取材場所に現れた青年は、屈託なく、快活。ひとことで言えば、ナイス・ガイ。そして、やはり格好いい。そんな彼のことを知らない人が
デイヴィッド・ギャレットを一目見たなら、誰もクラシック・ヴァイオリン奏者とは思わないのではないか。彼は1980年ドイツ生まれ、少年期から神童の名をほしいままにし、現在はクラシカル・クロスオーヴァーのフィールドで活動している。
エアロスミスや
レッド・ツェッペリンほかのロック曲、
バッハや
アルベニスらのクラシック曲、そして自作曲をオーケストラとともに紐解いたアルバム
『ロック・シンフォニー』のプロモーションのため来日した彼に話を聞いた。
――現在はNYに住んでいるのですか?
デイヴィッド・ギャレット(以下、同)「うん、もう10年間住んでいるよ」
――クラシックとロックのクロスオーヴァー路線を志向していますが、子供のころからロックにも親しんでいたのでしょうか。
「じつは、ロックを聴くようになったのはかなり遅い。NYで大学(ジュリアード音楽院)に行くようになってから。でも、ロックに触れたとき、ヴァイオリンの可能性をもう一つ広げるのにロックという道があると思ったんだ」
――では、ロックに着目した奥には、ヴァイオリニストとしての可能性を探りたい、という野心があったわけですね。
「そのとおり。つねに、根本にはヴァイオリンがあった。でも、自分のことを“ヴァイオリニスト”とは思ってなくて、“ミュージシャン”だと思っている。僕はクラシックでいろんな人たちに出会えたけど、ロックを聴くことでまた別の素晴らしい出会いがあったと思うしね」
――2000年代に入って、クラシックの世界ではポップ・ミュージックの要素を取り入れたクロスオーヴァーというジャンルがすっかり定着したわけですが、そこでいよいよオレの時代が来たという所感を得たのでしょうか?
「まったくね。ただし、クロスオーヴァーをやる意義というのを忘れないのだったら、だけど。僕の場合、それをやる意義というのは、ロックを聴く若い世代をクラシックの方に呼び込みたいということだ」
――それで、『ロック・シンフォニー』ですが、仕上がりには相当満足しているようですね。
「もし満足していなかったら、出していないよ(笑)」
――チェコとブルガリアのオーケストラを使っていますが、どうして彼らを起用したのでしょう?
「とにかくアレンジを凝らしているので、それをちゃんと弾きこなせるオーケストラを求めたってこと。彼らとは、いいタイミングで出会ったと思っている」
――オーケストレーションもご自分でなさっているわけですよね?
「ハイドンという友人と一緒にやっている。ジュリアードでは作曲も習っていたので、その経験が活きていると思う。アレンジはとても大変ではあったんだけど、やっていて楽しかった。いろんな可能性を追求できたと思うしね」
――ロック曲もクラシック曲も混在していますが、それらが違和感なく、耳をひくメロディ、インパクトのあるサウンドとして、同列に伝わってきます。
「それを成就させるために、かなり気を使ったんだ。オーケストレーションにおいて、すごく聴きやすくするのか、難しくいくのか、そこらへんのバランスを見るのに苦労したし、そのさじ加減をオーケストラにも指示した」
――そして、肝心のヴァイオリンの演奏ですが、クロスオーヴァーものと純粋なクラシック演奏とでは、弾き方を変えたりするんですか。
「それってよく聞かれる質問だけど、自分のなかでは区別はない。なにをやろうと同じテンションでヴァイオリンと向かっているし、優しく弾くときも同じように柔らかく弾く。どの音楽でも、最終的にいい音というのは一つだと思う」
――レコーディングでは、愛器である5億円のストラディヴァリウスを弾いているわけですか。
「そうだよ。絶対に、エレクトリック・ヴァイオリンは使わない。好みだとは思うが、ヴァイオリンは電気楽器ではなく、ヴァイオリンのままのほうが可能性があると僕は思っている。ヴァイオリンに電気を通すなんて、まるで自分の声を電気処理してしまうものだと思うな」
――次回の来日ではコンサートもぜひやってください。楽しみにしています。
取材・文:佐藤英輔(2012年2月)