――同じ曲でメロディを弾き分けるなど、ソロと伴奏を固定しない一体感のあるデュオという印象を受けました。
林はるか「チェロの発表会などでは、よく妹(そよか)に伴奏を頼んだりしていたのですが、今回はチェロとピアノを対等にしたいというテーマがありました。チェロとピアノの場合、どうしても旋律楽器のチェロが前に出てしまいがちなので、そういうことがないように、相談しながら何回か編曲し直してもらった曲もあります」
――
ジョン・レノンの作品を編曲し、演奏してみて、どんなことを感じましたか?
林そよか「クラシックをやってきた私にはコード進行が斬新で、魅力的なんです。とくに〈マインド・ゲームス〉を初めて聴いたときは、ここでこういくんだ!? とびっくりしました。それと、二人で弾いてみたときは、ジョン・レノンの歌声はチェロに合うなと感じました」
はるか「ささやく感じとか、やさしく歌う感じはヴァイオリンとか他の楽器よりもチェロの方がしっくりくると、自分も弾いてみて感じました」
――そよかさんはチェロを学んだこともあるそうですね。重音のパートがあったり、チェロの技法を駆使した編曲には、そのことが活きているのではないですか?
そよか「これなら弾ける、というのはわかるので、姉にちょっと無理してでも弾いてもらおうとか(笑)。姉はこう見えて、ノリノリ系が好きなんです。家ではビート感のある曲を弾いているのも見ていたので、〈ウォッチング・ザ・ホイールズ〉の中間部分でチェロとピアノがやり取りする場面は縦ノリのリズムにしました」
――「マザー」では強いボウイングで原曲の叫びを表現しています。
はるか「最初の編曲は原曲と同じC-dur(ハ長調)だったのですが、それだとチェロのいちばん低い音域をあまり使わないことになってしまって。絶叫の部分も、他の部分も高い音域なので、叫んでいる感じが出ないんです。それで調性を4度下げてG-dur(ト長調)にしたらチェロの最低音が出せるようになって、逆に叫びの部分は5度高くして、高低差をつけることで叫んでいる感じも出せるようになりました」
――「平和を我らに」は
バッハの作品を連想するチェロの独奏です。
そよか「初めは二人ヴァージョンで書いていたのですが、チェロの無伴奏にして何度も書き直しました。録音したものは最初と全然違うアレンジです」
はるか「原曲はしゃべっている部分が多くて、メロディらしいところは一部分だけ。その繰り返しなので、二人で弾こうと思ってもなかなかうまくいかないんです。最初はしゃべり口調を音程に表わしてやってみたりもしたのですが、違和感が出てしまって。あえてシンプルにしてみようと、チェロ一人のヴァージョンにして、しゃべるところには原曲にないクラシカルなものを入れました」
――「ハッピー・クリスマス」の最後には「きよしこの夜」が添えられ、余韻を残します。
そよか「この曲では冬の感じを出したかったんです。最初に雪がチラチラ降っているイメージをピアノの高音で出して、チェロがメロディを弾き、和声の進行を変えてだんだん盛り上がっていくという編曲なのですが、最後にみんなが知っているクリスマスの曲を入れたいと思いました。みんなで平和にクリスマスを過ごしたいという歌詞だったので〈きよしこの夜〉を入れてみたら、〈ハッピー・クリスマス〉のラ−ソ−シ−ラというリフレインの音型にぴったりはまりました」
――レコーディングで苦労したことなどはありましたか?
はるか「〈僕を見て〉ではギターの感じを出したくて、最初、ピチカートで弾いていたのですが、いざ録音してみるとイメージと違う。その日は中断して、晩ごはんを食べながらエンジニアの方たちと話をしていたら、ピックを使ったら? ということになりまして、次の日、生まれて初めてピックでチェロを弾きました。楽器もギターのように横にして。思っていた通りのカチカチとした音になりました。コンサートでもこの曲はピックで弾こうかなと思っています」
取材・文/浅羽 晃(2012年12月)