青春を捧げた方も多いはず?音楽を飛び越え、ファッション/アート業界にも多大なる影響を及ぼしたムーヴメント“渋谷系”。その短くも強烈な歴史の一端を、CDJournal.com的考察にまとめてみました。
「渋谷系」。それは音楽を中心としたアート、ファッション、ライフスタイルなどを含めた、渋谷・宇田川町を中心とする日本における一種のパンク・ムーヴメント……もしくは60年代のスウィンギン・ロンドンを彷彿させる東京発のムーヴメント。その「渋谷系」の中心であった音楽は、アーティストが自分の音楽知識をフルに活用し、過去の音楽を組み合わせ再構築していたもので、リスナー体質のアーティストが作り上げた音楽とも言えます。それは、どの時代の音楽も同一線上に聴くことができるようになった再発世代だから作れる音楽でもあり、レコード・ジャンキーの学習結果として鳴らす音楽でもあったわけです。
当時、「渋谷系」サウンドは“オシャレな音楽”とみられ、「渋谷系」バンドの多くが90年代初頭の渋谷において、異常なまでのセールスをあげていました。なので、意地悪く言えば東京(渋谷)では爆発的に売れるアーティストが「渋谷系」とも言えます。そんな「渋谷系」サウンドを考える上でやはり外せないのが
フリッパーズ・ギター、
ピチカート・ファイヴ、
オリジナル・ラヴの3組。彼らが同時期に活動していた89年〜91年は空前のバンド・ブームで、ビート・パンクなるものが全国的に流行。その中で彼らは、タテ乗り重視であったバンド・ブームとはまるで逆をいく、ポップスという普遍的な音楽性を武器とした、決して時代に迎合しない音楽を作っていき、音楽ファンの大きな支持を得ました。そんな彼らに反応したのが雑誌『olive』の読者、いわゆるオリーブ少女たち。彼女たちは音楽だけでなく、そのファッション・センスやアルバムのジャケット・デザインなどにも敏感に反応し、その結果からか、アニエス・ベーのボーダーシャツやベレー帽が渋谷系ファンのひとつのアイテムとして成り立つようになります。また60年代のフランス映画やサントラ、フリッパーズ・ギターが愛した英国のインディ・レーベル「エル」が本国以上の人気を集めるようになりました。
「渋谷系」なる言葉を初めて口にした人にはいくつかの説がありますが、フリッパーズ・ギター解散後に定着。92年に「渋谷系」を象徴するレーベル、トラットリアとクルーエル・レコードが本格的に活動を開始し、93年には
小沢健二と
小山田圭吾(
コーネリアス)の2人がほぼ同時期にソロ・デビュー、そして、エスカレーター・レコーズが始動して、ここでついに「渋谷系」の黄金期が到来します。「渋谷系」全盛期に人気を博したアーティストとして挙げられるのは、
カヒミ・カリィ、
スチャダラパー、
カジヒデキの在籍していた
ブリッジ、
AIRこと車谷浩司が在籍した
スパイラル・ライフ、U.F.O.など。その「渋谷系」が残したものor生んだものは、ネタありきの音楽つまりはサンプリング(バックトラックだけでなく、メロディ、歌詞、タイトル、デザインなども含めて)的手法の定着、そして、若いリスナーへのアナログ盤需要の広がりや、変形ジャケットをはじめとするパッケージ・デザインなどが挙げられるかと思います。
そんな人気を誇った「渋谷系」ですが、94年、95年の2年間に、ピチカート・ファイヴから
高浪敬太郎が脱退、
ヴィーナス・ペーター、
ラヴ・タンバリンズ、ブリッジなどが解散、オリジナル・ラヴがメンバーの脱退により事実上ソロ・ユニットになるなど、ひとつの終わりを告げます。
その後は、「渋谷系」第2世代とも呼ばれる、
ロボショップ・マニア、
アドヴァンテージ・ルーシー、
シンバルズなどの渋谷系アーティストにも影響を受けたバンドが結成され、また「渋谷系」のメンタル面を受け継ぐアーティストとして、方向性をガラリと変えフォーキーになった
サニーデイ・サービス、AORやニュー・ミュージックの匂いが立ち込める
キリンジなどの活動が開始されていきます。
現在の音楽シーンの中にも「渋谷系」からの影響を公言する「渋谷系チルドレン」は多く、
プラスティック・スクイーズ・ボックス、
エイプリルズ、
COPTER4016882、
スパゲッティ・バビューン!や
マグナムボウル(8)、などがそのバンドとして挙げられるかと思います。また「渋谷系」サウンドは、海外にも飛び火し、韓国からはアドヴァンテージ・ルーシーのコピー・バンドからスタートした
ライナス・ブランケット、香港では
PANCAKESなどのバンドが登場。さらに信藤三雄的なデザインのセット、アニエス・ベーのボーダーシャツ、フリッパーズ・ギターやピチカート・ファイヴの音楽、といった「渋谷系」フル装備のTV番組『落下女』が放送されるなど、「渋谷系」の根は今もなお確実に広がりつつあります。
音楽から感じ取れる空気を自分なりに具体化するのが1つのスタイルであった「渋谷系」。関わったデザイナー、スタイリスト、カメラマンをはじめ、ユーザーも含めたすべての人に新たな価値観を与えてくれたことを感謝しつつ、触れた瞬間からその魔法に逃れられずにいる、そんなアナタのために本原稿をお送りします。
※ 記事は掲載日時点での情報をもとに書かれています。掲載後に生じた動向、および判明した事柄等は反映しておりません。ご了承ください。