声とヒューマンビート・ボックスという独特の編成で、新しいJ-POPの形を提示する
カサリンチュ。メジャー・デビュー作となった前作
『感謝』から約5ヵ月ぶりに届いた2ndミニ・アルバム
『あなたの笑顔』は、希有なスタイルを基調にしながらも、エレキ・ギターをフィーチャーしたバンド・サウンドやラガマフィン調のラップなど、前作以上にアレンジの幅を増した作品となっている。音源では新たな可能性を広げながらも、ライヴではいまだ2人だけでステージにあがる。初回盤に収録されたデビュー日のライヴ映像にも注目してほしい。
――タイトル・チューンとなっている「あなたの笑顔」はいつ頃に作った曲なんですか?
タツヒロ 「1年前くらいにはもう形になってたと思います。もともとは、笑顔をテーマした曲が作りたいっていう気持ちから作った曲で。誰しもが不安を感じたり、悩みを抱いたりしながらも、日々を生きてるわけじゃないですか。そこで、自分が元気になるためには、なにが必要かなって考えたときに、大切な人たちの笑顔がぱって浮かんできて」
コウスケ 「例えば、失敗したときとかに、もし一人でいたら、“ああ、失敗した……”って落ち込むだけだと思うんですよね。でも、それを誰かに話して、笑ってもらえるとすっきりする。そういうことだと思うんですよ。一人でおったらろくなこと考えられんけど、好きな人とか身内、友達と一緒に笑っていられたら、失敗もネタになるっていう感じですかね」
――この曲はJA共済のCMソングとしてもオンエア中ですが、お二人はCMをご覧になりました??
タツヒロ 「見ました。島でも流れてるんですよ。親子の絵が描かれるサンド・アートも素敵だったし、最後、笑顔になるところも歌と合ってていいなって」
コウスケ 「すげえ嬉しかったです。実家で一緒に見てた親も“ちゃんとやってるんだな”って言ってくれて」
――カサリンチュなりのラブ・ソングですけど、聴く人によっては、応援歌にも捉えられる曲になってますよね。特に豪雨被害を受けた奄美で聞くと。
コウスケ 「そうですね。そんなに大それたことを考えてたわけじゃないですけど、島のラジオからこの曲が流れて、“おっしゃ! がんばろう”って思ってもらえたら、それだけで最高ですね」
タツヒロ 「聴いてくれた人が少しでも前向きに、少しでも元気になってくれたら嬉しいですね。あと、今回の作品には、いままでのカサリンチュにない感じの曲も入っているので、そこも楽しんでもらいたいなと思います」
――「クスブンブン」と「ようりようり」は2曲とも奄美の方言を使ったタイトルで、それぞれの個性が出た曲になってますよね。まず、タツヒロさんが作った「クスブンブン」に込めた思いを聞かせてください。
タツヒロ 「“くすぶ”っていうのは、奄美の方言で“カナブン”っていう意味なんですけど、自分のくすぶってる気持ちと、くすぶをかけてて。僕はさとうきびを作ってるんですけど、そこにカナブンを集める誘殺灯っていうのがあるんですよ。カナブンの幼虫はさとうきびの根っこを食べる害虫なので、害虫を駆除するための灯りが場内に何百機ってあって。そこに、何千匹っていうカナブンが集まるんです。はっきり言って気持ち悪いんですけど、何千匹のくすぶを見ながら、くすぶってる自分のことを考えたら……もう、なんか……みんなどっか飛んでけ! みたいな気持ちになって……」
――あははは。言葉にならないもやもやがリアルに伝わってきました。
コウスケ 「めっちゃタツヒロらしい歌なんですよね。<空気なんか読みたくない>っていう歌詞があるんですけど、タツヒロはほんとに我が道を行ってる感じがあって。人のことなんか全く気にしない、うっかりマイペースな人なので(笑)、ほんとタツヒロらしい曲だなって思います」
――一方、コウスケさんが作った「ようりようり」は、うっかりマイペースとは真逆の性格が出てますね。
コウスケ 「そうなんですよ。自分は性格的にせっかちなんですよね。せっかちを起こすと何事もうまくいかないってことは分かってるんですけど、どうしても治らなくて(笑)。<ようりようり>は方言で、“ゆっくりゆっくり”っていう意味なんですけど、曲調的にはちょっと早いんですよね。“変なの出来たな〜”みたいな感じだったので、ディレクターさんに“これ、ほんとに入れるんですか?”って聞いたんですけど(笑)」
タツヒロ 「僕はこの歌、コウスケらしくて、大好きですね。コウスケが言いたいことも伝わってくるし、不思議な感じもあっていいな〜と思います」
――また、初回限定盤には、奄美でのデビュー記念ライヴの模様も収録されてます。この映像がかなり面白かったです。みんながすごく自由に楽しんでる雰囲気が伝わってくるし、お客さんが勝手にステージに上がってきて、踊り始めたりもするし。
タツヒロ 「ホテルの結婚式場みたいなところでやったんですけど、ほんとにすごく盛り上がってくれて。でも、僕らにとってはあれが自然な感じなんですよ」
コウスケ 「いちばん前の列におった人たちはほとんど酔っぱらいですからね(笑)。もう宴会のようなイベントだったんですけど、俺らは、あのとき、内地で慣れんことばっかりして、すごく疲れてたんですよ。正直、落ちてたくらいだったんです。だから、逆に、お客さんから元気をもらった感じだったので、今度はもっと、自分たちからお客さんを楽しませるライヴをやりたいなっていう欲求とかも今は、たくさん出てきていて」
タツヒロ 「今年は本当に今までにない経験をたくさんさせてもらって。自分がイメージとは違って落ち込んだりもしたし、疲れ果てたりもしたんですね。でも、やっぱり音楽が好きで、歌うことが好きだっていう気持ちには変わりはなくて。まだまだ試行錯誤しながらですけど、来年はもっとたくさんの人の期待に応えられるようなライヴができたらいいなと思いますね」
取材・文/永堀アツオ(2010年11月)