【1stアルバム・リリース記念 トマパイ5週連続企画第5弾】
agehasprings玉井健二が語る、トマパイの作り方
5週連続シリーズの最後を飾るのは、クリエイター集団、agehasprings代表の
玉井健二。
Tomato n' Pine作品のプロデュースを包括的に行ない、作詞やアレンジも手掛ける人物である。ここでは、agehaspringsの体制や
『PS4U』の知られざる楽曲制作の裏側について話を聞きました!
トマパイは極力少人数で、お腹いっぱいご飯を食べたあとに寄る、
いい感じのカフェみたいにしようと。
――そもそもTomato n' Pineのお仕事が始まるきっかけは何だったんですか?
玉井健二
「始める前はアイドル戦国時代みたいに言われる前夜というか、
AKB48がすごいことになってきそうだなぐらいな感じで。そこら辺のことを詳しくなくて、眺めていたという状態だったんですけど。僕ら音楽屋さんは、どんなプロジェクトでも同じようなやり方をしてるんですね。それは真っ黒けのユーザーと真っ白けのユーザーがいて、僕らと同じぐらいの度合いで音楽に携わってる、ないしは音楽が好きな人たちが反応するものと、今まで音楽にほぼ興味がなかったですっていうライトな人たちの両方を見て普段作ってる。真ん中には、いろんな人がいるし、それこそ戦ってる場所なんで、僕らはこの両端だけ考えて作るって決めてやってきてるんです。同じ発想で、ガールズ・ユニットをやってみたらどうなるんだろうと。いいリソースがあって、うちで言うとジェーン・スーっていうプランナーがいて、それを掛け合わせて、僕らが音楽を作る。で、何が起こるんだろうっていうのが見てみたかったのが最初の出発点。そこにたくさん人を集めるとか、CDをものすごくたくさん捌く方法論を頭の中で考えてはみたんですけど、何やっても勝てそうになくて」
――あはは。
「圧倒的な努力がそこには必要で。おこがましくも、それほどダンスとか歌も努力してこなかった子たちが、十代の青春すべてを捧げて戦ってらっしゃるアイドルの皆さんのところに参戦するっていうのは、ちょっと失礼じゃないかと」
――そんなことはないと思いますけど(笑)。
「同じアイドルのくくりの中にドヤ顔で乗っかるのもどうかと思ったんですね。人数をいっぱい増やして、いろんな選択肢があるようなプロジェクトをしていくっていう考え方ももちろんあるでしょうけど、トマパイは極力少人数で、何かお腹いっぱいご飯食べたあとに寄る、いい感じのカフェみたいにしようと。駅前の食事の戦争には勝てないので、その辺はもうやめておこうっていう」
――激戦区過ぎるから?
「そう、まず駅前を避けようと。一本通りを離れたところに、敷居は低いけどちゃんといい音楽が流れてて、ちょっと気になるねぐらいの女の子がいて、意外とそこで聴く曲が好きで、あとで調べてみたら古いブラック・ミュージックらしいとか」
――なるほど。
「最初に“戦わない”っていうキーワードにしたのは、やっぱり周りの皆さんがやってらっしゃるアイドルってとんでもないですからね。トマパイのメンバーとは生き方が違うと思うし。ただ僕らは、手前味噌ですけど、音楽のカルチャーの工房なので、工房直販のカフェみたいな強みを感じていただければと。パンって軽く考えてたけど、意外と美味いんだなとか、そういう経験ってあると思うんですけど、トマパイがそういう存在になってくれたらいいなと思ってます」
――玉井さんとジェーン・スーさんの作詞はどういう風に進めてるんでしょうか。僕のイメージでは、ジェーン・スーさんが言葉を作っていって、玉井さんが音楽的な響きで揃えているのかなという感じなのですが。
「ほぼそうですね。逆もあったりします。ただ、ジェーン・スーと僕は話し出すと3時間かかるんです」
――話が長い(笑)。
「話している間にどんどん妄想が広がっていって、基本のリズムトラックが70年代なのに上物がちょっと違って、歌詞はこうでとか、うわーっと喋って、大体そういうのは呑み屋で終わる話なんですけど、それを具現化していこうっていう(笑)。それができるノウハウとスキルがたまたまそこにあったんです」
――それがすごいですよね。例えば「Train Scatting」で
スキャットマン・ジョンを下敷きにしようっていう発想とか。ネタの引っ張り方も驚きですけど、音楽をかっこいいものに仕上げるのって相当ハードルが高いんじゃないかなと思うんですが。
「爆笑の会議を経て決めたコンセプトだけど、そこのコンセプトに対して忠実に作っていく。あくまでポップ・ミュージックとして真面目に。だから、例えばスキャットマンっていう裏テーマがあったとしても、それだけで終わらせないで、そこにあるリソースをどう料理していくのかっていうのを、きわめて音楽的な目線で仕上げていくっていう考え方なんです」
――agehaspringsには作曲される方が何人かいて、割り振りしていくじゃないですか。それはどういう風になっているんですか?
「こういう楽曲を作るっていうコンセプトが投げられて、それぞれ反応した人間が書いてきます。そこが贅沢な作りをしていて、楽曲が選ばれる過程はオーディションなんです。だから、かつての有森裕子さんばりに“自分を誉めてあげたい”みたいな感じで、音楽作る人たちはすごく頑張っていて、そうやって戦ってちゃんと仕上げたものをさらに緻密にカスタマイズした上で提供して、メンバーたちには楽しんで参加してもらう。またトマパイをやりたいって毎日思えるような、そういう空気をまず作りたかったんです。その代わり、お客さんには音楽で引っかかってもらうことがやっぱり大事なので、隠れたところで意外とサバイバルしてます」
ジェーン・スーがWADAに“今度ラップやるよ”って言ったら、
“これですか?” (DJがスクラッチする仕草)って(笑)。
――曲についてお聞かせ下さい。「ワナダンス!」は分かりやすくネタがいっぱいありますよね。これもやっぱり、爆笑の会議を経て……?
「そうですね。僕の中でこれが一番面白かった会議でしたね。すべて上手くいったなって」
「ポイントはそこですね。ビズ・マーキー目線(笑)。真顔でこだわったのはそこなんです。あの鼻歌感。しかも許諾取ってないだろぐらいな、危うい感じというか」
――最高ですよね(笑)。「あ、ビズなんだ、こっちなんだ」っていうのを思わせるっていう。
「そこを分かっていただけるのは非常にありがたいです。トマパイってこういう楽しみ方なんですよね。そこに気づいていただいたり、気づかれなくても楽しめて、追っていくと、いろんな隠し味があって。隠れてないって説もあるけど」
――あはは。でも一瞬だけ
シェリル・リン「Got To Be Real」のブレイクが入るとかって、なかなか分からないじゃないですか(笑)。わざわざ発言して表に出そうともしてないし。だけど、掘っていくと面白い仕掛けがすごくある。
「これは本当に掘って楽しんでいただきたいので、全部は言わないですが、ひとつだけ大きなコンセプトとしてあるのが、タイトルにポンとある<ワナダンス!>。要は西麻布に昔『ワナダンス』っていうクラブがありまして。ハウスとか日によってダンス・クラシックスがかかってて。もう帰れっていう時間に<君の瞳に恋してる>がかかったりとか、あの頃のダンクラの、91、2年から95年ぐらいの感じ。当時あの辺のクラブに行ってらっしゃった方はいろいろ笑えると思うんですけど」
――歌詞もすごく思わせぶりな言葉がいっぱい入ってますよね。
「そこもいろいろ掘っていただけるとありがたいなと。掘りものですね。しかもこれ面白いのが、トマパイ本人がきっと知らないっていう」
――ですよね(笑)。“Mr.DJ”って言われても。
「そうですよね。ジェーン・スーがWADAに“今度ラップやるよ”って言ったら、“これですか?”(DJがスクラッチする仕草)って感じで(笑)。まあ、そんな感じです(笑)」
――ヒップホップを聴いてソウルとかジャズに辿り着くじゃないですか。その感覚と同じですよね。
「ですね。まったく同じですね。自分もウチのスタッフ達もだいぶ頭がおかしいなって思うのは、あくまで軸は“いい曲を作ろう”ってところからスタートして、結果がここに至ってるっていう。どういう曲だったらいいみたいなことを考えた結果が、西麻布の90年代の歌だったっていう」
――あはは。でも聴いてる人もこれきっかけでネタを聴いたりするのは面白いですよね。
「そうですね。例えばイントロの弦のフレーズとかを、どうやって法律を回避してるのかとか」
――そっちですか(笑)! はっきりネタが分かるのに別物、ということですよね。
「そうなんです、自分にガッツポーズですよね(笑)。
PUFFYの<これが私の生きる道>で、
奥田民生先生が
ビートルズ<Day Tripper>のリフを弾いてると見せかけて音階が沖縄っていう、あの感じをイメージして。普通に受け止めて“いいフレーズだな”って思うし、そこまで掘ってみた時に“こういう楽しみがあるんだな”とか“こういう技なんだ”とか、その両面ある感じっていうのがすごい面白いなと思ったんです。民生さんがそう思って作ったかどうか聞いたことないので分からないんですけど」
――ネタ系で別のこともうかがっていいですか? 「ためいきはピンク」は、最初が
シュガー・ベイブの「Down Town」のギターのフレーズを鍵盤でやったのかなと思ったのですが。
「それはもう正解過ぎるので何とも言えない(笑)。そこはノーコメントで(笑)」
――そういうオマージュが本当に面白いなと。
スタッフ 「シュガー・ベイブもオマージュですもんね」
「そう、だからオマージュからのオマージュなんです。ポップ・ミュージックの正当なひ孫と呼んでください(笑)」
「そうです。で、昔っていうのかな、本当にアイドルがアイドルアイドルしてた時代って大御所の方が音楽を作られてましたよね。
細野(晴臣)さん、
大滝(詠一)さんとか。大きく言うとあのイメージなんですよね。で、細かいフレーズやグルーヴでそういうネタがあって。二層構造ですね」
――昔のアイドル・ポップスとかシティ・ポップスみたいな曲がアルバムに入ってよかったと思いました。
「やっていてアイドルって忘れがちなので、アイドルだぞって自分たちに強く言った一曲ですね」
――アイドルなんだぞと(笑)。でもこの曲をちゃんと歌えてるっていうは、ご本人たちもすごく成長してるのかなと。
「そうですよね。ふわふわやってるわりには意外と伸びできてるなと。人間ってすごいな」
――人間すごい(笑)。3人の声についても聞かせて下さい。合わさった声がすごくいい声だなと思っているんですが、歌手としてのトマパイってどういう風に捉えていますか?
「歌が上手いとか下手っていうのは、ユーザーのみなさんがすごく評価するところじゃないですか。トマパイはそこを売りにすることはできないという前提で言えば、才能ってどこにあるかというと、言葉の発音だと思うんですよね。僕の持論なんですけど。歌が上手かろうが下手であろうが、この言葉をどういうふうに発音して、どういうニュアンスをつけられるかっていうのが才能だと思うんです。これは恐らく女優さんとか俳優さんにも通じることだと思うんですけど、その人が発する言葉から受け止められるものが、スッと心に入る発音ができる人っているんですけど、3人ともそれぞれ違う方向で、そういう才能は持ってるんですよ。なので、例えばこの言葉を一番上手に表現する人が聞こえるように、じつは細かく(声の)出し入れはしていて。ラップやってるところを聴いてもらえるとわかると思うんですけど、それぞれのキャラクターがよく出ていると思うんです。それぞれが持っているところを、ちゃんと繋いではいるんです」
――ユニゾンを聴いていて、自分が耳にしているのは誰の声だろうと思うことがあって。
HINAさんが前に出ることが多いのかなとか思うんですが、そのあたりはいかがですか?
「曲によります」
――それがさきほど仰っていた発音の仕方で?
「ですね。誰のキャラクターが一番フィットするかとか、フィットしすぎないでいいケミストリーができてるとか、それの両方ですね」
――トマパイの特徴っていうと、やっぱり後ろの音や曲にいきがちだと思うんですけど、声が相当な大事なんじゃないかなと思っていて。
「大げさに言うと、そこも僕らの得意技で、ヴォーカルが占めるトラックが実は一番重要で。歌のニュアンスがダメなものっていうのは楽曲が全部壊れちゃうんですよね。どんなに面白いネタだったとしても、ただのいい曲になってしまう。そこは本人がちゃんと表現してくれてるから、トマパイと言えども一丁前のヴォーカリストですよね」
“愛すべき”って言葉が好きで、すべてにおいて愛すべきもので揃えたいなと。
――奥田民生さんの話が出たので、PUFFYのカヴァー「渚にまつわるエトセトラ」について聞かせてください。これはどういう経緯でやることになったのでしょうか。
「なんとなく僕らの頭の中に、少人数=PUFFYっていう……」
――そんな理由ですか(笑)。
「すごいざっくりした話で申し訳ないです。ただ、PUFFYってアイドルだったのだろうか、アーティストなのだろうか、どういう存在だろうって考えた時に、そこに明確な答えってなくてもよくないですか? PUFFYっていうものが面白かったし、ずっと見てたいなって思わせる力がある。よく
Perfumeがアーティストなのか、アイドルなのかと言われているのを見ていて、僕はあんまりそういう感覚はなくて」
――どっちでも良いじゃんという。
「そこを分けることが楽しかったりするとは思うんですけど、トマパイはさっきも言ったように駅前を避けたユニットなので、そこはPUFFYに通じるかなと思って。じゃあPUFFYのこの代表的な曲をやってみようと。あと、さっきの話に通じちゃうんですけど、この曲のリミックスが異常にかかってたんですよね、昔」
――クラブでですか?
「クラブで。本格派のDJとして評価されなそうだと自分で分かっているDJがよくかけてたんです(笑)。その感じがすごい切なくて好きだったんです。これかけて人をフロアに呼び込んで、自分の勝負曲かけて、また去られていく。その感じにキュンと来てる時代があってですね、そいつへのオマージュですね(笑)」
――すごく個人的(笑)。
「なので、ちゃんと懐メロハウスみたいな作りをして(笑)。楽しかったんですよね、あの頃。“あのDJどうだった?”て女の子に聞いたら“最高だった、PUFFY”って言って」
――わははは(笑)。そのDJの方にこのバージョンを聴いてもらったりは?
「はい。例に漏れず、そういうDJは今バーをやってたりするので、ちゃんとかけてくれてたので嬉しかったですね(笑)。ただ、そいつが真顔でいいと思ってかけてる感じがシュールで“だからダメだったんだろうな”っていう感じがまた好きですね。“愛すべき”って言葉が好きで、すべてにおいて愛すべきもので揃えたいなと」
――「愛すべき」って、ちょっとダメなんだけどってニュアンスも若干含まれるじゃないですが。そこはトマパイのダンスにも通じるものが。
「それは、もはや“どう残念か”っていうジャンルに入ってると思うんですよね」
――いやいや、そんなことはないとは思います(笑)。
「でもそこがかわいいとか、そこがいいんだって言っていただける人に集まっていただきたい。僕はそれもひとつのカルチャーだと思うんですよね。西麻布のelevenでイベントやったりするのも単純に音楽を楽しんでもらいたいから、あそこを選んでるんですけど」
――本人たちも周りが暗いから伸び伸びやれるっていう発言をよくされてます(笑)。では次の曲に行きます。「10月のインディアン」が、サンバなのにすごい涼しい曲で。これはどういう風にできたんですか?
「これは、ボサノヴァをやろうと思ってたんですけど、やってるうちにこういうことになっちゃったんですよね。ボサノヴァで済まなかった」
――踊れる曲になってしまった(笑)。
「どうしてもズンズンとか入れたくなっちゃうんですよね。で、ジェーン・スーが“ズンズン”って書いてきたんです。“ズンズンか。ズンズンならズンズンしよう”っていう。そこで当然ながらサンバに向かうんですけど」
――歌詞に導かれて?
「そうですね。ズンズン始まり」
――ボサノヴァって、サンバがうるさいから静かな曲をやってみようって生まれたジャンルじゃないですか。成り立ちとしては逆で。
「そうですね、ウエスタン・ラリアットがフライング・ネックブリーカー・ドロップから生まれたのに、ウエスタン・ラリアットを見てネックブリーカー・ドロップして、みたいな話ですね」
――というお話ですね(笑)。だから、この清涼感がある。
「で、まあ、〈10月のインディアン〉なので、薄い夏っぽさっていうのを考えた時に、例えばニック・ホルダーとかに通じるような、下の方はローファイなトラックメイキングで、かつサンバを掛けてみるっていう感じですかね」
――ありがとうございます。この際なので、駆け足になってしまいますが全曲についてうかがっていいでしょうか。
「<Train Scatting>は曲名は言えないですけど、スキャットマン・ジョンなんだけど、メインの音階は実は別の曲の代表的なフレーズになってるネタで、これも掘っていただけると面白いです」
――掘ってみましょうということで(笑)。
「なないろ☆ナミダ」はストレートにハウシーな曲になりました。トマパイの王道みたいなのがあると思うんですよ。「旅立ちトランスファー」もそうですけど、どこでA面曲が決まっていくのでしょうか。
「シングルの表題曲は極めて真面目に作っていて。いい音楽って何?って考えると、コードと主旋の関係の旋律感と、どんなテンポの曲でもどんな形でも踊れるっていうのと、あとそれぞれの人が思い返せるようなシーンがある歌詞。その3つが揃ってないと人が振り向いてくれないと思ってるんですよね。なので、トマパイのできる最大限の、いい三角形をまず追求してみようってところから入るんです」
「おっしゃるとおりです。必ず根本に品があるってのは何をやるにしても基本だと思います」
――続いては「踊れカルナヴァル」。これもサンバっぽい曲ですが、「10月のインディアン」とは違って熱い曲になってます。
「<10月のインディアン>はボッサだったんですよね。<踊れカルナヴァル>はサンバから始めました。サンバと言うか“ラテンってないよね?”みたいな話になって。ラテンがなきゃいけないっていう感覚がまずおかしいんですけど、“そうか、ラテンか”と。で、ラテンって言われて最初に思い浮かんじゃったのが
マイアミ・サウンド・マシーンって言うか
グロリア・エステファンで、もうひとつが
中山美穂だったんですよね」
――中山美穂(笑)!
「なので“中山エステファン”っていうコンセプトを立てて。で、見事に仕上がったという」
――爆笑会議の中身がちょっと分かった感じがしました(笑)。ポンポン出てきたアイデアを繋いでいって、いざ制作の時には真剣に取り込むっていう。
「言ったコンセプトで自分らが苦しむパターンですね」
――あはは。最後の「回す」の連発が印象的で。
「ダンス・ミュージックにつき物の繰り返しの美学ですよね。まあ、
ジェイムス・ブラウンがなかなか終わらないっていう話ですね」
――しつこいっていう(笑)。
「長過ぎなきゃいけない。でも、これ以上でもだめだし、これ以下でもだめ。回数決めるのに無駄に時間かけましたね」
――絶妙な長さになってよかったです(笑)。「POP SONG 2 U」ですが、これは初期の曲と言うこともあって、今の雰囲気を考えるとすごくライトな感じで。トマパイをやる上で、この頃と今とでは何か違いました?
「そういえばパッと盛り上がる曲がないな、という。最初にやったライヴを見て、これの音が鳴ったんですよ。ガールズ・ポップの80年代とか90年代にあったような、頭からカーンと盛り上がる、あのシンセ音。“オケヒ(オーケストラ・ヒット)だ”ってことを考えたんですよね。で、オケヒと言えば、っていうパターンでハマった歌詞なんですよね」
――いまだにライヴの最後にやることが多い曲で、すごく分かりやすく盛り上がります。
「タイトルそのまんまなんで、ポップ・ミュージックで盛り上がろうっていうことなんですよね。じゃあ歌詞にはどんな意味が、と問われるのが一番怖い。なぜなら、ないからなんですけど」
――ははは。“ナツメグなんじゃない?”って。
「はい。なんなんだろうって。“キキミー!”ってね(笑)」
トマパイの曲はフロアでかかるし、ヘッドフォンでも聴いてもらう。
ここは常に意識してますね。
「<ワナダンス!>と共通するんですけど、やっぱりオマージュ系ですよね」
――ストリングスを効果的に使うのもagehaspringsの特徴だと思うんですけど、このリッチな響きがダンス・クラシック感に繋がってるのかなと。
「ダンス・クラシックスと言われる70年代ディスコのストリングスの無駄に大仰で、オーバーなあの感じがすごい好きで。“いらないでしょ、この音”みたいな、ハミ出てる感じがすごく好きなんです。どっちかというとそうじゃないといけないと思ってるぐらいで、こういう弦が入るんだったら、ああいう方法かフィラデルフィア・ソウルかのどっちかっていう出口が決まってるんですけど。これに関してはわりと正しくディスコな感じというか。ストリングスに関してはそうですね」
――生弦でやることってあるんですか?
「シンセ・ストリングスが多いです。最近、他のプロジェクトでも多いんですけど、生弦の良さと違ったよさが出てきちゃってて。ソフトが非常に良くなっていて」
――シンセ・ストリングスの独特の心地よさがありますよね。
「そうですね。そっちで置く位置とかEQの幅とか計算して作り込んだ方が結果よかったりする場合が増えてきたんですよね。このニュアンスを出すのがものすごく緻密な作業なので、途中で諦めて“(生演奏で)録っちゃわない?”って時々言うんですけど、“いや、最後までこれでやろう”っていうパターンが多いです。だからテクノロジーに助けられているというか、駆使してるというか、それはそれで音楽好きな人、これから作りたいって思ってる人は、ぜひ使ってもらいたいなって思いますよね」
――残り3曲になりました。「そして寝る間もなくソリチュード(SNS)」はトマパイの中で一番ユニークかもしれない曲で。こういうロックって、玉井さんはリスナーとしては通ってきてるんですか?
「かすってるぐらいですかね。世代的に、自分の上の人たちはヘビメタの世代で。ちなみにTomato n'Pineっていう表記の元になってるのは
Guns N' Rosesで」
――そうなんですか!!
「最初はTomato and Pineだったんですよ。で、Tomato n' Pineに。もうそこからおかしい(笑)。ああいうのも、うっすら通ってはきてる感じですね。HINAがハード・ロックが好きだって言うんで、“そうか、じゃあやんなきゃな”ってずっと思っていて。タイミングとしてはここしかなかったんです。それで、僕がパッとイメージしたのは、アメリカのB級映画大好きなんですけど、必ずワケもなくハードなギター・サウンドが盛り上がるシーンってあるじゃないですか。部屋でクッション投げ合うみたいな。あれをイメージしていて」
――だから急にパッと変わる曲になった?
「急に中学生、高校生ぐらいが異常に盛り上がるシーンみたいなのを西麻布elevenでやりたい、ただそれだけっていう。1サビでギターがやけにうるさくて怪しいなと思ったら、こういうことなのか、みたいなことなんですけど。どう考えても両サイドがうるさいなって」
――おかしいぞと思ったら、という(笑)。続いて書下ろしの「大事なラブレター」。アルバムに入れる曲を作ろうってなった時に、全体のバランスをとろうと思って作る感じでなんでしょうか。
「バランスはあまり考えてなくて、今、思いつくことでやり残したことあったっけ?という。<大事なラブレター>は、一言で言うと、カタカナの“シブヤ”をもうそろそろさらっておいた方がいいのかなっていう、そこからスタートしてますね」
――歌詞が分かりやすいですよね。渋谷系は、もうなんと20年近くも前になろうとしているという。
「そうですね。これは悲観的な話なんですけど、あの時の渋谷の感じってもう二度とないだろうって思うので」
――豊かな感じが?
「ローファイなものを愛でたりとか、本流じゃないことを楽しめたりとか、そしてそれを提供してくれる場所があったとか、今の日本にどれだけあるんだろう。僕ら自身そういうことをやらなきゃいけないんじゃないかとか、そんなことまで考えてたりさせられている中で、今の世代の人にも、それを知ってる世代の人にも、このテイストを感じてほしかった。薄いんだけどしっかりジャズがあって、ほんのりソウルもあって、でも全体はちゃんと音楽的でカジュアルで楽しめるっていうのが、実はものすごく難しいっていうか、それがもしかして一番貴重かもと思って。だからこれは、わりとそういう思いで作ってますね」
――すごくざっくり言うと、若い人が洋楽を聴く機会が減ってますよね。
「全然売れてないみたいな話よく聞くんですけど……。そこを楽しめる原体験が減ってるだけだと思うんですよね。なので、トマパイというミッションでそこはやりたかったことのひとつです」
――そしてラストは
ZONEのカバー「夢のカケラ・・・」。これは企画盤の曲で。
「トリビュートで参加させていただいて。担当者からZONEの中でもプライオリティが高い曲だという説明を聞きまして。光栄にもやらせていただけるということで、じゃあ原曲とすごく違うふうにしなきゃというプレッシャーを感じながら作っていったら、夢のカケラがちゃんと残ったのかどうかという(笑)」
――僕はあのトリビュート盤でベスト・トラックだと思いました。ちゃんとトマパイの曲にもなっているっていうのは、すごくいいことだなと思って。カラオケっぽくなる場合もあるじゃないですか。
「ありがとうございます。トマパイの曲はフロアでかかるし、ヘッドフォンでも聴いてもらう。ここは常に意識してますね。あくまでいい環境、もしくは音楽に対してすごい寄り添った関係で聴いてもらえて、得した気分になるような、そこだけはブレないようにと。これはそういう目線ですね」
――今後トマパイでこんなことしてみたいとかあります?
「これからアイドル戦線に殴りこむぞとか、そういうことは今はまったく考えてなくて。駅前から一歩離れた店として新メニューを出し続けていって、そこに寄ってもらう人と向き合って、ということしか考えてないですね。それでいいんじゃないかと。とにかく居心地がいいってことにこだわりがあるんです。どうあり続けるかってところだと思うんですよね。本人たち含めて。辞めたくなったら辞めるでしょうし」
――わはは! でもホントそうですね。
「実はメンバー3人が一番鍵を握っているっていう(笑)。でも、そういう意味でもトマパイは貴重だと思うし、無理難題を課してもないし、トマパイが楽しめる環境を作って、トマパイにいることを選んでいる人たちがステージに立っていて、そういうのを楽しんでもらえる人に付き合ってもらって、とにかく他の人たちと比べることなくやっていけたらそれって実は凄く意味のあることだと思うんです」
取材・文/南波一海(2012年8月)
玉井健二音楽プロデューサーとして、YUKI、中島美嘉、flumpool、CNBLUEほかを手掛け、ヒットメーカーの地位を不動に。自身のユニット、元気ロケッツでは音楽と映像のハイブリッドな融合を実現し、世界で高い評価を獲得。代表を務めるクリエイターズ・ラボagehaspringsが手掛けるCD+DVDの総売上枚数が、05年発売以降のみで3,000万枚突破を記録した。近年ではFM局のブランディング・プロデュースやアプリ開発に携わるなど、その活動は多岐に渡る。
■agehasprings
http://www.ageha.net/■元気ロケッツ
http://www.genkirockets.com/