清 竜人25特集: 清 竜人 ロング・インタビュー

清竜人   2014/11/13掲載
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清 竜人 ロング・インタビュー
作品リリースごとにガラリと異なる変幻自在の音楽性(とルックス)で注目を集める清 竜人。そんな彼が、“清 竜人と6人の妻たち”というコンセプトからなるパフォーマンス・アイドル・ユニット、“清 竜人25”を始動! 何がどうしてこうなった? 若き鬼才、清 竜人にプロインタビュアー吉田 豪が迫る!
「100人がいて100人に悪く言われたら、もしかしてへこむかもしれないですけど、99人がマイナスで1人がプラスだったら逆に興奮しちゃうみたいな感じはありますね」
――単なるファンなので申し訳ないんですけど、1回ちゃんと竜人さんと話してみたかったんですよ。
 「あ、ありがとうございます」
――ただ、そう思いながらも、まったく掴みどころがない人なので今日は何を話していいのか全然分からない状態で。外見から音楽性からあまりにも変化しすぎだし、どんなインタビューを読んでも人間性すら分からなくて。ちなみに取材はお好きですか?
 「嫌いですね(キッパリ)」
――やっぱり(笑)。話すのは好きなんですか?
 「人と普通に話すのは好きですけど、音楽業界に入って仕事の中で一番面倒くさいのは取材ですね。自分の話をしなきゃだめじゃないですか。そういうのがあんまり好きじゃないのかもしれないです」
――なんの話だったらいいんですか?
 「エロい話とか」
――付き合いますよ、全然(笑)。
 「あははは!」
――エロい話が好きっていうのは、どのレベルの話ですか?
 「ははは。いやいや……僕は軽い下ネタがいいです。ディープなところに行っちゃうと自分が出すぎちゃうんで」
――ただ、もふくちゃんを取材したときも「竜人君はなかなか心を開いてくれなかった」って話をしてて。
 「あ、そうですか」
――たとえば音楽の話をするにしても、自分の音楽以外の話だったら楽しいとかってあるんですか?
 「普通にざっくばらんに話すのは好きなんですけど、あんまり堅苦しくなっちゃうと途中から眠くなっちゃって」
――ダハハハハ! エロい話なら取材でも眠くならない(笑)。
 「そうですね(笑)」
――ある意味、清 竜人25みたいな方向性になってるのは自然なことなんですかね。女の子がこれだけいると取材もざっくばらんになるだろうし(笑)。
 「そうですね。公私が著しく混同してる感じはあります(笑)」
――女の子に楽曲を提供してるうちに、こっちに針を振り切るのもいいかなってなっていったんですか?
 「それこそソロの頃から、女の子を客演で入れるのが好きで。デビュー以前もそうなんですけど、もの作りとか一緒にやるときに、自分以外の同性の人間の感性を入れるのがあんまり好きじゃなくて。昔から男と、もの作りをするのが苦手だったっていうのが今に繋がってる気がしますね」
――その資質にはいつぐらいに気づいたんですか?
 「音楽をやり始めたのが15、16歳ぐらいで、もともとバンドとかやってたんですけど、男とやってても長続きしないし、基本、僕のワンマンになっちゃうんですよね。何をやっても。それだと意味もないし、いろんなことが中途半端になっちゃう感じがしたんで。男同士で付き合うのと男女間で付き合うのって、もちろん違うじゃないですか。恋愛的な感じの制作のほうが僕はたぶん向いてるんだろうなと思って」
――恋愛的な感じの音楽制作(笑)。ちなみにライヴとかやるとき、バックを務める男性ミュージシャンの皆さんとはうまくやっていけてたんですか?
 「もちろん」
――そのぐらいの距離感なら大丈夫。
 「そうですね(笑)。固定のメンバーとかバンドっていう形になってくると話が変わってきちゃうと思うんですけど」
――バンド幻想みたいなものはなかったんですか? 男同士でぶつかり合いながら何かを作っていくのってうらやましいなあ、とか。
 「今回、ユニットを始めようと思ったとき、自分をフラットにしていろいろ考えたんです。それこそ、バンド組むのもありかなとか思ったんですけど、全然ピンとこなくて。他にも、たとえば男性アーティストを客演で呼んで一緒に歌うとか。でも、そういう発想が自分の中にないんです」
――楽しそうに思えない?
 「自分が楽しくないっていう」
――音楽的にもひたすら変わり続けているわけですけど、ファンの予想通りのことはやりたくないとかっていう意識もあるんですか?
 「別にそのへんは、どちらでもって感じですね。予想通りでもいいと思うし、期待を裏切ることでもいいとは思うんですけど。性格的にも、あんまり人の意見を聞かないんで。良くも悪くもそれは自分の作るものに出てると思います」
――これだけ音楽性が変わると、相当いろんなことを言われたと思うんですよ。特に初期の音楽性が好きだったファンとかには。
 「別にMじゃないですけど、悪く言われるのもあんまり嫌いじゃなくて。100人がいて100人に悪く言われたら、もしかしてへこむかもしれないですけど、99人がマイナスで1人がプラスだったら逆に興奮しちゃうみたいな感じはありますね」
――ちなみにボクは堀江由衣新規であり、『MUSIC』新規なんですよ。そこから過去の作品を辿ってみて音楽性の違いに驚いたんですけど、『MUSIC』が出たときのファンの反応ってどうだったんですか?
 「どうだったんでしょうね? あのアルバムを出した後のライヴって東京公演の1回しかなかったんですけど、自分の記憶では盛り上がったライヴだったので、お客さんの反応も良かったし。でも、離れたファンもいたんでしょうね」
――確実にいるはずですけど、それ以上にそこで増えたファンも多かったんだろうし。
 「一人っ子で、わがままに育っちゃったんで、好きなことしかしたくないじゃないけど、そういう発想が根底にあって」
――自分が好きなことをしていく中で、ああいうアルバムが1枚あると、今後もやりやすくなってきますね。
 「そうですよね。いろいろ……やりやすくなるっていうと変ですけど、いろんな手を打ちやすくはなりますね」
――たぶん、それまではもっと真面目なシンガー・ソングライター的なイメージが強かったと思うんですよ。
 「そうですね。リスナーの聴き方としても、アコースティックな感じを求めて聴いてた人が多かったとは思うんです。それが『MUSIC』では全編打ち込みでやったっていうのも大きかったと思うんですけど、リスナーの視野も広がったんじゃないかと思って。自分を通じて新しい音楽に出会ってもらうっていうのは、ミュージシャンの醍醐味でもあると思うので、そういう点でも良かったとは思いますね」
――『MUSIC』から遡って聴いた『PEOPLE』の素晴らしさにも衝撃を受けたんですけど、あれが本人的には別に作りたくて作ったアルバムじゃなかったっていうのを聞いて、さらに衝撃を受けて。それぐらいの思い入れのなさで、このレベルの作品ができちゃうんだって。
 「あはは! 当時は、4枚目の『MUSIC』を3枚目のアルバムにしようと思ってずっと制作を続けてたんですけど、ある日、レコード会社のリリース・プラニング会みたいなのがあって、前の路線のアルバムをもう1枚挟みたいって言われたんです。だけど、その時点で僕の中ではモードが違うから、アーティストとして割り切らないと無理だなと思って。自分の創作意欲に身を任せて作るっていうのは難しいなと感じたので、『PEOPLE』を作ってた1年間は結構、悪夢を宿して作ってた感じですね」
――それなのに、なんであんなに幸せそうな作品ができるんですかね?
 「変な話、逆転の発想ですけど、そういう気持ちで作ったから両極端な作品ができたのかもしれないですね。……あんま覚えてないですけど」
――え! そんな感じなんですか?
 「そうですね。特に自分の活動のこととか、あんまり覚えてないんです」
――今のことぐらいにしか興味がない?
 「もの作りに関しては特にそうかもしれないですね。いつでも初恋してる女みたいな」
――過去をバンバン切り捨てて、上書き保存していくタイプ。
 「そういうタイプのミュージシャンかもしれないです」
――でも、そのほうが続く気はしますよね。
 「そうですね。恋多き女性のほうが綺麗だったりするじゃないですか。そういう意味で、美には気を使ってるとは思うんで(笑)」
――普通の結婚や安定を求めていないタイプというか。
 「そういう感じはありますね」
――これは素朴な疑問というか単純に聞きたかったんですけど、今までカヴァーするぐらい好きだったア−ティストは誰かいました?
 「あんまり……いわゆる音楽を始めた学生たちがヒアリングでコピーして楽器を弾いたりするような、そういう道を通ってないんですよ。ライヴで好きなミュージシャンのカヴァーをするとか、そういうこともあんまりしたくなくて。だから、すぐにオリジナルを作り始めましたね。カヴァーは、ほぼしてないです」
――音楽的なルーツがほとんど見えないんですよね。
 「良くも悪くも10代の頃にどっぷりハマったアーティストがいなかったので。それが今の自分の音楽性に、変貌も含めて繋がってるかもしれないですね」
――刺激を受けたりする人はいるんですか?
 「それはもちろんいましたけどね。それこそ10代の頃、椎名林檎ちゃんとか好きだったし。『加爾基 精液 栗ノ花』ってアルバムがすごい好きで、よく聴いたりはしましたけど。とはいえ、ずっと同じ作品を聴くようなタイプじゃなくて、何かに熱中するような感じではなかったですね」
――『MUSIC』は、ヒャダインさんとかとの同時代性みたいな部分で語られることもあったと思うんですけど、そのへんを意識したりは?
 「2010年代のアニメだったりゲームだったりだとか、そういうサウンドを入れ込むとすごく面白いものができるんじゃないかと思って作ったアルバムではあるんですけど、どっちかっていうと今回の清 竜人25も含めて、音楽性というよりもコンセプトとか歌のメロディや歌詞が自分の中では重要で。サウンド面に関しては、もちろんどうでもいいわけじゃないんですけど、二の次っていう感覚があって。それこそ『MUSIC』のときも、アレンジを他の人に振ってるし。すべての音を綿密に作りたいんだったら、それこそ6枚目に出した『WORK』っていうアルバムのように全部自分でやっただろうし。そういうのは自分の中で、どうでもよくて。なので、『MUSIC』は音楽的な部分に、ものすごくこだわった作品というわけではないですね」
――『WORK』も異常なアルバムですよね。
 「我に返って“音楽しなきゃ”って思って作ったアルバムで。『MUSIC』を作った後に限定で出した弾き語りアルバム(『KIYOSHI RYUJIN』)があって、あれは自分の大阪の実家にスタッフを呼んで、居間で1週間ぐらいで合宿レコーディングみたいにして作ったんです。それはそれで、もちろん良かったんですけど、作りながら“すげー楽してるな”と思って」
――ダハハハハ! なるほど(笑)。
 「全然仕事してないなと思って。それで、もっとしっかりやんなきゃと思って、『WORK』では全部自分でやりました」
――ちょっとやりすぎた感がありましたけどね(笑)。
 「あ、そうですか(笑)。仕事量としては全部のアレンジもやったんで、大変ではありましたけど楽しかったです」
――毎回、そうやってリセットして試行錯誤して、イチから作ってるわけなんですかね。
 「と思いますけどね。もちろん、まったくテイストが違うものは作れるんですけど、1stアルバムから一本、筋は通ってないといけないかなと毎回、肝に銘じて作ってきたんで。もちろんアルバムごとにコンセプトを作ってやるんですけど、何かしら僕がやってる意味っていうものを見出しながらやるように心掛けてはいます」
――これも単なるファンとしての質問なんですけど、通販限定の弾き語りアルバム『KIYOSHI RYUJIN』の再発はない感じなんですかね?
 「そうですね。いろんな事情があってCDショップにも置けなかったりしたんで。今度ベスト・アルバムが出るんですけど、そのアルバムの中から2曲ぐらい収録されます(※先ごろ発売された『BEST』に〈ぼくはロリータ・コンプレックス〉〈ぼくはバイセクシャル〉が収録)。それこそジャケットを僕が敬愛する立原あゆみ先生に描き下ろしていただいたりして、たくさんの人の手に渡ってもいいなと思うんですけど……」
――いまヤフオク価格1万5000円ぐらいになってますもんね。
 「あ、そうなんですか(笑)。でも、再発はできないと思います」
「アイドルブームに乗っかって女の子を集めてこういう感じで表現したら面白いんじゃないかとか、そういう発想はなくて。自分がしたいことを単純に形にしたという感じです」
――竜人さんが好きなものもそんなに分からなくて。それこそ立原あゆみ先生の『本気!(マジ)』が好きらしいぐらいの認識なんですけど、他に好きな漫画とかありますか?
 「『本気!』が好きすぎて、ほぼ『本気!』しかないぐらいの感じです」
――どうかしてますよ(笑)。あんなに好き嫌いが分かれる作品ないですからね。絵柄の時点でアウトって人が多いのに、それをジャケにするぐらい好きだなんて、どういう人なんだろうっていう。
 「『本気!』はスピンオフ作品とか全部持ってますね。あとはなんだろう……最近、石黒正数さんの『外天楼』っていう漫画を読んで、それは普通に娯楽として面白かったです。ただ、漫画も10代の頃はそれなりに読んでたんですけど、あんまり読まなくなりました」
――他の文化で好きなものというと?
 「一通り好きな時期はあって。それこそ映画が好きな時期もあったし、アニメが好きな時期もあったし。ゲームはそんなにやってないのかな。まあ、だいたいそれなりで終わっちゃうんですよ」
――今は何期なんですか?
 「今は、とにかく食べるのが好きで」
――女の子じゃないですか(笑)。
 「あははは! 文化にあんまり触れてない感じはありますね。でも、今年はお誘いがすごく多くて、多部未華子ちゃんが出てた蜷川幸雄さんの舞台(『わたしを離さないで』)とか舞台をいろいろ観ました。あと、水族館劇場っていう劇団が好きで、その劇団の舞台を観にいったり」
――ちなみに映画ではどういう作品が好きなんですか?
 「映画は邦画が多いですかね。8割ぐらいは邦画かな」
――そこでも『本気(マジ)!』とか言わないですよね(笑)。
 「実写の(笑)。10代の頃は大阪の十三って街に第7芸術劇場っていう小さい映画館があって、そこの空間が好きで、毎日のように通い詰めて映画を観てましたけど。最近だと、『田中さんはラジオ体操をしない』(※30年前、会社に強制された朝のラジオ体操を拒否したために解雇されたため、抗議のため会社の前で毎朝プロテストソングを歌い続ける63歳の田中さんを描いたドキュメント映画)っていう映画があって。オーストラリアからの逆輸入映画なんですけど。監督がオーストラリア人かなんかで、日本人の田中さんっていう人が主役のドキュメンタリー映画で、それは面白かったですね」
――いわゆるハリウッド映画は観ないタイプですか?
 「観ないわけじゃないですけど、いわゆるハリウッド超大作的なものや娯楽映画はあんまり観ないかもしれないですね。あ、でもジャッキー・チェンは好きです」
――これもまた個人的な質問ですけど、小沢健二さんとか好きでした?
 「まったく通ってないんですよ」
――あ、そうなんですか!
 「世代が違うっていうのが一番の理由なんですけど」
――『PEOPLE』は現代の『LIFE』(小沢健二)だと思ってたんですけど、影響ゼロなわけですね(笑)。単純に興味深いんですよ。何を通ってどうなったら、こういう作品ができるんだろうって。
 「この曲を誰々が作ったとか、そういうのに疎くて。だから好きなアーティストを挙げろとか言われると難しいんですけど、でもフュージョンは好きで。自分でコンサートに行くとしたら9割ぐらいはフュージョンのコンサートなんですよ。そのへんはそれなりに通ってはいますね。父親の影響っていうのもあるんですけど、昔、ジョー・サンプルのライヴに連れていってもらったら、すごく良くて。そのへんから音楽への興味が始まったと思うんですけど」
――原点がジョー・サンプル(笑)。
 「原点っていうとおかしいですけど(笑)。フュージョンを漁った時期はありましたね。『WORK』の1曲目の『Zipangu』って曲とか、改めて聴くとフュージョンの匂いを感じるなと思ったりしました」
――岡村靖幸さんと学園祭で対バンされますよね(※2014年11月2日、早稲田祭2014で対バンを果たした)。清 竜人25のライヴで竜人さんが踊りまくる姿を観て感じたのは正直、岡村ちゃんだったんですよ。
 「僕、岡村さんも通ってないんですよね」
――さすがです(笑)。
 「世代が違う邦楽は特に遠かったのかもしれないですね」
――90年代前後の邦楽がごっそり抜け落ちてて。
 「そうだと思いますね」
――その後のアニメソングとかのほうが、よりリアルだったっていう。
 「普通にその時の流行り歌とか、そういうものを聴いてたのかもしれないですね」
――本当に音楽的な掴みどころのなさは凄いですね。
 「そうですか(笑)」
――アイドルに関しては、今までどれぐらいの思い入れがあったんですか?
 「昔から可愛い女の子が好きだったんで、アイドルに限らず、テレビとか雑誌に出てる女の子は好きでしたけど」
――まあ、普通ですもんね、それは。
 「普通か(笑)。特に僕が思春期の時代は、モーニング娘。とかSPEEDの全盛期で、そのへんを月並みに聴いてたりしましたけど。音楽的にアイドルを聴くようになったのはハタチを過ぎてからでしたね」
――どのあたりを聴いてたんですか?
 「昔のアイドル曲とか、それこそ声優アイドルの楽曲に興味が出て、そういうものを聴いてみたら音楽的に優れてるものが多くて、そのへんからアイドル楽曲を聴きはじめました」
――それは仕事で絡むようになってからですか?
 「絡もうかなと思ってからですね。なんか面白そうな音楽やってるなって感じで聴いてました」
――声優はピンキリですけど、いいものは異常にいいですからね。
 「そうなんですよね。変な言い方ですけど、良くできてる作品は非常に優れてますからね」
――可愛い声を出すことの能力があれだけある人たちに本気で可愛い曲を作ったら、本当に凄いことになるんだなっていう。
 「そうですよね。歌が上手いとか下手って次元の話じゃなくて。声に可愛さとか、そういう感情みたいなものを乗せるのがずば抜けて優れてる人たちですから、歌ってるだけで入ってきちゃうっていうのは往々にしてありますね」
――竜人さんの作品を聴いてて、声フェチなのかなと思ったんですよ。子役とデュエットしたのもそうだし、可愛い声にすごく惹かれる人なのかなって。
 「たぶん声フェチだと思いますね」
――堀江由衣さんもそうだし、ねむきゅん(夢眠ねむ / でんぱ組.inc)もそうだし、完全に声が武器の人たちですからね。
 「そうですね。多部未華子ちゃんもそうでしたけど、特に音源なんて声をいかに豊かにできるかっていうところもあると思うんで。そのへんをもしかしたら、自分が思ってる以上に意識してるかもしれないですね」
――特に堀江さんとの相性は最高ですよね。
 「堀江由衣さんって素材を使うと、すごくいいバランスで作品を作れるんですよね。自分の色も出しやすいし、かといって堀江由衣さんの個性もあるんで、そのへんを融合させて作るものが、いい意味でアーティスティックなものになったりして。自分はすごく相性のいい人だなと思ってて」
――すごい足し算だと思いましたからね。「CHILDISH?LOVE?WORLD」をライヴでやるとき、お客さんが「がんばれ!ほっちゃん!」って合唱してる場面を観ると涙腺が緩むぐらいの。「なんだろう、この不思議な感動?」って。
 「あはははは! ああ、そういうのはあるかもしれないですね」
――ねむきゅんに楽曲提供した「あのね…実はわたし、夢眠ねむなんだ…?」も最高で。(※でんぱ組.incシングル「サクラあっぱれーしょん」初回限定 夢眠ねむ盤に収録)。
 「僕、ねむちゃんの曲を書くまで、でんぱ組を聴いたことがなくて。夢眠ねむって名前は知ってましたけど、全然顔も声も知らなくて。だけど、ちょうど清 竜人25のアイデアを考えてたっていうのもあったんで。それも含めて、すごくタイミングのいい時期にお話をいただいて」
――その時点でプランはあったんですね。
 「ありましたね。ここまで明確に考えてはなかったですけど、ゆくゆく、こういうことができたらいいなって。 ねむちゃんから熱い想いももらってたんで、そういうのも含めていいなって。ねむちゃんの曲は電波ソングに偏って作れたんで制作は楽しかったです」
――声フェチだと思ってたから清 竜人25のライヴを観て、そこでも衝撃を受けたんですよ。もっと声優っぽい声の子を集めてるのかと思ったら、そういう子は一人ぐらいで。
 「そうですね。さっきもちょろっと言いましたけど、このグループは音楽的な部分というよりも、コンセプトだったりパフォーマンスだったりっていうものを一番に考えてるんで。それを周りで色づけるものとしてサウンドがあるという発想で」
――竜人さんが考えるアイドルっていうのは、どういうものなんですか?
 「なんでしょうね……(CDジャーナル 2014年10月号の表紙を見て)アイドルといえば大森靖子ちゃんもアイドルだし」
――大森さんはアイドル扱いされることに複雑な思いを抱いてる状況ですね。
 「ああ、そうなんですか(笑)」
――アイドルが好きだって言い続けてたらアイドルのイベントに呼ばれるようになって。そしたら「アイドルだと思ったら可愛くないじゃん」って言われるようになってモヤモヤしてるっていう(笑)。
 「でも、テレビに出てる女の子はみんなアイドルのような気がしますけどね。テレビだけじゃなくて人前で何かやってる人は。それこそアイドル雑誌を開いたら後藤まりこちゃんが載ってるとか、そのへんの敷居がぐちゃってなってる気がしますね。シンガー・ソングライターでも、女の子だとアイドルっぽく扱われますもんね」
――アイドルと名乗れば、だいたいアイドルになれる時代になったと思うんですよ。だから清 竜人25みたいな変則的なグループでもアイドルと言い張ることができるようになったというか。
 「そうですね。言ったもん勝ちみたいな。ただ、最近のアイドル・ブームに乗っかって女の子を集めてこういう感じで表現したら面白いんじゃないかとか、そういう発想はなくて。どちらかというと自分がしたいことを単純に形にしたという感じです。だからといって今のシーンとか時代の流れを無視してるわけじゃなくて。清 竜人25は、もちろんアイドルとしての側面もあると面白いと思うんですけど、アーティスト・グループとしての印象も自分の中では強いと思っていて」
――確かに、もっとアイドル方向に針を振るのかなと思っていたんですよ。
 「もちろん出るイベントとかもそうですし、あとはリリースの仕方とかライヴとか、いろんなことに関わってくる話だとは思うし、どういうバランスで行くのが面白いのかなって日々考えていたんですけど、いざ始めてみると自分が思ってもみない方向に行くことがあったりして。ライヴのリハとかでグループの成長過程を見てて、自分が思ってたよりも全然面白い方向に転んでいきそうだなっていう感覚もあったりして。そのへんのバランスをうまく取れるとカッコよくなるかなと思うんですけど」
――たとえば、アイドル・グループをやる以上、握手会とかガンガンやってみたいとか思ったりしましたか?
 「最初はすごい考えてたんですけど。いわゆるアイドル商法に則ってやっても面白いかなと思ったんですけど、そうじゃなくてもいいなと最近、思いはじめて。アイドルって思った以上にアレンジし易い素材だなって。いろんなものに臨機応変に対応できる感じがあって、そういう意味でも特に型にはめなくてもいいかなって」
――過去曲を清 竜人25で歌ったりするつもりはあるんですか?
 「いや、それはないですね」
――完全に別物?
 「ライヴでメンバーに〈痛いよ〉とか歌わせても面白いかなと思ってるんですけどね(笑)。でも、たぶん昔の曲はやらないと思います。やらないと思うし、やれないと思います」
――大人の事情か何かで?
 「いや、そういう意味じゃなくて、いい形でやれないと思うんで。やるなら意味のある形でやらないとダメだと思うんで、そのビジョンが今は湧かないです」
――よくそこまで切り替えられますよね。
 「なんですかね……また話が戻りますけど、いつでも初恋なんですよ(笑)。昔の男はどうでもいいみたいな感じで」
――こっちとしては全然どうでもよくないんですけど、本人としては「新しい恋人がいるのに、なんで昔の恋人の思い出を反芻しないといけないんだ!」みたいな。
 「そうです。昔の恋を引きずってるっていう女の子の話とか聞いてても全然理解できないんだけど、っていうタイプの女です」
――音楽じゃなくて恋愛だと考えれば納得はできますね(笑)。
 「そうですね(笑)。だから、いつもアルバムが出た後のライヴではアルバムの曲しかやりたくないんですよ」
――毎回、新譜の完全再現ライヴをやりたいタイプ。
 「ホントそうなんですけど、なんせいろんな事情でできなくて。たとえばアルバムの収録時間が30分ぐらいしかないとか。でも、昔の曲は2度とやらなくてもいいなと思ってるぐらいで」
――えー!
 「それぐらいサバサバはしてますね」
――当然、周りはもったいないとか、ファンのためにもやるべきだとか言いますよね。
 「そうですね」
――何の興味もないですか?
 「僕は興味ないです」
――ダハハハハ! すごいなあ(笑)。
 「ウチのスタッフも付き合いは長いので理解してくれてるんで、好き勝手やってって感じですけど」
「毎朝、顔洗って鏡を見るときに3日ぐらい同じ髪型してたら飽きるんですよ。情報番組のキャスターとかも毎日変わればいいのにって思うタイプなんです」
――前に竜人さんがバンドを従えたライヴを観たとき、本当に独特なものを観たなと思ったんですよ。曲と曲との間はひたすら無言で、客に背中を向けてパソコンをいじってる感じで。あれぐらい閉じた表現をやってた人が、いま急にアイドルを従えて活動を始めたことに驚いて。
 「そうですね。基本的に僕はライヴが好きじゃなくて本数もなるべく減らすようにしてるんですけど、今回の清 竜人25や『MUSIC』のときみたいなライヴはすごい楽しいんです。ギター持って3弦の3フレット押さえてみたいな、そういうのが苦手なんですよ。もっと大雑把にやりたいタイプで。だからライヴ・パフォーマンスとしては今のスタイルのほうが自分には向いてますね」
――演奏をやりながら歌うっていうのが楽しくないんですか?
 「たぶんそうだと思います。歌うことがすごく好きな人はそれでエクスタシーを覚えられるのかもしれないですけど、自分はそうじゃないのかもしれない」
――制作のほうがエクスタシーを得られる?
 「っていうか踊ってるほうが好きなのかもしれない」
――そっち(笑)。あそこまで踊れるのも意外だったんですよ。
 「あははは! 何かやってたわけじゃないんですけど」
――自分が主役になるのが苦手とかってありますか?
 「得意です。清 竜人25もそうですけど、自分が主役じゃないと何もやりたくないタイプで」
――グループを始めるって聞いたとき、もっと後ろに引っ込むのかと思ったら想像以上に主役だったんで、これはアイドルなのか?って戸惑いがあったんですよ。
 「あははは! だから性格的にクリエイター向きじゃなくて、家でポチポチやってるのとか、すごい苦手なんですよ。ツメが甘い部分もあるので、それほど得意なほうではなくて。ステージに立ってワーワーギャーギャー言ってるほうが好きなんです」
――やりたくないことはやらないで好きなことだけやってていいって言われたら、どういう活動になります?
 「今回のプロジェクトもそうですけど、大衆性を意識したもの作りは意識すると思います。マニアックなものも好きなんですけど、ノイズとかには行かないと思いますね。歌ものが好きなのかもしれないですね。自分が歌うのは好きじゃないけど」
――そんなに好きじゃないんですか?
 「そうですね。仕事以外で歌うことはないですし、レコーディング・スタジオとステージ以外で歌うっていうことがないですね。鼻歌ぐらいは歌いますけど……歌うのって疲れるから面倒臭いなと思って(笑)。レコーディングもライヴも基本ぶっつけ本番って感じですね」
――自分の考えるアイドル・ソングはこういう曲だとかっていう定義はあるんですか?
 「今のアイドル・ソングって、すごく多様化してると思うんで、なんでもありじゃないですか。可愛い子が歌えばアイドル・ソングになると思うんで。個人的な嗜好としては、もちろんライヴが盛り上がるのはいいと思うんですけど、あんまりライヴのことを考えすぎてない楽曲のほうがいいなと思いますね。ライヴのことを考えすぎると曲自体が弱くなってしまうってことが往々にしてあると思ってて」
――アイドル・ソングってライヴによって完成される曲が多いですよね。
 「それはもちろん、ひとつの形ではあると思うんですけど。たとえばコールを入れやすいBPMとか、そういうことを前提にしちゃうと単純にメロが弱くなっちゃうとか。そのへんはもうちょっとフラットにして作ったほうがいいんじゃないかなと思うことはありますね」
――でんぱ組の『Dear☆Stageへようこそ?』を聴いて、本当にちゃんと研究して作るタイプだなと思いましたけどね。ディアステージに潜入してみることから始まり、勝手に店の女の子との会話を隠し録りして、そのまま曲中で使おうとしたり(笑)。
 「そういうのが好きなんですよね。コンセプチュアルに物事に入っていくっていうのが好きで。何事もどっぷり浸かって、もの作りしたほうが楽しいですから」
――コンセプトを考えてる段階が楽しいからこそ、今回の清 竜人25みたいな活動にも繋がるんでしょうね。
 「そうですね」
――ちなみにアイドル・グループをやりたいって竜人さんが言い出したときの周りの反応はどうだったんですか?
 「いや全然……じゃあ、がんばろっかって」
――皆さん普通に乗ってくれた感じだったんですか(笑)。
 「6人もメンバーを入れるんで、やらなきゃいけないことが山ほどあって会社的にも大変なことだったんですけど、そこは付き合いも長いんで、すごい理解してくれて。いろいろ尽力してくれました」
――周りの理解度はすごいですね。
 「理解してくれる人たちじゃなかったら、たぶん3枚目のアルバムで終わってたかもしれないですね」
――でしょうね。「こっちはこういう路線だと思って契約してるんだよ!」って。
 「ねえ(笑)。生音じゃなかったらダメっていう人も、もしかしたらいたかもしれないですね」
――デビュー早々、CMソングをやったりとか、ちゃんと売る道ができていたはずなのに、よくそこから外れることを許してもらえたなっていう。
 「あははは! でも、手前味噌じゃないですけど、どういう音楽をやるにしろ品質だけは絶対に保たないとなって、プロとしてそこは意識してやってるんで。もちろん会社にプレゼンテーションするときもそうですし。人を説得できるだけの音楽は作らなきゃいけないと思ってるんで」
――そこさえブレなければ大丈夫っていう。
 「と思いますけどね。あとは、デビュー以降、自分の声に関してはそんなに変わってないかなと思ってて。この声で歌ってるからっていう安心感が、たぶんリスナーの人にもあると思うんですけど。それぐらいですかね。でも、声は変わってもいいなと思ってるんですけどね」
――え? ちなみに、自分のモードが変わったとき外見も変わる感じなんですか?
 「毎朝、顔洗って鏡を見るときに3日ぐらい同じ髪型してたら飽きるんですよ。朝のキャスターがいつも一緒みたいな感じで、情報番組のキャスターとかも毎日変わればいいのにって思うタイプなんです。それと同じで自分の見た目も飽き飽きしちゃうから。インタビューとかで、“ルックスも作品ごとにコンセプチュアルに変えてらっしゃるんですか?”って聞かれることが多いんですけど、まったくそういうのじゃなくて、ヴィジュアルとかに関しては本当に気分で変えてるだけで」
――それが、より捉えどころのない雰囲気に繋がってますよね。
 「そうですよね(笑)。いい意味でリンクしてるといいんですけど」
――まったくリンクしてないですもんね(笑)。まとめサイトを作られるレベルでルックスが変わってるのに。
 「あははは!」
――いま清 竜人25がこういう路線だからこういうルックスで、みたいなのは一応決めてはいるんですか?
 「そうですね。前みたいに、作品をリリースしてプロモーションで動いてるのに、いきなり坊主にしちゃうとかだと、それはよくないんで」
――当然、大人として(笑)。
 「そのへんはもちろん考えてやってますけど。変えるにしても各タイトルごとかなっていうのは一応ルールとして思ってます」
――いまは最低限の大人の約束は守れる感じで。
 「昔は守ってなくて(笑)」
――当然、怒られたわけですか(笑)。
 「いろいろありましたね(笑)」
――アーティスト写真とは別人にしか見えない人が取材に現れたりで(笑)。
 「まったく違うみたいな(笑)。そういうことがよくありましたね」
取材・文 / 吉田 豪(2014年10月)
撮影 / 相澤心也
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