今年でデビュー10周年を迎えたLeyona。シングル
「オレンジ」で彼女がデビューを飾った1999年といえば、前年の宇多田ヒカルの大ブレイクを受けて、女性R&Bシンガーが雨後の筍のごとく続々と登場していた、いわゆる“ディーヴァ・ブーム”の全盛期。そんな中にあって、同じ“R&B”でも、RCサクセション直系の土臭いリズム&ブルースや、ソウル、レゲエといったルーツ・ミュージックをバックボーンに持つLeyonaのアーシーで滋味溢れる歌声は明らかに異彩を放っていた。
「デビュー前は本気でブルースを歌いたいと思っていたんです。でも、レコード会社的に“どブルースは、ちょっと……”って話になって(笑)。だったら、デビュー曲の〈オレンジ〉はRCサクセションのチャボさん(
仲井戸麗市)にプロデュースをお願いしたいんですって話をして。私の中で、どうしてもあの曲はチャボさんにプロデュースしてもらう必然性があったんです」
そう。デビューした段階で、すでに彼女には自らが歩むべき明確な道筋が見えていたのだ。その後も、G.LOVE、斉藤和義、忌野清志郎、井上陽水といった敬愛するミュージシャンたちと──いわゆる“顔合わせ勝負”の商業的なそれとは趣きを異にする──ソウル・トゥ・ソウルなコラボレーションを展開し、豊穣な音楽の恵みを糧に着実に成長を遂げてきたLeyona。そんな彼女の10年間の賜物と言えるのが、今回、発表されたリスペクト・カヴァー・アルバム『MUSICISMAGIC』だ。
「せっかく10周年のカヴァー・アルバムを出せるんだったら、自分とゆかりのある方々の曲を歌いたいなと思ったんです。私は自分のルーツであったり、本当に“いいな”と思えるリスペクトの気持ちを大切にして、ずっと音楽を続けてきたので、今回のアルバムでは、ジャンルに関係なく、“いいものはいい”っていう気持ちで、純粋に自分の大好きな曲を歌うことにしました」
たとえば、今作に収録されている「長い間」のオリジナル・シンガーである
Kiroroの二人とも、イベントでの共演をきっかけに、意外な交流を深めているのだという。
「二人とも本当に可愛いんです。同い年なんですけど、私にはない女の子らしさを持っていて(笑)。〈長い間〉に関していえば、完全に“ないものねだり”ですね。私には絶対に書くことのできない可愛らしい曲だから、いつか歌いたいなと思っていたんです」
そして、“ルーツとリスペクト”をテーマにした、このアルバムの中で、彼女が歌わずにいられなかった楽曲が
ザ・タイマーズの「デイドリーム・ビリーバー」。オーヴァー30の音楽ファンならばご存知かと思うが、ザ・タイマーズとはRCサクセションの忌野清志郎が80年代後半に率いていたラジカルな覆面バンドである。
「ザ・タイマーズをきっかけに清志郎さんのことを知って。そこから清志郎さんのルーツを辿ってソウルやリズム&ブルースに興味を持つようになって。まさか、このタイミングで、こういう作品を出すことになるとは思わなかったんですけど……。今は、全部、意味のあることだと思って受け止めるようにしています」
某CMのテーマ・ソングとしてブラウン管から流れてきたザ・タイマーズを聴いて日本語のロックに興味を持った小学生の女の子が、やがて思春期にバンドを組み、単身、広島から上京してデビューを果たし、10年の時を経て自らが影響を受けたアーティストの楽曲を愛情たっぷりに表現した作品を発表し、それを聴いたリスナーが、そこで歌われている楽曲に興味を持ち……なんて夢のような循環を思い浮かべるのは、あまりにも短絡的すぎるかもしれないけれど、そんな夢想を現実たらしめる力が音楽にはある、と、あえて力強く言い切りたい。『MUSICISMASIC』というタイトルは音楽の魔法にコロっとヤラれてしまった多くの人々の想いが込められた呪文のような言葉だと思う。
取材・文/望月哲(2009年5月)
Leyona 10th Anniversary Special Event
『MUSICISMASIC』
●6月19日(金)
●東京・渋谷AX
●開場18:00/開演19:00
●料金:前売り/\7,799 (ドリンク別)
●問い合わせ:SOGO TOKYO 03-3405-9999
[SPECIAL GUEST]
Keison、斉藤和義、佐藤タイジ、Spinna B-ILL、仲井戸“CHABO”麗市、HIFANA、東田トモヒロ、BLACK BOTTOM BRASS BAND、blues.the-butcher-590213(永井“ホトケ”隆、沼澤尚、中條卓、KOTEZ)
[SPECIAL BAND MEMBER]
會田茂一、エマーソン北村、大儀見元、笠原敏幸、椎野恭一、鈴木正人、TOKIE、Dr.kyOn、沼澤尚、山本タカシ、Latyr Sy