かねてから、
ももいろクローバーZに興味を持っていたという
ピエール中野が、ついに満を持して、ももクロの現場に初参戦! ブレイク前から
Perfumeの現場に足繁く通うなど、ハードコアなPerfumeヲタとしても知られているピエール中野(そのあたりの詳細は、10月に掲載された
吉田豪との対談を参照)。今、最もエモいライヴを繰り広げる週末ヒロインたちの姿は一体、彼の目にどのように映ったのだろう。
2011年のクリスマスはももクロと過ごすことに決めた。少し早めに会場へ到着し、周辺を散策。 一見アイドル好きには見えないお客さんが圧倒的に多かったのが印象的だった。 コスプレや大行列のグッズ売り場、売出し中のアイドルのビラ配りなどを確認して、入り口へ向かい列に並んだ。寒空の中、開場は1時間半押し。一緒に並んでいた友人と「
X JAPANは雨の中2時間半押しで、演奏は1時間半、ドラムソロもXジャンプも無くて最後の曲では途中で倒れて終わりで凄かったよね」という話で盛り上がっていた。そんな中、ももクロのお客さんから「ピエールさんは誰推しなんですか!?」とテンション高めに聞かれたので、正直に「ライヴは今日が初めてなんです。誰推しとかもなく来たんですけど、噂はよく耳にしていたので楽しみなんです」と伝える。彼らは「それは来てくれてありがとうございます! 素晴らしいパフォーマンスをしてくれるので楽しんでいってくださいね!」と笑顔で返してくれた。ももクロファンは優しい。いわゆるアイドルの現場にある“初心者には敷居が高い”というイメージの雰囲気はないし、居心地も良くて落ち着く。自分の周りにはPerfumeとももクロのどちらも大好きという人が多いので、客層も近いのかもしれない。昔から知っている詳しい人が初心者や新しく参加する人に優しくしてくれるのは「もう一度観たい」「もっと知りたい」と思わせる大事なポイントだと思うし、ファンもアイドルの印象を左右する大事な役割を担っているのだと実感した。
僕がももクロの存在を初めて知ったのはアイドル好きな友人の一人がtwitterで紹介していた「ももいろパンチ」のMVだった。
北川景子らが所属し、俳優を中心に展開する大手芸能事務所スターダストプロモーションが本格的にアイドル・グループを売りだそうとしていることで注目されていた。ルックス、ダンス、歌唱力、衣装など、どれをとってもクオリティが高かったのだが、僕の中では気になる存在という程度で止まっていた。友人や音楽サイトがツイートをすればチェックしていたし、活動が活発になるほど周りにもファンが増えて薦められる機会が多くなった。良い評判や噂を沢山耳にするようになって、例えば現場でファンが「ここはもっとこうした方が良いのでは?」とスタッフに提案すると、すぐにそのアイデアを取り入れるなど、何よりライヴがとにかく凄いから一度は観てほしいといろんな人に言われるようになった。
ももクロのメンバーはしっかりとアイドルで在り続け、仕掛ける側の大人があらゆるエンタテインメントの面白い要素を取り込み、プロレスのように展開してくれるので活動にまったく飽きがこない。
氣志團や
神聖かまってちゃん、
9mm Parabellum Bulletとの対バンも行なったし、日本最大規模のメタル・フェスへの出演や、バラエティ番組への取り組みも積極的だ。大人の展開するムチャぶりの面は大きな魅力ではあるのだけど、ももクロ自身はアイドルで、ただひたすら与えられた難題(ムチャぶり)に全力で挑戦していくスポ根や部活の世界を繰り広げていた。ライヴのMCもオラオラな体育会系だった。特に
しおりんの「いいかお前ら!」はX JAPANでいうところの「お前ら気合入れていけコラッ!」に通ずるものを感じた。受け手側のテンションの上がり具合も含め、これは一緒だと思った。Xといえば、ももいろクローバーZの「Z」と“サイケデリック・バイオレンス・クライム・オブ・ヴィジュアル・ショック・ウィーアーX”の「X」にも共通の昂りを感じる。アルファベット一文字で会場が一つになれる。Xファンである僕はZの瞬間にXをダブらせていた。ももクロはきっとそうやって観る側のバックボーン、つまり、懐かしい昭和や90年代のエンタテインメントだったり、追っかけてきたアイドルだったりを彷彿とさせる楽しみ方を、各個人(ファンだけでなく、スタッフ、関係者も含む)の内側から引き出し、楽しませてくれる存在でもあるのだろう。基本はアイドルなのだけど、川上マネージャーを筆頭とした仕掛ける側は大人の悪ふざけ、バラエティで言えば『ゴッドタン』、こんなことやったら絶対面白いからやってみようということを何の躊躇いもなく実現(ムチャぶり)させていく。それに対立、反発しながらも、大人との戦いをテーマに掲げ、アイドルであることを保ち続けるももクロのメンバー。さらにこの図式をプロレス的なフォーマットに納め、分かり易くエンタテインメント化していく。これは口コミになりやすいし、一度観た人が惹かれるのは自然なことだろう。
一応、ライヴレポとしてのオファーなのでライヴの様子も紹介しておくと、場内はステージとは別に実況席が設けてあり、リングアナの司会進行、アイドル界隈では絶大な信頼を受けている
南海キャンディーズの
山里亮太、今日が初見だという
バナナマンの二人、ももクロのマネージャーで“対立する大人”代表の川上マネージャーの計五名がスタンバイ。開場から開演前、衣装替えでメンバーがステージからいなくなったときにスポットライトが当たって解説をしていた。衣装替えのときに『ASAYAN』(モー娘。を生み出したり、小室ブームを牽引した伝説といえる番組)のような作りの告知ムービーを交えていくスタイル。4月に行なわれる横浜アリーナ2daysもこの告知ムービーで発表となったのだが、メンバーもこのライヴ中、お客さんと同時に知ることになる。詳しい人に聞いたらいつもこんな感じで本人達が知らない間にスケジュールが決まって、お客さんに告知すると同時にメンバーも知るという流れが定番になっているそうだ。当然、メンバーは呆気に取られている。「有り得ない!」と川上マネージャーにそのやり場のない思いをぶつけ、でも、ぶっちゃけ横浜アリーナ2daysは嬉しいと受け入れていた。大人の言うことには反抗しつつ、受け入れていく、大人の言うことは大体正しいことを知っているようだ。MVが可愛いと話題になった「サンタさん」では曲中メンバーによる大掛かりな本格的マジックショーが行われて予備知識が無くても観ていて楽しめる場面が展開された。 終盤では元
メガデスのギタリストである
マーティー・フリードマンが登場。新曲でギター・ソロを弾き倒して、そのままキラー・チューンである「行くぜっ!怪盗少女」をコラボで披露した。 ライヴ自体は噂以上に全力で、お客さんの高揚感や雰囲気は規模は違えどPerfumeがブレイクする前の、ちょうどリキッドルームでライヴをしていた頃によく似ていると感じた。これから国民的アイドルになっていくのか、それとも、この路線を拡大して突っ走っていくのか。本人達や川上マネージャーは紅白を目指して大きくなっていきたいと明言しているので、やはり、目標は国民的アイドルなのだろう。下地は十分過ぎるくらい出来ているし、これからどんな活動を展開していくのかによってどこにでも行けそうな気がする。それくらい魅力的な要素が多くあるアイドルだからだ。
クリスマス・ライヴを一度観てからはCDの聴こえ方も変わったし、帰宅してすぐにライヴDVDを注文した。この文章を読んでる人の中でももいろクローバーZの噂をよく聞いていて、ちょっとでも気になっているという人は絶対にチェックしておいた方がいい。とにかくライヴ会場へ足を運ぼう。想像を超えるクオリティと楽しめる方向性があらゆる角度であるので、きっとどこかにひっかかるはず。あらゆるエンタテインメントと僕らの思い出を引き出し増幅させる物凄いアイドル。“全力”をテーマに圧倒的な速度で多感な時期を駆け抜けているももいろクローバーZは幾多の困難を乗り越え、アイドルとしても人間としても大きく成長し続けていく物語。活動をすればする程、振り返ったときの思い出は大きく強くなる。リアルタイムでこの物語に参加をして、共有していくのは今からでも遅くはないだろう。
文/ピエール中野