“ビッグ・イン・アメリカ”を考える

2007/04/20掲載
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“ビッグ・イン・アメリカ”という言葉をご存知でしょうか? かつてよく使われた“ビッグ・イン・ジャパン”と同じ意味で、一部のファンや音楽関係者の間で認知されつつあるのです。ここでは、そんなアーティストの中からロック・バンドに絞って紹介し、その実態を考えてみたいと思います。
■“ビッグ・イン・アメリカ”とは?
 “ビッグ・イン・ジャパン”とは、90年代を中心に広まった、日本では好セールスを記録するものの、欧米での知名度は非常に低い海外アーティストのこと。“ビッグ・イン・アメリカ”もこれとほとんど同じ意味で、米国では大きな人気を誇り、チャートを席捲するにもかかわらず、欧州や日本ではイマイチ……、というアーティストです。グランジ/オルタナティヴの全盛期から同じような傾向はあったとはいえ、2000年代になってからというものこの現象は一気に進行します。

■元祖はクリード?
 はじめてこの“ビッグ・イン・アメリカ”がクローズアップされたのは、クリードの存在ではないでしょうか。1997年にデビューした彼らは、2004年の解散までに3枚のスタジオ・アルバムを発表。そのすべてが米国で600万枚以上のセールスを記録し、なかでも2ndの『ヒューマン・クレイ』(99年)は、1,100万枚という驚くべき数字を残しています。日本でも人気がなかったわけではないものの、セールスは足元にも及ばないでしょう。

■キーワードは“メロディ”?
 クリードに続く存在になりかかっている(?)のが、カナダのニッケルバックです。2001年のアルバム『シルヴァー・サイド・アップ』から「ハウ・ユー・リマインド・ミー」が全米チャートでNo.1を記録し、これ以降、プラチナ・セールスの常連。最新作『オール・ザ・ライト・リーズンズ』(2006年)は、普遍的な魅力に溢れたロック・アルバムに仕上がっています。日本でも『シルヴァー〜』は話題になりましたが、最近では来日公演も実現できない状況に。ただ、彼らの場合、英国でも高い人気を誇っているのは事実です。

 ニッケルバックの魅力は、“能天気ではない、それでいて英国・欧州の湿り気を帯びたものとは違う、どこか大陸的でキャッチーなメロディ”、ということになるでしょうか。似たような魅力を持つバンドには、ステインドがいます。“歌もんヘヴィ・ロック”と称される彼らもまた、米国ではメジャー・デビュー以降、すべての作品がプラチナム。ペンシルベニア出身のブレイキング・ベンジャミンも、最新作『フォビア』が全米チャート最高2位を記録したのに比べると、日本での知名度は驚くほど低いと言わざるを得ないでしょう。フロリダ出身のShinedownは、メジャーのAtlantic Recordsからヒット作をリリースし、レーナード・スキナードの「シンプル・マン」をカヴァーするなど間口の広さを示しているにもかかわらず、日本盤すら出ていません。Columbiaに所属するカリフォルニアのCrossfadeも同様です。

 また、いわゆる“スクリーモ”と呼ばれるバンド群も、米国独自の盛り上がりを見せる傾向にあるようです。フロリダのアンダーオースは来日も果たしていますが、本国では最新作『デファイン・ザ・グレイト・ライン』(2006年)が全米チャート初登場2位を記録するほどの人気。セイオシンレッド・ジャンプスーツ・アパラタスといったバンドも、メジャー・レーベル所属にもかかわらず大幅に日本デビューが遅れることになりました。

■流れを変えられるか? ヒンダーの存在
 そんな中、大きな注目を浴びて日本デビューを果たしたのがオクラホマ出身のヒンダーです。1stアルバム『衝動』の日本盤は、本国発売から1年半も遅れて今年の1月に発売されたばかり。彼らもまた、ニッケルバックなどと同様のメロディを武器としながらも、どこかロックンロール的なワイルドさを醸し出しているのが特徴です。なんといっても、全米シングル・チャートで3位まで上昇した「リップス・オブ・アン・エンジェル」が、モロに80年代的なラヴ・バラードだったことから、モダン・ロックのみならずメタル・ファンの間でも話題となりました。今後、日本での動向がどうなるのか、注目されます。

■なぜ日本でウケないのか?
 日本人はメロディを好むはずなのに、スクリーモだって流行のはずなのに、なぜ日本では大きな盛り上がりを見せないのか……。MTVが米国ほど普及していない、米国と違ってロック専門のラジオ・ステーションがない、全米チャートの世界的影響力が低下した、日本人好みのメロディとは若干異なる、などいくつかの理由が考えられると思われますが、意外と“カテゴライズしにくい”というのもポイントではないでしょうか。上記で挙げたようなバンド群は、メタルでもなければパンクでもなく、かといってポップスというにはヘヴィすぎる……、という存在。細分化が進む音楽シーンの中、ストイックに自分の好きな音楽を突き詰める傾向を持つ日本人には、アピールが難しいのかもしれません。

 しかし思い起こしてみれば、ビッグ・イン・ジャパンと呼ばれていた中にも、素晴らしい音楽を演奏するアーティストが存在したのは疑いようのない事実。したがって、ここで紹介したアーティストも、音楽的に劣っているなどということは決してありません。実際のところ、米国よりやや遅れながら、英国では人気が上昇中のバンドもいます。90年代とは異なり、現在ではインターネットという便利なツールも普及。公式HPやMyspaceなどで音源を公開しているバンドも多く、いきなり作品を購入するのはためらってしまうという方は、試しにそちらをチェックしてみてはいかがでしょうか。“聴かず嫌い”はもったいないですよ!

<文中で登場したアーティストのMyspace>
●クリード : http://www.myspace.com/officialcreed
●ニッケルバック : http://www.myspace.com/nickelback
●ステインド : http://www.myspace.com/staind
●ブレイキング・ベンジャミン : http://www.myspace.com/breakingbenjamin
●Shinedown : http://www.myspace.com/shinedown
●Crossfade : http://www.myspace.com/crossfade
●アンダーオース : http://www.myspace.com/underoath
●セイオシン : http://www.myspace.com/saosin
●レッド・ジャンプスーツ・アパラタス : http://www.myspace.com/redjumpsuit
●ヒンダー : http://www.myspace.com/hindermusic

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