総合部門
総合グランプリ(全スピーカーのNo.1モデル)
CDジャーナルムック「スピーカーブック2022」が選んだ
スピーカー専門誌として2006年に創刊以来、数多くのスピーカーレビューを
掲載してきた「スピーカーブック2022」とスピーカーに造詣の深いオーディオ評論家が、「音」、「機能性」、「デザイン」、「コストパフォーマンス」など、あらゆる視点からベストといえるスピーカーをタイプ別、価格別に選出する「スピーカーアワード」。
各選考委員、およびメーカー、代理店の推薦による候補モデルの中から
4人の選考委員の協議により各賞が決定しました。
このページでは、栄えある受賞機種14モデルを一挙掲載します。
※一昨年からのコロナ禍により、昨年は本誌を休刊したため、今回は対象モデルを2年前まで遡って選考いたします。
(2020年5月-2022年4月発表モデル)
総合部門
総合グランプリ(全スピーカーのNo.1モデル)
ブックシェルフ部門
フロアスタンディング部門
潮 晴男
Haruo Ushio
(選考委員長)
岩井 喬
Takashi Iwai
生形三郎
Saburo Ubukata
山之内 正
Tadashi Yamanouchi
第3世代でコンテュニアムコーンをはじめとする大きな技術革新を図り、極めて高い完成度を誇った800シリーズDiamondであるが、さらなるブラッシュアップによって第4世代へと進化。特にフラッグシップ機である801 D4は、シリーズの中でもより踏み込んだ改良がなされていることが特徴だ。すぐ下の802 D4を聴いていても前世代からの進化を含め、十分に満足できる上質なクオリティであることを実感できるが、801 D4を聴くと“さすがフラッグシップ”と納得せざるを得ない。そこに実在するかのような等身大に展開する音像のリアルな佇まいに圧倒される。コンテュニアムコーン15cm FSTミッドレンジのダンパーは、空気抵抗を少なくしたバイオミメティック・サスペンションを新採用するとともに、2発の25cmエアロフォイルコーンウーファーのダンパーもシングル化して、ミッドレンジの軽快な反応に近づけるなど、一際手の込んだつくりとした。キャビネット上面のコノリー社製レザーを施したアルミ製プレートや内部補強のマトリクス構造に追加されたアルミブレーシングの効果もあり、低重心で歪みのない広大な音場再現力と、音離れ良く立体的に浮き立つ音像の生々しさを両立。緻密でありながら抑揚豊かに展開するダイナミックなサウンドを堪能できる。新色のウォールナットはインテリアとの親和性も高い。決して安くはないが、その枠の中では飛び抜けて全方位でバランス良く、これまで以上に完成度が高まった理想の表現力を持つ傑作スピーカーだ。
岩井 喬
本機の魅力は、前モデルからの進化に加えて、そのハイクオリティをこの価格で実現している点が挙げられる。単体で見れば十分高額なモデルではあるものの、ハ イエンドなスピーカーと比較した際にも、その実力と価格は大きなアドバンテージを感じさせるものである。エントリーの600シリーズまでをカバーしつつこれらD4シリーズも両立できるのは、やはり圧倒的なブランド力や開発技術力あってこそだろう。 D4シリーズ中でも、とりわけ801はトップエンドモデルたる別格的なバランスの良さと描写力を備えており、シリーズ中でも抜きん出た存在と実感する。D4への進化 にあたっては、根本的な筐体剛性向上、とりわけ805や804では根本的なエンクロージャー構成の刷新による抜本的な性能アップも目を引いたが、全機種通してやはりミッドレンジのダンパー等の改善を始めとする内部的なアップデートの数々が効いているようだ。このあたりの着実な進化向上は、地道な基礎研究の賜物なのだろう。 シアター用途も意識しているのか迫力傾向を楽しめる803や、もう少しモニター気質な802、ディテールが明快に浮かび上がる804、2ウェイ構成で高いピュアネスを実現する805など、各モデルのキャラクター立ちもはっきりとしており、シリーズとしての魅力にも富んでいる。そして、801は、やはりリファレンス的なサウンドプロポーションと高い描写力で、これぞD4の真髄たる仕上がりなのである。
生形三郎
B&Wのフラッグシップ機として業界をリードしてきた800シリーズがD4、第4世代機となって生まれ変わった。801 D4はそのシリーズの最上位モデルである。そしてこのモデルにおけるもう一つのトピックは、D4になってシングルウーファー仕様のスピーカーに与えられていた栄光の型番が復活したことだ。それだけ801 D4には作り手の思いが込められているということでもある。
1979年に登場した初代の801以来、40年以上にわたる歴史の中でどのモデルも話題を提供してきたスピーカーであり、トレンドセッターでもあったわけだが、常々研鑽を怠らなかったことが長きにわたる成功の礎を築いてきたのだと思う。801D 4の外観は前作D3とそれほど大きくは変わっていないが、天板と底板にアルミダイキャストのプレートを設えて剛性を高めバスレフポートの振舞が強固なものになっている。一方このモデルで最も大きく変わったのが、ミッドレンジへの蝶ダンパーと銀のショートリングの採用である。従来のダンパーに比べて不要な空気圧の発生が無くなったことでクリアネスの高い中音域の再現が可能になり剛性感を伴った低音域とのバランスも向上している。ヴォーカル楽曲における艶やかな声の描き出しや温度感まで伝わってくるような音の表情が聴きとれることも技術的な進化以上のものがあるように思った。まさしくグランプリに相応しいスピーカーである。
潮 晴男
審査員全員の推薦によって、800 D4シリーズの頂点に君臨する801 D4のグランプリ受賞が決まった。発売からまだ日が浅いにも関わらず、B&W史上最強というべき高評価を得ており、次世代を担う新たなフラッグシップの完成度の高さが審査会でも話題に上った。前シリーズのD3からの変更点は数百箇所に及ぶとされ、各ドライバーユニットからキャビネット、ネットワーク回路まで見直しは広範囲にわたる。特にミッドレンジドライバーは従来とは素材と構造が根本的に異なる新開発のバイオミメティック・サスペンションを導入し、わずかに残っていた付帯音やノイズを大幅に低減して再生音の質感向上に大きく貢献している。
磁気回路については、D4シリーズの他の製品が銅製のダブルショートリングを用いているのに対し、801 D4のみ素材を銀に変更。さらにウーファーのダンパーを800 D3のダブルダンパーからシングルダンパーに変更するなど、音質を左右する重要な部分については、トップモデルだけあえて特別な設計を行っている。そのほか、キャビネット上部にアルミ製トッププレートを配置したり、アルミ製ブレーシングとも見逃せない。ドライバーユニットの改良との合わせ技によって低音の質感は大幅に向上しており、超低域まで音色とタイミングの精度が上がっている。
山之内 正
エラックのフラッグシップを飾るConcentro(コンチェントロ)。このモデルのコンセプトを採り入れ、これまでの500ラインの後を受け継ぐ形で誕生したのがConcentro Sシリーズである。すでにフロアスタンディングのS 507が紹介されているが、S503はそのS 507のエッセンスを凝縮したブックシェルフ型のスピーカーだ。一見すると2ウェイ機のように見えるが、実は同軸型のStep X-JETコアキシャルドライバーを用いているので3ウェイ機として動作する。
JET型のトゥイーターはアコーディオン状のカプトンと呼ばれる温度特性に優れたポリイミド系のフィルムを用いて、アルミを蒸着した振動板を用いることで、トランジェント特性に優れた解像力の高いサウンドを再現する。今やエラックのスピーカーになくてはならない音質を決定づけるユニットだが、このユニットにAS-XRコーンを採用したドライバビリティの高い18cm口径のウーファーを組み合わせ一体感のある音作りをおこなっている。また仕上がりの美しさにほれぼれとするエンクロージャーもこのモデルの存在感を高めているといってもいいだろう。
フォーカス感に優れた品位の高いサウンドを聴かせるスピーカーだが、ブックシェルフ型という枠を超えた低音域の表現力にも惹きつけられるし、オプションで用意されたスタンドを使えば音場感の豊かなサウンドを描き出す。まさにサイズを超えたパフォーマンスを体感することの出来る秀逸なスピーカーである。
潮 晴男
近年のエラックはラインナップを積極的に拡大しており、上位機種にもこれまで以上に力を注いでいる。その具体的な成果が、ドイツ本社の開発チームが手がけたConcentro Sシリーズで、JETトゥイーターを組み込んだ同軸型ドライバーを中心に据えてその長所を最大限に引き出し、次世代のエラック・サウンドを生み出すことに成功した。同シリーズ初のブックシェルフ型として開発されたConcentro S 503もその設計思想を忠実に受け継いでおり、コンパクトなレンジでの旗艦モデルにふさわしい質感と表現力を獲得している。既存技術を活かしながら確実な進化を目指し、指向性の微調整など再生環境に配慮した機能を新たに採用するなど、伝統ある専業メーカーならではの着実な開発姿勢が大賞を受賞した最大の理由である。
Step X-JETと名付けられた同軸ドライバーは、フロアスタンディング型のConcentro S 507と同様、リング状のウェーブガイドを交換することによって中高域の指向性を変更する機能がそなわる。壁で反射する間接音の影響で期待通りの音色や音像定位が得られない場合、傾斜角度が異なるウェーブガイドに替えて補正することができるのだ。原理はシンプルだが確実な効果が得られ、マグネット式なので交換にも手間はかからない。JETトゥイーターは声や楽器の優れた発音を引き出し、結果として正確な音色再現を実現している。
山之内 正
シングルコーンのフルレンジユニットを卵型のエンクロージャーに収納して、時間軸特性に優れたサウンドを再現することをテーマに、ワン・アンド・オンリーのスピーカーを送り出すイクリプス。一般的なスピーカーを見慣れた目にはいささか不思議な形に映るが、このスタイルでなければインパルス応答に優れた特性を得ることが出来ない必然のスタイルなのである。ユニットの取り付けから支持方法までこのサイズであっても上位機と同じコンセプトで作られた最もコンパクトな製品である。使用ユニットのサイズはわずか6.5cmなので、口径の大きいユニットを採用したモデルに比べれば耐入力は譲るが、そうした中にあってエンクロージャーの容積をアップしユニットの振動板を改良することで耐入力と低音域の再現能力を向上させている。使い方をわきまえれば、位相特性の優れたスピーカーならではの音場感と音像の定位が得られる貴重な存在だけに、今後の動向にも注目したいメーカーである。
潮 晴男
ポークオーディオのスピーカーが日本市場にも本格的に導入されることになった。技術力の高いメーカーでラインナップの幅も広く、エントリークラスだけでも複数のシリーズを展開する。R100は上位のReserveシリーズのなかで最もコンパクトなブックシェルフ型スピーカー。小型とはいってもウーファーは13.5cmでキャビネットの高さは32cmを超えているので、デスクトップというよりスタンドを併用するか高めのラックに設置する用途に向いている。
上位シリーズから受け継いだタービンコーンウーファーやリングラジエーター型の広帯域トゥイーターなど、独自技術を駆使して音質改善に取り組んでおり、ブランドの特色を前面に打ち出している。たんなる低価格スピーカーではなく、細部にまでこだわった設計を貫いている点が評価につながった。その成果は再生音に反映され、低重心で躍動的なサウンドはこのクラスの平均を上回る高水準だ。
山之内 正
7層構造プライウッドによるバッフル板と表面突板接合部にメイプルを挟んだ細やかなつくり、そしてキャビネットをレザーで包み込んだ上質な調度品を思わせる仕様はソナス・ファベールならではの優雅さに溢れたものである。それを10万円ほどの小型モデルで実現したという、驚異のハイC/Pスピーカーだ。同社伝統ともいえる2.9cmアローポイントDADシルクドームトゥイーターも搭載し、艶やかかつ煌びやかな高域サウンドが特徴だ。しかしセルロースパルプなどの天然繊維をベースとするペーパーコーンを取り入れた12cmウーファーによって、サイズ以上の押し出し良い低域も両立。メリハリ良い華やかな音を楽しめる。弦楽器を中心に艶良く華やいだ響きを堪能できるが、現代的な高音圧音源だと高域のエナジーが強めに描かれる傾向にあるようだ。一方で芯のある中低域のアタック感は小型筐体からは想像できないほど充実した力強さを持つ。上質で見栄えの良い入門機として最良の一台だ。
岩井 喬
ディナウディオから登場した新たなエントリーラインとなるニューEmitシリーズは、上位機からの技術がふんだんに投入されたサウンドが堪能できるハイコストパフォーマンスシリーズである。トゥイーターには、振動板の背面にHexisインナードームやバックチャンバーが設けられた、「Esotar3」からの派生により誕生した「Cerotar」を搭載。また、ミッドレンジやウーファーにも、同社おなじみMSPコーンに二層式ストロンチウム・マグネットを搭載するなどして、エントリークラスながら高い実力が確保されている。コロナ禍の需要もあってこの価格帯のスピーカーは特に充実化が著しいが、その中でも抜きん出た実力を備えたもののひとつとなっている。全部でセンター用スピーカーと併せて5モデルがラインナップされているが、とりわけ2ウェイブックシェルフ型の「Emit 20」のサウンドが実に完成度高くまとまっており、エントリーモデルとして十二分な実力を有している。
生形三郎
密閉型キャビネットにこだわるクリプトンのスピーカー群は吟味された素材や仕上げの良さが高く評価されているが、海外ブランドの小型スピーカーに比べると価格が若干高めに設定されているように見える。国内生産であることを考えればけっして高価格とはいえないのだが、価格競争力という点ではどうしても不利になりがちだ。そんななかでKX-0.5 IIは割安感のある価格を実現しており、クリプトンの高品質スピーカーを手軽に導入できる製品として人気がある。ウーファーの振動板は入手しやすいカーボンポリプロピレンを用いているが、14cm口径の同ユニットは反応の良さと素直な音色に特長があり、広帯域のリングダイアフラム型トゥイーターと優れたマッチングを発揮する。低音の量感を引き出すうえで密閉感はバスレフ型に比べると設計が難しくなる面があるが、細部の吟味を進めた本機は低音の質感と量感の両立に成功。音楽ジャンルを選ばない対応力の広さも魅力だ。
山之内 正
設計者自身が自宅で音楽を楽しむための最高のスピーカーを目指して開発されており、フロア設置型の大きなブックシェルフスピーカーながら、背が低く傾斜した専用スタンドによって圧迫感の少ない現実的なサイズ感をもったデザインになっている。秀逸なのがそのサウンドで、躍動的ながらも柔和で、リスナーを音楽に深く没入させる悦楽的な再生を堪能させる仕上がり。まさに数々のヒットモデルを手掛けてきた名スピーカービルダーならではのものと感じ入る。小口径ウーファーが主流の中、特注のムンドルフ製大型AMTトゥイーターに20.3cmペーパーコーンウーファーを組み合わせた2ウェイから繰り出されるその音世界は、他では得難いシンプルで快活な心地よさがある。吸音材を完全に排したレゾネーター構造による筐体構造やバスレフポートデザインを持つことも、そのサウンドの実現に必要不可欠な要素となっていると推察される。卓越した技術とセンスによる「音楽本位のスピーカー」なのだ。
生形三郎
外観こそ従来モデルと大きく変わらないが、12世代目となる独自の同軸ユニットUni-Qはエッジやダンパー、バスケットの振動を吸収する新構造などを取り入れ、大きく進化を遂げた。特筆すべきはLS50 Metaでも取り入れられ、大きな音質改善効果を生んだMATを新設計の第12世代Uni-Qに取り付けている点だろう。MATはトゥイーターの振動板背後から放出された音を99%吸収し、歪みも抑える機構であり、幾何学的な迷路状の小部屋を多数設けた構造だ。また放射特性とともにネットワークにも手を入れることで4発の16.5cmウーファーとの音の繋がりも向上し、より理想的な点音源再生を軸としたナチュラルな空間性を実現している。
従来モデルでも精緻で解像度が高く、音場感も正確であったが、本製品では圧倒的な音離れの良さ、楽器単体の輪郭を誇張なく引き出す。音圧の高い音源を試聴していると高域にかけてエネルギーが集中し、時に飽和して細部がマスキングされてしまうことが従来モデルでも見受けられた。しかしMATの効果によって高域の飽和感は一切感じられず、ヴォーカルの口元の自然な動き、息遣いも丁寧に引き出し、楽器との描き分けも丁寧に行ってくれる。音場の前後感、定位感も正確であり、余韻の階調表現の高さも申し分ない。楽器の質感表現や空間性の素直な描写は雑味がなく、透明感のある爽やかなトーンでまとめられている。ふっと浮き立つ音像のリアルさも素晴らしく、新世代らしい数段越えのステップアップを実感できるだろう。
岩井 喬
その名の通り同社のベンチマークとしてラインナップされるのが「Reference(リファレンス)」シリーズで、MATテクノロジーを搭載する第12世代Uni-Qドライバーを採用したのがReference Metaである。筐体や内部構造、ユニット構成などは前モデルを踏襲しつつも、ドライバー部の向上でさらなる完成度が達成されている。なかでも、シリーズ最大構成となる3ウェイ・5スピーカーの本機はとりたてて充実したサウンドを聴かせてくれる。前モデルからの最大の進化点は、中高域の表現力だ。薄い円盤状の消音機構によるMAT技術によって、トゥイーターの背圧成分における「620Hz以上の帯域を99%以上消音させる」その効用が大きいのか、歪感が大幅に抑えられた澄んだ再現が魅惑的なのである。また、それに伴って低域再現においてもアタック表現が明快になるなど、中域や中高域以外の帯域表現も描写力が着実に向上している。他にも、Uni-Qドライバー部の刷新として、磁気回路の最適化や、トゥイーターハウジングとミッドレンジコーンとのギャップ部で生じる共振の排除、スピーカーユニットとキャビネットとの相互干渉を避けるためにボイスコイルとフレームシャーシの間に制振素材を配置するなど、細やかなバージョンアップを追求。熟成のサウンドを得ていることが注目に値する。入念なブレーシングを内包したスリムでデザインコンシャスなルックスと併せて、現代トールボーイ型の王者と言える存在だ。
生形三郎
Aceは高域ユニットにAMT方式のトゥイーターを採用することによって、ピエガのスピーカーを身近な存在に変えた人気シリーズだ。ミッドバスとウーファーに12cm口径のMDSウーファーユニットを組み合わせたAce 50は、同シリーズのトップに位置付けられるモデルで、スタイリッシュな外観も含めてピエガらしさを満喫することができる。キャビネットはアルミ押し出し材を精度高く加工したもので、サイズから想像するよりも内容積にゆとりがあり、木製エンクロージャーに比べて共振が起こりにくいなど、外観の美しさだけでなく音質面でも著しい利点がそなわる。高さは1メートルを超えるが、一体型のベースによって設置の安定感を高めており、従来機よりも設置しやすく導入しやすいスピーカーに進化したことが評価につながった。AMTと小口径ウーファーの組み合わせが生む反応の良さと曲面を描くキャビネットならではの伸びやかな余韻に注目してほしい。
山之内 正
モニターオーディオの中核ともいえる人気のSilverシリーズが第7世代へと進化。そのラインナップの中でフロアスタンディング型の最小モデルがSilver 200-7Gだ。2発の13cm・RST競Α璽侫 爾離椒ぅ好灰ぅ襪25mmから28.5mmへと大口径化し、パワーハンドリングを向上させた。さらにエッジとコーンの接合面の形状を最適化するDCMや2.5cm・C-CAMドームトゥイーターに設けられたUDウェーブガイド兇覆鼻∪莵圓垢Bronze-6G由来のノウハウを生かしている。UDウェーブガイド兇呂茲蠖爾ぐ銘屬縫罐縫奪箸鮹屬ことでタイムアライメントの正確さを追求。均一な放射特性と優れた指向性を獲得し、クロスオーバー周波数帯域でのシームレスな指向特性を実現させ、より一層精緻でアキュレートなサウンドへと進化した。
特に本機は筐体サイズも控えめでキャビネット剛性も高く、日本の住宅環境にもフィットしている。解像感も高めで脚色を抑えたナチュラルなトーンが持ち味といえよう。
岩井 喬
一見すると前作のSB-G90と見間違うほどよく似ているが、内容は別物と言えるほど手が入り進化を遂げたスピーカーである。とりわけスピーカーのジャンルにおいて、国産メーカーの製品が少なくなってきたことを嘆いていたオーディオファンにとって、こうしたスピーカーの出現は朗報に違いない。中高域を受け持つ同軸ユニットに採用されたリニアフェイズプラグと2基のウーファーを支えるサブバッフルを底板まで延伸し、強固にユニットを支えるよう作りこんだことが音質の改善に貢献している。
前作ではややもするとおとなしいイメージのサウンドを聴かせたが、マーク2になって音の躍動感をよく伝えるスピーカーになった。と同時に物は人が作るということを改めて実感したモデルでもある。音の纏め上げを女性のディレクターが担当したことで最終的にニュアンスの豊かさが増し明るく鳴りっぷりの良い製品に仕上がっている。これから先も大いに期待の持てるテクニクスのスピーカーである。
潮 晴男
これまでのTADコンシューマーラインで用いられてきた、独自の同軸CSTドライバーを用いていない、まさにシリーズ名の通りEvolutionとなる新機軸のフロアスタンディング型モデルだ。しかしCSTドライバーで培われた技術を捨て去るのではなく、次なるステップへと昇華させている点が評価できる。その最たる技術が2.5cmベリリウムトゥイーターであり、共振を抑えた高剛性なアルミダイキャスト製ウェーブガイドが装着されている。
中低域は新開発となる2発のMACC振動板採用15.5cmウーファーが担当。ボイスコイルボビンと繋がったセンターキャップと振動板との隙間をアルミ合金製ブレースで補強するデルタブレース構造を用いて、スムーズな指向特性と力強さを両立した。またスラントした筐体形状によって各ユニットとの距離を短くした他、2発のウーファーを理想的な位相回転とする2.5ウェイとしたネットワーク設計によって正確な音場再現性と優れた音像フォーカスを実現している。
岩井 喬
全帯域を点音源にするというSingle Apparent Sourceの発想から生まれたスピーカーがBladeである。またこのスピーカーではより広く深い音場再現がテーマとして掲げられていたこともあり、帆船の帆のようなデザインをモチーフに、エンクロージャーのどの面も曲線で仕上げて回析現象の抑制と音圧の平均化を狙っている。Blade One Metaはこうしたもの作りのコンセプトはそのままに、同軸型のUni-QユニットにMAT技術を取り入れた新開発のドライバーを搭載しさらなる音質の改善にアプローチしたモデルだ。MAT技術は先にLS-50 Metaで採用されているが、一語で言えばトゥイーターの排圧を逃す回路を用いて歪の低減と能率を高めるためのKEFのオリジナル技術である。その効用は中高域のS/N感を改善し丁寧な音の描写となって現れる。本来このモデルが持つ量感の豊かさも味わえるが、ヴォーカルの定位が明快になってきた点も進化した部分である。
潮 晴男
スピーカーアワード2020-2022
潮 晴男
「スピーカーブック」初のアワードである。これまでも個人レベルでのノミネートはあったが、今回は選考委員による合議制で各アワードに叶うスピーカーを選んだ。総合グランプリは珍しく選考委員全員の一致をみたが、そのほかの賞は多彩な機種が並び悩ましい限りだった。それほどにスピーカーは今もなお、数多くの優れた製品がリリースされているということである。スピーカーの面白いところは、オーディオシステムにあって80%以上の支配力を持っていることだと思う。もちろん他の機器は適当で良いということではない。オーディオの味わいを決定づけるスピーカーに対して、そのスピーカーを駆動するアンプも、音楽信号を送り出すソース機器も重要だが、最終的に音楽を奏でるのはスピーカーなのである。受賞製品はどのモデルも今を代表するものだが、いくつかのスピーカーは選外に漏れてしまった。そうした中で受賞には至らなかったが、エステロンのYB Mk兇JBLの4349を印象に残った製品として挙げておきたい。
岩井 喬
幾度かの緊急事態宣言で気ままに販売店へ行くことも難しく、イベントも開催されない中、実際に音を聴くことができないもどかしさを多くの方が持って居られただろう。そうした情勢を踏まえ、選択の道しるべともなり得るよう、現実味のある価格設定とクオリティを持つ製品を推すことを第一とした。この2年あまり、コロナ禍によって普段より製品発表のペースが遅くなっていることもあり、同一シリーズのラインナップから価格帯別にノミネートするケースも少なくなかった。混乱する世界情勢の中、価格が上昇してゆくことは免れないと考えるが、パラダイムやソナス・ファベールのLuminaなど、そうした状況でも驚異的なC/Pを見せる製品が存在するのは不幸中の幸いといえる。そして価格は決して安くないものの、クリプトンやテクニクス、TADなどの国内ブランドの製品も健闘している点も見逃せない。日本ならではの技術の高さとこだわり、熟練のチューニング術を生かした製品がさらに増えることを願ってやまない。
生形三郎
コロナ禍での在宅時間の増大に伴うテレビ周りの機材充実化の動きもあり、スピーカーの需要は確実に増しているようで、それに呼応するように多くのモデルが市場に登場した。特に、数万円から20万円程度の製品の充実が著しく、ハイレベルなモデルの数々で賑わっている。また、国内ブランドからも優れた製品が多く登場し、受賞モデルにもテクニクス、クリプトン、イクリプス、TADなど、日本勢の存在感が大きく示された結果となった。
受賞モデル選出にあたっては拮抗した製品も当然多く、協議で挙がったものの中で個人的に注目したものとしては、ソナス・ファベールのOlympica Novaシリーズ、パラダイムのFounderシリーズやMonitor SE Atom、エアーパルスA80などがあったことも記しておきたい。昨今のトレンドとしては、A80をはじめとする良質なアクティブスピーカーが日本市場にも数多く登場してきており、今後一層の拡充を期待したい。
山之内 正
直近の2年間はパンデミックがオーディオ市場にも大きな影響を及ぼした。製品開発が停滞したり物流が制約を受けるなど、その影響はいまも続いている。さらに、海外ブランドは構造的な円安と原価高騰を主な原因とする値上げが止まらず、ハイエンドを中心に厳しい状況に陥っている。一方、自宅で音楽を聴く時間が増えてオーディオへの関心が高まり始めたことはポジティブな変化とみていい。購入しやすい価格帯の製品はスピーカーやネットワークオーディオを中心に好調な動きを取り戻しつつある。スピーカーに限ると、エントリーからウルトラハイエンドまで強力な新製品が数多く登場し、厳しい環境下としては活況を呈したといえる。数多くの候補のなかから入賞モデルを選ぶうえで特に意識したのはオリジナリティである。他では置き換えられない音や価値をそなえた製品を生み出すのが以前より難しくなっているとはいえ、良い意味で個性的な製品を選ぶことができた。
2022年6月13日発売
B5版/192頁
定価:2,500円(本体2,273円+税)
雑誌コード64372-98
ISBN978-4-909774-187 C9473 ¥2273E
最新号は、2020年-2022年度に発売された全スピーカーのなかからジャンル別、価格別に、「今、最も輝いているスピーカーはこれだ!」として本誌が選定した『スピーカーアワード2020-2022』を大特集します。アワードは、「総合グランプリ」のほか、ブックシェルフ部門とフロアスタンディング部門からそれぞれ大賞、エントリークラス賞、ミドルクラス賞、アッパークラス賞、ハイエンドクラス賞を選定しています。2022年の最新にして最良のスピーカーモデルとなります。
その他、本誌には、最新スピーカーから定番スピーカーまでをセレクトした「厳選スピーカー86モデル」や、タイプ別・価格別に探せる「スピーカー147機種全ガイド」など現役の特選スピーカーモデル200機種余りを掲載。
また、スピーカー関連記事やアンプ、ケーブル、インシュレーターなどアクセサリー関連記事等も併せて掲載しています。
本誌は、この一冊で現役主要スピーカーのすべてがわかるスピーカーガイドブックの決定版です。