一生囚われの身になるか、仲間を裏切ってスパイになるか。分離壁で囲まれたパレスチナの今を生き抜く若者たちの日々をサスペンスフルに描いた映画『オマールの壁』との連動特別企画として、写真家
ハービー・山口による展示〈パレスチナへの恋 空遠く〉が東京・渋谷 アップリンクのギャラリーで5月1日(日)まで行なわれています。入場無料。
ハービー・山口が2013年にパレスチナを初めて訪れた際の作品を展示している〈パレスチナへの恋 空遠く〉。YouTube(
www.youtube.com/user/diceuplink)では展示作品を使った動画も公開、音楽には
チャールズ・チャップリンの映画
『モダン・タイムス』や多くのカヴァーで知られる名曲「SMILE」を採用しており、ハービーは「パレスチナの人々の落胆を想像しますとスマイルの詞が、ぴったりだと思いました」とコメントしています。
「パレスチナへの恋 空遠く」
1973年、23歳の時でした。
私はクウェートに行き産油国の撮影をしたことがあります。
当時日本では第一次石油危機の真っ最中で、
産油国の人たちはどんな暮らしをしているのだろうかという興味があったからです。
ある日クウェートの大学を訪れた時、キャンパスでとても美しい女子大生にポートレイトを撮らせて頂きました。
その彼女がパレスチナからの学生でした。
シャッターを切った時「私は祖国パレスチナへは戻れないの」と寂しげな表情を見せたのです。
パレスチナとは、、?
それ以来ずっと彼女の瞳が記憶に残っていました。
あれから40年後、2013年10月、
私は非営利団体「KnK 国境なき子どもたち」の要請で初めてパレスチナを訪れました。
分離壁という、イスラエルとパレスチナの間のみならず、
パレスチナの領土をも分断する壁が、高さ9メートル、800キロの長さで立ちはだかっていました。
ベルリンの壁の2倍以上の高さでした。
パレスチナの人たちは自由にこの壁を行き来することは出来ません。
閉じ込められているという表現が正しいでしょうか。
テロで何人もの命が失なわれても、どんどん領土が侵食されても、
私がカメラを向けたパレスチナの人々は、決して他人を恨む表情は浮かべませんでした。
とても黒く澄んだ透明な瞳が返ってきました。
人々は私に言いました。「私たちはテロリストではないの。
ただ私たちの子どもが、将来、恐怖を感じないで生きていって欲しいだけ! 政治がいけないんだと思う。いろんな国の人たちと私たちは皆んな兄弟同士でしょ! 何故?」
あの時のクウェートの大学で見かけた彼女が無事祖国に戻っていたら、
もう60歳を過ぎていて、この国にいるかも知れません。
出会う人たちの中に彼女の面影を探していたのが正直な気持ちです。
でも会える筈もなく私は帰国しました。
パレスチナの人たちの瞳を世界の人々に見てもらう、それが写真家としての役割だと思います。2016.4.16 ハービー・山口(photo Herbie Yamaguchi 2013)
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ハービー・山口写真展
「パレスチナへの恋 空遠く」2016年4月20日(水)〜5月1日(日)
東京 渋谷 アップリンク ギャラリー
www.uplink.co.jp/gallery/2016/43918入場無料
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『オマールの壁』角川シネマ新宿、渋谷アップリンクほか全国順次公開中
監督・脚本・製作: ハニ・アブ・アサド
出演: アダム・バクリ / ワリード・ズエイター / リーム・リューバニ ほか
配給・宣伝: アップリンク