日本のシューゲイザー・シーン特集〜cruyff in the bedroom INTERVIEW

Cruyff In The Bedroom   2007/09/13掲載
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 巷では"ニューゲイザー""ネオ・シューゲイザー"というジャンル名が飛び交い、レコード屋のポップには「シューゲイザー必聴盤」「マイブラ好きにオススメ」「『ラブレス』再来」などの殺し文句が躍り、国内外でさまざまなコンピレーションが組まれて企画イベントも多く、バンド・メンバー募集用掲示板では轟音ギタリストが名乗りをあげる。リアル・タイムの90年代初頭以来、空前のシューゲ波が来ているのをひしひしと感じるここ数年。けれどこの豊穣ぶりは、以前からこの日本にもシューゲイザー精神がしっかり根付いていたからこそ。ここでは愛すべき国産シューゲイザーたちにスポットを当てて紹介していきます。



シューゲイザーからメタルやテクノ、インダストリアルまでを轟音ギターでざっくり串刺すディーパーズ、バンド史上最もポップでシューゲなアルバム。元B.P.のイチマキと一緒に可愛いらしくコーラスしたかと思えばデス声炸裂、ゴリゴリなリフが吹き荒んた後は、哀愁たっぷりの轟音ボサ・ノヴァ・コードでしっとりと畳みかけるミクスチャーぶりはさすが。新作『Yukari Telepath』でも「AOA」などでステキにシューゲイズしている。

竹内里恵の"アイディア(曲)を音にする装置"として、その時々でさまざまなゲストを迎えるフレキシブルなソロ・プロジェクト、ルミナス・オレンジのミニ・アルバム(99年発表)。小気味いいフックを効かせたギター・サウンドを、キラキラまたたくセブンス・コードとハイ・トーン・ヴォイスで上品に彩るモダン・ポップ・ミュージック。新作『sakuraswirl』(2007年)には、元ペイル・セインツのイアン・マスターズがヴォーカル参加。

甘いメロを歌い上げるキャッチーなヴォーカルに、ライド直結の疾走感を備えた、日本のキング・オブ・シューゲイザーによる初フル・アルバム。ひたひたと高揚感をあおるリズム・セクション、浮遊感たっぷりのゆるやかなコード進行、フィードバックするギター・ノイズの温もり。轟音の中にも凛とした静寂をたたえ、全編にわたって緊張感が包み込む。やるせない孤独感に張り裂ける寸前を捉えた、美しくパーフェクトな名盤。

honeydip/portable audio science
95年結成の4人組が、ハードディスクレコーダーを片手にスタジオを飛び出し、リビングや浴室などメンバーが生活する空間で録音したアルバム2作目。ノイズ・ギターで織り成す轟音が全編にのっぺり行き渡り、水中を漂っているようなまったりとした空気感を味わえる。シューゲど真ん中な曲名を付けて遊んでみせる余裕も。メンバーの3人は80'sなダンス・ロック・バンド、tronとして活動中。

2000年に始動した男女2人組ハートフィールドのファースト・アルバム(2003年発表)。気持ちよく歪ませたギター・サウンドに、線の細い男女ツイン・ヴォーカルがふわりと被さる儚さはシューゲならでは。とどめに甘くみずみずしい極上のメロディで夢心地にしてくれる。シカゴ発シューゲイザー、アストロブライトの新作『ホワイトノイズ・スーパースター』に、YUKARIがヴォーカル参加している。

 シューゲイザーはもともと、マンチェスター・ムーブメントの後、80年代後半のイギリスで生まれた。フィードバックを多用して歪ませた幻想的なギター・サウンド、繊細で耽美なメロディ、囁くように歌われるヴォーカルを特徴とし、足元に並べたエフェクターを見ながら演奏するプレイ・スタイル、またそのうつむき加減の内省的なスタンスを揶揄してシューゲイザーやハッピー・ヴァレーなどと呼ばれる。日本でもそのムーブメントに呼応するようにホワイト・カム・カムペイント・イン・ウォーターカラー、ヴィーナス・ペーター、LOCO-HOLIDAYSなどのマンチェ〜シューゲイザーなギター・バンドが現われ、下北沢や吉祥寺のライヴ・ハウスでイベントも開催されるようになった。当時はギター・ポップ・バンドの延長のようなサウンドが主流だったが、フリッパーズ・ギターサロン・ミュージックスパイラル・ライフなど渋谷系のバンドもシューゲイザー的手法を曲に取り入れ、そこからこの道を知るリスナーも多かった。

 その後、下北沢を中心としたインディーズ人気の中で、日本のシューゲイザー・シーンは成熟期を迎える。90年代前半から活動を始めていたコールター・オブ・ザ・ディーパーズルミナス・オレンジdipZEPPET STORE、dive、Ca-p、honeydipwalrus、John juhl's Cornfields、クライフ・イン・ザ・ベッドルーム、JESUS FEVERらに加えて、2000年初頭にはハートフィールドmashG-Amperestereo sunCLAMSらが始動。編まれたコンピレーションも多く、99年に北海道のインディ・レーベルが『Independent Type "A"』を発表。参加したのはほぼ無名のバンドばかりだったが、良質なシューゲイズ・サウンドが楽しめることで密かな人気を呼ぶ。その頃はまだ手に入る情報も少なかったシューゲイザー・ファンの強い味方だった、国内および海外のシューゲイザーを広く紹介するウェブ・サイト「マイブラ予備校」監修のコンピレーション『セブン・ウィンターズ』が2001年に発売。NESTで行なわれたレコ発イベントは多くのファンで沸いた。2003年にはVinyl Junkie RecordingsとClairecordsの日米共同企画コンピ『パシフィック ユニオン』が発売。2002年の『ISOLATED AUDIO PLAYERS 2』は、コールター・オブ・ザ・ディーパーズやwalrusら の轟音サウンドを、音響やエレクトロニカ畑の面々がリミックスした異色コンピレーションだった。

 MORR MUSICなどシューゲイザーを取り込んだエレクトロニカへの注目を引き金に、シューゲイザー再評価の機運が高まった現在。ジャンル名が広く普及してゆくにつれ、音楽自体の輪郭は確かにぼやけてしまった。けれどギターのアームで揺らされるその幻想的な音像が象徴するように、シューゲイザーはもともと曖昧な音楽だ。その曖昧さゆえに、いろいろな土壌にこっそり浸透し、根を張り、それが今、それぞれのシューゲイザー観に基づいてあちこちでいっせいに芽生えているとしたら。ダンス・ビートと轟音の幸せな融合を試みる、deepsea drive machineHi-5cryv。女性ツイン・ヴォーカルが轟音の中で美しいメロディを歌い上げるtexas pandaa、レディオヘッドをも彷彿とさせるwooderd chiariesleepy.abの人気は高いし、音響やインストゥルメンタル・ロックの流れでも語られるeuphoriaSEQUENCE PULSEsgt.play of colourthe primroseなども、独自の世界観で魅了してくれる。と思うと、アンビエントやエレクトロな揺らぎのなかでノイズを鳴らすmy ghostや、自主制作アルバムがCLUB AC30の公式サイトでも紹介されたcosmicdustのような宅録シューゲイザーもいる。

 2000年前後にライヴ・ハウスを賑わせたバンドが次々と活動を休止する中、姿やベクトルを変えて存続する者も多い。walrusのベーシスト三浦薫はブンブンサテライツの平井直樹とインスト轟音ユニットoakを始動。honeydipはcatenineと合体してsugarcoatとなり、80'sを匂わせるダンス・ロック・バンドtronに転身した。元ZEPPET STOREの五味誠がギターを弾くsphereのダークで重厚な轟音は、まさにシューゲイザーな手法からひねり出されるし、同じく五味が参加するHOODISは、ZEPPET STORE、walrus、SUPERCARそれぞれの元メンバーが結集したバンドとして話題を呼んだ。そんな中でも、コールター・オブ・ザ・ディーパーズ、ルミナス・オレンジ、クライフ・イン・ザ・ベッドルームというシーンを代表してきたバンドが、シューゲを取り込んだそれぞれのスタイルで未だ活動中なのもうれしい。クライフはこの9月12日に初期音源集『young and blind』を発表し、日本のシューゲイザー・シーンをしょって立つ決意を表明。ギター・ヴォーカルのハタユウスケは、バンドと平行させてHYG(ハタユウスケグループ)を結成し、ギター、ヴァイオリン、鍵盤のトリオで、クライフのファースト・アルバム『perfect silence』でみせた"静"の部分、シューゲイザーと地続きのしなやかな音響サウンドを展開している。

 レコード屋に行けば必ずシューゲイザーの新譜が手に入り、Myspaceで世界中のシューゲイザーを視聴できる今、国産シューゲイザーの最大の魅力は、物理的な近さ。ライヴ・ハウスを訪れればいつでも生の轟音をたっぷり浴びることが出来るし、さまざまなバンドの中から自分の感性に響く音にめぐり合うこともできる。





98年結成。下北沢のライヴ・ハウスCLUB Queを拠点に、シューゲイザー/ドリーム・ポップ周辺インディ・シーンの中心となって活動する、"キング・オブ・シューゲイザー"クライフ・イン・ザ・ベッドルーム。自主企画イベント"Only Feedback"を定期的に開催してシーンを盛り立てている彼らが、現在レア・アイテムとなっている、99〜2000年のE.P.3枚に、コンピレーション収録の2曲を加えた初期音源集『young and blind』を発表。ギター・ヴォーカルのハタユウスケに、バンドの話、そしてここぞとばかりにシューゲイザー観をたっぷり語ってもらった。


――今回、初期音源集を発表した理由は?

「今でも<loved>とかをライヴでよく演奏するのに、買えないのは失礼だなと思っていたんです。あまりにも自分たちの曲に責任がないなと。<plastique bag>もライヴで食いつきはいいんですけど、このアルバムが出ないとなにげに手に入らないんですよ」

――今、ライヴでこの頃の曲をやるとすごいはまりますよね。?

「それに気づいたんです。この頃の曲をまだやってるのはそういうイメージなのかなって」

――遊び心いっぱいで、一番はじけてた時期ですね。

「そうですね。ライドの<チェルシー・ガール>風のをやってみようよとか、<シーガル>もそうだし、やりたいことがいっぱいありました。(マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの有名曲をもじった)<you made me paralyze>もわざとですしね」

――クライフってどの曲もシューゲイザー的要素がありますけど、それって何だと思いますか?

「僕の捉らえ方だと、ドリーミィで気持ちいいメロディ、そしてドンと盛り上がったときのカタルシス。あれを求めてますし、やりたいですね。それをシューゲイザーだと言ったら、僕らはシューゲイザーだと思うし。クライフは歪んでいようがなかろうが、ドリーミィさが全曲にある。大事なのはドリーミィさじゃないですか。幸せな感じ。あれはこの手の音楽ならでは、ですよね」

――「シューゲってサイケな感じ?」って言われるけど、そうじゃないと。

「ふわっとしている感じをサイケって言うのは僕の考えとは違うんですよ。クライフはサイケデリックをぜんぜん意識してないですね」




――今回収録されている「apple sauce」のふわっとしたギター・サウンドなんて、クライフならでは。

「あれはシゲ(サンノヘシゲカズ)ならではの音なんですよ。あのキラキラさはシゲしか出せないんじゃないかな。それと、曲作りで僕が大事にしているのはループ感なんですよ。同じコード進行が続く中でメロディとかが変化していく感じを意識して作るんです。それが<loved>で一番最初に出来たんですけど、<apple sauce>もそうなんですよ。この循環コードってすごい大事なんです。同じ場所にいて空が変わるように、同じコード進行でメロディとアレンジが変わっていく、浮遊感ってこれで出せるんじゃないかなと確信して、今でもやってますね。クライフの曲の1/3ぐらいはそうですよ。同じコード進行だからアレンジが大変ですけどね(笑)」




――自主企画イベント"Only Feedback"を続けていますが、どういうねらいで始まったんですか?

「CLUB Queの店長にイベントの企画を勧められて。あの頃って僕たちみたいな、いわゆるシューゲイザー的なバンドがいなかったから、そこを集めてやりたいなと思ったんです。で、元マーブル・ギター・ケースの鈴木くんのバンドmashに出てもらって、後はその時に気になったバンドと。あの頃、ピールアウトラブ・ラブ・ストロー、クライフって同じようなジャンルに分けられていて、確かに歪みの点では共通してたけど、"歪み=シューゲイザー"っていうのは絶対違うと思うな。歪みにリバーブやディレイが踏んであるほうがドリーミィじゃないですか。実際、僕らもそうしてるし」

――空間系ありきだと。

「そこはもう絶対ですね。みんな言うんですよ、“エフェクターが多すぎる”とか。“もっとシンプルにやれないの?”とか。やれません(笑)。レコーディングではギターをたくさんダビングするんです。歪みは3本ぐらいで、ふわふわ1、2、きらきら1、2、ゆらゆら1、2、くらくら1、2、とか空間系の音がいっぱいあって、それを整理してゆくのがクライフのサウンド作りなんです」

――イベントでステキなバンドをたくさん教えてもらいました。mash、dive、human stationHOUR MUSIKクレバス65とか。honeydipも音源でしか知らなかったし。

「honeydipは初期の方がドリーミィですよね。ちょっと暗いんですけど、もともとシブジュン(澁谷)は、ザ・キュアーとかバウハウスとか大好きでちょっとゴスよりですからね。そこはかとないヴィジュアル感はもともと経てるから」

――日本のシューゲイザーってそちらから流れてくるバンドがたくさんいます。

「多いみたいですよね、ゴス、ニューウェイヴっぽい感じからそっちにいくのって。僕はまったく通ってないんですけど、シブジュンもシゲもmashのフジイもみんなBUCK-TICK好きですからね。エフェクターの使い方とかで、なるほどって思うんですよ。ああ、だからシゲこう使うのかって」




like a daydream/RIDE
does this hurt?/the boo radley's
Phonefreak Honey/sweet jesus
ageless beauty/stars
I Am The Cancer/SLOAN
TIME BABY 2/MEDICINE
couches in alley/stylofoam
moon song/my bloody valentine
HOUSE FULL OF TIME/GUITAR
sharp twisted/YUMEBITSU
CHASING A BEE/MERCURY REV
how does it feel to looks like candy?/swerve driver
motel fumatore/monoland
pearl/chapterhouse

――シューゲイザーといったらどんなバンドが出てきます?

「ライド、チャプター・ハウスブー・ラドリーズと、ポップなのが好きですね。ライドって微妙にメロディがよくない曲があるけど、何やってもポップじゃないですか。あんまりコアな方にいかないあの感じがすごい好きなんですよね。スワーヴドライヴァーみたいなゴリっとした感じでもないし。そういう意味で一番好きなのはブー・ラドリーズかな。あれはやばいですよ。ファースト、超よくないですか? と思えば『カモン・キッズ』とかもよかったでしょ? まさか『ウェイク・アップ!』の後にあれが出るとは思わなかったですけどね」

――ジーザス&メリー・チェインはあまりドリーミィじゃない。

「歪みすぎなんですよね。僕の耳には痛いんです。ファーストの<ジャスト・ライク・ハニー>とかにあったドリーミィさがどんどんなくなっていったじゃないですか。初期のものすごいリバーブ感は2ミックスでかけた感じで、あんまり計算したノイズの入れ方ではないと思うんですけど、ただあれはあの時にあの人たちがやらなければ出てこなかったと思う」

――マイブラはどうですか?

「マイブラもメロディいいでしょ。<soon>とか初めて聴いたとき、びっくりしたもの。『イズント・エニシング』より『ラヴレス』の方が好き。あの頃のEP、いっぱいあるじゃないですか」

――「グライダー」とか?

「あれすっごいいいですよね。<ムーン・ソング>とかも超いいじゃないですか。マイブラに対してひとつだけ不満だったのは、ミックスのバランスがローファイで踊れない感じに作ってあるし、メロディもよく聴かないと聞こえない、そういう意図的な効果ですね。シューゲイザーっていう意味では『ラヴレス』、チャプター・ハウスのファースト『Whirlpool』とか思いっきりドリーミィですよね。リスナーみんなそれぞれのシューゲイザー観があるから、あんまり『ラヴレス』には触れないようにしてるんですけど(笑)」

――クライフはライドっぽさを一番感じますね。

「そうだと思います。よくメンバーとも話しますもん。ただ、なんでもかんでもマイブラとライドでまとめられるのだけはほんとにかんべんですね」

――今のシューゲイザーものはどうですか?

「ニューゲイザーとか言われるバンドも一応聴いてはいるんですけど、ぐっとくるものはあまりないですね。M83はちょっとハイ・ファイでリアリティがありすぎるんですよ。シガー・ロスはすっごい好き。あのドリーミィさは好きですよ。アミューズメント・パークス・オン・ファイアは僕の感覚からだと少し大味なんです。エディターズも好みではないです。monolandは青いジャケットのほうが良かったな。アイデス・オブ・スペースもファーストは結構好きです」




2000年にギター・ヴォーカルの小倉信二とドラムの徳山まことが結成したバンドが、5人になり、セルフ・レーベルから発表した最初のアルバム。"映像のような音楽、音楽のような映像"を掲げ、叙情的なメロディ、確固たる美意識を備えたノイズ・ギター・サウンドで作る轟音の壁。その重厚なサウンドはやや荒削りだけど、とてもシューゲイザー・マナーに適っている。2004年10月にDVDを発表。

マーブル・ギター・ケースの職人ギタリスト、鈴木正和を中心に結成されたバンドの3作目。儚い男女ツイン・ヴォーカルとソフトなノイジィ・サウンドが魅力の彼らだが、今作では女の子ヴォーカルを大々的にフィーチャー。インディ・ポップなメロディを奏でるリラックスしたギター・フレーズには、新加入のシンセが色合いと浮遊感をプラス。休日の昼下がりに浴びたい、愛され度たっぷりのせつなポップ・ミュージック。

2007年7月に待望の来日を果たして、シュー界隈のみならずインディ・バンド好きの間で話題になった、NY在住ドリーム・ポップ・バンドの2作目。紅一点の日本人ヴォーカル・ユキが歌うちょっと脱力の日本語英語詞と、アメリカ人の男たちがひねり出すノイジィ・サウンドとの組み合わせの妙が彼らの魅力。ポップなメロディと轟音の相性のよさを証明してくれる、バランス感覚抜群のアルバム。

VA/セブン・ウィンターズ
かつてシューゲ好きが夜な夜な通ったサイト、「マイブラ予備校」のnoricoが監修したコンピレーション。2001年発表。ディーパーズやルミナスから、青森のCa-p、名古屋のdiveら美麗シューゲイザーの今では手に入りにくい名曲を多く収録。日本のシューゲって?という問いに何よりも雄弁に答えてくれる名盤。アストロブライト、アリエルなど海外組も文句ない顔ぶれ。

ClairecordsとVinyl Junkie Recordingsの日米共同企画による、シューゲイザー/轟音/ポスト・ロックなコンピレーション・アルバム(2003年発表)。日本勢はクライフやハートフィールドに加えて、walrusやJohn juhl's Cornfieldsらのぶ厚い轟音をコンパイル。honeydipとcatenineがくっついたsugarcoat(tronの前身バンド)も参加している。

――新譜『ホワイトノイズ・スーパースター』のライナーを書かれている、アストロブライトはどうでした?

「あれはもう文句つけられない(笑)。ライヴはポップだったけど、新譜のノイズはもうほんとのノイズでしょ? あれであそこまで持ってっちゃうんだってすごさがありますね。ちゃんと歌ってるし、すごいなと思いますね」

――先日、対バンをしたアソビ・セクスは?

「僕も彼女も日本人で、ボーダーレスな感じがして観てて楽しかったですね。英語でやろうが日本語でやろうが違和感なかったし、演奏どうのじゃなくて単純に気持ちよかったですね。世界観がはっきりしてるしポップな曲も多いでしょ。あの手の共通性があるバンドが人気出てるってうれしいですよね」

――エレクトロニカ寄りのシューゲイザーは?

ウルリッヒ・シュナウスはメロディがいまいちぐっとこないんですけど、ロング・ビューのリミックスはすごいよかったですね。Clairecordsものとはまた毛色の違う、MORR MUSICの繊細な感じはすごい好きです。シゲもいろいろ買ってましたね。Styrofoamなんてすごい好きですよ。GUITARの『sunkissed』は靄のかかったようなフィードバック・ノイズの感じがすごい好きだな。ただ、いわゆる歌ものギター・バンドにありがちなのが、アルバムが出るにつれてノイズや歪みが減ったりするじゃないですか(笑)」

――あれってどうしてなんでしょうね。パターン化しやすいってことでしょうか?

「“またフィードバック・ノイズ入れちゃうの?”っていう感じはあると思うんです。でも僕がよくメンバーとかと話すのは、クライフは“金太郎飴”になってもこの感じだと思うよって。僕らラモーンズがいいじゃんって。ラモーンズって全部ラモーンズだけど、それって相当美しいんですよ。僕たちが何やりたかったって歪みやりたかったし、踊れる感じがやりたかったし。だから今、何周かして原点に返ってきたとお客さんが思っても否定できないですね。戻ったつもりはないんですけど。今録音しているニュー・アルバム(※2008年2月発売予定)は超いいですよ。ポップ・チューン満載で。その感じなんですよね、ライドでいう『スマイル』な感じ」

――今、日本でシューゲイザーが復興してるのは感じますか?

「なんとなくしますけど、曖昧だし、シューゲイザーっていう言葉に対してあんまり実態がないような気がするんですよね。歪んでいればシューゲイザーなのかよ、みたいなのはありますね。じゃあ“ニルヴァーナもシューゲイザーか”と(笑)。広がるのはすごいいいことなんですけど、ちょっと軽薄な感じがして。だったら今、僕らが言ったほうがいいのかなと思って、あえて今回、“ジャパニーズ・キング・オブ・シューゲイザ”と出したんです。アソビ・セクスはすごく理解してる感じがしましたけどね。ハートフィールドなんてシューゲイザーど真ん中な感じがします。ただトータスみたいなシカゴ音響系みたいなのをやると踏み外して、フュージョンみたいになっちゃう気がするんですよ。今シューゲイザーって言われていて、違うんじゃないかなと思うのがそういうところです。僕の中のシューゲイザー観と、今のシューゲイザー観は違いますね」

――シューゲイザー観って世代が違うとだいぶ変わってきますしね。

「最近のはあんまりドリーミィな感じはしないですね。だから個人的にはダンス・ミュージックの幸せな感じを求めてしまうのかもしれない。轟音ギターは入ってないけど、高揚感があるドリーミィなハウスが結構あるんですよ。僕が音楽に求めるのは一貫して、メロディと高揚感なんですよね。打ち込みでひとつのメロディがループしていくダンス・ミュージックじゃなくて、カスケイドなんてメロディが超良くて、ふわふわであがりっぱなしなんです。だから自分の中ではシューゲイザーっぽいな、なんて思うんですけどね。ライドもカタルシスあるじゃないですか。“やばい超気持ちいい!”っていう浮遊感と多福感。シューゲイザーってそこに尽きたりしませんか? 4つ打ちのループがあって、キレイなメロディがあるフワフワなパッドの音を、クラブのでっかい音で聴いたら超気持ちいいじゃないですか。そんな感じをクライフにも求めてるんです。まあ簡単に『ラヴレス』って言いすぎるんですよね。あれはちょっと違う気がするなあ」

――『ラブレス』再来、って言ってもぜんぜん『ラヴレス』じゃなかったり。

「お店のせいとかじゃないけど、どれもこれも惜しい感じなんですよね」

――ただ今、日本にシューゲイザーっていうシーンがあるとしたら、コールター・オブ・ザ・ディーパーズルミナス・オレンジ、クライフ・イン・ザ・ベッドルームの3バンドが兄貴分、姉貴分みたいな位置ですよね。

「よく言われますね。すごく光栄です。ルミナスも外すわけにはいかないでしょう。あの捉えどころのない感じ、一番ふわっとしてますよね」

――この曖昧なシーンの中で、クライフが求められていることってどういうことだと思いますか?

「クライフを"ジャパニーズ・キング・オブ・シューゲイザー"って言い始めたのは、たしかClairecordsなんですよ。シューゲイザーという言葉でジャンル分けするのは自由度がないから違うかなとは思うんですが、それを今回あえて出したのはなぜかというと、シューゲイザーという音楽を初めて聴いてくれた人たちにとって、クライフって玄関みたいな位置だったらいいなと思ったからなんです。実際今までもそうだったと思うし、あらためてそう思います。ヴィーナス・ペーターって昔、マンチェ〜シューゲイザー的な日本のバンドの代表格でしたけど、そこの石田さんも“クライフがやってくれてるのがうれしいよ”って言ってくれたんですよね」

――昔、シューゲイザーと言われていたバンドが、それぞれ違う方向に行ったりしている中、クライフがこの道を守ってくれてるのがありがたいです。“キング・オブ・シューゲイザー”ですね、ほんとに。

「とんでもないです。みなさんのおかげです。王道、大事だと思いますけどね。王道の王ってキングですね(笑)」



取材・文/周東香里(2007年9月)
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