローでしたね。最近はリオーネル・ルエケってアフリカのギタリストも好きだし、ニア・フェルダーもいい。もうちょっと昔だと、ジョン・マクラフリンとかグラント・グリーンも好きですね。でも、パット・マルティーノをコピーした後くらいから、ジョン・コルトレーンとか、ほかの楽器の人をコピーするようになって」
――バークリー音楽大学で学ばれてますけど、自然な流れで入学したんですか?
「20歳の頃に、僕より何歳か下の子がバークリーの試験を受けるから、その伴奏をしてくれませんかっていう依頼が来たんですね。で、いいですよって言って伴奏する予定だったんだけど、その彼が1ヶ月前くらいに体調壊しちゃって、受験できないっていう話になって。でも、まだ生徒募集してるらしいって言われたので、受けてみたんですよね。そしたら、ラッキーなことに奨学金をもらえるということになったので行ってみるかと」
――バークリーに行って良かったと思うのはどんなところですか?
「うーん、でも、おれは正直あんまり合わなかったんですよ。ミック・グッドリックってギタリストに習って、その人に教えてもらったのは良かったなと思いましたけど……。そんな感じかな(笑)」
――セッションなどの現場で学んだことのほうが大きかった?
「そうですね。18〜20歳ぐらいに、日本で演奏活動させてもらったのは良かったし、とても楽しかった。それだけに、その後で学校に行くっていうのが難しかったですね……。人前で演奏するっていう楽しさや緊張感を知っちゃったし、そこで得るものは学校で授業受けているよりもやはり大きくて。本番っていい意味で神経逆立ってますからね。学校にはそれがなかなかない。その快感を知ってしまった以上、学校がすごい退屈になっちゃって。もちろん、それはケースバイケースで人にもよりますよね。バークリーにはいい先生がいると思うから、合う人は合うと思うし」
――そこから今回のアルバムに至るまでは、ひたすら現場でセッションしていた?
「そうですね。だから、アメリカに2年くらい行ったけど、自分としてはやっぱり日本の現場で育ててもらっているというか。車で言うと国産車みたいな(笑)。特に日本のミュージシャンと演奏する現場で学んだことが大きいと思いますね」
――今回、本当に才能あるミュージシャンがこぞって参加していて、彼らをフックアップするアルバムでもあると思うんですが、それぞれのプレイヤーとしてのスペシャリティについて教えてもらえますか? まずトランペットの類家心平さんから。
「今回の編成にトランペットを入れたかったっていうより、類家さんに入ってもらいたかったって感じです。バンドの中で、サッカーで言うフォワードみたいな存在になってくれる人。変な話ですけど、レッド・ツェッペリンに例えるならロバート・プラント(vo)みたいなヴォイスが欲しかったんです。あと、以前から僕と類家さんはメロディ感覚が真逆だなって思っていて。レコーディングでも、次にどんな音を吹くのか僕には予想ができない、そういう楽しさがあって。彼が入ると、そういった意味でのダイナミクスも出るだろうと思ってお願いしましたね」
――次にキーボードの渡辺ショータさん。
「21歳くらいの時に名古屋のSTAR EYESっていうお店で一緒にライヴしたのがきっかけで知り合ったんですけど、彼は今も名古屋に住んでいて。僕は間違いなく日本有数の鍵盤奏者だと思ってますね。ジャズ・ミュージシャンって素晴らしいピアニストはいっぱいいるけど、ショータ君みたいにシンセとかキーボードにも造詣が深い人は、貴重な存在だと思います。あと、これはメンバー全員に言えることだけど、音が外に向かってるというか、“デカい”なという印象があります」
――ベースの山本 連さん。
「連くんは僕がバークリーにいた時に、おれの隣の隣のアパートにたまたま住んでいて、それで出会いました。その時はそんなに親しくなかったけど、今はもう親友ですね。彼の強みだなって思ってるのは、音を聴いたらすぐ連君の顔が浮かんでくるっていうところ。あと、彼はタッチが繊細で優しくて、プレイがいつもリラックスしてる。僕はつい力が入ってしまうタイプなので、彼みたいな、だらんとしてくれてる人がいることによって冷静になれるっていうか。アコースティックなアンサンブルにいい感じで混ざることができるエレキベース奏者ってなかなかいないし。大好きですね」
――ドラムの福森 康さんは?
「福森 康さんは、自分が10代の頃から知っていますが、なかなか共演のチャンスに恵まれなかったんです。3年くらい前に、あるセッション・ライヴで一緒になって。それから、不思議なものでちょっとずつ共演の機会が増えていったんですよね。プレイは、音の速さっていうか、瞬発力がずば抜けてる。それこそ一音聴いただけで彼の音だとわかる強力な個性を持ったドラマーだと思います。彼と共演した時のイメージを元に〈Comet 84〉っていう曲を作りました。福森さんが8月4日生まれだったので〈84〉。彼がいなかったら、この曲はできなかったですね。それと、アルバムの最後に〈Fu-linkazan〉という曲が入っているのですが、そこでの康さんのドラミングは、アルバムの全体のハイライトだと思います。ドラムってこんなに表現力豊かな楽器なんだなって」
――制作にあたってテーマとかキーワードとかありましたか?
「メンバーを決めてから曲を作っているので、テーマはバンド感ですかね」
――このメンバーでやるっていうことがテーマ?
「そうですね。このメンバーで第2弾、第3弾と作っていきたいと思っているので。ジャズのバンドでも、ロック・フェスでほかのバンドやポップスのアーティストと並んでも闘えるバンドにしたいなと思っていて。だから、このメンバーで固定してやっていきたいです」
――類家さんをイメージして書いた「Soldier “R”」という曲がありますが、ほかにも当て書きみたいなことはしてるんですか?こういうフレーズはこの人が吹いたら映えるだろうとか、こういうリズムはこの人得意だろうから入れてみようとか、人ありきの曲作りをしているのかなって。
「それはすごくありますね。今回のアルバムも、2曲だけは3年前にできていたけど、それ以外の曲はアルバム用の新しい曲で、メンバーの音や顔をイメージしながら作りました。あとは、その人とのちょっとしたエピソードを想像すると曲が早く書けたりしますね。綺麗な風景を見たり旅行に行ったら曲が湧いてくるっていうタイプじゃなくて、人をイメージしたほうが自分の場合は早いなっていうことに、今回で気付きました」
――このバンドは今後も続いていくということですが、それ以外にもプロジェクトを進めているんですか?
「ソロ・ギターでも半年に1回はライヴをやっているので、機が熟したらソロのアルバムも作ってみたいですね。1人で成立する世界を作りたいっていうか。だから、大きく分けると、オリジナルをやるバンドと、ジャズのスタンダードをやるバンド、あとソロ・ギターがあって。あともう1個は、ポップス的な歌ものをやってみたい。まだ構想段階ですけど、今回の編成で2、3枚ぐらい出した後に、ヴォーカリストとコラボするような作品もできたらなっていうのは思ってて。皆、ヴォーカルと演奏するのが巧い人たちだから、その手札は何年かしたら出すと思いますね」
取材・文 / 土佐有明(2017年4月)
MAY INOUE STEREO CHAMP
『STEREO CHAMP』 Release Party

label.rebornwood.com/2017/05/01
2017年8月4日(金)
東京 六本木 Varit

開場 19:00 / 開演 19:30
前売り 3,000円 / 当日 3,500円(税込 / 1D別)

出演:
MAY INOUE STEREO CHAMP
[井上 銘(g), 類家心平(tp), 渡辺ショータ(key, pf), 山本 連(b), 福森 康(ds)]


CANALIZE★INVISIBLE PARTY and Mikiki presents
TOKYO LAB 2017 S/S〜beyond JAZZ, beyond NEXT!!
www.creativeman.co.jp/event/tokyolab2017/
2017年6月21日(水)
東京 渋谷 CLUB QUATTRO

開場 18:00 / 開演 19:00
税込 4,500円(1D別)

出演:
T.O.C BAND

[冨田恵一(冨田ラボ), 松下マサナオ(Yasei Collective), 石若 駿(ds), 角田隆太(ものんくる), 類家心平, 井上 銘, 江文武(WONK) and more...]

RS5pb
[類家心平(tp), 田中タク(g), 鉄井孝司(bs), 吉岡大輔(ds), 中嶋錠二(p)]

MAY INOUE STEREO CHAMP

Takumi Moriya Les Six
[守家巧(bs), 加納奈実(sax), 坪口昌恭(key), 西田修大(g), 横山和明(ds), Omar Gaindefall(per) ]

Clean Up Trio
[石若 駿(ds), 井上 銘(g), 須川崇志(bs), Niran Daiska(tp)]

DJ 大塚広子


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