ストーム・トーガソン(ヒプノシス)、ロジャー・ディーンと、好評をいただいた英国ロック・シーンの名デザイナー・シリーズ。この2人を取り上げたなら、この人に触れないわけにはいきません。そうです、今回はキーフの登場です。
キーフの素性に関しては、未だに謎とされる部分が多く、その人物像ははっきりしていません。本名はマーカス・キーフという説が有力とされていたのですが、現在ではキース・マクミランであることが判明しています。フォトグラファー及びデザイナーとしてのキャリアは60年代後半(68年ごろ)にスタート。Vertigo、Neonといった、ブリティッシュ・ロック・マニア御用達であるレーベルの作品を数多く手掛けました。
彼がデザインを担当した作品で最初期のものとされているのが、ジャズ・ロックのスーパー・グループとして名を馳せた
コロシアムの2ndアルバム
『ヴァレンタイン組曲』。この作品のリリースは69年です。生身のようにも、石像のようにも見える女性をあしらった印象的なジャケットで、同様のデザインは
ニルヴァーナ(UK)の
『局部麻酔』(71年)にも見られます。
多数の名作を残しているキーフのジャケットの中でも特に有名なのが、
アフィニティーが70年に残した唯一のアルバム
『アフィニティー』。和傘を差した女性が、水辺に座り佇んでいるという、寂しげでいながらも美しいデザインが目を惹きます。また、これも有名なのが
ブラック・サバスのデビュー作
『黒い安息日』(70年)のジャケット。バンドの音楽性と絶妙にマッチした、なんとも言えない不気味な雰囲気を持つ傑作です。そのほか、
デヴィッド・ボウイが71年に発表した
『世界を売った男』の英国盤オリジナル・ジャケットでは、“マンズ・ドレス”を身に付けたボウイの、中性的な魅力を見事に伝える写真を撮影しています。
ブリティッシュ・ロックがその勢いを弱めていった70年代半ば以降、キーフの手掛けたレコード・ジャケットは徐々に減っていきました。この時期から彼はビデオ・ディレクターへの道を進むようになり、
ケイト・ブッシュのデビュー曲「嵐が丘」(78年)などを手掛けます。近年はその名を目にする機会もあまりありませんが、彼のデザインは紙ジャケットでも触れることが可能。ジャケットを担当したバンド/アーティストの中にはアルバム1枚で消えてしまった、という存在も多く、そんなマニア度の高さもまた、現在でもカルト的な支持を誇っている要因と言えるでしょう。
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