最新作にして最高傑作! ソウル・フラワー・ユニオン、4年ぶりとなる会心のアルバム『アンダーグラウンド・レイルロード』が到着!

ソウル・フラワー・ユニオン   2014/10/02掲載
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 2011年の『キセキの渚』、2013年の『踊れ!踊らされる前に』というミニ・アルバム2枚があったとはいえ、フル・アルバムとしては2010年の『キャンプ・パンゲア』以来4年ぶりとなるソウル・フラワー・ユニオンの新作『アンダーグラウンド・レイルロード』。“3.11”以降の社会情勢の変化も生々しく反映された全14曲は、まさにSOUL FLOWER UNIONのこの4年間の歩みが凝縮されたもの。岸田繁くるり)や木暮晋也ヒックスヴィル)、チャラン・ポ・ランタンら数多くのゲストが参加していることでも話題を集めているこのアルバムでもまた、“最新作が最高傑作”というソウル・フラワー・ユニオンの鉄則を更新しているのでは?――そう中心人物である中川敬に訊ねると、彼も胸を張って「その通り。今回はサウンド的にも満足度が高いし、やりきれた感じがある」と答える。そんな自信作を作り上げた中川のロング・インタビューをお届けしよう。
――今回の『アンダーグラウンド・レイルロード』、フル・アルバムとしては結構久々ですよね。
 「ミニ・アルバム2枚とアコースティックのソロ・アルバム2枚を出してたらこういうペースになっちゃった。俺らの場合、4曲ぐらい新曲ができたらベーシックを録って、ダビングやゲストの演奏を録って……というやり方で十数曲溜まったらアルバムにするというやり方なんよね。2008年の『カンテ・ディアスポラ』あたりからのやり方なんやけど、メンバー全員日々忙しいし、そのやり方が有効やな、と。音楽に日常も反映されるしね」
――中川さん個人としては2011年の『街道筋の着地しないブルース』、2012年の『銀河のほとり、路上の花』というアコースティック・ソロ・アルバムも2枚作ったわけですけど、ソウル・フラワーのソングライティングに影響はありました?
 「なさそうで、実はあった。一番わかりやすいのは、“ソウル・フラワー・ユニオンはロック・バンドでいい”と思えたこと(笑)。もともと俺にはソウル・フラワー・モノノケ・サミットというもうひとつの表現のアウトプットがあったわけやけど、“中川敬”という新しいアウトプットが増えた。“中川敬”という新しいバンドを作った感じやね(笑)。自分のなかでソウル・フラワー・ユニオンが何をやるべきバンドか見えてきたというか」
――そこで見えてきたのが“ソウル・フラワーはロック・バンドでいい”ということだったわけですか。
 「そう……アホっぽいけど(笑)。逆の言い方で言えば、モノノケ・サミットや中川敬ソロではできないことをやるバンド。以前は今ソロでやってたことも全部ソウル・フラワー・ユニオンでやろうとしてたから」
――だからなのか、今回のアルバムではニューエスト・モデル(※ソウル・フラワー・ユニオン以前に中川が率いていたバンド)が後期にやっていたようなファンク感が戻ってきてますよね。
 「おお、お若い方なのにニューエスト・モデルをご存知なのですか(笑)」
――いやいや、モロにリアルタイムですよ(笑)。
 「民謡も歌謡曲も自分にとってのルーツ・ミュージックやけど、何といってもプレイヤーとしてのルーツ・ミュージックはやっぱり10代のころに聴きまくってた60年代後半のサイケデリック・ソウル。そういう要素が一気に吹き出してくる時がある。あと、社会的に怒らざるを得ないことが多過ぎて、自分がふだん抱えているものを吐き出したらこういうものになった。きっと世間の人はこれを“ロック”と言うんやろうな、と」
――アルバムの方向性を決めた曲というのはあったんですか。
 「1曲目の〈グラウンド・ゼロ〉ができたときに久々に“これや!”という感覚があったね。これは去年の夏ぐらいに書いたんやけど、“これ、これ、この感じ!”という確信があった。第二期ソウル・フラワー・ユニオンの始まり(笑)」
――「グラウンド・ゼロ」はまさにサイケデリック・ソウル感が前面に出た曲ですけど、トータルで7分40秒ありますよね。
 「1曲目でいきなり8分弱(笑)。あれを書き上げたときは“新しい時代の幕開け”っていう感覚があってね。ときどきそういう感覚になるときがある。〈海行かば 山行かば 踊るかばね〉を書いたときもそうやったし、〈もののけと遊ぶ庭〉や〈風の市〉、〈サヴァイヴァーズ・バンケット〉を書いたときもそう。久々にそういう感覚が自分のなかから出てきた。もうこれは1曲目しかないやん!っていう」
――以前は中川さんにとってのルーツ・ミュージックである60年代のロックやサイケデリック・ソウルのテイストを温存していたわけではなかったんですよね?
 「そうやね。ただ、もっといろんなことをやろうとしてた。“世界のいろんな音楽や文化と出逢いたい”という感覚の方が強かったと思う、今から振り返ると。今回のアルバムはそういう感覚は薄い。“ここ”の音を鳴らし切る。もちろんこれからも新しい文化を取り入れながら新しい音を生み出すという作業は重要やと思ってるけど、今回のアルバムに関してはそういう意識が排除されてて、“おらおら、いってまえ!”という感じになってる(笑)。……もちろん、今回のアルバムにも〈マレビトこぞりて〉みたいなヘンな曲も入ってるけど(笑)」
――「マレビトこぞりて」の言語感覚はわらべ歌的ですよね。ソウル・フラワーしかできないトラッド(民族音楽〜民謡)ロックというか。
 「トラッド・ミュージックや民謡を好きになったとき、絶対にブチあたるポイントとして“土着とは何か、よそものとは何か”ということがある。この曲ではまさにそういうテーマを呑み込んだ上で、どこにもない民謡を書こうと思ったらこういう曲になっちゃった、という。“よそもの民謡”(笑)。これは震災前に書いた曲で、どっちかというと以前の路線に属する。歌詞は1年ぐらい前に大幅に書き換えたけど」
――クレジットを見ると、今回の収録曲のベーシックは2010年2月から録りはじめているんですね。
 「そう。歌は全曲ここ1年ぐらいに録ったもの。以前に録った曲も歌は録り直してる。震災前の歌はちょっと違うなあと。自分の意識が変わった部分もあって、歌詞を大幅に書き換えてる」
――具体的に言うと、歌詞のどういう部分を書き換えていくんですか?
 「歌詞ってその時期の心境が語彙や字面にも現れるんよね。それが2、3年経つと違和感を感じることもあって。たぶん時間が空くと自分で批評が入るんやろうね。添削的な(笑)。あと……“3.11”以降、具体的なものばっかりが目の前に立ち現れてきて、観念的な語彙を書き換えたくなったというのはある。ニューエスト・モデルのころから場合によっては徹底的に観念的に書くほうやけど、“3.11”以降、そうやって書くことに違和感が出てきたというか」
――“3.11”以降で曲を書きにくくなりました?
 「ああ、表現者はみんなあるんじゃないかな……でも、絞り出す。曲を書くときは単にええ曲を作ろうとしてるだけやし、それ以外の邪念はほとんどない」
――今回の収録曲でいえば、原発やレイシズムのことは直接的な言葉では表現されていないですよね。パッと聴いて100人が100人“これは反原発の曲ですね”“反レイシズムですね”と分かるものではない。
 「俺は、もともとメッセージ・ソングを書きたい!みたいなタイプじゃない。伝えたいことは喋るし(笑)、やりたいことがあれば行動する。ただ、スポイルしてあやふやに表現しようと思ったこともないし、自分なりにダイレクトに歌ってるつもりではあるんやけど……世の中には恥ずかしいメッセージ・ソングがいっぱいあるでしょ?」
――ありますね(笑)。
 「ああいうものは書きたくないし。それこそ(忌野)清志郎さんみたいにメッセージ・ソングをうまく書く人もいるよね。だから、それぞれの表現方法があるっていうことじゃないかな」
――なるほど。
 「あとね、聴き手には俺の歌を自分のものにしてほしいわけ。例えばもし俺が反レイシズムの思いに溢れた曲を書いたとしても、その曲を、聴く人が自分の抱えてる問題に引き寄せて、都合よく解釈して自分の人生の武器にしてほしい。……まあ、今作の冒頭の4曲はもちろん反レイシズムが基調にあるんやけどね。〈バクテリア・ロック〉も馬鹿げた曲かもしれないけど、根はそこにある。“俺の祖先は○○人だ”とか何を馬鹿なこと言うてるんや、辿り方が中途半端なんじゃ! 40億年前まで辿ったら俺の祖先はバクテリアやった(笑)」
――「これが自由というものか」は1954年にエノケン(榎本健一)さんが歌ったもので、作詞・作曲は三木鶏郎さんですね。
 「去年、特定秘密保護法の抗議があったころ、ツイッターのタイムラインに頻繁にこの曲が流れてきた。“1954年の歌なのに、まるで今の状況を歌ってるみたい'っていう感じで。なかには“ソウル・フラワーがカヴァーしたらいいのに”って呟いてる人もいた。で、モノノケ・サミットのライヴでやろう、と。あとね、今回メンバーチェンジがあって、ベースがジゲンから阿部光一郎に変わったんやけど、せっかく新しいベーシストも入ったし、新しい曲をどんどん録ろうと。何録ろう?ってなったときに浮かんできたのが〈これが自由というものか〉やった」
――阿部さんは「Upsetting Rhythm」にも参加してますね。オリジナルはリー・ペリーがプロデュースした70年代ダブの古典的名作(アップセッターズの1973年作『Blackboard Jungle Dub』)に収録されていた曲で。
 「これは今までライヴのインタールード的にやってた曲で、実際に録ってみたらなかなかおもしろいものになったから、アルバムに入れちゃえと。最近、レゲエやダブをよく聴くね。リー・ペリーやレヴォリューショナリーズみたいなオールドスクールなヤツ。ここ数年、反原発や反レイシズム運動に関わるなかで、てんでんばらばらのやつらが集まって何かをするという場所に関わることがさらに多くなってきててね。そのなかで自分自身がダブの持ってるカットアップ感覚とかコラージュ感覚にハマってるみたいなところがあって。デモやカウンターから帰ってくると、不思議と大音量でダブを聴きたくなる」
――ライヴ会場販売とオフィシャル通販ショップ(ADS405)のみの初回限定特典として、4曲のダブ・ミックス入りCDが付きますよね。こちらは反レイシズムの活動を続けている“C.R.A.C.(Counter-Racist Action Collective)”とのコラボレーション楽曲ということで。
 「初回限定特典で何を作ろうか考えたとき、ダブ・ミックスが入ったディスクがいいなあと。たまたま野間(易通 / C.R.A.C.の設立メンバーでもある編集者)くんと呑んでたときに、“ダブとかやらへんの?”って話になって。そうしたら彼は“やってみたいな”という答えで。彼がやってるバンド(i ZooM i Rockers)は耳にしてたんやけど、コラージュのセンスがいいなって以前から思ってて。それで『ザ・ベスト・オブ・ソウル・フラワー・ユニオン 1993-2013』に入れるダブ・ミックスを1曲お願いしたんやけど、やっぱり良くて、さすが同世代やなと(笑)。彼はもともとも80年代には花電車というバンドでギターを弾いてたし、なにより音楽センスがいい。だから、何よりもミュージシャンとしての彼の素晴らしさをフィーチャーしたかった」
――『アンダーグラウンド・レイルロード』というアルバム・タイトルは、19世紀半ば、アメリカ南部の黒人奴隷をアメリカ北部やカナダ、メキシコに逃がすために支援者が作っていたというネットワークから取っているそうですね。
 「地下鉄道(アンダーグラウンド・レイルロード)について知ったのは俺も最近。数年前から、リクオと二人でツアーをすることが多くて、彼の曲はゴスペル基調のものが多いのね。それでツアーを一緒に回るうちに俺もニグロ・スピリチュアルのことをちゃんと勉強したくなって、いろいろ本を読むなかで地下鉄道のことを知った。ニグロ・スピリチュアルの最初期の歌のなかに、例えば、ヨルダン川のことが出てくるんやけど、普通、“聖書でしょ?”としか思わない。でも、それはオハイオ川の置き換えであったり。あと、北斗七星もよく出てくるけど、それも“北をめざせ”という暗喩であったり。“停車場”は奴隷を逃がすための協力者の家のことやったり、“車掌”というのは協力者たちのことであったり……」
――そうやって、歌のなかに暗号のようにメッセージが仕掛けられていたというわけですね。そういう“地下鉄道”をアルバム・タイトルに付けたのはなぜなんでしょうか。
 「最初に〈地下鉄道の少年〉という曲ができて。この曲は脱走奴隷の少年のことを思い描きながら書き始めたんやけど、書いていく中で、シリア騒乱や中央アフリカ等々、子供たちの受難のニュースばっかりやってくる。ここ日本でもレイシズムの暴風雨。在日コリアンの子供がお母さんに“朝鮮人に生まれてきたのは悪いことなの?”って話したという記事をブログで読んだりして、だんだん〈地下鉄道の少年〉が逃亡奴隷の少年の話だけじゃなくなっていったんよね。そのなかで“次のアルバムのタイトルは『アンダーグラウンド・レイルロード』やな”と漠然と思うようになった。世界中の子供たちが自由に向かって行進してるイメージをアルバム・タイトルに込めたかった」
――では、“地下鉄道”には車掌という役割の人がいたり、その支援者がいたりしたわけですけど、ソウル・フラワー・ユニオンはどの役割を果たしているんでしょうか。
 「ここまで複雑な世の中になっちゃうと、みんな、想像力でどの立場にも置き換えられるんじゃない? 被害者でもあり加害者でもある。みんな、何がしかの役割がある。みんな、何がしかの当事者でもある。“名もなき者たちの声”をちゃんと自分の音楽に落とし込みたいんよね。出逢いを音楽に反映させないとウソになる。震災以降、東北でもいろんなヤツらと出逢って、いろんなものをもらってるよ」
――今後は阿部光一郎さんという新メンバーを加えてライヴを行なっていくわけですが、今回のツアーに関してはバッキング・ヴォーカルとして(ソウル・フラワー・ユニオンの設立メンバーだった)うつみようこさんが加わるそうですね。うつみさんはアルバムにも参加されてますが、ソウル・フラワーとしてご一緒するのは久々ですよね。アルバムのトーンが後期ニューエスト・モデル的なサイケデリック・ソウルに戻ってきているなかで再びうつみさんとやるというのも不思議なタイミングな気がするんですが。
 「そういうところ、あるよね。今回のレコーディングでようこちゃんのコーラス録りしてるとき、なんとも言えない懐かしい感じがあったね。ただ、“ニューエスト・モデルみたいな曲を書け”と言われても、もう無理。俺は、今の曲しか書かないし、今の歌しか歌えないからね」
取材・文 / 大石 始(2014年9月)
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