シンガーのarvin homa ayaが、中村通宏率いるダンス・ミュージック・バンドのTHE IMAGEとコラボレーションで、3ヵ月連続のアナログ・レコードをリリースしている。第1弾となる「All Night」はアッパーに攻めるディスコ・ナンバー、第2弾の「Tell Me」はグルーヴィなシティ・ポップ。そして4月リリースのEP『SESSION』は8曲入りで、アフロ・ファンク的リズムを取り入れた「Baladalada」やセンチメンタルなメロディが冴える「Heartbreak」などを収録している。いずれの曲もエレガントな気品を放つヴォーカルと洗練された都会的センスの演奏とが絶妙に溶け合い、両者の相性の良さを感じさせる好企画といえるだろう。彼女に話を聞いた。
New Single
arvin homa aya feat. THE IMAGE
「All Night」(7inch)
※2月14日発売
New Single
arvin homa aya feat. THE IMAGE
「Tell Me」(7inch)
※3月6日発売
New EP
arvin homa aya feat. THE IMAGE
『SESSION』(12inch)
※4月20日発売
――ayaさんは2020年の『Past Present Future』以降リリースから遠ざかっていたので、今回のリリースで活動再開ということになりますね。
「育成の仕事のほうが忙しくなって、大手レコード会社のオーディション・プロジェクトを1年間ずっとやるとか、そういう大きなプロジェクトが続いていて、気づいたら3年経っちゃった、という感覚ですね。自分の中では育成も自分がパフォーマンスするほうも、どっちも共存しているんです」
――今回のアナログ・リリースはすべてarvin homa ayaさんとTHE IMAGEとのコラボということで、もともとayaさんはTHE IMAGEの作品にも参加されていますけど、付き合いは長いんですか。
「THE IMAGEのリーダーを務めている中村通宏さんとの出会いは28年くらい前なんです。私に初めて音楽の仕事をくださったのが中村さんで、映画のサントラだったんですけど、そこから私が歌詞を提供したり、一緒に歌ったり、っていう仕事を続けていたんです。しばらく会わない間があって、中村さんがTHE IMAGEをやるっていう時に、フィーチャリング・ヴォーカリストでやってくれないか、って声を掛けてくれたんです」
――昨年10〜12月に配信でリリースされていた「All Night」「Tell Me」「Heartbreak」がアナログとしてリリースされました。今回のアナログ化では新しく英語ヴァージョンも入っていますよね。
「7インチとEPを出すにあたって英語ヴァージョンを作りました。自分の中でやりたいことを、レコーディングを通して歌えているので、そこを聴いてもらえたらうれしいです。それと単純に、中村さんと一緒に共作できたことがうれしかったですね」
――「All Night」「Tell Me」「Heartbreak」の3曲はいずれも日本語と英語のヴァージョンがあって、日本語で歌うのは初めてですよね。今まではずっと英語で歌ってきたのが、今回日本語も入れているのはどうしてですか。
「今まで日本語を歌わなかったのは、発声が苦手だったというのもありますし、自分の第一言語が英語なので、日本語でしゃべることはできても、歌を歌うのは、英語のほうがどうしても自然というか、自分の伝えたいことを伝えきれるんです。だけど日本語だと、声の乗せ方だったりがどうしても借りたものになっちゃうんです。自分が納得できるものを出せるか、ちょっと怖かった部分があったんですね。でも今回は、日本のリスナーに対してきちんと自分の言いたいことを伝えたいし、外国のリスナーに対しても同じ景色を見せたい、と思ったんです。文化の違いで、同じ言葉を直訳したとしても同じ景色を見せるってけっこう難しいんですね。なので、歌詞の訳っていうわけじゃなくて、歌詞の世界観を代弁するみたいな言葉で、日本語と英語両方を作ろうって、丁寧に言葉を紡ごうって、やりました。違う言語圏だったとしても、同じ色味でその曲を聴いてもらえるように、歌詞を乗せました」
――じゃあ、日本語で歌うのは大変でしたか。
「新鮮でした。たぶん自分のソロではできなかった。今回はコラボだったから、のびのびと挑戦できたのかな、という感じはします」
――まず「All Night」はダンサブルなディスコ・ナンバーで、ドリーミーでファンタジックな曲ですよね。歌詞もストレートにクラブのムードが感じられますけど、どういうイメージがあったんですか。
「曲を先でいただいているものに関しては、色で見るんですね。曲を聴いた時に色が浮かんで、色で感情が決まる。同じ赤でも怒りの赤なのか情熱の赤なのか、色合いが変わるじゃないですか。その微妙な色合いの違いのところで、感情が決まって、じゃあどういう主人公を、この感情を持った上でみんなに見せたいのか、っていう、MV的な感じでものを見るので、その映像に沿って世界観を作るんです。この曲はブライトな赤ではなくて、ちょっとくすんでいる赤と、紫と、ちょっとオレンジがかった感じ。それが混ざっていますね」
――この曲の終盤で、フェイクっぽいフリーなヴォーカルになって、すごくエモーショナルに歌っていますけど、こういう部分はどうやって出てくるんですか。
「曲のエネルギーを受け取って、最後に自分で広げて終わるっていうのが、自分のライヴのスタイルでもあって。ライヴでセッションをして、受け取ったものをどういう風に返すかっていうことを、常に考えていて。だから自然と出てきちゃうんですよね」
――2枚目の「Tell Me」は、シティ・ポップ的なファンク・ナンバーで、これはどうでしたか。
「私が曲を受けて感じたイメージは、探究心ですね。答えがないものに対してその答えを探しているみたいな、知りたいっていう欲求みたいなものを感じたので、すごく直球で“教えて“って、〈Tell Me〉というタイトルを付けたんです」
――これはセンチメンタルな、哀愁のメロディがすごくいいですけど、歌っていてどうでしたか。
「この間、アコースティック・ライヴの収録をしたんですけど、この曲はガット・ギター一本で、コーラスを入れて、BPMを思いっきり落として、バラードっぽくやったんです。それがすごく気持ち良かったんです。やっぱりメロディの部分で持っていける、形態を変えてもちゃんと成立する曲なんですよね」
――EPの『SESSION』は12インチの8曲入りで、こちらに収録されている「Heartbreak」はミディアム・スローの静かな曲ですね。
「この曲はめずらしく、“負”というか“痛み”のイメージですね。私はわりと“陽”の人間ではあるんですけど、陽でも“陰”の部分がないとだめというか、バランスなんですよね。自分が抱えている“痛み”っていうものを隠す必要はない。それがあるからこそ、たとえば〈All Night〉みたいな曲が書ける、というところでの、歌詞作りでした。人間っぽさを出したかな、って感じです」
――もうひとつ、新曲の「Baladalada」はタイトルのインパクトがすごいですね。
「メロディを聴いた時に、パッとこれが出たんですよ。これは呪文で行こうと思って、真っ先に出たのが〈Baladalada〉だったんですよ。その直感に従って、乗せていった感じです」
――語感がアラブっぽいですよね。
「私はペルシャの血が入っているので。だから好きなものだったり音階だったりでエキゾチックなものは、背景にあると思いますね」
――これはアフロっぽいアレンジがかっこいいし、ヴォーカルもアッパーで、ノリノリで歌っていますね。
「アタック感が強めですね。レコーディングもすごく楽しくて、自然とノッたんです。私は声の高い人っていうイメージだと思うんですけど、この曲はキーが低めで、グーッと重心を下げて、今まで使っていなかった声を出せるのが楽しかった。年を取ってくるにつれて、上の音域は保っているんですけど、下はすごく伸びて、今まで出なかった音が出るようになってきたんですよ。それが今、自分の曲作りだったりアレンジだったりに影響があって。それがすごく出せた曲なんじゃないかなと思っています」
――では、THE IMAGEとのコラボは、このアナログ・リリースでひと段落ということですか。
「たぶんひと段落だけど終わるわけではなくて、中村さんとはこれからもずっと、どんな形なのかはわからないですが、音は生み続けると思います。THE IMAGEとはライヴをしたことがなくて、ライヴがやりたいですね。7月25日に渋谷のJZブラットで久しぶりにワンマンをやらせていただくんですけど、その時に、THE IMAGEのメンバーじゃないんですけど、今回THE IMAGEと一緒にやった曲と、あと中村さんと出会った当時に一緒にやった懐かしい曲をやるんです」
――これでシンガーとして活動を再開したわけで、今後についてはどう思っていますか。
「来年がソロ・デビュー20周年なんです。そしてその2年後が音楽生活30周年なので、自分の中ですごくありがたいタイミングで、ソロとして前に立つことを決められたなと思っていて。周年イヤーってすごく素敵なきっかけなんですよ」
――じゃあ来年はアルバムのリリースなどがあるんでしょうか。
「アルバム出したいです。いや、これは言霊なんで、言ってしまったらやるしかないんで、アルバム出す!責任取ります(笑)!原点に戻るというか、日本とか海外とかの概念を全部一回無視して、単純に聴いた時に体が揺れてしまうような曲ってなんだろう、ということを今考えていて。リズムを刻むって、たぶん人間のいちばん古い楽しみ方だと思うんですよ。体を揺らすのって、すごく自然で、わかりやすくハッピーを得られることだと思うんですよ。その人の揺れ方が引き出せたらうれしいなと思って。それを考えたアルバムが作りたいなと思っています」
取材・文/小山 守