――『F's シネマ』というタイトルは、今回、斉藤和義さんが書かれた「罪滅星」という曲がキーになってるそうですが。
藤井フミヤ(以下、同) 「〈罪滅星〉は最初のほうにレコーディングした曲なんですけど、昭和の匂いがプンプンするし、なんか古い日本映画みたいだねって。今回もタイトルは『F's ○○○○』でいこうと思ってたんで、これはもう『F's シネマ』しかないんじゃない?って」
――“シネマ”といっても、一本の映画のサントラというより、短編映画のオムニバスのような雰囲気ですね。
「そうですね。(石野)卓球くんが書いた〈Final Valley〉なんてSF映画だしね。そういう意味では、卓球くんにも書いてもらったことによって、『F's シネマ』っていうネーミングが、よりハマッたなって思ったんですよ」
――たしかに、今作は『F's KITCHEN』よりもレイドバックした雰囲気の曲が多い印象を受けますし。
「卓球くんの曲以外は、昭和の匂いを感じさせるものが結構あったりとかして……The Birthdayが作ってくれた〈カラスの冷めたスープ〉にしたって、キーボードと管楽器が入ることによって歌謡ロック的な、チェッカーズを彷彿とさせるような感じになりましたからね」
――楽曲の仕上がりで意外な印象を受けたのは、馬場俊英さんが書いた「そこから始まる愛がある」。
「たしかに、いちばん意外でしたね。アコギ掻き鳴らし系の8ビートがくるもんだと思ってたら、ちょっと色っぽい16ビートの曲がきて。この曲はね、アレンジをバブル期みたいにしようって(笑)。ホーン・セクションを入れるにしてもシンセサイザーのホーンにしたりとか、80年代に多用されていた音色をわざと使ったりして、実際にその時代を生きた人間じゃないと出せない空気感っていうか、そういうものを醸し出してみました」
――SEAMOさんが書いた「君のために」は、かなり切実なラヴ・ソングで。
「最初にデモを聴いたときに、ちょっと気恥ずかしいというか、ちょっと青春しすぎじゃないか?って。SEAMOに言わせると、ここまでベタなラヴ・ソングは自分では歌えないらしく、僕だったら平気かなって思って書いてくれたみたいなんですよ。僕もここまでストレートなラヴ・ソングは書けないけど、SEAMOが作ってくれたから歌えたっていうのはありますね」
――YO-KINGの曲はちょっとしたハイライトですね。今まで聴いたことのないフミヤさんのヴォーカルが聴ける感じで。
「たしかに、曲をもらったときに歌ったことないタイプだと思いましたね。ちょっと“新橋”な感じもするし(笑)、保険のCMソングに使ってほしいぐらい」
――GLAYのHISASHIさんとTAKUROさんが共作した「春叶歌」は一転して、ノスタルジーを喚起させる美しいバラードで。
「歌ってみて、GLAYの歌って結構大変なんだなって思いました。そういうふうに感心することはコラボするとよくわかりますよ。河口恭吾くんが書いてくれた〈渚〉って曲もレンジがすごく広いんだけど、歌うことによって作った歌い手の音域を知ることは多々あるし、こんだけ音域を使えればいろんなメロディができるだろうなあって」
――MONKY MAJIKが書いた「Beautiful summer」は、フミヤさんらしいというか、アレンジした佐橋佳幸さんらしさが出た曲ですね。 「デモの段階では、打ち込みのサーフ・ミュージックみたいな感じだったんだけど、それを佐橋くんがAORに変えましたね。そのへんの感じって、佐橋くんはすごく得意だし、TOTOとかイーグルスとかの音なんかはすぐ出せちゃうから(笑)。このアレンジの振り幅はおもしろかった」
――最後に、コラボレーション・アルバム2作を振り返っての感想を。
「新たなアイディアを得たり、これからオリジナルを作っていくうえでの勉強をたくさんさせてもらった感じです。この2枚の曲を一生歌っていけると思うと、まあ、宝物ですね。ホントにありがたい。このあとどんなものを作っていこうかな?っていう思いはいろいろと頭の中で巡ってるし、自分もしっかり作っていかねばっていう気持ですね、今は」
取材・文/久保田泰平(2009年9月)