ヒップホップ感よりも、分かりやすい“音楽”を届ける KID FRESINO『Salve』

KID FRESINO   2017/01/27掲載
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 本人にとって、そしてリスナーにとっても新鮮だと感じるアプローチで、常に作品と相対しているKID FRESINOの新作『Salve』。今作は三浦淳悟(PETROLZ)や柿沼和成を中心にしたバンドとのEPとして完成したが、いわゆるヒップホップ的なサウンドをバンドでアレンジしたものや、バンド・サウンドをサンプリングし再構築するといった“ヒップホップ的な制作アプローチ”よりも、バンドがセッションで組み立てた音像に彼自身も組み合っていくような、オーガニックな融合を感じる――彼自身の言葉で言えば「音楽」――構造を持った作品となっている。計4曲というタイトな作品ではあるが、進化するラップ・スキルと共に“プロデューサー / ディレクター”的な側面も垣間見ることの出来る、これからの動きも予感させる一作だ。
――昨年はC.O.S.A.くんとのアルバム『Somewhere』のリリースがあり、今回はバンドとの作品ということで、モードとしてはセッションすることに興味が向いているのかなと感じたんだけど。
 「それはあると思いますね。単純に自分の声だけが乗ってたり、自分の力だけで作った作品にあまり楽しみがないというか、ちょっと飽きちゃってる感じもあって。自分が飽きたと思ってる方法論で作った作品を出すのも不誠実だし、だから、なるだけ誰かと一緒にやりたいモードになってるのかなって。要は“1人1ヴァース”でいいんじゃないっていう。それならあっという間に書けるし、制作スピードも上げられる。C.O.S.A.とのアルバムも、“前の曲は俺がフックをやったから、今度はやってよ”みたいな感じだったんで」
――押し付けあってどうするんだという気もするけど(笑)。
 「怠け癖がついただけかもしれないっすね(笑)。でも、それも『Salve』へのきっかけになったと思う」
――スピード感、セッション感というか。『Somewhere』はFRESINOくんのトラックが少なかったけど、それでも作品の感性には“KID FRESINO”としてのイズムはしっかり込められていたと感じて。その意味でも、様々な要素を集めつつ、どうすれば自分のイメージ通りの作品に出来るかっていう、全体を見るディレクター的な意識がいまは強いのかなとも思えたんだけど。
 「それはありますね、確かに。そういう面は自分の中でも優れてると思うんですよね。“このタイミングでこれをやればこうなる”とか、“今はこれをサンプリングしたら、このブレイクを使ったら面白い”とかの見極めが。一瞬でも、人を高揚させる、驚かせる音楽を提示するのは、上手い方だと思います」
――リスナーに与える驚きは“一瞬”でいいの?
 「“おっ!”って感じでいいんですよ」
――“衝撃が10年続くような”とかじゃなくて、“いいね”とか“熱いね”ぐらいの感覚?
 「そうそう。“フフッ”って笑っちゃうような感じだったり、“ヤバいね”って思ってくれればいいなって」
――ただ『Somewhere』に入っている「Swing at somewhere」でコトリンゴさんが客演したことは、スゴく驚いたし、あのタイミングで彼女を客演に迎えたのは、すごく重要でエポックな出来事だと思ってて。楽曲のクオリティも勿論だけど、別のグラウンドではありつつも、グッド・ミュージックを現在進行形で作ってる人同士がしっかりとタッグを組んだという意味でもスゴくインパクトがあった。
 「単純に自分がコトリンゴさんのファンだったんですよね。話を振る前から、トラックも彼女の音源をJJJに聴いてもらって“この人と曲をやりたいと思ってるから、そのイメージでトラックを作ってみて欲しい”ってオーダーしたんですよ。繋がりなんて全然無かったんだけど、断られることは想像できなかった。生意気なようだけど、反応してくれる気がしました。『この世界の片隅に』のサントラを作ってる真っ最中っていう大変な状況だったみたいなんですけど、結果JJJのトラックを聴いてもらったら“ぜひ”って言ってくれて」
――それもディレクター的な視点だよね。今作のバンドのキーマンであるベーシストの三浦淳悟さんは、FRESINOくんからオーダーしたということにも、その動きは繋がると思うんだけど。
 「元々LOOP JUNKTIONが好きで聴いてたんですよ。それがまず念頭にあって三浦さんにお願いしたいと思ったんだけど、PETROLZのことを知らなかったんで。だから、失礼なんだけど、もしかしたらもう活動してないのかな……とか思ってて(笑)」
――隠棲してるかも知れないって思ってたんだ(笑)。
 「東京事変のギターの人がほかにバンドやってるのも知らなかった。PETROLZを教わって聴いたら“東京事変の人じゃん!”って(笑)。あの躍動するベースはやっぱり素晴らしかったので、お願いしました。ドラムの柿沼さんは、三浦さんがずっとセッションしたいと思ってたっていう流れで」
――柿沼さんは犬式のほかにも、ピンゾロ a.k.a. 鬼二家や、鎮座DOPENESS & DOPING BANDにも参加していて。
 「LOOP JUNKTIONの頃から犬式とライヴで一緒になることはあったんだけど、セッションはする機会が無かったみたいなんですよね。佐藤優介(caméra-stylo)さんと斎藤拓郎(Yasei Collective)さんは、エンジニアの葛西敏彦さんの紹介です」
――D.A.N.を手がけてる葛西さんがFRESINOくんと一緒にやるっていう、新世代同士が間接的にでも交わることもスゴく重要だなって。ここがそれらのシーンが繋がるキッカケになると面白いと思う。
 「D.A.N.の〈Zidane〉をYouTubeで聴いて“これ、いいな”と。それで、この曲を手がけてる人にエンジニアをお願いしたいと思って、葛西さんに」
――同時に、ミックスをillicit tsuboiさんが手がけていて、よく聴くとギターのリフだけ完全に片チャンネルに寄せたりっていうツボイ・マジックが炸裂してて感動しました。今回、バンドとのセッションという形になった理由は?
 「トラックを作る時に、音の新・旧がスゴく気になっちゃったんですよね。スネアひとつとっても、この音は古いな、これだと2008年っぽい、この鳴りは今だな……とか。そうやって音を選別してたら、ちょっとドツボにハマっていっちゃって、新しい形を表現出来る気がしなかったんですよね。それだと自分がアガらないし、身近な半径1メートルにいる人たちに届けるにしても、多分ピンとこないだろうなって」
――近くにいる人たちの耳がいいから、中途半端だとそれがバレるだろうし。
 「ドラムの音色が大体、TR-808かブレイクかっていうこのご時世にどう立ち向かうかは、やっぱり考えますね。その時に“あ、バンドはどうだろう”って」
――例えばCHANCE THE RAPPER周辺がバンドを基調にしたサウンドを提示して、それが大きな注目を集めてるけど、それは意識にあった?
 「正直、そこまで強くは意識してないですね。CHANCEみたいにバンドとトラックを、作品の中で何十曲も混ぜるのは難しかった。あんなにガッチリ作るのは……信じられないっす(笑)」
――バンドとのセッション曲は三浦さんと佐藤さんのプロデュースになっているけど、元になるトラックを自分で作って、それをバンド・アレンジしてもらう……とかでは無いんだね。
 「違いますね。佐藤さんのプロデュース曲だったらまず根本となるサウンド・パターンを作ってもらって、その上でまたディスカッションして、そこからバンドにセッションで組み上げてもらうって感じでした」
――最近ではバンドで作った音をサンプリングしてトラックにしていくって方法を取ってるような人もいるけど、そういう方向でも無くて、本当にバンドとラップでセッションするという方式だね。
 「今回の作品は俺がラップしなかったら、歌をハメてもいいし、インストでもいいっていうような作品にしたかったんですよね。ジャケットもそうなんですけど、ヒップホップ感よりも、分かりやすい“音楽”を作りたかったんですよ」
――そのイメージは制作の前提にあったの?
 「そうですね。ジャケのイメージがまず頭にあって、それに合うサウンドを考えたって感じです。ヒップホップヒップホップしてなくて、誰でも手に取りやすくて……っていう。で、ここで興味持ってくれた人が、次の俺のアルバムを聴いて、“ヒップホップだ……”ってガッカリするっていう図式を作れればなって(笑)」
――どういう戦略だ(笑)。トラックとバンドではラップする上で感触の違いはあった?
 「違いますね。俺がラップするトラックって“音が出切ってる”ものが多くて、声を張るだけで形になったり、乗せるのは簡単なんですよね。その点バンドは音の強弱や隙間があって声が立つから、細かいところが気になったし、レコーディング・スキルが必要だなって。かつ、バンドはリズムの揺れがあるんで、その上でどう乗せるかをチャレンジするのも気持ちよかった。以前に共作しているビートメイカーのAru-2はクオンタイズしないんで、彼のトラックの上でやるような楽しさがありました」
――MOCKYのプロデュース曲「Let me in(hair cut)」も驚きました。
 「レーベルから“MOCKYはどうですか?”って話があって。俺からすると畑が違いすぎて“え! 一緒に出来るの?”って。ただ以前はラップもやってたってことも知って、本人に話を投げたら問題なくトラックを作ってくれて」
――客演陣についても教えてください。
 「JJJとCampanellaは“現実的”と“本物”っていう二つの意味合いで、日本で最も“リアル”なラッパーなんで、その二人を選んだことに理由はないっすね。茂千代さんは、俺が中学か高校の頃、よく見てたサイトに『続 NIWAKA』から一曲だけミュージック・ビデオがアップされてて、それを毎日のように聴いてたことがあったんですけど。そこから時間が経って、皆と“誰とやったら面白いかな”って話をしてた時に、大阪の友達が茂千代とやって欲しいって。その話をしたら、DOWN NORTH CAMPのボスも“新譜でお金を払って買うのは茂千代だけだ”って言ってて。それでお願いしたんですよね」
――「by her feat. 茂千代」は、テーマについて話し合った?
 「茂千代さんが、家族や奥さんについてラップしてる曲が何曲かあるんですよね。自分も毎回、彼女について歌ってる曲を入れてて。そう決めてるんですけど、その部分が摺り合わせられるかなと思って」
――茂千代さんのヴァースは先日亡くなった、茂千代さんの師匠とも言えるDJ KENSAWさんのことかなと感じて。
 「そうだと聞いています。COMMONの〈I USED TO LOVE H.E.R.〉の“HER”ってダブルミーニングになってるじゃないですか。ああいう感じでパ−トナーを表現してるけど、茂千代さんはそのパートナーの中に、KENSAWさんを織り込んで歌ってくれたようです」
――悪い意味ではなくて、「by her」みたいなここまで分かりやすくエモいトラックはFRESINOくんの中では珍しかったし、そのアプローチも興味深かった。では、この作品の先は?
 「ソロ・アルバムは作り始めてます。トラックは海外や日本のプロデューサーにお願いしつつ、ラッパーもまた面白い人達にお願いできたらと思います。リリースは夏ぐらいって話はしてますけど……無理だと思いますね(笑)」
取材・文 / 高木“JET”晋一郎(2017年1月)
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