最新の挑発――Ramza『sabo』

Ramza   2019/04/05掲載
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 Campanellaの名作『PEASTA』をはじめ、C.O.S.A.×KID FRESINOBUSHMINDtofubeats仙人掌らのビート、リミックスを手がけてきた名古屋のビートメイカーにしてコラージュ作家のRamza。2017年に1stアルバム『pessim』リリース後、精力的にライヴ活動を行ない、2018年には折坂悠太のアルバム『平成』のビートアレンジや〈写真都市展 −ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち−〉で映像作家TAKCOMのインスタレーションにてサウンドデザインを担当するなど、その表現領域を拡張し続けている彼が2年ぶりとなるミニ・アルバム『sabo』をリリースした。4月7日(日)の小岩 BUSHBASHと5月2日(木)の名古屋 club JB'Sで予定されているリリース・パーティを控え、更なる進化を遂げた彼のディープな表現世界について話を訊いた。
Ramza『sabo』
――1stアルバム『pessim』から2年。新作『sabo』完成までの期間を振り返っていただけますか?
 「去年は東京ミッドタウンのアートギャラリー“21_21 DESIGN SIGHT”で開催した〈写真都市展 −ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち−〉で映像作家のTAKCOMがインスタレーションをやったんですけど、その音楽を担当させてもらったり、折坂(悠太)くんのアルバムに参加させてもらったり、新しいフィールドの仕事も増えつつあるんですけど、一方で『pessim』以降の2年間ですごい本数のライヴをやらせてもらって、特に2017年は100本弱くらいかな。去年もCampanellaより本数が多かったですし、そういう調子でライヴをやってると友達が増え、遊ぶ人も変わるし、そして、自分という人間もだいぶ変わった気がします」
――トラックメイカーは役割的にどうしてもインドアになりがちですけど、Ramzaが現場で精力的に行なっているマシンライヴはフリーフォームで自由度が高いですよね。この2年間のライヴは『pessim』を軸にしたものなのか。それともライヴを通じて、さらにその先の世界を模索したものだったのか。
 「その両方ですね。軸がぶれていないという意味では『pessim』から全く変わっていないとも言えるんですけど、日々のライヴにおいては、アルバムの次のステージを表現しようと試行錯誤していました。ただ、振り返ってみると、自分の音から逃れられないというか、まぁ、でも、それが自分の個性なんだな、と再確認しましたね」
――どうしても拭い去れないもの、それがその音楽家の個性であって、日々リリースされる無数のトラックのうち、一聴してそれと分かる作り手の個性が色濃く反映されたトラックがどれほどあるのか。
 「その人がやらなくてもいい上澄みをなぞっただけの音楽、誰かと取り替え可能な音楽をやっている人があまりに多すぎますよね。そのことに関しては常日頃から思うことが……はっきり言えば、怒りに近い気持ちがあって。個としての表現、時代を超える表現に向き合っている音楽家があまりに少なすぎるいまの日本の状況に対して、自分の音楽でぶっ飛ばしてやるって、『pessim』の頃からずっと思っていて。今回の『sabo』に関して、(Hydro Brain MC'sの一員でもあるDJ)Phoneheadが説明文を書いてくれたんですけど、そこで使ってくれた“最新の挑発”という言葉は僕の気持ちそのものですね」
――制作はいつ頃始めたんですか?
 「作り始めたのは、去年の9月ですね。そのきっかけは、Phoneheadの奥さんであり、『pessim』のリリース・パーティにも来てくれたカメラマンの頭山(ゆう紀)さんとの出会いですね。彼女の写真を度々観ているうちに、全く別のことをやっているのに自分の作品と何か決定的な共通項があるように感じて」
――その共通項を言葉にすると?
 「“死の匂い”と静寂、そこに流れるヘイトの感情ですかね。そういう共通項を感じたので、彼女の写真に僕の音を添えたら、いい作品になるんじゃないかなって。だから、コラボレーションの話を持ちかけて、音の制作をすでに始めていた去年の9月に彼女と一緒に岐阜の長良川へ撮影に行ったんです。何で長良川だったかというと、頭山さんから“Ramzaの思い入れのある場所で撮影したい”ということだったので、自分が青春時代からよく行ってた場所で、大人になってからも遊ぶのがつまらなくなった時、NERO(IMAI / Hydro Brain MC's所属のラッパー)くんと2人でクラブを抜け出して、朝焼けの長良川を眺めながら、そばの神社で何時間も喋ったりしていたお気に入りの場所に彼女を連れていって。撮影後は絶対いいものが出来るという確信があったので、その写真が上がってくるまで、密なコミュニケーションは取らず、写真が手元に届いた時には音がすでに完成していたので、100枚くらいあった写真の中からアートワークに使わせてもらうものを僕の方で選ばせてもらったんです。そこで僕と彼女の求めるイメージがズレていたら、この作品がリリースされることはなかったんですけど、奇跡的なことにお互いが一切の妥協なく納得出来る形にぴたっとハマってリリースの運びになりました。その体験が自分にとってはスペシャルなものだったというか、自分が信じていたことは合っていたんだなと事後の答え合わせが出来たこともうれしかったですし、自分の感覚に対して更なる確信を深めることが出来ました」
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Photo By Yuhki Touyama
――今回の作品はキックとスネアがなかなか出てこないアンビエント的なアルバムでもあって、ヒップホップのプロデューサーによるビートアルバムという枠組みを逸脱していますよね。
 「音響的には自分なりにトラップを消化した側面もあるんですけど、まぁ、一聴して、それと分かるトラップビートではないですよね(笑)。ただ、自分はビートミュージックに限らず、色んな音楽を聴いていて、前作も今回も作品を作るにあたって、ビートアルバムを作ろうと思っていたわけではないですし、まして意識して、キックとスネアを抜いたわけでもなくて。だから、分かりやすいキックやスネアが入らなかったとしても、自分のなかで違和感は全くないんですよね」
――『pessim』以降、よく聴いていた音楽というのは例えば?
 「ずっと聴いていたのは、サウダージ感があって、琴線に触れるものがあるエルメート・パスコアールマイルス・デイヴィスの『ライヴ・イヴル』にも参加したブラジルのマルチ・インストゥルメンタル奏者)とか(60年代から80年代に活動したイギリスのジャズ・ロック・バンド)ソフト・マシーンとか」
――様々な楽器を使い分けながら、奔放な発想が予想もつかないプログレッシヴな展開の自由な音楽に昇華されているエルメート・パスコアールに対して、作品によって音楽性が変化しているソフト・マシーンはどの時期の作品がお好きなんですか?
 「サイケデリックなファーストより、『ヴォリューム2』以降の作品ですかね。乱雑にローズ・ピアノを弾いたり、インプロヴィゼーションが軸となった中期以降の作品は今回の作品を作るうえで大きかった気がします」
――今回はシンセサイザーや鍵盤の比重が高まっていますもんね。
 「ああ、確かに。インプロみたいな……振り返ってみると、そういうところにソフト・マシーンの影響がモロに表れているかもしれない。もちろん、前作同様、サンプリングも使っているんですけど、今回はシンセサイザーを使う度合いが増していて。なおかつ、前作を超えるような音のテクスチャーを自分なりに追求していましたね。あと、影響という意味ではウラジミール・コスマが手がけたフランスの映画『ディーヴァ』のサウンドトラックであったり、エンニオ・モリコーネピエロ・ウミリアーニヴィンセント・ギャロが手がけた映画音楽などにも触発されて、それこそ、今回の1曲目〈Hush Now〉は自分のなかでイメージした映像に音をつけるように作りました」
――どういう時に音からヴィジュアルを想起することが多いですか?
 「クラブで散々遊び呆けた後、家に帰ってから飲み物を入れて、音楽を聴くんですけど、そういう時に聴く音楽が自分にとって大事だったりします」
――つまり、世間で言うところの“チル”や“チルい”という感覚とは異なる、本来の意味におけるチルアウト・ミュージックに触発されることが多いと。
 「そうですね。例えば、僕らがやっているパーティ〈MdM〉だと、朝方、DJのnutsmanがプレイしている音楽はインスピレーションの塊だったりしますし、クラブ・ライフにおけるチルアウトや反スピリチュアルな、都会的な意味でのメディテーションとして聴く音楽はいつもより深く心に入ってきたり、違った角度から作品を捉えることが出来たりするので、そこで感じたことや思い浮かんだイメージが自分の曲作りに反映されることが多いです」
――そう考えると今回の作品はアンビエントとして捉えられるものでもあると思うんですけど、ある種の鎮静作用もありつつ、決して緩くならず、一貫したテンションが途切れることなく流れていますよね。
 「それは前作にも通じるものだったりもしますし、自分のなかの怒りや憎しみの感情、それは周りであったり、自分自身にも向けられているものでもあるんですけど、そういう感情がどうしても緊張感となって音に表れてしまうんですよね。ただ、それが全てではないというか、閉鎖された状況でヘイトを叫び続けていたイメージの前作に対して、今回は、怒りの感情はそのままなんですけど、屋外に出た作品であり、ライヴの日々で出会った人たちから与えられた愛の感情が憎しみの感情と均衡した作品になっていると思いますね」
Photo By Yuhki Touyama
――そして、音の仕上げのマスタリングに関して、前作はPoleことステファン・ベトケが手がけていましたが、今回は(MANTIS名義でBlack Smokerから作品リリースもある)mossが手がけています。
 「mossは、MANTIS名義で出したダブテクノのアルバム『COLLAPSIZM』もすごい格好よかったし、いまはマスタリングを手がけながら、ミニマルテクノをずっと作っていて、その作品も最高なんですよね。そして、彼はPoleとも仲が良くて、前作で僕がPoleにマスタリングを頼んだ意図を汲み取ってくれるだろうし、彼とは友達の間柄ということもあって、こちらの意見も伝えやすいかなと思って、今回お願いすることにしたんです」
――Poleやmossにマスタリングを依頼したRamzaしかり、Hydro Brain MC'sのKaravi Roushiの間もなく出るアルバムもマスタリングを担当しているのはTetsumasa aka Devecly Bitteだったり、Ramzaの周りのアーティストはヒップホップとダブテクノのクロスオーヴァーに意欲的というか、チャレンジングな試みから新しい音楽を生み出そうという意志を強く感じます。
 「それっぽいことを何となくやりたいのか、それとも他にはない新しい音響を積極的に求めるのか。その意志の違いというか、いまのヒップホップ・シーンの大半の人たちはいかに流行るか、バズるかということしか考えてないですし、周りと同じことをやってて何が楽しいの?って不思議に思うんですよね。音楽をやっているわけだから、その音楽がどう鳴るのか。自分にとって大切なのは、鳴らした時に陶酔感が感じられるかどうかですし、そういう鳴りを自分なりに追い求めたら、自然と他とは違うものになるはずなんですけどね」
――ちなみにいまのRamzaが注目しているアーティスト、プロデューサーは?
 「そんな変わらないんですけど、時代の先を切り開いている人、例えば、JemapurENAさんとか。ここ最近好きなのは、YamieZimmerかな。機材云々ということを軽く超えてくるセンスであったり、トリッピーな音作りが格好いいですね。それから海外だとYves Tumorとかゴシックホップとも呼ばれているAmnesia Scannerといったトランスジェンダーを含むミュータントと呼ばれるアーティストたちは音楽の新しい扉を開きかけているように思いますし、その流れでいうとテーリ・テムリッツの名前を挙げずにはいられないかな、と」
――ヒップホップのプロデューサーはYamieZimmerくらい?
 「はははは。Playboi Cartiを手がけているPi'erre Bourneとか、日本人には真似出来ないアメリカン・トラディショナルな音作りをしているDon CannonLil Uzi Vertをいち早く見出したプロデューサー)とか、もちろん、才能がある人は沢山いますけど、シーンの大きな流れとしては商業的な発想にハマってしまっている気がするし、ヒップホップ以外にも音楽は沢山ありますからね」
――個人的には、Ramzaがラッパーをフィーチャーしたプロデュース・アルバムを聴いてみたいところですけどね。
 「ああ、それはもちろん。まだ名前は言えないんですけど、今年はこれからラッパーのトラックもいくつか手がけることになっていますし、周りからプロデュース・アルバムを作ったら?とよく言われたりもしていて。僕にしか出来ない作品は出来るんじゃないかなとは思いつつも、そこまで手が回るかどうか(笑)。まぁ、でも、頑張りますよ」
取材・文 / 小野田 雄(2019年3月)
Event Schedule
Ramza『sabo』Release Party

2019年4月7日(日)
東京 小岩 BUSHBASH
LIVE: Ramza / STRUGGLE FOR PRIDE
DJ: BUSHMIND / PHONEHEAD

開場 / 開演 18:30
前売 2,000円 / 当日 2,300円(税込 / 別途ドリンク代)

2019年5月2日(木)
愛知 名古屋 club JB'S
GUEST: BUSHMIND / Ooshima Shigeru
出演: Ramza / Campanella / C.O.S.A. / TOSHIMAMUSHI / NERO IMAI / FREE BABYRONIA / nutsman / MIKUMARI / TAKANOME / SHOBBIECONZ / DJ TETSU / DJ RISE

開場 / 開演 22:00
前売 2,500円 / 当日 3,000円(税込 / 別途ドリンク代)

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