色んな面をリスナーに見せたい――キュートで美しいOVAL流クラブ・ミュージックの新作『Popp』を問う

オヴァル(DEU / Markus Popp)   2017/01/19掲載
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 オヴァルの前作『O』は、生楽器の音などを使うことで、オヴァルの感情や情熱やあふれ出した、生々しくも美しく情感豊かな表現となっていて驚かされた。そして6年ぶりの新作となる『Popp』もまた、彼の瑞々しい感性が閃く、キュートで美しい作品となっている。オヴァル流クラブ・トラックに挑戦したという触れ込みのエレクトロニック・ポップは、万華鏡のようにカラフルで煌びやかでロマンティック。かってのオヴァルの実験性とは一見対極にあるようにも見える。来日したオヴァルことマーカス・ポップに話を訊いた。
――あなたの音楽は前作『O』(2010年)、そして最新作『Popp』(2016年)と、大きく変わったように思います。
 「そうだね。自分のイメージを変えるというのは大変だ。いったん注目を浴びてしまうと、そこから自分のイメージを変えるのはなかなか難しい。それをどうにかしたいと思ったんだ。前作での変化は複雑すぎて、みんなに理解してもらえなかった部分がある。ポストロックを作ったつもりはなかったのに、オヴァルもポストロックをやるようになったと言われてね。たしかにサウンド・デザインの中で、ポストロックっぽい仕様はあったけど、実はそうじゃない。人間がプレイしているようなオーガニックなサウンドと言われたけど、実際の楽器をプレイしているわけではなく、全部がソフトウエア上の音だった。ある意味それまででいちばんハイテクなアルバムだったのに、それが伝わらなかった。なので『Popp』では、90年代のクラブ・サウンドという、みんなが理解しやすいエレクトリック・サウンドを作ることで、自分がどう変化したかをよりわかりやすく見せようとした。サウンドとしては今回のほうがハイテクに聞こえるかもしれないけど、実は前回のほうがハイテクなんだ。でもエレクトロにしたほうが複雑だったり未来的だったり最先端だったりするイメージがより伝わりやすいということで、今回こういう変化になった」
――あなたの変化は、オーディエンスに向かって開かれていく、音楽を楽しむ、体感して気持ちよくなる、そういう方向に自分の音楽を変えているということでしょうか。
 「というよりは、自分のクリエイティヴィティのいろんな面をリスナーに見せたいということだ」
――以前のあなたの音楽は実験的な面が強かったが、前作からすごくリスナー・フレンドリーになって、音を楽しむようになった印象があります。
 「僕は自分の音楽を“実験的”と言われるのが好きじゃない(笑)。僕は自分ではポップなものを作ってるつもりだからね。人々が楽しめるものをさ。僕も生活があるから、人々に受けいられるようなものを作らなければいけないという側面もあるけど、ポップなものはもともと僕の表現に存在しているんだ。それが僕が音楽を作る上での感覚なんだ」
――ふむ。あなたにとってポップの定義は?
 「よりアプローチできる音楽。人を受け入れる音楽であり、人を喜ばせる音楽だ。かつポップ・ミュージックとはチャレンジングな音楽でもある。自分の音楽がポップと認められないのであれば、それは僕のせいというより、周りの状況がそうさせているんだと思う。メインストリームのポップとはあきらかに違うからね。たとえばダンス・ミュージックはファンクショナルな、体で感じる音楽だけど、自分はもう少しエンゲージングな、繋がりを感じることのできる音楽がポップなんだと思っている」
――繋がりとは、共感とか共鳴のこと?
 「それもあるね。エレクトロニック・ミュージックを聴く時って、脳のスイッチを切って没頭すると思うんだけど、切るんじゃなくちゃんと考えながら聴くような音楽。音の中に驚きがあって、音楽が生きていて、それを感じながら聴く音楽。そういう意味での“繋がり”だね」
――あなたは音楽に自分の人生や感情や感覚を反映させていますか。
 「自分の音楽は日記のようなものではないので、自分の経験や人生や生活や感情をあえて映し出そうとは思ってない。でも自分の手作業の部分もあるから、その時の自分の状態が反映はされてると思う。結局自分のクリエイティヴィティが音楽を左右してると思うから、自分のスタイルは音に出てくるね。リスナーは、生ギターやピアノの弾き語りのほうがアーティストのパーソナリティが出ていると判断しやすいけど、それは聴き手が生ギターやピアノの音色を熟知していて、ミュージシャンがそれをどうプレイするかで音楽の質を判断しようとするから。そこにその人の性格が出ていると考える。でもエレクトロニック・ミュージックではそれが見えにくい。というのも、皆が聴き慣れた音じゃないし、音が作られる過程も複雑だから、どうしてもそうした音楽の構造に視点がフォーカスされて、本人のキャラクターが見えにくくなる。僕の音楽だって、生ギターを弾いてるミュージシャンと同じぐらいパーソナルなものなんだけど、そこは誤解されやすいところかもしれないね」
――その姿勢は昔から変わらない?
 「同じだね。でも使っているツールが変化している。自分らしさは変わってないけど、ツールも違うし表現されている世界も全然違う。でも自分らしさみたいなものはずっと共通して存在していると思う」
――私は『O』『Popp』というアルバムですごくあなたの音楽がエモーショナルになったと感じたが、それは単に見えやすくなっただけで、元からそうしたエモーショナルな面は存在していたということですね。
 「そう。よりアプローチしやすい音になっているからだと思う。脳のスイッチをオフにするんじゃなくオンにして聴ける音楽が今の作品。でも自分としても、リスナーに届きやすい音楽がどんな音楽なのか、いまだによくわかっていない。5年後にはみんな全然違う音楽を求めるようになっているかもしれない。それはタイミングだと思う。そのために自分の音楽をどう変えていけるか」
――では、そうして変わっていくなかでこわだりたいOVALらしさとは?
 「自分のやっていることはラップトップを操作し、画面を眺めながらデータをいじったりソフトウエアを操作したり、クリエイティヴとは言えない作業が多い。でも最終的にできあがるものはエモーショナルだったりする。それが変わらない部分かな。ギターやピアノみたいに思いついたらすぐ音楽になる楽器が羨ましいと思うこともあるけど、でも7年間かけてじっくり作り上げていくからこそできる作品だと思うし、それが自分の音楽だと考えている」

取材・文 / 小野島 大(2016年12月)
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