とある世代の方には、グッチ祐三のものまねでお馴染みの、通称“ビクターの犬”こと“ニッパー(NIPPER)”。なにやら小首を傾げては蓄音機へと注目している彼に秘められたストーリーとは? CDJournal.com的考察をまとめてみました。
古道具屋の店先から、レコード店の軒先まで、一昔前は様々なところでその姿をお見かけしました通称“ビクターの犬”。なにやらアンニュイな表情を浮かべつつ、蓄音機のスピーカーに向かって耳を傾ける一匹わんちゃん。その表情を曇らせたのはなぜ? と、
大沢誉志幸のごとく途方に暮れる日々をお過ごしの貴方へ捧ぐ、感動のストーリーをここにご紹介。
時を遡ること1889年のイギリス。画家であるフランシス・パラウドは、ある1枚の絵を仕上げました。それは、一匹のフォックス・テリア犬が蓄音機に耳を傾けている姿だったのです……。兄であるマーク・H.パラウドが亡くなり、彼の息子と愛犬を引き取ることとなったフランシス。兄を失った喪失感を抱えつつも、たくましく生きていかねばなと、新しい家族とともに日々の生活を営んでいた彼が、ある日ふと目にした蓄音機。そういえば何か残っていたかも……とおぼろげな記憶を辿って蓄音機を回してみると(当時の蓄音機はシリンダー式のため、録音/再生が可能)、そこには生前に吹き込まれた兄の声が。懐かしさと切なさが胸にこみ上げるフランシス、そしてその傍らにはいつの間にやら兄の愛犬・ニッパー(NIPPER)が。機械から聴こえてる主人の声を、不思議そうに、そして懐かしそうに聴き入るニッパー。その愛らしくも健気な姿に感動したフランシスは、蓄音機に聴き入るニッパーの姿を『HIS MASTER'S VOICE』という絵に書き記したのでした。
後日、この絵は円盤式蓄音機“グラモフォン”(レコード・プレイヤーの原型)の発明者であるエミール・ベルリナーに気に入られ、シリンダー式から円盤式に書き換えたものを商標として登録。グラモフォンのヨーロッパ進出に伴い設立されたイギリス・グラモフォン社(後にイギリス・コロムビアと合併して、EMIとなる)/アメリカに設立されたグラモフォンの子会社ビクター・トーキング・マシン社以上の2社のトレード・マークとして採用され、ニッパーの絵は世界各国へと広まっていったのでした。
ビクター・トーキング・マシン社を前身に設立されたRCA、ビクター・トーキング・マシン社の子会社としてはじまった日本ビクター(ビクター・JVC)、そして、今や世界規模でチェーン展開しているレコード・ショップとしてもお馴染み、『HIS MASTER'S VOICE』の頭文字3文字をとって名づけられたグラモフォンの小売店“HMV”、各々が独立し、一企業となっている現在でも、ニッパー・マークは企業の“顔”としてつとめを果たしております。
※参照:
ビクター・JVC公式HP「ビクターマークの由来」 音楽ハード/ソフトの歴史とともに、人々の記憶に刻まれてきたニッパー。主人の帰りは待っていないものの、何故か心動かされる哀愁の刻み込まれた背中ときたら! ハチ公、パトラッシュ、プー助、タロとジロ、シロにマリリン、そして清掃犬ロン……。数々の名犬の軌跡とともに、心のやらかい場所へそっとニッパーを収めておきましょう。
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