ノラ・ジョーンズ率いるルーツ・ミュージック・バンド、ザ・リトル・ウィリーズの新作『フォー・ザ・グッド・タイムス』の魅力に迫る!

リトル・ウィリーズ   2012/01/06掲載
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ニューヨークのロウワー・イースト・サイドにあるミュージック・バー“リヴィング・ルーム”で2003年にノラ・ジョーンズ(Norah Jones)を中心に結成されたカントリー・バンド、ザ・リトル・ウィリーズ(The Little Willies)が、約6年ぶりの2ndアルバム『フォー・ザ・グッド・タイムス(For The Good Times)』でカムバック。本特集では、彼らの貴重なインタビューを挟みながら新作の魅力に迫ります。

 「僕らはまた一緒にプレイすることになるだろうって、ずっと思ってたよ」
 以前に比べれば日本でもだいぶ受け入れられるようになったカントリー・ミュージック。テイラー・スウィフトレディ・アンテベラムのように、カントリーを根っことしながらも表現の仕方はポップというアーティストが世界的にブレイクしたことが大きいのだろう。最早テンガロン・ハットとウエスタン・ブーツというようなイメージとは関係なく、純粋に音楽の楽しさ・温かさといった側面でカントリーの風味を取り入れるアーティストも増えているわけで、「カントリーだからこう」という様式自体はどんどん取り払われている。演奏する側も聴く側も、一昔前に比べてカントリーをカジュアルに楽しむようになってきたわけだ。
 そんななかにあって、リトル・ウィリーズによるカントリーのアプローチはほかにないもので面白い。リトル・ウィリーズはノラ・ジョーンズと彼女の音楽仲間たちによって2003年に結成されたカントリー・バンド。だがノラをはじめとするメンバーはみなニューヨークを拠点に活動を続けるミュージシャンだ。
 ノラと共にヴォーカルを担当するシンガー・ソングライターのリチャード・ジュリアンは言う。
 「ニューヨークはご存じのように、カントリー・ミュージックに馴染みがあるとは言えない街でね。だけどノラも僕もジム(・カンピロンゴ / g)もカントリーを好きで昔から聴いてきたし、自分たちで演奏したいと思える好きな曲がたくさんあるわけだ。それで、ニューヨークでは誰もやらないことだけど、カントリー・バンドを作って、好きな曲を演奏して楽しもうよって話になって。オースティンやテキサスの人なら当たり前のように聴き馴染んでいる曲でもニューヨークの人は知らなかったりするから、彼らにそのよさを提供する意味でもいいんじゃないかってことでね」
 当初はニューヨークの小さなライヴ・バーで演奏して楽しんでいるだけだったが、やっていくうちにレパートリーが増え、さらにはオリジナル曲も加わり、2006年にはバンド名を冠したアルバム『リトル・ウィリーズ』がリリースされた。
 「とにかく5人の化学反応が素晴らしくて、最高の音楽を生み出せた。それを多くの人に聴いてもらいたくてレコードまで作ったわけだけど、レコード会社にとっては、これは売るのが難しいアルバムだったかもしれないね(苦笑)」(リチャード)
 その後、ウィリーズはアメリカ国内を少しばかりツアーしてまわったが、やがて各々が自身の活動に戻り、バンドの活動は休止。そもそも趣味で始まったバンドであるゆえ、そのまま自然消滅かとも思われたのだが……。ここにきて彼らは突然のように新作『フォー・ザ・グッド・タイムス』を発表。前作からじつに6年ぶりの再始動となった。
 「僕らはまた一緒にプレイすることになるだろうって、ずっと思ってたよ。ウィリーズは自分たちが楽しむために始めたバンドだから、しばらく休みをとって、また戻ってくるというのは、いいあり方なんだ。このバンドで演奏するのは、古くて心地いいスリッパを履くようなものなのさ」(リチャード)
 「カントリーを演奏するには畏敬の念がなくては」
(c)Christian Lantry
 新作で取り上げられた曲の幅は、前作よりも広がった。自由度が高くなったとも言えるだろう。バンド名の由来となったウィリー・ネルソンの曲はもちろんのこと、ロカビリー時代のジョニー・キャッシュの曲、初期のボブ・ディランのレパートリーでもあったカントリー・ワルツの曲、ロレッタ・リンのヒット曲のロッキン・カントリー解釈、それにノラの敬愛するドリー・パートンの「ジョリーン」などなど……。カントリー通じゃなきゃ知らないようなマニアックな曲から誰もが知っている有名曲までもが取り上げられ、年代的にも1920年代のものから60年代あたりのものまでさまざまだ。が、どれもアレンジの仕方が洒脱で、そこに遊び心があふれている。意識はしていなかったとしても、やはり都会的な感覚が滲み出てもいるのだ(特にノラのピアノ)。またノラとリチャードのヴォーカルにも現代的な情感が込められているので、オリジナルの年代を意識させずに心地よく響いてくる。モダンなのだ。
 ギタリストのジム・カンピロンゴは言う。
 「カントリーを演奏するからには、そこに畏敬の念がなくてはならない。それは大事だよ。でもだからといって独自の解釈を加えないというわけではない。僕らは懐古趣味のバンドをやりたいわけじゃないし、僕らだからこそできる音楽をやりたいんだからね」
 バンドはそのようにして、カントリーという服を自分たち流に着くずすことを楽しんでいる。今も、恐らくこれからも。最後にノラの一言を。
 「このバンドでずっと演奏していきたいの。だから楽しめないのは嫌だし、仕事気分ではやりたくないのよ」


取材・文 / 内本順一(2011年12月)


ザ・リトル・ウィリーズ
『フォー・ザ・グッド・タイムス』

(TOCP-71220 税込2,300円 / 1月11日発売)

01. アイ・ワーシップ・ユー
スタンリー・ブラザーズの代表曲のひとつ
02. リメンバー・ミー
1940年代のカントリー曲。ウィリー・ネルソン他カヴァー多数
03. ディーゼル・スモーク、デンジャラス・カーヴズ
ドイ・オデールのカヴァー
04. ラヴシック・ブルース
エメット・ミラーが本家だが、ハンク・ウィリアムスのカヴァー版が有名
05. トミー・ロックウッド
※オリジナル曲
06. フィスト・シティ
ロレッタ・リンのNo.1ヒット・ソング
07. パーマネントリー・ロンリー
ウィリー・ネルソン作曲、ティミー・ユーロ歌唱の名曲
08. ファウル・アウル・オン・ザ・プラウル(いまわしいフクロウ)
クインシー・ジョーンズが音楽を手がけた、映画『夜の大捜査線』('67)の劇中登場曲
09. ワイド・オープン・ロード
ジョニー・キャッシュの初レコーディング曲と言われている
10. フォー・ザ・グッド・タイムス
シンガー兼俳優のクリス・クリストファーソンの作品。レイ・プライスのカヴァー版も有名
11. お金があればね
レフティ・フリゼルのデビュー曲。ウィリー・ネルソンのカヴァーも有名
12. ジョリーン 試聴(45秒)
ドリー・パートンが本家の名曲。オリビア・ニュートン・ジョンのヒット曲としても有名
13. ディリアズ・ゴーン(日本盤ボーナス・トラック)
戦前から歌われているフォーク・ソング。ジョニー・キャッシュが何度も録音している
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