“エレクトロニック・ボディ・ミュージック”とは、電子音楽シーンが停滞していた80年代半ば、電子音楽を躍動する肉体へと引き戻したムーブメント/ジャンル。最近では
DJ HELLのmixCDでこの言葉を知った方も多いかもしれません。“EBM”“ボディ・ミュージック”とも呼ばれますが、“ボディ”で通じるので大丈夫! 技術の進歩により強靭さを手に入れたマシーン・ビート、メタル・パーカッションに叩きつけられるパッションと飛び散る汗、アジるダミ声ヴォーカルのシャウトとまるでゲッターロボ。音の筋肉が硬い「肉体派の音楽」として知られています。(写真は、DJ HELL
『Electronic Body House Music』)
ルーツを遡れば、
スロッビング・グリッスル、
SPK、
キャバレー・ヴォルテールなどのインダストリアル・ミュージックや、
DAF、
ディ・クルップス、
アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンなどのジャーマン・ニューウェイヴ(ノイエ・ドイチェ・ヴェレ)勢、はたまた
キリング・ジョーク、
ジョイ・ディヴィジョン、
スワンズなどのパンク・バンドが挙げられます。中でもDAFがコニー・プランクとともに築き上げた、いわゆるハンマー・ビートの筋肉感は多大な影響を及ぼしたと思われます。DAF直系と言えるディ・クルップスは、
電気グルーヴ「オレの体の筋肉は…」の元ネタとして有名ですものね。
しかし“EBM”への直接の足掛かりを掴んだ作品としては、やはり
ミニストリーの86年作
『トゥイッチ』が挙げられます。後に“EBM”の人気プロデューサーとなるON-U総帥
エイドリアン・シャーウッドの変態的なテープ処理が強烈な印象を残すこの作品をきっかけに、世界中で似たスタイルのグループが名乗りを挙げ始め、ついには88年、それらが一堂に会したコンピレーション『THIS IS ELECTRONIC BODY MUSIC』がドイツで発売されます。このタイトルは、同コンピレーションの冒頭を飾った「Body To Body」を演奏するベルギーの
フロント242が「肉体大好き、思い切り体を動かそう!」とひろみちお兄さん張りに提唱したものと伝えられています。
同年、フロント242は“EBM”を確立させた金字塔アルバム
『フロント・バイ・フロント』を発表。“EBM”の代表的なレーベルとして挙げられる、ミニストリーのアルやスティーヴ・アルビニなどが出入りしていたことでも知られるシカゴのレコード店WAX TRAX!からのライセンスリリース、日本盤も発売、と盛り上がりを見せ、前年にイギリスの
ニッツァー・エブが歴史的名作
『That Total Age』をヒットさせていたこともあり、シーンが活性化します。第一線では、カナダの悪の化身
スキニー・パピー、その元メンバー率いる
フロントライン・アッセンブリー、クルト・ヴァイルの三文オペラも演奏する知性派として知られるスイスの
ヤング・ゴッズ、楽天的なビートが特徴のイタリアのパンコウ、ちょっと稚拙なヤケクソポリティカル歌詞の
KMFDM、いち早くブレイクビーツを導入した
ミート・ビート・マニフェスト、
ビョークで知られるONE LITTLE INDIANからリリースしていたイギリスの動物愛護派
フィニトライブ、ご存知
ナイン・インチ・ネイルズや、
ソフト・バレエなど個性的な面々が活躍。次第に方向性も拡散していきます。
また、
ジェフ・ミルズや
ケン・イシイ、前出の電気グルーヴ、
リンキン・パークなどが公言しているように“EBM”に影響を受けたアーティストは数多く、
マリリン・マンソンや
BUCK-TICKなど直接の関わりのあるものから、90年代以降のいわゆるインダストリアルや、
ジーザス・ジョーンズ、
EMF、
ジグ・ジグ・スパトニック、「
ロマンポルシェ。」に至るまで、サウンドの根底に流れる“肉体性”において、影響下にあると言えるかもしれません。
“EBM”はロックのスタイルをとってはいますが、エレクトロニクス主体の本格的なダンス・ミュージックを推し進めたという点において、テクノ・ファンも無視できない存在。未体験の方も、今回のニッツァー・エブ来日でそれが体感できるはず。先日のヤング・ゴッズ来日キャンセルにガックシしたアナタも、WIRE06へレッツゴー!です。
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