原点回帰を経て再確認した“本気”の在り所 加藤和樹『SPICY BOX』

加藤和樹   2017/11/07掲載
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 バラードを主軸に据えた「恋の処方箋」シリーズも、この春で完結。このたびリリースされた6曲入りミニ・アルバム『SPICY BOX』での加藤和樹は、おそらくかつてなく“攻めて”いる。変拍子も交えたハードかつドラマチックなギター・サウンドに乗せて歌うのは、試行錯誤を繰り返しながら前向きな“変身”を遂げてきた、彼自身の姿とオーバーラップする作品ばかり。俳優からアニメの声優、そして音楽と多岐にわたり活動しながらも、「でも、自分の魂は“歌”にある」。そんな独白が聞こえてくるような、音楽版マニフェストにもなっている。
――1曲目「con・fu・sion〜心の叫び〜」からして、衝撃的でした。演奏のヘヴィーさもさることながら、“引き裂かれた自我”というテーマが、正面切って歌われていて。
 「今回のアルバムをレコーディングするにあたって、原点回帰、ギター・サウンドに照準を絞ろうという狙いはあったんです。選曲も、そのコンセプトにふさわしいかどうかを基準に、選ばせていただいています。〈con・fu・sion〉もその中の1曲だった」
――歌詞自体、もちろんフィクションではあるんだろうけど、この世界なら歌い手として入っていけるという、直感のようなものはありましたか?
 「ありました。この曲のテーマ自体“本当の自分”の“心の叫び”ということですけど、そこが僕自身の活動のあり方と、すごくリンクするところがあって。自分自身俳優であったりミュージシャンであったりと色んな活動をしていて、そのどれもが自分ではあるんだけど、時々そんな自分が分からなくなってしまうことがあったんですよね。今までのそうした葛藤も含めて、歌に込めることができた。僕にかぎらず、人って色んな顔を持ってますよね。会社に行ってる自分、家にいる自分、友だちと会ってる自分……表面上は違ってるけど、でもどれも自分だよね。そういう部分で、共感できるところが多々ありました」
――具体的に言うと、いつ頃そうした葛藤を感じてらっしゃいましたか。
 「20代中盤の頃、音楽と役者の両方をやっていて、どっちもやっていきたいんだけど、どちらかを手放さなきゃいけないんじゃないか。そう迷った瞬間があって。実際にはどちらも脱ぎ捨てずに、二足のわらじを履き続けてきたわけですけど。どっちか、ではなく、どっちも、という選択。それでも、両方続けていることに伴う葛藤というのは、少なからずありました」
――役者さんとしての実績のほうが、先に世の中に浸透していった。それゆえの悩みもあったと想像するんですが。音楽に対して「本気なのか?」という問いに、さらされる局面もあったのじゃないかと。
 「ありましたよ。そう思われること自体、仕方がないとも思うし。でも、たとえば『仮面ライダー』がそうですけど、役者としての名前が先行していた時期であっても、ライヴを定期的に年間何本かは必ずやって、CDもリリースしてきた。そうした中で、“音楽もちゃんとやっているんだな”とお客さんに理解してもらいさえすれば、オレはそれでいいんです。入り口はどこでもいい。最終的に自分の音楽に触れてもらえさえすれば、それでいいと思ってます。ただ、自分が音楽をやり続けている。そこだけは知っておいてほしいという気持ちは、ずっと抱いています」
――今回聴いていて、いかにも加藤さんらしいと思ったのが、曲によって歌の表情も、発声の仕方も変わりますよね。しかも、ご自身で作詞されている曲だと、地声っぽい発声になる。
 「それはおそらく、自然に出てきちゃうものだと思うんですよね」
――つい素直になってしまう感じですか。
 「気持ちのあり方の違いというか……。もちろん、作詞家の方に書いていただいた曲に対してだって、自分なりにトライはします。ただ、人の言葉を借りて自分がそれを代弁するというのと、自分の言葉を発信するのでは、どちらが上ということではなく、違いがあるんですよね。本当は、どの歌も自分の言葉として出さなきゃいけないので、そういう差も、なくしていかなきゃいけないんですけど」
――私自身は、加藤さんの表現のあり方、光の当て方ですこしずつ表情が変わっていく部分は、そんなに均一にしていただかなくてもいいなと思っているんですけど。
 「それはそれで、すごくうれしいです」
――ご自分で書いた歌詞を“素”に近い感じで歌われている曲と、「con・fu・sion」のように世界がきっちり構築されている曲。両方があわさることで、色味が増えていて、どちらも楽しめました。
 「そこが楽しんでいただきたいポイントでもあるんです」
――「Myself」では、声を加工して潰して聞かせたり、歌い方でも言葉を詰めたり伸ばしたりと、従来にない試みをされています。
 「メッセージ性が強い歌詞だったので、強いサウンドの中でそれをどう浮き立たせるかは考えました。歯切れ良く歌うことも意識しましたし、あとはとにかく自分自身に言い聞かせるように歌う。そのことで、よりはっきりとした輪郭が出てくるんじゃないかということは、意識してましたね」
――それこそ1行目に出てくる「妄想はVISIONじゃないよ」じゃないけど……。
 「いつもそうなんですけど、たとえ問いかけるような歌詞であっても、自分自身に言い聞かせないと説得力がなくなってしまう。ただ発信する一方じゃない。自分に本当にその気持ちがあるんだということが、大前提なんです。〈Myself〉の歌詞は、そういう意味で自分自身すごく響いたんです。自分自身を解放する。やっぱそうだよな、そこには素直でいなけりゃ。そう感じながら歌っています」
――それが他者の言葉であっても、自分の中に落とし込んでいくことで説得力を与える。演技する時、台詞を自分のものにしていく過程にも、通じる手法だと思うんですが。
 「そう。そこは本当に一緒で、そうでないと台詞も“言わされてる”感が出てしまう。歌も“歌わされてる”感じになっちゃうので、そこは本当に大事なんです」
――「行動こそ明日繋ぐANSWER(まだまだ)」のくだりとか、言葉を伸び縮みさせて歌われてますよね。何回も歌ってああいう形になっていくのか、それとも直感的に歌えちゃうものですか。
 「いただいた仮歌を聞き込んだ上で、自分なりの言い方、言葉の乗せ方というのは意識してます。もともといただいた符割りも、ここはもっと後乗せにしたほうがいいんじゃないかとか、現場でやってみたりもする」
――結果、意味として立たせたい部分と、でも符割りとしてこっちのほうがかっこいいといった葛藤が、生じたりはしませんか。
 「ありますよ。音楽的な部分と、気持ちの部分との葛藤は、つねにある。でも、その場合は気持ちのほうを優先したいと、僕は思うんです」
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――“伝えたいこと”を優先したい。
 「そうですね。だから、レコーディングは1回1回全力でした。中途半端はできないので、ちょっと休憩を挟みながらやったんですが、それでもハードでした。それくらい、本気で魂込めないと伝わらない曲だと思ったので」
――「Myself」に関して、特に高まりを感じた箇所があるとすれば。
 「やっぱり1行目の“妄想はVISIONじゃない”かな。簡単に夢を語るなっていう。妄想とヴィジョン、見るものと現実に実現させるものは違うっていうメッセージが、僕にはとても刺さりましたね」
――1行目がすでにキラー・フレーズなんですね。
 「だからこそ自分を解き放って、“そこ”に持ってかなきゃいけないんだなと。僕自身の仕事と、すごく通じるところを感じました」
――歌う上でも、いきなりテンションを上げて臨まなきゃいけないから、大変じゃないですか。
 「でもこのアタマのサビは、最初は誰かがふつふつと言ってるような……でも、最終的には自分の言葉だったという展開なんですよね」
――そうやって歌のイメージをふくらませていく。大変だろうけど、楽しそうでもあります。
 「楽しいですよ。いろんなアプローチの仕方があるし。正解がないだけに、その作業はいつも楽しんでます」
――「Myself」自体、サウンドはたしかにラウドだけど、ただわ〜わ〜言い合ってるだけではない、1曲の中で、ヴォーカルと演奏の細かい呼吸が合ってますよね。エネルギーの抜き差しの塩梅が、すごくいい。気持ちよく聴けるゆえんだと思うんです。
 「僕自身、歌ってる時も“うるせえな”とは思ってなかったです(笑)。むしろそこに寄り添う姿勢というか、お互い刺激し合う瞬間というのを、すごく感じてました」
――聴いていて、爽快ささえ感じました。
 「うれしいです」
――加藤さんのアスレチックな勘のよさというか、日本語もすごくお好きだろうし、日本語とどう折り合いをつけていくかという試行錯誤の中から、ある種のノリのよさも生まれてきていると思うんです。
 「日本語でノリを出すことって、なかなかむずかしい。一言一言聴かせないと、英語みたいにかっこよく発音すれば通じるってものではないですから。でもそこは日本人なんで、ミュージカルの舞台で歌っている時もそうなんですけど、いい言葉の嵌め方、嵌まり方はないかと、いつも考えています」
――「君は Fragile」の一節、「君だけをIsolation」では、“Isolation”が“愛する”と掛詞になっている。そこもちゃんと伝わるように、発音を工夫されてますよね。
 「英語で書かれているからって、英語的に発音すれば必ずしもいいというわけでもなくて、歌った時の響きがよければ、日本語英語でも英語本来の発音でも、どっちでもいいと思うんです。〈君は Fragile〉では、そのあたりを織り交ぜて歌っています。“baby”を“ベイベ”って言ってる一方で、“lady”は意図して英語的に発音するとか。そういう“遊び”は、この曲にはけっこう入れてますね」
――演奏自体、間奏が長めで、リズムもそこでぱっと変わる。で、次に歌が出てくると、そこでドラマが変わりますよね。ポップで明るい曲と見せて、じつはすごく手が込んでいる。
 「1曲の中でちゃんとストーリーがあるので、歌っていてもおもしろかった。イメージもしやすかったですし」
――曲が持つストーリー、ドラマ性に、やっぱりすごくこだわっているんですね。
 「自分で書く時もそうなんですけど、歌の中で何を言いたいのか、それがどういう人でどういうシチュエーションなのかがイメージできないと歌に持っていけないので、どういう情景なのかということは、いつも考えています」
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――やっぱり“歌”が好きなんですね。
 「僕はやっぱり“歌”なんです。“歌”が根本にある。歌を歌いたい。歌が好きだ。じゃあ“歌”と音楽との違いはなんだろうって言ったら、やっぱり言葉。ストーリーなんです。それが音楽の中で紡がれているのが好きですね」
――なんか、いいですよね。今回、原点回帰のロック・アルバムといいつつ、デビュー当時に比べると、はるかに経験も積んでらっしゃるし、音の広がりもあるわけですよね。にもかかわらず、やっぱり「歌が好き」とおっしゃられるところが。
 「ふふふ(笑)。でも本当に、今回のレコーディングはどの曲も楽しかった。それだけ自信をもって、かっこよくていいアルバムになった。そう言える作品になりました」
――あと、ご自身で作詞されている「Heart Beat」。「Limit over 上等で」の“上等”って言葉選びにウケました(笑)。
 「そうですか(笑)。“限界? 知らねえよそんなの”みたいな気持ちで書いてみただけなんですけど(爆笑)」
――ユーモアがあると思うんです。ただ怒ってるだけじゃないっていうか。
 「自分もそうなんですけど、声を大にして言いたいけど、でも言えない。そういうことってありますよね。それでも、自分の生き方はやっぱり自分で決めたほうがいい。イエスマンでいたほうが賢いとか言われがちだけど、“んなわけね〜だろ”って(笑)。自分に正直なほうが絶対楽しいですから。〈Myself〉とはまた違ったアプローチで、聴いてくれる人の背中を押せるような言葉を書きたいと思ったんです」
――この曲は、おそらく加藤さんがふつうにしゃべっている時の感覚に、声が近いんじゃないですか。
 「自分がふだん生活している時の“語り”をイメージしていたので、それが感じられるのかもしれないですね」
――そういう、ご自身の一番柔らかい部分も出してきてくれる。だからこそ、つくり込んだ曲を聴いても、歌い手として信頼できるというか。この人は演技している時も「本気」なんだ。そう確信させてくれるアルバムでした。
 「うれしいです、とても」
――そうしたカラフルさをふまえての、『SPICY BOX』というアルバム・タイトルなわけですよね。
 「今までにも、たとえば『EXCITING BOX』だったりとBOXシリーズをつくってきて、今回これだけ強いサウンドが並んだこともあって、浮かんできたキーワードが“刺激”だった。そこから連想したのがスパイス。何千何万と種類があるし、それくらいいろんなスパイスを込めたアルバムだと思うので」
――ちなみに、料理はされますか。
 「しますよ(即答)。それもあって、スパイスってすごく大事だと思うんですよ。ひとつ変わるだけで味が変わっていく。そういう意味で、いろんなスパイスが使われた作品ぞろいの1枚だと確信しています」
取材・文 / 真保みゆき(2017年9月)
加藤和樹『SPICY BOX』リリース・イベント
www.katokazuki.com/
2017年11月10日(金)
愛知 名古屋 HMV栄店
18:30〜(CD販売 16:00〜)
※握手会(握手会ご参加には特典券が必要となります)



2017年11月11日(土)
山形 霞城セントラル 1F アトリウム
18:00〜(CD販売 15:00〜)
※ミニ・ライヴ + 握手会(握手会ご参加には特典券が必要となります)



2017年11月9日(木)
大阪 天王寺 ミオ 本館12F MIOホール
19:00〜
※握手会(握手会ご参加には特典券が必要となります)



2017年12月3日(日)
滋賀 ピエリ守山 1F ピエリコート
(1)13:00〜 / (2)15:30〜
※ミニ・ライヴ + 握手会(握手会ご参加には特典券が必要となります)



2017年11月19日(日)
佐賀 モラージュ佐賀 北館 1F モラージュプラザ
(1)14:00〜 / (2)16:30〜 (CD販売 10:00〜予定)
※ミニ・ライヴ + 握手会(握手会ご参加には特典券が必要となります)


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