3月にリリースした1stアルバム
『魔法が使えないなら死にたい』 がネットを中心に話題を集め、レーベル無所属のまま行なった渋谷クラブクアトロでのワンマンライヴが見事に大成功を収め、その勢いを駆り〈Tokyo Idol Festival 2013〉への出演を果たし、さらには写真週刊誌『FRIDAY』での連載もスタートさせるなど、本人いわく“無双モード”で快進撃を続けてきた2013年の
大森靖子 。そんな彼女が
カーネーション の
直枝政広 をプロデューサーに迎えた2ndアルバム
『絶対少女』 を発表。今最も注目すべき存在である彼女に、プロインタビュアー
吉田豪 が直撃! 新作はもちろん、自らと音楽との関係、ほとばしる
道重さゆみ 愛など、徹底的に語っていただきました。前・後編2週連続でお届けします!
いろんな界隈に出てると、いろんな風に知った人がいるじゃないですか。 だからアイドルだと本気で思われてたりとか。 そういうのでビックリすることが増えました。
「この前は道重さんのインタビュー原稿、ありがとうございました!」
――ああ、ボクがやった道重さゆみさんのインタビュー原稿を送ってあげたら、“!!!!!!!!!!!!!!!!!ありがとうございます!!!!!ありがとうございます!!!!!!!!!!!!!!!ありがとうございますありがとうございます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!”って、ものすごいテンションの返事が届いたんですけど(笑)。そんなふうに何かあげたくなるくらい大森さんのニューアルバムが良かったんですよ。
「やったー。ありがとうございます! 直枝(政広)さんのおかげです」
――今回の作品は、これまでとどういう変化があったんですか?
「自分の苦手なところは直枝さんにやってもらおうっていう」
――その結果、かなりキレイな音作りになってましたよね。
「そうです。そのくらいですかね」
――正直、ライヴCDを聴いた方が伝わるよなっていう思いがあって。これはボクの持論なんですけど、大森さんとアップアップガールズ(仮) の共通点はライヴがいちばんいいっていうことなんですよ。 「そうですね。それは自分でも思ってて」
――思ってたんですか(笑)。音源だと魅力がそこまで伝わらないなって。
「それをどうしようと思って。それで音をキレイに録れてアレンジが上手い人にプロデュースを頼もうっていう結論で直枝さんにお願いしたんですけど。もともとCDを出すこと自体にそこまで興味がなくて」
――あ、そうなんですか?
「CDを出して有名になりたいっていうところはあるんですけど、過去の録音物が残るのとか嫌で。写真とかもgoogle検索でブスな顔とか出てくるの怖いじゃないですか。それと一緒で、後で聴いて、“うわぁ恥ずかしい!”ってなるのが怖いんですよ。だから、あまり好きじゃなくて」
――ライヴの動画とかが残るのはいいんですか?
「あれも結構嫌です。でも、有名になりたいからしょうがないかって」
――ダハハハハ! なるほど(笑)。
「この角度はブスなのになぁとか思いながら、あんまり見ないようにしてます」
――なるべく写真はバシっと決まってるアー写を使ってほしいぐらいの。
「あとは自撮りとか、自分がコントロールできる範囲内のものがいいんですけど」
――道重さゆみさんのブログの自撮りに近い感じですね。完璧なものが撮れるまでに大量に撮ってるうちに、誰が撮るよりも上手くなっちゃって。
「そうですね(笑)。それだけを見てほしい」
――CDもそういう複雑な思いで作ってきて。
「そうです。今回は直枝さんにちゃんとやってもらえたんでよかったなって」
――完璧なプロデュースですよね。かわいい部分はよりかわいく、むき出しな部分はよりむき出しになってて。
「はい。初めて自分で聴きたいCDだなって」
――今まではそう思ってなかったんですね(笑)。
「そうですね。今まではそんなに聴き直すこともなくて」
――正直、大森さんと初めて会ったときに『PINK』 を渡されそうになって、「いや、もう買いました! 持ってます!」って言ったんですけど、実は聴いてもあんまりピンときてなかったんです。 「私も聴き直してないです」
――えー! じゃあ、ライヴは自信あるんですか?
「ライヴは割と自信あります」
――何が違うんですか?
「即興っていうか、その場で反応を見て変えられるじゃないですか。弾き語りだから一人だし、セットリストとかも決めてないし。でも、CDだと反応が見えないじゃないですか。それが怖いです」
――どういう思いで聴かれてるのかわからないのが。
「嫌な顔されても、その顔が見えれば別に“まぁ嫌だよね”って思いながらできるんですけど。見えない人の反応っていうのは怖い」
――反応がとにかく気になるんですね。だからこそネットのエゴサーチも大好きなんでしょうけど、最近反応が良くなってるのは実感します?
「そうですね。でも、いろんな界隈に出てると、いろんな風に知った人がいるじゃないですか。だからアイドルだと本気で思われてたりとか」
――Twitterとかで結構ありますよね。「吉田豪が推してたから、あんまり好きなアイドルじゃなかったけど聴いてみた」みたいなのがこの前あって。
「そうそう(笑)。そういうのでビックリすることが増えました」
――アイドルが好きだとは散々言ってるけど。
「自分がアイドルだなんて一回も言ったことないはずなのに(笑)」
――アイドルと共演しても居心地悪そうな顔してるのに。
「ほんと居心地悪いですよ(笑)。“すいません! すいません!”と思いながら。楽屋は楽しいですけど、ステージは全然もう。“なんでここにいるんだろう?”って(笑)」
――そういうおかしな状況になってきてることは楽しいですか?
「はい。戸惑いつつ。アイドル・イベントで豪さんがいたら安心するぐらいの感じで。自分と近い人間がいるって」
――ああ、〈ミスiD2014〉の前夜祭(4月18日、渋谷O-EAST)のときは完全にどアウェイでしたもんね。かわいいモデルとアイドルしかいない現場で。
「アウェイですよ! まぁ、でも何か言われるのはわかってたんで。言われたら言われたでムカつくんですけど(笑)。“何言ってやろうか?”ってずっと考えてて」
――あのときはボクもアウェイだったから、大森さんがいて助かったんですよ。
「ほんとですか?」
――男がボクしかいないから、“同じぐらい浮いてる人がいた!”みたいな(笑)。
「あれ、アイドルのコンテストにしては異端的な子を選んでるはずのイベントじゃないですか。でも、やっぱり自分はさらに浮くんだっていうのがちょっとありました」
――変わり者大集合のはずなのに。
「まだ浮くんだって(笑)。やっぱりほんとにダメなんだってショックでした」
――〈Tokyo Idol Festival 2013〉は馴染めましたか? 出る前はすごいテンション上がってましたけど。
「そうですね。でも、特に馴染めることもなく。アイドルっていう前に女子の集団じゃないですか。集団でいる女子が苦手だということを忘れていて」
――なるほど(笑)。グループ・アイドルは好きだけど。
「集団の女子に入ることができなかった過去を忘れていて、それを思い出してしまいました。格上アイドル以外は大部屋だったんで、自分の控室もそこで。そういう人がいっぱいいて、場所も取れずに端っこにいて。そしたら、バンもん!(
バンドじゃないもん! )のみさこちゃんが知り合いだったんで、おいでよみたいな感じで(笑)。すごい助かりました」
――去年ボクもhy4_4yh に「ここで休んでってください」とか言われて大部屋に案内されたとき、ここは居場所ないわって思いました。そもそも席が足りないし男が全然いないから、ここにいられるわけないじゃん!って。 「リハのときもそういう感じで。場所が余ってたんですよ。それで使われてない端っこのほうでひとりで練習してたら、アップアップガールズ(仮)のみんなが来て、“大森さーん! なんでこんなところにいるんですか!”って。なんて優しいんだろうって泣きそうになって(笑)」
――あの人たちは自分たちも虐げられてきたから、弱者に優しいんですよ。
「そうそう!」
(道重さゆみの歴史をファンがまとめた動画を見て) BGMがサカナクションだったんですよ。それがすごい良くて、悔しくて。 私のほうが道重さんのこと好きなのに!
――大森さんがアイドルとコラボするときのスタンスも不思議じゃないですか。BiS とのコラボでも一緒に踊ってましたけど、まさかアップアップガールズ(仮)と一緒に「アッパーカット!」をキッチリ踊るとは思わなかったです。 「やるからにはちゃんとやらないとって練習したんですけど、普段、踊ったりとかしないじゃないですか。運動もしないし」
VIDEO
――前に取材したときは「BiSだったら踊れるけどアップアップは無理!」って言ってましたよね(笑)。
「やれっていわれたからにはやらなきゃと思って練習して。これで痩せると思ったんですよ」
――ダイエット効果ありそうですよね(笑)。
「痩せるかなと思ったら、普段運動してないから全身の筋肉がパンパンになって。本番のとき、すごいパンパンでステージに出なきゃいけなくなって」
――痩せるどころかレスラーがパンプアップしたような状態で(笑)。〈TIF〉のときにも思いましたけど、大森さんのライヴを観て「なんだコレは!?」って絶句してる人の多さがおもしろくて。
「そうですね(笑)」
――あれは運営側も仕掛けてますもんね。アイドルのフェスに後藤まりこ さんと大森さんを呼ぶのは最初から絶句させようとしてるわけで。 「アイドルについてるファンはボーっとしますよね」
――あと、アイドルが絶句してるのを見てるのがおもしろかったんです。これ絶対、悪い影響与えるだろうなって(笑)。将来、自己表現したい欲とかが芽生えるんじゃないかって。
「アイドルの子に“好きです”って言ってもらえることとか最近増えて。ほんとに申し訳ない気持ちでいっぱいです。“知っちゃダメです!”みたいな」
――こっち側には来ないほうがいいですと(笑)。でも、最近はいろいろ絡みはじめてるんじゃないんですか? 曲を作ったりとか。
――それならセーフですね。純アイドルには、あまり踏み込みたくないですか?
「それなりにキレイな曲を作る自信はありますけど」
――道重さんに捧げる曲とか作ってるわけですからね。
「よくYouTubeかでファンの人が作る映像とかあるじゃないですか。デビューからの歴史をまとめたみたいな。あれの道重さんバージョンがあって、BGMが
サカナクション だったんですよ。それがすごい良くて、悔しくて。私のほうが道重さんのこと好きなのに!」
――ダハハハハ! サカナクションは道重さんのことをまず好きじゃないですからね(笑)。
「だから私の曲で作って欲しいと思って。私の曲だったら何がいいかなと考えたときに、“ない! 作らなきゃ!”と思ったんです(笑)」
――そんな理由!
「私よりもさゆみんのことを良く見せてる人がいると悔しいっていう」
――『ミッドナイト清純異性交遊』が道重さんに捧げた曲なんですよね。
「はい。道重さんのいいところをノートに100コぐらい書いて作りました」
――基本、道重さんに向けた電波は常に出してるじゃないですか。ライナーとかでも。
「ずっと出してますね」
――本人に聴いてほしいっていう気持ちはあるんですか?
「いや、道重さんファンと私のファンって、まったく客層が違うじゃないですか。だから、私のファンの人に道重さんの良さを伝えようと思って」
――啓蒙活動なんですね。
「私のファンの人が道重さんのブログとか見てくれたりするんですよ。そういう活動をしています」
――なるほど。良かれと思って。
「はい。でも、不利益も与えるかもしれない(笑)。こんなヤツがいいって言ってるみたいな」
――そのうち道重さんにも届くんじゃないですかね。道重さん、あんまり音楽は聴かなそうですけど。
「そうですね。音楽とか興味ないみたいなことを言ってて。全然それでいいです!」
「私も結構そうなんで。家でハロプロの動画をずっと見てるんで」
――ハロプロ以外で音楽的な興味とかは?
「そこまではないですね。他のミュージシャンほどは絶対ないです」
――ハロプロという柱がドンとある。
「だって、かわいいし(あっさりと)」
――ダハハハハ! ミュージシャンで、そこまでかわいい人ってあまりいないですもんね。
「かわいい人が歌ってるほうがいいじゃん、みたいな」
――ルックスも音楽性も全部揃ってるほうがいいですもんね。
「最近は普通に音楽家とかがいい曲を提供したりしてるから、そこも足りてきたっていうか」
――ライヴのときの大森さんのスタンスにも興味あるんですけど、大森さんって、ライヴ中にお客さんが雑談してたりするとケンカを売るじゃないですか。
「そうですね。弾き語りは音がちっちゃいんで。……でも、これは言ったら叩かれると思って今まで言わなかったんですけど、自分が観てるときは結構喋るんですよ(笑)」
――ダハハハハ! 人のライヴを観てるときに?
「“髪型ちょっと変じゃね?”とか結構喋るんですよ(笑)」
――ステージに立ってる人をいじる感じで(笑)。
「そうやって喋りながら楽しみたいっていうか。でも、自分のときには喋られたくないっていう(笑)」
――最悪じゃないですか(笑)。たぶん、アイドルファンって自分が推してないグループのときは最前列を譲り合ったりするけど、バンドのファンってそのまま最前列に陣取って平気で喋るから、それに怒ってるのかと思って。
「そうですね。私は別にいいんですけど、ファンの人は“今日のライヴはあいつらのせいでクソだった”とか怒るじゃないですか。お金を払って来てるのにかわいそうだなって」
――じゃあ自分が代わりにケンカを売ろう、と。
「やっぱり自分のファンが一番大事なので」
――この前、コラボもやるって噂を聞いて奇形児 との対バン企画(11月3日、四谷OUTBREAK!にて行なわれた〈奇形児ワンマン・痺れ肉棒絶倫注射の夜vol.4〉)を観にいったら、ライヴ中に喋っていた最前列の女性客に対して「死ねババァ!」って叫びながら大森さんがフロアに乗り込んでくるっていうコラボで爆笑しましたからね(笑)。 「おもしろかったですけどね(笑)。30年ライヴハウスにいるとこうなるんだなって。打ち上げとかすごくて。(その客が)YASUさんにおっぱいくっつけたりしてて、“うわー! すごいもの見ちゃった!”みたいな」
――そういうものに対してストレートに感情を出せるのってなんなんだろうと思ってたんですけど、お客さんのためなんですね。ご自分では怒ってるんですか?
「多少はイラっとしますけどね」
――ライヴ中、すごく曲に入りこむじゃないですか。あれはどのくらいガチなのかなぁとも思ってて。演劇的な感覚でもあるんですか?
「演劇的感覚ですけど、憑依してるみたいな。自分っていうのがいらなくて。だからコラボとかもできるんですよ。歌詞とかも適当にキャラを作って、その歌詞に引きずられていくみたいな感じで書いてて。それを歌いながらお客さんの表情とか見て、“この曲はこういう感じなんだ”って感じでやってるから」
――そんな他人事な感じなんですか?
「割とそうですね。だから、道重さんの曲を書こうって思ったときもそうで」
――いくらでもかわいいモードになれる。
「そっちのほうが簡単というか。簡単ではないけど、ちゃんと書ける」
――今まで歌詞の世界は全部大森さんそのものだと誤解されてきたと思うんですけど。
「そのものというか、殺人事件と、絵描きの話と、日本のタブーみたいな本が好きなんですけど。あとは豪さんが書いてるような芸能記事とか(笑)。週刊誌とかああいう下世話な感じのものが好きなんです。そういうのを見て、そのキャラに自分を入れ込むっていうのが多いですね」
――全然本人じゃないっていうか、そういうものに興味があるのは事実だけど、別のキャラを演じていて。
「でも、興味がある時点で自分と繋がってる部分もあると思いますけどね」
――大森さんについて最初、おっぱいパブ勤務っていう噂が流れてて。
「ははは、その話(笑)」
――実際、働いてはいたけど、おっぱいを出してた側じゃないんですよね。
「詳しいですね。バイト募集に居酒屋って書いてあって、受けたらおっパブだったんですけど(笑)」
――やけに時給いいな、みたいな(笑)。
「そうそう。仕事はお店のボーイだったんですけど。意外におっパブで働いてる女の子、かわいいからいいやと思って。でも、お気に入りの女の子とかも出来るじゃないですか。女の子のことを大事にして、女の子のおっぱい揉みたいと思って来てくれるお客さんはいい人が多いんですけど、打ち上げとか接待とかで来る人は嫌な人が多くて。そういう人が自分の好きな女の子にあたって、がっつかれてるのとか見ると悲しくなっちゃって。“向いてない!”と思って辞めました」
――あんまり思い入れを持ちすぎてもいけない商売ですからね。もっとビジネスライクにいかないと。
「“あんなかわいい子が! ごめん!”みたいな気持ちになって。おっパブのなかでも推しメンみたいな気持ちになっちゃて。この子はあんまり好きじゃないとか、この子は好きだからいいお客さんをあててあげたいみたいな」
――そこまでの力はあるんですか?
「ちょっとだけ。そういう感じで病んでいっちゃって辞めました」
――おっぱいパブで働いてた側くらいに思われてるけど、変に感情移入しながら冷静な目で見てた側なんだなっていうのが、大森さんを象徴するエピソードだなと思って。ライヴはどんなジャンルに出ても気にしない感じですか?
「気にしないですけど、単純にやりすぎかなっていう。何回も同じ人とやってたりすると飽きちゃう」
――しばらくは、あえて数やるのがテーマだったと思うんですよ。
「いろんな人とどこでもやろう、みたいな感じだったので。また一緒かみたいなのは最近、避けてまして」
――それこそパンク、ヒップホップ、アイドルと、ジャンルにこだわらずやり続けて。
「楽しかったです」
――どこでも違和感は残せてましたよね。「なんだあれ?」っていう。
「楽ですよね(笑)。全然違うとこにいったら、新しいヤツがきたって思ってもらえるから」
――そういう浮かれない感じ、冷静な感じっていうのはなんですかね?
「ずっとうまくいかない時期が長かったから、簡単に浮かれられないんですよ」
――でも最近、明らかにいい流れが来てる感があるじゃないですか。
「いや、モーニング娘。の方がいい流れが来てるんで」
――あ、そうか(笑)。
「そこに辿り着きたくてやってるのに」
――活動が順調になってきてそろそろ辿り着けると思ったら、向こうもさらにいい流れに乗りはじめて(笑)。
「早く同じぐらいの人気になって、持ち上げたりとか、一緒に仕事したりできるようになりたいのに。モーニング娘。が売れてくれるのは嬉しいんですけど」
『ミュージック・マガジン』とか、すごい私のこと嫌いだろうなと思います。 そういう人に嫌われて然るべきだと思ってやってきてて。
――最初に話したとき印象に残ってるのが、“吉田さん、『情熱大陸』にさゆを出してたじゃないですか! あの立場の人がとにかく羨ましいんです!”って言ってたことで(笑)。
「そう! 羨ましいんです。その力があればって。私の力で道重さんをテレビに出してあげられるようになりたい」
――アイドル好きっていうのをこれだけ前面に出してると、プラスになることも増えるんじゃないですか?
「でも最近、“アイドル好きアイドル”みたいな人、結構いるじゃないですか。だから全然新しいことでもなんでもなくて。アイドル好きアイドルっていうのは、やめたほうがいいと思います。全然利点がない。アイドル好きアイドルは、その時点で自分は格下だって言っちゃってる感じがして。“私かわいくないです”って言ってる女の子みたいな。“私ブスだから”って言って、かわいいって言われたい女の子みたいな」
――そういうややこしいものを感じるわけですか。
「そういう感じをちょっと受けちゃうんで」
『HELLO! PROJECT COMPLETE SINGLE BOOK』
――最近発売されたハロプロのムック(『HELLO! PROJECT COMPLETE SINGLE BOOK』)とか、ああいうオフィシャル本に呼ばれるようになったことはどう思います?
「プーちゃん(
プー・ルイ / BiS)と私の対談で。プーちゃんプラチナ期の話しかしないから。私は道重さんの話しかしないけど、他のことも知ってるんでそっちにも合わせられるじゃないですか。でも、プーちゃんはマジでプラチナしか知らないから、基本、私は道重さんかわいいしか言わなくて、プーちゃんは愛ちゃん(
高橋愛 )最高みたいな」
――まったく噛み合ってないわけですね(笑)。
「まったく噛み合わず1時間くらい喋ってました(笑)」
――なんでそこまで道重愛をこじらせることになっちゃったんですかね?
「なんでですかね? 絶妙に近い部分があるっていうか。近すぎるとダメだけど、たまに共感できる部分をちょっとずつちょっとずつ出してくれるところとか」
――人間関係があんまりうまくない感じとか。
「そう。あんなにテレビに出てるのに、ひとりも芸能人のお友達ができなかったじゃないですか」
「そうそうそうそう。ももちはあんなに、壇蜜さんとかともガッチリ上手くいったりしてるのに」
「でも、道重さんは芸能人の友達がゼロっていう。超好感持てますよ(笑)」
――それでも不器用ながらに戦ってる感じが美しいんですよね。
「どんなに美しくなっても、まあ、ずっと今が一番美しい状態ですけど、なんかダメなオーラがあるじゃないですか。そこに惹かれちゃう」
――お姉ちゃんくらいしか友達がいない感じとか。
「“友達いらないです”って、絶対強がってるじゃないですか。“絵里(
亀井絵里 )とお姉ちゃんがいればいいです”とか言って。そんなわけないでしょ、みたいな(笑)。かわいい!」
――私が友達になりたいまではいかない?
「いかないですね、全然」
――“私が曲作りたい”は?
「それはあります。あるけど、モーニング娘。であるうちはいいです。ハロプロ内にいるうちは」
「そう! そういうのやるんだったら、もう他の人はやらないでほしいくらいの気持ちはあります」
――“私が一番上手くプロデュースできるはずだ!”みたいな。
「そうですね」
――絶対ソロで歌うべき人だと思うんですよね。
「そう! 何を歌っても道重さんになるから。そういうのって、私もそうですけど、ミュージシャンが目指す理想像じゃないですか。どんなタイプの曲をやっても自分の色にできるみたいな。そういう才能が欲しいと思ってみんなやってるのに、最初から持ってる。天才だと思うんですよ」
――大森さんは持ってるほうじゃないんですか?
「得てきたとは思ってるんですけど、最初からはなかったですね」
――それが、やってるうちに得てきた?
「でも、私のやり方は消去法なんですよ。“この歌い方はこの人がやってるからこれはいいや”とか、“この高さの声の人で今、売れてる人がいない”とか」
――そんな計算で成り立ってるんですか!
「はい。結構消去法でやってるんで。道重さんはそうじゃなくて最初からできてるんで、羨ましくてしょうがないです。オーディションのときから
つんく♂ さんが“芸術家だ”って言ってたじゃないですか。ほんとにそれは思ってて」
――大森さんが理詰めでやってるのは興味深いですね。ネットの原稿で、椎名林檎 に似てる的なことを言われることに対する憤りを書いてましたけど、それは当然モヤモヤする? 『魔法が使えなかったら死にたい』
「モヤモヤするっているより、しょうもないなって。ただそれだけです。前のアルバム(『魔法が使えないなら死にたい』)を出したときも、レコ評とかで、椎名林檎っぽいみたいなこと書いてあって、その横にオマージュのジャケ(『魔法が〜』は椎名林檎『勝訴ストリップ』のオマージュ)が載ってたら、ライターの人、超バカっぽいじゃないですか(笑)」
――罠としてのジャケだったんですね(笑)。
「それを予測して、馬鹿馬鹿しい図を見たいっていうので、あのジャケットにしたんですけど。あとは、追悼。“●●っぽいとか言うのもうやめようよ”みたいな。女子がかわいそうですよね」
――情念が入った系の女の子のシンガー・ソングライターだと、その枠には入れられやすいじゃないですか。最近でも黒木渚 とか聴いたら、まずそれが浮かんじゃいますもんね。 「そうですね。まぁしょうがないですけどね。そういう風に売ってるし」
――でも大森さん、声の感じは椎名林檎というよりも、むしろYUKI の方が近いと思うんですよね。 「最近、そういう声の人がいないんで。ほんとは声、低いんですよ」
――だけど高い人がいないから、わざとそういう風にして。もともと、こういう音楽をやりたいっていう明確なビジョンはあったんですか?
「ないです。もともと、何かやりたいってだけで東京に来たんで」
――「有名になりたい!」みたいな。
「音楽やるとかも決めずに、“東京カッコイイ!”みたいな感じで来てるんで。それには音楽が手っ取り早いみたいな」
――そんな理由!
「もともと絵を描いてたんですけど、展示していっぱい作品溜めてみたいなのをやってると、もう遅くて。何十年もかかるんで」
――美術の世界で成り上がるのは大変ですもんね。
「でも、音楽なら歌ったらすぐ聴こえるんで。楽。まぁ楽ではないですけど、早い」
――ライヴ活動もしやすいですね。
「っていうので音楽にしたっていうだけなんで」
――そこに深い意味はない?
「そう(笑)。でも、音楽は向いてます。ライヴ好きだし」
――向いてるのは間違いないですね。でも、音楽への思い入れのなさが凄いですよ(笑)。
「だから嫌われて然るべきとは思ってます」
――「お前、そんなに音楽好きじゃないだろ!」って。
「『ミュージック・マガジン』とか、すごい私のこと嫌いだろうなと思います。そういう人に嫌われて然るべきだと思ってやってきてて」
――ダハハハハ! 中村とうようさんが生きてたら0点つけててもおかしくないくらいの(笑)。
「つけてほしいくらいのつもりでやってたんで。直枝さんを使うっていうことのイヤらしさとか」
――「コイツ、あざといよ!」くらいの感じで叩いてほしい?
「はい」
――音楽愛よりもハロプロ愛の方が強いわけですもんね。
「強いですね。男子とかって、CDをコレクションしたりして音楽に詳しいじゃないですか。あれに勝てるわけないっていうか。私は1年くらい同じCDを聴いちゃうタイプなんで。それでハロプロにどっぷりハマったっていうのもあるし。いいと思ったら、それしか聴かないんですよ。それって女子に多いと思うんですけど。男の人で東京に来てる人って、自分が好きなものがいっぱいがあるから来てるって人が多くて。自分は違ったらから。ただ東京タワーがあって、おもしろい人がいっぱいいてカッコイイイみたいなイメージで東京に来てるので」
――「東京カッケー! 美大もカッケー!」みたいな感じですか?
「そうですね。美大に入った時もショックで。意外に自分と同じテンションの人がいないっていうか」
――ここまでテンション高まってる人がいないって?
「絵に没頭してる人がいなくて。あれはショックでした。思ったよりスタイリッシュな人が多かった」
――美術っていうよりはアートっていうか。もっとお洒落なイメージで。
「その中にいたいっていう人が多くて。そこにはあんまり興味がなかったので」
――中学高校に続けて、美大にも居場所がなくて?
「中学高校は進学校だったから、勉強勉強って感じで馴染めなくて」
――居場所をどこかで掴めたみたいなのはあるんですか? まだない?
「あ、でもフツーに中学高校のときから、保健室にいたり、トイレにいたりっていうのが苦じゃなくて。教室の一番奥で弁当を食べてたんですけど、そういうところだと女子の悪口とか聞こえてくるじゃないですか。仲いいはずの子が友だちの悪口を言ってたり、そういうのが好きだったんで。ずっとそういう場所で居場所を掴んでたっていうか。それが全然苦しくなかった」
――適材適所だったと。それが歌の世界にも生きてるし。
「割と気持ちよくその立場でやってたんで」
――音楽の世界には居場所あります?
「一緒だなっていう人は、あんまりいないです。南波ちゃんとかは、あの人もひとりでやってるんで、話したら意外に波長が合うなって」
――あの人おもしろいですよね。
「もっとキラキラして、自分とは異物みたいな感じの人だと思ったんですけど、メールとかしてみたらズレてる子で。すごいおもしろかったのが、いじめられてたらしいんですけど、小さい頃からからスターになりたいっていう願望があったみたいで。だから、いじめられたときに“『いつみても波瀾万丈』で話すネタがやっとできた”って思ったらしいんです。それ聞いて、“この子最高だな!”と思って、すごい好きになって」
――ボクもそれインタビューで聞きました。
「ほんとですか? それを喫茶店で熱烈に語ってくれて」
――『B.L.T.』が初解禁でしたね、その話。
「そうなんだ(笑)。あと南波ちゃん、ゾンビがすごい好きじゃないですか。事務所からNG出されてるらしくて。もうゾンビの話しちゃだめって」
――『FRIDAY』でやってる大森さんの連載(「ファイナルカミングアウト」)の文章も好きなんですよ。あれも無闇に喧嘩を売ってるじゃないですか。ブログもそうですけど。あの体質はなんなんだろうって。
「ああいうのは高校のときからずっとやってて。高校では授業さぼってたんで、勉強する人には目障りだから嫌われてて。高校にパン屋さんが来てくれてたんですけど、パン屋のおっちゃんのとこに一番に行けるから仲良くなって、そうすると、焼きたての美味しいパンとかくれるじゃないですか。そしたらそのパン屋のおっちゃんとヤってるみたいな噂が学校で広がって」
――ダハハハハ! パン屋のおっちゃんに枕営業(笑)。
「そうそう(笑)。そういうフラストレーションがいっぱいあったんで、その愚痴とかもブログに書いてて、それの延長線上で。文章は作品にならなくていいっていうか、ただの悪口なんで。歌は完結させないといけないっていう義務感があるんですけど。『FRIDAY』の文章は言いっぱなしでいいっていう。それでいいって言ってくれてるし。あんな楽しいことはないっていうか、一方的なモードがすごい好きで。ブログもコメントなしでやってて、『FRIDAY』も書いたら、勝手に全国誌に載って。それでも反応が返って来ないっていうのが気持ち良くて。音楽はやるたびに感想があるじゃないですか。それがないっていうのが気持ちいい」
――感想がない方がいいんですか? エゴサーチ好きっていうのは感想を知りたいからだと思うんですけど。
「歌とかは感想のために作ってるじゃないですか。でも、ブログとかは有無を言わさないぞっていう気持ちで書いてるので」
――感情を叩き付けておしまいっていう。
「そういう場所があってよかった。『FRIDAY』の連載が今年もらった仕事で一番嬉しかったかもしれないです」
取材・文 / 吉田 豪(2013年11月) 撮影 / 相澤心也