よしもとミュージックエンタテインメント内に
藤井 隆 が2014年に立ち上げたSLENDERIE RECORDから4組目のデビューは、
レイザーラモンRG 。去る6月20日にシングル「
いただきます 」をリリースした。
m.c.A・T プロデュースの表題曲は“ENKA TRAP”、カップリングの「DO THE パンダッ!」は“FUTURE TROT”を標榜。演歌トラップ? 未来のトロット? トロットって韓国の演歌みたいな音楽だよね……? 謎の多い2曲には、RGのユニークな音楽観と熱い思いがびっしり詰まっている。その事実を明かされて、僕は少なからず感動した。
音楽通として知られ、そのルーツが愛媛県八幡浜市で育った少年時代に購読していた「CDジャーナル」にあることも折にふれて語ってきたRG。そのあたりも含めて話を聞いていこう。
――RGさんは音楽にお詳しく、音楽を使ったネタもやってきましたが、自ら歌手として歌を歌いたいということは以前から思っていましたか?
「すでにいろんなところで歌ってますけど、ここ最近、俺はしょせんひとの歌で勝負してるんだな、っていうコンプレックスがちょっとあったんです。今回、藤井(隆)さんに機会を設けていただいて、あらためてデビューすることになって、できあがってきたCDを見たときは、やっぱり“おー”って思いました。俺のCD、俺の曲っていう喜びを知ってほしい、と藤井さんも言ってましたし。“初めてミックスが終わったときの気持ちはたまらないからね”って。僕はミックスには立ち会えなかったんですけど」
――作詞(「いただきます」はm.c.A・Tと共同)と歌入れ以外の制作過程にも立ち会われたんですね。
「〈いただきます〉も〈DO THE パンダッ!〉も両方、最初から。藤井さんが“好きにやっていいよ”って言ってくれたので、自分のやりたいことを会議で全部伝えて、形にしてもらいました」
――企画段階からなんですね。ミックスだけたまたま立ち会えなかったと。
「その日はロケがあって、湘南で
TUBE を歌ってました(笑)」
――m.c.A・Tさんにプロデュースをお願いしたのは?
「藤井さんのアイディアです。藤井さんが再び音楽活動に力を入れ始めてから、全国津々浦々のクラブを回る中でm.c.A・Tさんと仲よくなられたんだそうです。で、藤井さんの制作がひと段落して、次は
(椿)鬼奴 とRGだってなったときに、RGにはA・Tさんだ、と。そこはもう嗅覚ですよね。僕もうれしかったし、けっこう自慢しました(笑)。A・Tさんは90年代J-POPの中でもエッジにいた人というか、お茶の間にゴリゴリじゃないヒップホップを届けたすごい人だと思ってたし、
DA PUMP の〈Crazy Beat Goes On!〉に乗せてあるある歌ってましたし。藤井さんはそこも見てくれてたんでしょうね」
――どんなことをやりたいと伝えたんですか?
「
三波春夫 さんの〈世界の国からこんにちは〉がいいなと思って“平成の三波春夫になりたいです”って言いました(笑)。A・Tさんも"意味があるようでない歌詞を作りたい"って仰ってたんですよ。最近のアジア発のヒット・チューンってありますよね。〈江南スタイル〉しかり〈PPAP〉しかり。そういう世界的大ヒットを飛ばしたいね、って壮大な打ち合わせをしました。だからどっちがどの部分とかじゃなく、お互いに引かれ合った感じだと思います。それで“こんにちは”に近い言葉って何だろうと探ってたら、“いただきます”というのが日本にしかない、いい言葉だとわかって、作っていきました」
――そういえば食育ソングっぽさもありますね。“ENKA TRAP”ということで、ヴォーカルでは演歌っぽい節回しも使っています。
「1年前に
細川たかし 師匠とからんだことが、自分の中ではデカいんです。〈北酒場〉とか〈浪花節だよ人生は〉って、演歌なのにめちゃくちゃダンサブルというか、明るいじゃないですか。そのエッセンスが出たと思いますね。藤井さんも面食らったらしいんですよ。かっこいいダンス・ミュージックが上がってくると思ってたら、何ものでもない変な曲ができてきて(笑)。それで藤井さんから、急遽プロモーション計画を変えよう、って長文のメールを頂きました。これもやろう、これもやっていこう、って。カルチャー・ショックを与えられたという意味ではよかったですね」
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――藤井さんはどんなことをやろうと言っていましたか?
「最初は藤井さんの敷いてくれたレールを走るというか、クラブを回って、プロモーションも音楽系の媒体中心で、音楽好きに訴えていこうっていう感じだったんです。でもこれを聴かせたら、それはそれでやりつつ、子供番組とか、歌番組にも積極的に売り込もうと。一発当てよう、っていう方向にシフト・チェンジしました(笑)。僕らとしては、Eテレで流せて、かつULTRAとかのEDMフェスでも流れる曲を作りたかったんです。だから〈DO THE パンダッ!〉では
PARKGOLF くんっていう気鋭のトラックメイカーにかっこいいトラックを作ってもらいましたし、〈いただきます〉も、A・Tさんはこれのためにトラップでよく使われている機材をわざわざ買われたんですよ。ミックスも数々の名曲を手がけられてる名エンジニアの
D.O.I. さんにお願いしたんで、クラブでフロアを揺らす自信はありますね。歌詞だけでふざけた歌と判断しないでほしいです」
――海外を意識して、あえて違和感を出したんですね。
「
X JAPAN のドキュメンタリー映画を見たんですけど、今は世界的なバンドであるX JAPANも、最初に世界に打って出た90年代は、語学力の問題とかもあってうまくいかなかったらしくて。逆に向こうでポーンとハネるのって、何のジャンルでもない“外国の変な曲”が多いんですよ。〈上を向いて歩こう〉もそうですし、〈ランバダ〉とか〈恋のマイアヒ〉とか、最近ではさっき言った〈江南スタイル〉や〈PPAP〉も。そこを狙って、めちゃくちゃマーケティング会議をして、“何のジャンルかわかんない、変な曲を作ろう”って言ってました」
――三味線の音なども入れて、“東洋からやってきた変なやつ”みたいなイメージを狙ったわけですね。
「というのは欧米向けで、もう一個、アジア各国でもかかってほしいというのもあります。韓国にトロットっていうデジタル演歌みたいなジャンルがあって、それが僕すげえ好きなんですよ。
BIGBANG の方(テソン、
D-LITE )がやられてたり、
パク・ヒョンビン っていう“トロットの王子”って呼ばれている方もいるんですけど、アゲアゲな歌にコブシが乗ってるみたいな。似たような音楽がタイにもたくさんあって、僕はそれもよく聴くんです」
――汎アジア歌謡的な視点もあるんですね。
「ワールド・ミュージックとして作りました。芸人が遊びで出した曲じゃなくて、すげえ考え抜いて、すげえメンバーを揃えた、まあまあ意欲作と考えてほしいですね。ある意味、僕の歌よりもバック・トラックに耳を傾けてほしいというか」
――「DO THE パンダッ!」は昨今のパンダ・ブームがテーマになっていて、昭和の東京オリンピックや大阪万博の時代のイベント歌みたいな雰囲気もありますね。
「これの会議のときに出たのが、上野動物園と南紀白浜アドベンチャーワールドのパンダを見たくて待ってる列に常に流れてる曲、っていうイメージだったんです。♪さかなさかなさかな〜、みたいに(笑)」
――今どきのJ-POPではなかなか見かけないタイプの歌です。
「『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で、
いしわたり淳治 さんが“今はシンガー・ソングライターが多すぎる”って言って、
菅田将暉 くんの歌をほめてたんですよ。作家が与えた曲を歌い手が演じるみたいな曲がないって。そういう意味で、この2曲はうまくいってるんじゃないかと思うんですよ。〈いただきます〉は〈スシ食いねェ!〉みたいだってよく言われるんですけど(笑)、RGに〈スシ食いねェ!〉みたいな歌をやらせる、〈おさかな天国〉みたいな歌をやらせるという。かつて
松本 隆 さんや
筒美京平 さんが歌い手に合わせた歌を作っていたみたいに、僕を素材にして料理人さんが腕をふるってくれた感じがしました。せっかく藤井さんが“何してもいいよ”って言ってくれたんで、考えて考えて、何回も会議を重ねて、音楽ファンを唸らせつつ子供たちを喜ばせるような歌を、と欲張りました。芸人が遊びで出した歌じゃない、ということはしつこく強調したいですね」
――そこは太文字で書いておきます(笑)。SLENDERIE RECORDに所属する芸人さんはみなさんそうですよね。
「そこはたぶん藤井さんのコンセプトというか、芸人の出すレコードということでどうしても色眼鏡で見られる、その図式を変えたいという思いがあったと思うんです。吉本の音楽との関わり方を変えたいという、めちゃくちゃデカい理想があると思うんで、僕は切り込み隊長として“芸人の歌でこんなことできるんですよ”っていうのを見せていきたいです。僕がもしドーンと世界で売れたら、吉本も音楽にもっと予算を組んでくれるでしょうし」
――正直、それだけの強い思いがこもっていることをうかがって、ちょっと印象が変わりました。その前は漠然と歌謡曲の伝統を感じていたので。
「そういう意味では、やっぱり細川師匠との出会いは必然的だったのかなと思いますね。面白い歌をうたうおじさんって思われがちですけど、じつは民謡のすごい人ですから。コンサートに行ったら、津軽民謡を尺八と声だけでやる15分ぐらいの曲とかもあって、連れて行った若いマネージャーが“すごかったですね……”って言ってたぐらい。そこに自信があるから、バラエティでいじられても揺るがないんですよね。“喉一本で俺はやってるからね”ってサラッと言える強さ。そうなりたいっていう気持ちもあるかもしれないです。そのことも含めて、自分に入ってきたものを全部伝えて形にしてもらったのが、このシングルです」
――まさにデビュー作にふさわしい2曲ですね。
「満を持して、ですよね。ほんとに。自分のやりたいこと、かつ、いま誰もやってないこと。唯一無二のものができたと思います。マジで、ひとりひとりに“どう思った? この歌”って訊いて回りたいです(笑)。かっこいいダンス・ミュージックのトラックに、演歌っぽい歌が乗ったものって、ジャンル的にやっちゃいけないようなことじゃないですか。でもRGなら大丈夫かな、って。音楽永世中立国なので」
――音楽永世中立国。「CDジャーナル」と同じですね。
「『CDジャーナル』を読んで育った男が『CDジャーナル』みたいな音楽を作ったってことじゃないですか。X JAPANの
Toshl さんとからませていただいたりとか、
T-SQUARE を口で奏でたりとか(笑)、およそ結びつくはずのないものを結びつけられるのは、『CDジャーナル』で育った僕ならではかなと。恩返しできたと思ってます」
――RGさんの音楽への思いもちょっとうかがいたいんですが……。
「正直、ずっと昔から、歌う側というか作る側に行きたいっていう気持ちはあったので、やっと来れたなって思ってます。あるあるにしても好きな曲を歌ってるわけですし、
バービーボーイズ のものまねも、みんなに“これ、いいでしょ”って言いたかったんですよね。だから音楽に育ててもらったといいますか……フェスが大好きな人たちとかとも違うし、音楽について語り合う人たちとも違う、なんだろうな、自分の感じって」
――いい曲を見つけたときに、文章で紹介したい人もいれば、それを演奏したい人もいるし、SNSでシェアしたい人もいますよね。
「だとしたら僕は“その通りに歌いたい”人ですね(笑)」
――ものまねに満足できなくなって、自分の歌を歌いたくなってきた?
「“自分の歌を歌いたい”はなくて、バービーボーイズをその通りに歌いたいんです(笑)。自分の曲を持ちたい気持ちはずっとなかったし、なくていいと思ってました。そこへ、さっきお話しした藤井さんの“自分の歌を持つ喜びを知ってほしい”という思いが重なって、こういう機会をいただけたと。こだわりはすべてブチ込んだので、どんな結果が出ても言い訳がつく曲だと思います。売れなかったら“変な歌だからしょうがない”、売れたら“こんな変な歌でも売れた”(笑)。でも藤井さんは僕の20倍ぐらい考えてるんで、まだまだ学びたいですね」
――藤井さんはダンス・ミュージックのイメージが強いですが、RGさんはバンドもやっているし、どっちかというとロック寄りでしょうか。
「薦められたら何でも聴いてみるほうなので、どのジャンルって言われたらフラフラしてますね。こだわりがあるとすれば、ずっといろんなものを聴かなきゃいけないという『CDジャーナル』スピリットです。こないだもインドのコナッコルっていうリズム言葉の動画がツイッターのタイムラインに上がってきて、すごく気に入ったので、今も寝るときずっと聴いてます(笑)。ひとつところに“これが好き”ととどまっていてはいけない、という強迫観念みたいなものはあります」
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――コナッコルの動画は僕もツイッター経由で同じのを見たと思います。
「すっごくいいですよね。セカンド・シングル出せって言われたら、これやりたいって言うと思います(笑)。あとお風呂で聴いてるのが、さっき話したタイのインリー・シーチュムポンさん。(スマホでYouTubeの動画を再生して)最高ですよね。デビュー・シングルの会議で“こういうのがやりたいです”って言いました(笑)。あと最近、『ベース・マガジン』の表紙をさせていただいたり、去年『アメトーーク!』のギター芸人の回にベース代表で出たりしたんで、ベースをちゃんと聴かなきゃなと思っていろいろ聴いていくうちに、初期Xの
TAIJI (
沢田泰司 )さんがすごいなと思って、『
Vanishing Vision 』と『
BLUE BLOOD 』をよく聴いてます」
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――ほんとに音楽永世中立国なんですね。今後の音楽活動における目標、あるいは野望みたいなものがありましたらお聞かせください。
「なんで
サザンオールスターズ はずっと人気があるのか、みたいな本を読んだんですけど、時代時代に流行ったいろんなジャンルを取り入れてるって書いてあったんです。僕も“こんな曲をお願いします”って言ったらみんなが作ってくれる環境にしたいですね(笑)。いろんな最先端の人たちが僕を素材に料理してくれたら、すげえ楽しいと思います。大きな声では言えませんけど、
桑田佳祐 さんになりたいです。ほんとに憧れます」
取材・文 / 高岡洋詞(2018年6月)
2018年7月7日(土) 北海道 札幌 sound Lab MOLE 開場 / 開演 23:00(オールナイト公演)前売 2,000円 / 当日 2,500円(税込 / 別途ドリンク代)[出演] レイザーラモンRG / FRIEND PARK AVENUE / PARKGOLF / BUDDHAHOUSE / G.E.E.K / ゆめやん / ちーぴょん&ももな(ぷりんせすたいむ) / Noel(K-Juice) / NY / 咎メル / DJ FANCY SHOPPER ※お問合せ: mole 011-207-5101