『Look To The Sky』 Interview
14年ぶりの新作ではあるが、このブランクの理由は、ジェームス・イハが怠け者だからでは、ない。むしろ、その逆。興味のあることには何でもトライして自らの引き出しを増やし、許容量を広げて来た。日本のアーティストや日本映画との関わりも、
ア・パーフェクト・サークルのようなスーパー・バンドとの関わりも、若手新人バンドとの関わりも興味の対象であり、力を試し、発揮できる場であるのだ。そんな彼が、まさに満を持して完成させた『Look To The Sky』では、我々が待ちこがれたグッド・メロディが気持ちよく奏でられ、控えめながら主張する歌が静かに胸に迫る。
――(本誌3月号をめくりダニエル・ラノワの記事で手を止めたジェームスに)ラノワには、興味がありますか? ジェームス・イハ(以下同) 「うん」
――ライヴを観たことは?
「ないんだ」
――現在はニューヨーク在住のあなたですが、普段、ライヴに足を運ぶことはありますか?
「昔は必ず全部チェックしていたんだけど、最近はほとんど出歩かないんだよね。16歳の頃はシカゴに来るバンドは片っ端から観に行ってたけど、そこからいろんな音楽を聴きまくって、その中のいくつかのアーティストには集中的にはまって……と、いろんな時期を経たよ。好きなアーティストもたくさんいたし、新しいアーティストを発見したりもした。とにかく脳みそが音楽で溢れかえっている感じが今も続いているような……。だから、今は頻繁にライヴに行くことはしてないな」
――では、誰のライヴだったら「これは絶対に行くぞ!」と思えますか?
(C)Taro Mizutani
――さて、14年ぶりのセカンド作が発売になりますが、なぜ今のこの時期だったのでしょう?
「僕自身も楽曲そのものやプロダクションに求めるレベルがあったし、だからこんなに制作期間が長かったんだとも思う、他にいくつも理由はあるんだけど……。去年の夏はア・パーフェクト・サークルのツアーやロラパルーザなどでも忙しかった。それをやっていなければ、もう少し早くアルバムが完成したかもしれないけど、彼らと一緒に演奏したかったし。映画を観るのも、食べることも好きだし、色んなことがしたいんだよね」
――本作の中で1番古い曲はどれですか?
「〈双子座〉が1番古くて、6〜7年前かな。最初はロックっぽいところから始まって、その後にもっとニューウェイヴ寄りでシンセサイザーを使ってるものに移って、その後はアコースティック、そしていろんな曲が出来上がって、そこからベストのものをキープしてアレンジしだして、4、5ヵ月前かな、全体として聴くようになったのは。最近まであまり考えてなかったよ」
(C)Taro Mizutani
――本作制作にあたって、特にあなたに影響を与えたもの(こと)は、何でしょうか?
「自分の音楽のキャリア全体が、いろんな音楽を作る準備になっていると思う。様々なバンドをプロデュースしたり、リミックスしたり、サウンドトラックを作ってきたことすべてが、今回の多様性のあるアルバムを作るのに役立ったんだ。歌詞は
ネイサン(・ラーソン)が助けてくれて、僕自身も、より良い歌詞でストーリー性のあるものを作るように頑張ったんだ」
――ジェームス・イハというシンガー・ソングライターにとって、曲を書くこと、歌うということは、どんな意味を持っていますか?
「長い間アルバムを作っていなかったから、これは、とてもパーソナルで身近なものだし、感情がたくさんこもった作品なんだ。でも他にも手がけているプロジェクトがあるから、こんなにたくさんのことができることは嬉しく思うよ。自分に対してソロ・アーティストとしての期待はそんなにしていないんだ、もちろんもっとアルバムを作りたいとは思うけど。でも、同時にプロデュースしたり、他のバンドとプレイしたり、映画音楽を作ったりできることをとても嬉しく思っている。そうとしか言えないな」
取材・文/赤尾美香(2012年2月)
『Look To The Sky』 Review
文/山口智男
『Look To The Sky』
『Let It Come Down』
豪華ゲストが多数参加しながらも、ぎらぎらとしない 多くの人にため息をつかせたジェントルな歌心を受け継いでいるという意味では、前作
『Let It Come Down』の延長と言えるだろう。しかし、フォークやカントリーの影響が色濃い前作のアコースティック路線から一転、きらびやかなサウンドに実った『Look To The Sky』のアレンジ、プロダクションからは前作とは明らかに異なる志向が聴きとれる。
思えば、スマッシング・パンプキンズを離れてから、ジェームス・イハはプレイヤーとしてのみならず、プロデューサー、リミキサー、コンポーザーとしてもジャンルを限定しない、さまざまなプロジェクトに関ってきた。コ・プロデューサーとして、今回、ジェームスをサポートした
シャダー・トゥ・シンクのギタリスト、ネイサン・ラーソンとともに作り上げた多彩な――オーケストラル・ポップ、ギター・ポップ、ニューウェイヴ、キャバレー・ソングなんて言葉で表現できる楽曲の数々には、ジェームスがもともと持っていた幅広いバックグラウンドに加え、その経験も活かされているにちがいない。
レコーディングにはジェームスの盟友、
アダム・シュレシンジャー(
ファウンテインズ・オブ・ウェイン他)をはじめ、ジェームスがリミックスしたヤー・ヤー・ヤーズの
カレン・Oとニック・ジナー。ネイサンの妻でもある
カーディガンズの
ニーナ・パーション。
ベイルートのホーン隊。さらにはトム・ヴァーラインや、
デヴィッド・ボウイ作品で知られる
マイク・ガーソンといったレジェンド・クラスのミュージシャンも含む豪華ゲストが参加。ヴァーラインが「ティル・ネクスト・チューズデイ」に加えた、まるで音がもつれるようなギター・ソロは聴きどころの一つだ。
そういう作品にもかかわらず、それほどぎらぎらとせずに、どこか夢見心地と言えるものになっていることに加え、彼の人柄や根っこにある音楽の嗜好が窺えるところがいい。そんなところも含め、じつにジェームスらしいアルバムだ。