リサーチ

“ロック・オペラ”とは何ですか?

2006/10/27掲載
はてなブックマークに追加
ザ・フーが久々の新作をリリースしますが、“ロック・オペラ”が含まれているそうですね。そもそもロック・オペラとは何ですか?
 間もなくザ・フーが24年ぶりの新作『エンドレス・ワイヤー』を、ミートローフが『地獄のロック・ライダー』シリーズ第3弾となる『Bat Out of Hell III: The Monster Is Loose』をリリースするとあって、ロック・オペラという言葉を耳にする機会が増えたかもしれません。そこで、簡単ながらロック・オペラについて考察してみようと思います。

 まず、ロック・オペラと似たような概念で“コンセプト・アルバム”という言葉が存在します。これはひとつのコンセプト、テーマに沿った内容で作品を制作し、全体に統一感を持たせたアルバム、と言えるでしょう。さまざまな意見はありますが、ロック・シーンにおける初のコンセプト・アルバムは、ザ・ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(67年)であるとされています。このアルバムは、サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンドという架空のバンドによる演奏というテーマで、アルバムの最初と最後にセルフ・タイトルの曲を配置、全体をひとつのショウに見立てた作品です。

 ロック・オペラもおおまかに言えばこの概念と違いはありません。では、なぜ別の呼び方をするのかというと、ロック・オペラにはストーリーがあるのです。『サージェント・ペパーズ〜』は確かにテーマはありますが、各曲は独立したものとなっており、時間軸を追うストーリーはありません。それに対し、ロック・オペラには明確な物語があります。ロック史上初のロック・オペラとされるプリティ・シングス『S.F.ソロウ』(68年)は、セバスチャン・F.ソロウという人物の数奇な人生を綴ったもの。内ジャケットに掲載された各曲の歌詞には、前文のような形でストーリーが記されています。また、ロック・オペラという言葉を決定的にしたザ・フーの『トミー』(68年)は、目が見えず、耳も聞こえず、言葉も話せないという主人公トミーの人生を描いた内容。ストーリーの緻密さは当然のことながら、収録曲はほぼ曲間を空けずに繋がっており、SEや小曲を挟むなど、よりトータルなアルバム作りがなされるようになりました。ザ・フーの作品の中では、モッズの少年の過激な青春を描き、74年にリリースした『四重人格』もロック・オペラの傑作とされています。

 しかし、この“ストーリーの有無”による呼称の違いも、現在では混在しているのが現実。88年、米国シアトルのヘヴィ・メタル・バンド、クイーンズライクがリリースした『オペレーション:マインドクライム』は、マインドコントロールによって暗殺者となったニッキーの悲劇が明確なストーリー性を持って綴られています。が、この作品をコンセプト・アルバムとは呼んでも、ロック・オペラという声はあまり聞きません。プログレッシヴ・メタル・バンド、ドリーム・シアター『メトロポリス・パート2〜シーンズ・フロム・ア・メモリー』(99年)も、輪廻転生をテーマにした物語を持っていますが、同様です。

 現在ではストーリー性に加え、語源ともなっているクラシックの歌劇=オペラにあるような、ドラマティックかつ壮大なサウンド・メイキングをともなった作品をロック・オペラと呼ぶ傾向にあるようです。その代表的な作品としては、ミートローフの『地獄のロック・ライダー』(77年)、『地獄のロック・ライダー2〜地獄への帰還』(92年)、米国のヘヴィ・メタル・バンド、サヴァタージ『ストリーツ・ア・ロック・オペラ』(91年)などが挙げられます。なお、このサヴァタージのメンバーとプロデューサーのポール・オニールは、90年代後半から立て続けにクリスマス・アルバムをヒットさせているロック・オーケストラ、Trans-Siberian Orchestraに参加しており、ロック・オペラの精神を受け継いでいます。

 音楽をまるで映画や舞台を観るように楽しめるのが、ロック・オペラやコンセプト・アルバムの醍醐味。曲ごとのダウンロード購入が当り前になってきている現代だからこそ、逆に新鮮に聴こえる可能性もあるのでは? ロックの歴史においては、多数のロック・オペラ作品が発表されていますので、若いファンの方々はいろいろとチャレンジしてみてください。
※ 記事は掲載日時点での情報をもとに書かれています。掲載後に生じた動向、および判明した事柄等は反映しておりません。ご了承ください。
最新リサーチ
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] 角野隼斗 イメージ・キャラクターを務める「ベスト・クラシック100極」のコンピレーション・アルバムを選曲・監修[インタビュー] 色々な十字架 話題の“90年代ヴィジュアル系リヴァイヴァル”バンド 待望のセカンド・アルバムをリリース
[インタビュー] アシックスジャパンによるショートドラマ 主題歌は注目のSSW、友成空[インタビュー] 中国のプログレッシヴ・メタル・バンド 精神幻象(Mentism)、日本デビュー盤
[インタビュー] シネマティックな115分のマインドトリップ 井出靖のリミックス・アルバム[インタビュー] 人気ピアノYouTuberふたりによる ピアノ女子対談! 朝香智子×kiki ピアノ
[インタビュー] ジャック・アントノフ   テイラー・スウィフト、サブリナ・カーペンターらを手がける人気プロデューサーに訊く[インタビュー] 松井秀太郎  トランペットで歌うニューヨーク録音のアルバムが完成! 2025年にはホール・ツアーも
[インタビュー] 90年代愛がとまらない! 平成リバイバルアーティストTnaka×短冊CD専門DJディスク百合おん[インタビュー] ろう者の両親と、コーダの一人息子— 呉美保監督×吉沢亮のタッグによる “普遍的な家族の物語”
[インタビュー] 田中彩子  デビュー10周年を迎え「これまでの私のベスト」な選曲のリサイタルを開催[インタビュー] 宮本笑里  “ヴァイオリンで愛を奏でる”11年ぶりのベスト・アルバムを発表
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015