クレイジーケンバンド(以下、CKB)が通算10枚目となるオリジナル・アルバムを発表! グルーヴ・オリエンテッドな作風だった、ここ数枚のアルバムから一転、今作は聴き手の琴線を心地よく揺さぶるメロディアスな楽曲を多数収録した歌モノ色の強い一枚に。アルバムの背景から独自のロックンロール感まで、剣さんに語ってもらった。 いまや夏の風物詩と化した感のあるCKBのアルバム・リリース。今年もお待ちかねのブランニュー・アルバムが到着。タイトルは
『ZERO』! CDデビュー10年目にして、通算10枚目となるアルバム・タイトルが『ZERO』とは、これいかに? 一見、原点回帰を思わせるタイトルながら、そこにはクラッシュ&ビルドを積み重ね、自らのサウンドを常にアップグレードさせ続けてきたCKB特有のアティトゥードがさりげなく込められているのであった。
「ドレミファソラシドでいえば、オクターブ上のドですよね。同じゼロでも、前のゼロとは、まったく違う。僕らはアルバムを作るたびに毎回、これまでの流れを無かったことにしてるんですね。そう思えるからこそ、いつでもアグレッシヴな姿勢で音楽に向かうことができるんです」
センチメンタルでシャバダバなメロウ・チューン「猫」、ガラム・マサラの香りが夏の憂愁をスパイシーに演出する「夏」、スリリングな高速ロカビリー「人間摩天楼」、
ゴスペラーズをフィーチャーしたスロー・バラード「Lookin’ your eyes」……。さまざまなテイストが味わえる、
山下達郎言うところの“五目味”な作風はそのままに、今作にはメロディ・メイカーとしての剣さんの矜持が通奏低音として流れていることがよく分かる。
「ここ数作は、メロディよりもトラックのことばかり考えていたんだけど、今回は歌を真ん中に据えた上でのトラック作りを心掛けたんです。“いかにメロディが際立つトラックを作り上げることができるか”って。だからこそ余計、手間がかかっちゃったんですけど」
レコーディングにも入念な準備を積み重ねた末に臨んだのだという。
「今回はプリプロを綿密に行ないました。一人で一ヵ月半ぐらい納得いくまでアレンジや歌メロを考え抜いて、9割ぐらい完成した時点でメンバーを呼んでレコーディングを行なったんです。アレンジもBPMも、ほぼ決まっていたから、メンバー的には、あまりリラックスした演奏ができなかったと思うんですけど、今回は、職人的に演奏する方向にプレイヤーとしてのエゴを持っていくというスタイルをバンド全体で徹底したんです」
細密な設計図に基づく形で進められた今作のレコーディング。手練揃いのCKBだけに、それをキッチリ再現するのは、いとも容易いことかと思いきや……。
「いくらデモを作り込んでもバンド・マジックって起きるんですよ。ちょっとしたコード感の違いによって、なかったはずの味が曲に出てきたり。メンバー間での、良い意味でのブレが上手く作用することがあるんですね。カチっとした機械のグルーヴでは絶対に出せない生演奏特有のあいまいな部分。そこにこそ、バンドで演奏することの面白みがあると思うんです」
どんなに雑多な音楽的要素を取り入れても、CKB独自の楽曲世界にブレが生じることはない。“ロックンロール”を感じるか否か。彼らの楽曲が世に送り出されるにあたって、もっとも重視されるのが、この単純明快にして、極めて奥の深い判断基準だ。
「たとえば
フリッパーズ・ギターが登場したとき、僕は彼らの音楽に、すごくロックを感じたんです。演奏してる音楽はメロウなんだけど、質感的には完全にパンクだし。それまでの不良とは違う、さらにタチの悪い不良が現れたなって(笑)。僕はロックンロールには、時代ごとのスタイルというものが絶対にあるんじゃないかと思うんです。だからこそ、既存のフォーマットをブッ壊して、自分の中にある“ロックンロール”を常に形にしていきたい。そういう意味での“ゼロ”でもあるんですよ」
取材・文/望月 哲(2008年7月)
【クレイジーケンバンド 『ZERO TOUR 2K8』情報】