【特別企画】 神保彰インタビュー デビュー30周年記念の3作品を語る

神保彰   2010/02/17掲載
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 日本のフュージョンの歴史をリードし、『ニューズウィーク』誌の“世界が尊敬する日本人100人”にも選ばれたスーパー・ドラマー神保彰が、今年、カシオペアでのデビューから30年を迎える。そこで、その節目の年を記念するニュー・アルバム『Jimbo Gumbo(ジンボ・ガンボ)』、これまでのキャリアを俯瞰する2枚組の初のベスト・アルバム『Jimbest(ジンベスト)』、そして幻の初レコーディング作、慶應義塾大学ライト・ミュージック・ソサイェティーによる『PAPAYA EXPRESS(パパイア・エクスプレス)』の3作品を同時リリースした神保彰に話を聞いた。



最新作『Jimbo Gumbo』
――1年ぶりの新作『Jimbo Gumbo』は、神保さんらしい、楽しくてかっこいいアルバムになりましたね。
 「ガンボは、“南部のごった煮スープ”のことで、いろんな音楽の要素がミックスされて、いい味になっていますよ、という意味です。今回も、エイブラハム・ラボリエル(b)とオトマロ・ルイーズ(p、key)と一緒にLAで録音していますが、聴いてくださる方が、元気になってくれたら本当にうれしいですね」


――今回、アラン・ハインズというギタリストが初参加しています。
 「予定していたギタリストの都合がつかず、オトマロの紹介で急遽お願いしたんですが、この人はツボでした。彼はスタジオ・シーンではかなり名の知れた人。“自宅で作業するから、ファイル送って”と言うので、“そうじゃないんだ。4人が集まってその場でバッと音を出したときのスポンテニアスなものが欲しいんだ”と説得しました。結果的に、とてもいい演奏になりました」
――どんなにコンピュータが進歩しても、人間同士にしか生み出せないものがあると。
 「音を出した瞬間に、4人の気持ちが一つになる。その時に生まれるエネルギーは、後でどう細工しても絶対に作り出せない。そういう人間的な瞬発力と、あらかじめ作りこんでいたものを、高いレベルで有機的に融合させたい。それがここ数作のコンセプトなんです」
慶應義塾大学ライト・ミュージック・ソサイェティー

『PAPAYA EXPRESS』

(初CD化)
――今回、デビュー前の学生時代の演奏が『PAPAYA EXPRESS』として初CD化されましたね。
 「これは1978年にカレッジ・ビッグ・バンド・シリーズとしてリリースされたものです。19歳の時の演奏で恥ずかしいんですけど、今回、聴き返してみて、自分のコアな部分は19歳の時点で案外、出来上がっていたなという気がしましたね」
――ベスト・アルバムも今回が初の試みになりますが、王様のように威厳のあるジャケットがいいですね。
 「30周年記念なので、少し重みを持たせようということでやってみたんですけど、これを見た知らない人から、怖い人なのかと思った、と言われてしまいました(笑)。DISC1は80年代後半からコンスタントにリリースしたLA録音の10作品から、それぞれのアルバムの代表曲を時系列に並べたものです。DISC2は、ベースのブライアン・ブロンバーグとのJBプロジェクトをはじめ、ドラマーとしての側面をクローズアップした2005年以降の作品群から構成しています。こうして聴き返してみると、曲の中にいろんな情報が詰まっていて、その時の情景や感情が走馬灯のように浮かんでくる。初期の作品も、思いのほか古く感じませんでしたね」
ベスト・アルバム『Jimbest』
――30年間続けられた一番のポイントは何だと思いますか?
 「僕の音楽を聴いてくださるリスナーがいて、CDを買ってくださるお客様がいるというのが一番ですね。ドラムが好きだ、音楽が好きだというのが根底にあって、どうせならもっと良くなりたいという気持ちが自分を前に進めている。飽きないんですよ。30年やっても、ドラムの前に座って練習したりライヴをするたびに発見がある」
――次の目標はありますか?
 「80歳までドラムを叩き続けること。空手の有段者から、段が上がるにつれてどんどん体の力が抜けていくという話を聞いたことがあります。すべてのことがそうだと思いますが、上のステップに行くということは、より“脱力”することなんですね。力を抜いていくプロセスなら、年齢は関係ない。眠るように叩く境地を目指して、本当に眠っちゃったりしてね(笑)」
――今年はワンマンオーケストラで日本全国108ヵ所を廻る計画だそうですね。
 「ライヴの現場は、音楽の原点。音楽はコミュニケーションなので、その場をみんなで共有するのは、いつだって得がたい経験です。108ヵ所廻ることは、ずいぶん前から決めていました。あと30年ドラムをやるとなると、今年が折り返し地点なので、記念になることをやろうと。だから去年のツアーは98本に抑えたんです。2桁から3桁に数が増える方がインパクトがあるかなと思って。今年は、煩悩の数だけ廻ります(笑)」
取材・文/工藤由美(2010年2月)



【column】フュージョンと神保彰の歩み


 神保彰は根っからのフュージョン・ドラマーである。大学卒業後、すぐさま人気グループ=カシオペアに加入してプロ・デビューしたのが1980年。まさにフュージョン時代の申し子のような存在だ。

 フュージョンというのは文字通り、ジャズとポピュラー音楽とのFusion(融合)を意味するが、そのマイルストーンともいえる象徴的な作品がジョージ・ベンソンの『ブリージン』(76年)だった。このアルバムのヒットを契機に、ブレッカー・ブラザーズデヴィッド・サンボーンリー・リトナーラリー・カールトンアール・クルースパイロ・ジャイラなどのフュージョン系アーティストに注目が集まるようになった。日本ではその時期、渡辺貞夫の『カリフォルニア・シャワー』や日野皓正の『シティ・コネクション』がベストセラーを記録、渡辺香津美本多俊之、ザ・スクェア(現T-スクェア)、カシオペア、松岡直也&ウィシング、YMOなどがシーンの中心にいた。

 こうしてフュージョンの時代が到来すると、ベーシストやドラマーといった、それまで裏方的存在だった部門からもスターが次々と輩出するようになる。その頂点に位置するのが、たとえばスティーヴ・ガッドであり、神保彰なのである。だから、神保はまさしく時代の申し子だ。

 神保はドラムスを操ることにかけては、とにかく抜群のテクニシャンなので、リズムの権化のように思われがちだが、同時にメロディの人間でもある。86年の初ソロ・アルバム『COTTON』はL.A.ヴォイセスをゲストに迎えた全曲ヴォーカル曲集だったが、その後の作品でもヴォーカルを加えるケースが多く、彼のオリジナル曲は常にメロディが親しみやすく、まことに美しい。それはワンマン・オーケストラでも変わることはない。リズムの求道者でありながら、同時に天性のメロディメーカーであるところに、ミュージシャン=神保彰の際立った個性がある。非凡な才能の持ち主といえる。

文/市川正二


<神保彰ワンマンオーケストラ ドラムからくり全国行脚2010>
〜プロデビュー30周年記念 全国108会場+会館自主公演2会場
2月13日(土)神奈川・関内STORMY MONDAYを皮切りに、7月17日(土)東京・調布 仙川Kick Back Cafeまで全国で順次展開中。

全国の公演会場、詳細は神保彰オフィシャル・ホームページへ。
http://akira-jimbo.uh-oh.jp/
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