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巨匠ストーム・トーガソンって?

2007/06/01掲載
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アルバム・アートの巨匠、ストーム・トーガソンを分析!
巨匠ストーム・トーガソンって?
1944年にイギリスのポッターズ・バーで生まれる。1968年にロイヤル・カレッジ・オブ・アートで知り合ったオーブリー・パウエルとともにアート集団「ヒプノシス」を結成。乳牛が振り向いているジャケット写真が衝撃的なピンク・フロイド『原子心母』でその名を世界に知らしめ、ヒプノシス解散後も数々のジャケット・デザインを手掛けている。今もなお第一線のデザイナーとして活躍するストームを、作品解説を交えて紹介!



 クランベリーズの解散直前につくられたアルバム『ウェイク・アップ・アンド・スメル・ザ・コーヒー』。このアルバムを聴いた時、タイトルの文字通りコーヒーの香りの粒が空気を伝わり、寝ている者を起こすという風景を想像したというストームは、コーヒーの粒子を果物のクランベリーに置き換え、赤い粒の群れがベットルームに迫ってくるというシチュエーションを考え出したそうだ。撮影では野外に高さのある塔を建てて、そこから直径約90cmの赤いボールを200個放ったという。落下した無数のボールは数回バウンドした後、人が横たわるベッドへ向かい、やがてベッドの向こうにある浜辺へと消えていく。その数秒の美しいタイミングを写真に収めたのが今作である。ありふれた日常から拾い上げたアイディアを非現実的な幻想風景に変えた力作。


 ピンク・フロイドのアルバム『鬱(うつ)』では、浜辺に無数のパイプベッドを配置して撮影。ベッドに掛けられたシーツの色すべてが違うという細かな演出も施された。すべてが整いスタンバイができたにも関わらず、雨が降り出してきてしまったので、大型トレーラーと30人のアシスタントで渋々撤収したというエピソードも。F値を22まで絞ったようなヌケのある写真だからこそ再現できた心象風景、霧がかった空では果てなく設置されているベッドが写らないのだ。条件がすべて重なったベストなシャッターチャンスを狙うために、莫大な金額と時間を費やすという徹底した姿勢はくずさない。

 何もない荒野、地平線と交わるブルーのグラデーション……。ストームの作品にはしばしば、順光で撮影されたと思われる澄み切った青空が使われる。何もない殺風景なこの空間に、人工的で不可思議なオブジェ(あるいは人的なもの)をフレームに位置付けることで、現実世界にはあり得ない超現実的な現象が生み出される。歪んだ時間軸から姿を現した未知なる恐怖との接触は、彼の作品のように晴天の日にこそ起こりうるのかもしれない。

 先日日本でも発売されたストームの作品集『Taken by Storm』(Omnibus Press発行)でも、ものづくりに対する熱意を語っていた。音楽をビジュアルに変換するという意味で、自らをトランスレーターと呼んでいること。制作の過程ではその音源をたくさん聴き、歌詞を分析する作業はもちろん怠らない。そして何より重きをおいているのは、そのミュージシャンとたくさんコミュニケーションをとること。音楽として一度生み出されたものを再びビジュアルとして創造するためには、何よりも欠かせない行為だという。決してCGの力に頼ることなく、アナログな作り方にこだわる彼の作品は、今も多くのデザイナーに多大な影響を与え、そして何より多くのミュージシャンから支持され続けている。


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