mmm、ライヴ感溢れる2ndアルバム『ほーひ』をリリース

mmm   2012/02/09掲載
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2009年に彗星の如く登場した若きシンガー・ソングライター、mmm(ミーマイモー)。卓越したソングライティング、輪郭の立った艶やかさと渋味が共存する独特の歌声もさることながら、特筆すべきはその活動スタイル。どこへでも颯爽と現れるフットワークの軽さは、奔放を通り越して(ポジティヴな意味で)攻撃的とさえ言えます。そんな彼女が傑作と名高い『パヌー』から約3年ぶりとなる2ndフルアルバム『ほーひ』をリリース。アシッド・フォークからGSまで、バラエティ豊かな楽曲群をフワっと包む空気の向こうには、挑戦的なアティテュードが見え隠れ。楽しくも辛辣、シニカルで優しい彼女の“やり方”が詰まったものに仕上がっています。作品について、じっくりと語っていただきました。
――mmmというお名前の起源は何なんでしょう。
 「本名は“萌”っていうんです。大学生の頃かな、酔っ払ってずっと“m”を書いていたことがあったんですけど(笑)、そうしたらなんとなくmmmっていう名前が浮かんで。でも、 “どれにしようかな”の数え歌は英語で“Eeny, meeny, miny, moe”って言うんですよ。それも好きだったからかもしれません。たぶん(笑)。あまり意味はないです」
――音楽は昔から嗜まれていたのですか?
 「小学校低学年の頃、母がピアノの先生をやっていて。家にグランド・ピアノがあったんですよ。小さい頃はそれを弾いたりしていました」
――お家にグランド・ピアノがあったんですね、すごいですね。
 「今はもう無くなっちゃいましたけど……いや、あるわ(笑)。今もある(笑)」
――えっ(笑)。
 「(笑)。ちょっと小ぶりなグランド・ピアノなんですけどね。姉も一緒にピアノを弾いたりしていました。楽譜もその頃に習って読めるようになって。その後5年生くらいになってからフルートをもらって、吹奏楽部に入ったんです」
――吹奏楽部ですか。なんだか想像つかないです。
 「そうですか?フルートは結構しっかり学んだんですよ」
――本気フルート。
 「本気フルートで、本気挫折しました(笑)」
――その挫折は、今のように歌唱を入れた形で演奏するようになったことと何か関係がありますか?
 「中学生の頃カラオケによく行っていて、歌うこと自体は好きだったんです。通っていた高校がアメリカのアートスクールで、フルートで入学したんですけど、最初クラシックだったのが途中で挫折して。ジャズに転向して、ジャズ・フルートで実践の授業ばかり受けていたんですけど、周りは皆テクニシャンばっかりで。挫折が続いている中で、高校3年生のときに友達と組んだバンドで初めて歌ったんです」
――なるほど……。ジャズ・フルートも学ばれていたんですね。かっこいいですよね、ジャズ・フルート。Hubert laws(ヒューバート・ロウズ)みたいな。
 「かっこいいですよね。でもわたしがやっていたのはああいうのじゃなくて、もっと……素朴な音のやつでしたね(笑)」
――フルートは、今どんなところで活かされてますか?
 「今はkitiから出してるoono yuukiさんのバンドとか、王舟バンドなどで吹いてます。4年間くらいフルートを止めていた期間があったんですけど、七針(東京・八丁堀)で知り合ったフジワラサトシくんに“吹いてよ”ってお願いされて。最初は嫌だったんですけど、そこからまた吹くようになったんです」
――高校生のときに組んでいたバンドでは、どんな歌を歌っていたんですか?
 「う〜ん、なんか、音はロックで。歌は、野太い声で歌い上げてる感じでしたね。ちょっとヴィジュアル系?歌い方自体は」
――ヴィジュアル系!? へえ……。
 「すごくおもしろかったですよ」
――mmmとしての今みたいなスタイルはどうやって作っていったんですか?
 「アメリカの高校を卒業して、大学もアメリカの大学に行くつもりだったんですけど、ビザが取れなかったんですよ。それで急遽日本に帰ってこなければならなくなってしまって。本当に急だったからすごく悔しくて。当時の日本に対してあまり良い印象を持っていなかったし。日本に友達もいなかったから、フリマで安いギターを買って弾き語りを始めたんです」
――何故日本に良い印象がなかったのでしょうか。
 「小さい頃から日本を離れて、インターナショナル・スクールに通っていたんですけど、当時は英語が喋れると友達が作れて、英語が喋れないとハブられて。その中でも日本人だけでツルんでる日本人軍団はダサいと思っていて。同族嫌悪って言うんですかね?英語を喋っているほうがクールっていう意識があったんですよね」
――それも現在の感じからすると意外な気がします。mmmさんの曲って、昭和感あるじゃないですか。ガチな昭和ではなくて、フィルターのかかった昭和ではあるんですけど。それは日本への愛着から出てきているものだと思っていたので。
 「そうですね……。それは無意識にですかね。でも、アメリカで過ごした青春時代、自分の中で“日本はきっとこうなんだ”っていう勝手な妄想みたいなものがあって。そこから受けてる影響っていうのはあるかもしれないです。実際、日本に住んでいたら全然違う人になっていただろうから」
――外国の方から見る日本ともまた違うし、不思議ですね。
 「ですね」
――今回のアルバムはそういう“日本の歌もの”という印象がより前面に出ていると思うんですけど、そこもやっぱりあまり意図せずに?
 「うん、今回はこれしか出来なかったから……という感じです」
――前作よりもバンド色が強くなっていますよね。
 「そうですね、前回はプロデューサーの宇波 拓さんが後から音を色々付けてくれていたんですけど、今回はほとんどバンドで一発録りしたので」
――宇波さんとの録音はどんな感じなんですか?HOSEもやられてますけど、個人的に結構『死霊のコンピューター』とかのイメージが強烈で。
 「ほんとに失礼なんですがわたしは彼の音楽をちゃんと聴いてこなかったし、録音がどうとかもよく分からないんですけど……さっぱり、スパっとしてますね。空気が聴こえる感じに録ってくれるし。宇波さんはすごいです。前作からドラムを叩いてくれている下田(温泉)さん、ベースを弾いてくれてる千葉(広樹)さん、今はライヴでも一緒に演奏してますけど、最初は宇波さんが呼んでくれたから出会えたんですよ。『パヌー』のときはお互い全く面識がなくて、どんな人なんだろう?って探り合いながら作っていったんですけど、すごい良いアルバムに仕上げてくれて。天才だなーって思いました。今回トロンボーンの青木タイセイさんも宇波さんが呼んでくれました」
――mmmさんはどちらかと言うと録音よりもライヴを重視されていると思うんですけど、今回はその感じがばっちり出た作品になっていますよね。
 「うんうん。しかも今回、1日でほとんど録ったんですよ。1日で12曲くらい録ったのかな」
――うへえ、すごいですね。
 「うん、録れちゃったんです(笑)。“プッ”っていう感じで」
――『ほーひ』……。
 「まあ、屁……ですね。気持ち的に、曲作ったときは“ペッ”て感じだったし、録音も1日で全部“プッ”て録っちゃって。“放屁”って実際口に出して言ってみたら、言葉の内容の割にすごく気持ち良い音で。皆さんにも、漢字で書いたようにしっかりした感じじゃなくて、(消え行く声で)“ほ〜ひ”ってフワっと発音してほしいんですけど(笑)」
――ジャケットでは全然フワっとしてないですけどね(笑)。ブワー!って感じですよ?
 「そんなことないですよ!そよいでる感じですよ(笑)」
――これは死後さんに注文して出来上がったものなんですか?
 「風、動きがあるものがいいな、と思っていて。死後さんが女性が踊りながらパンチラしてるスケッチを色々見せてくれて、その中からいいな、と思ったものをこういう形で使わせていただいて。そのスケッチは歌詞カードにもたくさん載ってるんですけど」
――mmmさんのライヴ、何度か拝見しているのですが、毎回違った雰囲気ですよね。弾き語りか、バンド編成か、といった違いはあると思うんですけど、今日は機嫌が悪いのかな、とか、今日は楽しそうだな、とか。その時その時のパーソナルだだ漏れでやられている気がするのですが。
 「はい。その時その時の、波で(笑)。そういう事に振り回されない人っていないんじゃないでしょうか。1人でやるのとバンド編成では全然違うね、っていうのはよく言われますね。あとマリアハトっていうバンドをやってたり、最近はアニス&ラカンカっていうデュオもやってるんですけど、それも全然違うねって言われます。自分では、すごいフレキシブルなんだろうな、って思っています。周りに合わせて変えられるというか」
――合わせてる、っていう感じはしないですけどね。やっぱり、人と一緒にやっているほうが楽しいですか?
 「楽しさで言うとそうですね。1人だとどうしても引き篭もりがちだし、お客さんも静かに観るようなライヴになるから緊張感が高いんです。でも弾き語りもバンドも、両方好きですよ。ただ最近はソロでのライヴが多過ぎて、新しい発見をすることが減ってきちゃったんですよ。バンドだと皆の調子で噛み合い方が全然変わってくるから、そういうところも楽しめるので」
――歌を歌い始めた頃に、影響を受けたシンガーとかっていますか?
 「ベタですけど、Janis Joplin(ジャニス・ジョプリン)。あと椎名林檎さん、山崎ハコさん。それから『Reminder』のときのFeist(ファイスト)。大好き」
――椎名林檎さんはちょっと意外かも。彼女は昭和歌謡やGSの雰囲気をよく取り入れてましたけど、そういうところでも影響はあるんでしょうか。
 「うーん、そうかも。かっこいいですよね。あとは歌い方もなのかな。とにかく一番音楽を聴いていた頃によく聴いてました」
――バラエティ豊かな楽曲から、色んな音楽を聴いていらっしゃるんだろうな、と想像しているのですが、最近はどんなものがお気に入りですか?
 「うーん、自分から進んで何か聴くっていうことはあまりなくて……。友達に教えてもらったものをちょっと聴いてみるとか、最近はライヴで一緒になった人たちの音楽を聴くことが多いです。おすすめは、ホライズン山下宅配便とか、名古屋のシラオカっていうバンドとかですね。なんか、男の人って、まあ女の人でもそうなんですけど、ものすごい沢山聴いてて、マニアックな知識を持ってる人とかいると思うんですけど、わたしは浅く広くって感じで」
――今、“ものすごい沢山聴いてて、マニアックな知識を持ってる人”に対して悪意を込めませんでしたか(笑)?
 「あはは(笑)」
――それって、今回のアルバムで唯一英語詞で歌われている「bulk of silly conscious shit, fuck」に通じる感覚なのかな、って思ったんですけど。
 「この曲はすごく自意識過剰だった時に書いたんですけど(笑)、“収集される”っていうことに対して歌っていますね。音源を出して“物になる”ってことは、それを誰かが聴いて、評価して、コレクションして。棚に仕舞い込まれたり、中古レコード屋に売られたりするってことで。“あなたはコレクションをすごく大事にしているけど、その一部にわたしはなり得ますか?”っていう内容で、すごく恥ずかしい歌詞なんですけど……。けど、マニアックな人に対してのモヤっとした嫌悪感ていうのはたぶん、話に全然ついていけないから、つまんねーな、っていうところからだと思う(笑)。本当は色々聴いてみたいんですけど、面倒臭がりなんですよね」
――なるほど(笑)。この「bulk of silly conscious shit, fuck」を聴いたときに考えたのは、こうやってアルバムがリリースされるタイミングに合わせてインタビューを受けることとか、実は意味の無い、嫌なことだったりするんじゃないかな?っていうことなんです。
 「あー!よく分かっていらっしゃる(笑)!いや、でも、インタビューをしていただけるのは嬉しいです」
――レーベル的に、っていうのはもちろん大事だと思うんですけどね(笑)。
 「プロモーションの戦略的にね、あはは(笑)。でもそういう風に聴こえているんですね。今って、CDを出すのってすごく簡単に出来る気がしていて。その中で、良い音源、“プロっぽい”音源を作るのはすごく大変。ライヴのほうが、自分たちの手でもっと簡単に、音源を作るよりは簡単に、臨場感があるものが出来る気がしているんです」
――でも音源を出すのが嫌いってわけではないんですよね。
 「はい。ちゃんと愛されて棚に収めてもらえるなら嬉しいです」
――そのほかの歌詞は、生活感溢れる雰囲気の中に、どことなく物語性を感じます。内容は創作が多いのでしょうか。
 「いえ、ほとんど現実に元ネタがありますよ」
――えっ、「主婦は残酷」っていうことは……。
 「はい。主婦なんです。ひひひ(笑)。もうすぐ2年になります」
――意外ですね!
 「自分でも意外です。うふふ(笑)」
――日常感が楽しい歌詞が多いですよね。
 「うん、でも最近は日常感が出ないやつも作りたいんです。日常感が無いほうが、音楽としては大作が出来るのかな?とか考えていて」
――それは新曲楽しみですね。
 「はい。次もがんばります(笑)」
取材・文・撮影 / 久保田千史(2012年1月)
[live schedule]

■2月12日(日)東京 銀座 ときね
“銀座のノラの物語”

■2月19日(日)京都 木屋町 UrBANGUILD
“キツネの嫁入りpresentsスキマ産業vol.31
〜埋火×mmmダブルレコ発編〜”

■Half Yogurt & Eight Corners presents
“mmm北海道ツアー”
3月2日(金) 旭川 放哉
3月3日(土)札幌 161倉庫
3月4日(日) 札幌 musica hall cafe

■3月9日(金)愛知 名古屋 カフェパルル

■3月10日(土)兵庫 神戸 塩屋 旧グッゲンハイム邸
IKITSUGI / SHOS / HOP KEN 合同企画
(白い汽笛 + mmmとして出演)
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