イエス・キリスト生誕の地を名に冠したジャズ・レーベル、ベツレヘム。その活動期間は1953〜61年と短いのですが、特異な存在感を放つマイナー・レーベルとしてジャズ・ファンに根強い人気があります。
ベツレヘムは1953年、株のディーラーだったガス・ウィルディという人物とプロ・ドラマーだったジェームズ・クライドがニューヨークにて設立。当初はポップスのシングルを扱うレーベルとしてスタートしましたが、翌54年にはジャズ専門レーベルへと衣替え。同年に第1弾アルバム、
クリス・コナーの
『バードランドの子守唄』を発表してジャズ界に進出しました。ちなみに設立時のメンバーに、のちに名プロデューサーとなりCTIレコードを立ち上げる若き日のクリード・テイラーが在籍していたことも有名なエピソードです。
このレーベルの一番の特色は、米国の東海岸と西海岸の両方にオフィスを構え、かたよることなく双方の地のアーティストに光を当てたこと。50年代当時のジャズ・レーベルは、東海岸(ブルーノートやプレスティッジなど)と西海岸(パシフィックやコンテンポラリーなど)に活動領域・拠点が分かれているのが普通でした。その中でベツレヘムは、ハード・バップ隆盛期のイースト・コースト・ジャズと、白人中心のウエスト・コースト・ジャズを同時期にとらえながら、モダン・ジャズの黄金時代を記録していった珍しいマイナー・レーベルといえます。結果、探せば必ず好みに合うアルバムが発見できるような、「隠れ名盤の宝庫」ともいえる多様なスタイルを内包したカタログを残すことになりました。
ベツレヘムは1961年に全権利を売却して活動を休止しますが、その間に録音された作品の中でレーベルの代表作を一枚あげるなら、なんといっても
マル・ウォルドロンの
『レフト・アローン』(59年録音)です。表題曲で聴ける
ビリー・ホリデイを追悼したマルのピアノと
ジャッキー・マクリーンのアルト・サックスは、ジャズ史の中でも指折りの名演として知られています。
もうひとつ、ベツレヘムを語る上で忘れてならないのはジャケットの素晴らしさ。特にメイン・デザイナーであったバート・ゴールドブラットが手がけたジャケット・デザインは、ブルーノートのデザイナー、リード・マイルスの作品と肩を並べるほどの高い芸術性を誇っています。ベツレヘムが長くジャズ・ファンに愛され続けている最大の理由は、この優れたジャケット群のおかげだと言ってもいいのではないでしょうか。
日本でのカタログ販売権はかつて日本コロムビアにあり、その後東芝EMIに移行、さらにこのたびビクターエンターテイメントに移り、「ベツレヘムK2HDマスタリング・シリーズ」として6月21日より順次リリースされます(第一期全50タイトルを予定)。ブルーノートやプレスティッジのような派手さはないながらも、なぜか放ってはおけない愛すべきマイナー・レーベル、ベツレヘム。そのヴァラエティに富むカタログの中から、あなただけの隠れ名盤を探してみるのも面白いかもしれません。もちろん、ジャケ買いもアリですよ。
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