「それぞれ違った自分のルーツ音楽をやっているので楽しい」――2つのバンドを新たにスタートさせた高橋幸宏に話を訊く。

高橋幸宏   2014/07/23掲載
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 高橋幸宏が新バンドを結成! その名も“METAFIVE”と名付けられたバンド・メンバーは、小山田圭吾砂原良徳テイ・トウワゴンドウトモヒコLEO今井という豪華な顔ぶれだ。そんなドリーム・チームが、今年1月17日に東京・EX THEATER ROPPONGIで開催したライヴを完全収録したアルバム『TECHNO RECITAL』がリリースされる。さらに昨年9月23日に渋谷Bunkamuraオーチャードホールで行なわれた高橋幸宏 with In Phase(ジェームス・イハ高桑圭堀江博久、ゴンドウトモヒコ、鈴木俊治)のライヴを収録した映像作品『PHASE』も同時リリース。現在、5つのバンドを掛け持ちする高橋幸宏に、まったくタイプの違った2つのバンドの魅力について話を訊いた。
――まずはMETAFIVE。すごく豪華なメンバーですが、どういった経緯で結成されたんですか?
 「EX THEATER ROPPONGIがオープンすることになって、そのオープニング期間にライブをやってほしいと声をかけていただきました。昨年末には教授と細野さんでライヴをやって、そこに僕がゲストで出て、で、年明けには“幸宏さんも何かやってください”って言われてスケジュールを入れられちゃった(笑)」
――もうやるしかない(笑)。
 「それでまあ、会場も新しいところだし、昨年9月にやったIn Phaseツアーとはまったく違うことをやりたいなと思って。それで懐かしの“精神的テクノ”のリサイタルをやってみようかと思ったんです。昔から細野さんと言ってたのが、テクノは音じゃないんだと。テクノは精神論みたいなもんで、ボブ・ディランをやってもテクノなんだと。それでメンバーを考えたんです。まず、O/S/Tという名義でも活動する小山田くん、まりん(砂原)、テイくんが頭に浮かび、忙しい人ばかりだけど、とりあえずスケジュールをあたったんです。そうやって人選をしていくと、、ゴンドウ君やLEO今井君など、面白そうなメンツのスケジュールがうまい具合に調整できたんです。で、メンバーが決まって、まず食事会をやったんですけど、そこで何をやるか決める前に、とりあえずアーティスト写真を撮って(笑)」
――記念写真も兼ねて(笑)。
 「それで、ご飯を食べながら何をやろうか考えてたら、テイ君から“まりんがかなりYMOの曲のオケを作って持っているのでどうですか?”って話があって、“それ面白いね、やってみようか”ってことになったんです。その時に“そういえば〈BALLET〉って最近、全然やってないんだよね”って言ったら、まりんが“〈BALLET〉、完コピしたオケ持ってますから大丈夫ですよ”って。“え、何のために作ってるの?”って訊いちゃった(笑)。まりんにとっては趣味みたいなものなんでしょうけどね。それで昔の音を忠実に再現しつつ、参加してくれたみんなの新しい音をかぶせることにしよう、っていうところから始まったんです」
――METAFIVE結成ですね。バンド名の由来は?
 「最初はね、クールファイヴって呼んでたんですよ(笑)。食事会のあとはしばらくクールファイヴでメールのやりとりをしてました。さすがに冗談が過ぎるだろうってことで、“メタモルフォーゼ(変身)”の“メタ”と、あと細野さんが昔、テクノのことを“メタポップ”と言ってたことがあったんで、その“メタ”の意味も込めて」
METAFIVE
――なるほど。でも、このメンツだとスケジュールをあわせてリハーサルするのも大変そうですね。
 「機材が多かったですね。リハーサルのときからライヴで使う機材を全部持ってきたんですけど、通常のバンドの3倍くらいはある。昔のYMO並みですよ。今ここまでやらなくてもいいんじゃないの?っていうくらい。例えばテイ君がラジオ・チューナー的なもの、テルミンとはまた違ったものを持ってきたりする。“それ使ってるの?”って訊いたら使ってみせてくれましたけど。まあ、みんな見た目を気にするから(笑)。置いた感じとか」
――YMOのライヴを見て機材にヤラれたファンは多いですからね。
 「あと、リハをやってると、メンバーが気にするところが他のバンドとちょっと違うんだよね。例えばまりんとかは“ハードディスクから出るバッキングトラックのレベルが微妙に違うから一度揃えてきていいですか?”って言ってきたり。テイ君は周波数のことを言ってきたり」
――テクノっぽいですね(笑)。機材が多いことを除いてリハーサルはスムースにいったんですか?
 「まあ、みんなソロでやってる人たちなので、それぞれ自分の役割をはっきり自覚してたし、こっちは特に細かく言ったりすることはなかったですね。せいぜい、コーラスに関してLEO君と話をするくらいで」
――では、アルバムの話を。ライヴはpupaのナンバー、「META」を入場曲にして始まりますが、「META」が終わって、すかさず「CUE」のイントロが流れる瞬間は鳥肌が立ちますね。観客の歓声もスゴい!
 「最近、〈CUE〉はオリジナルと違うアレンジでやることが多かったからね。オリジナルどおりの〈CUE〉をやるためには、ベイシックをいちから作らなきゃいけないし」
――しかも、「CUE」に続いて「BALLET」ですからファンとしては大興奮ですよ。このあたりのオケは、まりんさんが持っていたもの?
 「そう。“歌以外は持ってるんで、歌は幸宏さんがナマで”って。この2曲の流れは最初から決めてましたね。もう、大サービスしちゃおうって」
――久し振りにオリジナルのヴァージョンでYMOの曲をやってみていかがでした?
 「原曲のスタイルで、っていうのが面白かったです。これまで自分たち(YMO)のなかでは、昔のオケを作るっていうのは発想にもなかったし、あまり好ましくなかったから」
――じゃあ、今回オリジナルでやったというのは、砂原さんがオケを持っていたというのが大きかった?
 「大きいですね」
――砂原さんといえば今回シンセ・ベースを弾いていて、「中国女」では細野さんのベースを完コピしてますね。


 「そうそう。この曲をやると決めたとき、ベースをどうしようと思って。ベーシストもいないし、ハードディスクに入れようかな、と思ってたら、まりんが“ちょっとやってみていいですか?”って。“やってよ、やってよ”って弾いてもらったら“完コピじゃん!”って(笑)」
――テクノに目覚めたきかっけが「中国女」だった砂原さんにとって、幸宏さんと一緒に「中国女」を演奏するのは至福のひとときですよ、きっと。このメンバーでやる「中国女」も最強ですね。
 「最近のYMO以上にいわゆるYMOっぽい(笑)。細野さん、もうシンベ(シンセ・ベース)弾かないし」
高橋幸宏&METAFIVE『TECHNO RECITAL』
――逆にオリジナルにアレンジが加わった曲で印象的だったのは、LEO今井君がヴォーカルで参加した「LAY MAY LOVE」です。
 「LEO君の声ってトーキング・ヘッズのころのデヴィッド・バーンっぽいところがあるから、イーノっぽい曲をやったらハマるんじゃないかと思ったんです。 そしたら、見事にハマりましたね。彼が歌うと原曲の雰囲気に近くなる。オケは僕がカヴァーしたヴァージョンに近いんですけど。あと、この曲は歌詞が難しいんですよ。レコーディングでも苦労したんですけど、LEO君だったら難なく歌うことができる。それで今回は出だしをLEO君が歌って、2番から二人でハモるみたいな感じにしたんです」
――難しい歌詞といえば、カヴァーしたボブ・ディラン「くよくよするなよ(DON’T THINK TWICE, IT’S ALL RIGHT)」も歌うのが大変だったとか。
 「難しいですね。ひとつの文章が長くて、歌詞カード見ているだけで気が遠くなる(笑)」
――この曲は今回のリサイタルで唯一のアコースティックなナンバーですね。幸宏さんが99年に『colors 〜best of yt cover tracks vol.1〜』でカヴァーしたときもアコースティックでしたけど。
 「あのときは徳ちゃん(徳武弘文)のギターがスゴかったんだよね。今回、小山田君は苦労してましたけど、小山田君には“〈ジャーン、ジャカジャカ〉ってそれなりに入ってればいいから”って」
――1曲だけアコースティックな曲を入れようと思ったのはどうしてですか?
 「気分ですね。昔、ニール・ヤングの〈ヘルプレス〉をYMOでカヴァーしたときにはエレクトロニックなサウンドでやってましたけど、さっき話に出たように“テクノはサウンドじゃなくて心”だと言ってたことを思い出したりもしたので。あと、ディランとかブライアン・フェリーの歌い方に影響を受けていて、それがフーマンチュー唱法に繋がったってこともありますね。この曲を入れたことに関しては(鈴木)慶一君がすごく喜んでた(笑)」
――この後、ビートルズ「I NEED YOU」、Marz「EVERYBODY HAD A HERD YEAR」とカヴァーが続きます。
 「アコースティックな感じから少しずつ元に戻していこうっていうことですね。〈I NEED YOU〉は前にカヴァーしたときはドラムンベースっぽいアレンジだったけど、今回はほとんどハードディスクを使わずにナマでやりました」
――そして、「TURN TURN」からは幸宏さんのドラム・タイム。
 「ですね(笑)」
――なかでも、「STILL WALKING TO THE BEAT」のファンキーなノリが最高にカッコいいです。
 「還暦ライヴのときはダブル・ベースだったんですよね。小原(礼)のバカテクで強力なのと、(高桑)圭君のゆったりしたのとがスゴくマッチしてたんですけど、今回はまりんのベースが妙にファンキーで。シンベなんだけど手弾きでハマってるんだよね」
――コンサートのクライマックスは、80年代の幸宏さんの名曲「DISPOSABLE LOVE」「DRIP DRY EYES」がたて続けに。これも美味しい流れです。
 「まあ、これもサービスですね。〈DRIP DRY EYES〉に関しては、僕のトリビュート(『RED DIAMOND〜Tribute to Yukihiro Takahashi』)で小山田君、まりん、テイ君の3人がO/S/T名義でやってくれていたので、そのアレンジをみんなでちょっといじって、って感じで」
――アンコールで「SOMETHING IN THE AIR」を演奏しますが、この曲は本作と同時リリースされる高橋幸宏 with In Phaseのライヴ映像作品『PHASE』でもやってますね。
 「ハードディスクで音を出しているのは変らないんですけど、それぞれグルーヴが全然違うんですよ。In Phaseでは圭君が生のベースを弾いていて。このIn Phaseツアーのとき、初めてこの曲を、ドラム叩きながら歌ったんです。それでどんな風にドラムを叩こうかと考えたときに、“そうだ、還暦ライヴのときのスティーヴ(・ジャンセン)のドラムをコピーすればいいんだ”って思いついた。でも、自分でやってみたら結構難しかったですね」
In Phase
――『PHASE』が収録されたのはツアー最終日ですが、この日のライヴで印象に残っていることはありますか?
 「最終日だったんで、ドラムを叩きながら歌うのにもだいぶ馴れてきてましたね。最初の頃はキツくて歌詞とかも間違ってたけど」
――やっぱり、ドラムを叩きながら歌うのって難しいものなんですか?
高橋幸宏 with In Phase『PHASE』
 「譜面のところに歌詞を置いて見ながらやってるんですけど、フィル(曲の間や変わり目に通常のリズムとは違う即興的な演奏を入れること)と重なると間違えるんですよ、どっちかに気がいっちゃって。そこはもう馴れるしかないですね。手が勝手に動くようになるまで」
――同じバンドでもIn Phase とMETAFIVEとは性質が違うと思いますが、幸宏さんにとってIn Phaseというバンドの面白さって、どんなところですか?
 「やっぱり、ロックバンドだっていう感じがしますね。妙にリズムが前ノリになったりして。あと、ハーモニーがすごく良いバンドなんですよ。全員歌ってますから。とくにジェイムズ(・イハ)と圭君の声ってすごく似てるから、二人がハモるとぴったりなんですよね。僕が歌って、サビでみんなが“ウー”とか“アー”とか歌ってる感じが60〜70年代に自分が好きだったバンドみたいだなって。(サディスティック・)ミカ・バンドでは、そういうのはなかったしね」
――最近では3人編成でライヴハウスを回ったりしてバンド活動が多くなりましたが、いまバンドをやりたい気分なんですか?
 「たまたまそうなったって感じですね。いま幾つやってるんだろう。YMO、pupa、ビートニクス、In Phase、METAFIVE……全部で5つか。それぞれ違った自分のルーツ音楽をやっているので楽しいですけどね」
――そんななかで、METAFIVEで改めてテクノと向き合ってみていかがでした?
 「最近、アメリカの若いバンドの子たちがFacebookとかTwitterで “『NEUROMANTIC』が最高!”って言ってきて、なんで今頃って思ってたんですよ。でも、こうやって久し振りにやってみると結構楽しかったですね。 YMOでも最近は昔の曲をやることにこだわりがなくなってきたし。っていうか、新しい曲がないだけの話なんですけど(笑)」
――作りましょう(笑)!
 「まあ、先のことはどうなるかわからないけど、その前に自分のソロを出さないと。いま考えていることがあるんだけど、一緒にやろうと思ってる人のスケジュールがなかなかとれなくて。今年中はもう、アルバムは出ないかな。来年のことはまた来年考えるということで(笑)」
取材・文 / 村尾泰郎(2014年7月)
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